もの悲しい旋律 <2枚(800字)作品> 【「2.いちばん古い記憶―傷痍軍人―」の別バージョン】
長く続く街路樹の道。道端で、ベレー帽を被った絵描きさんが、誰かの似顔絵を描いている。その絵を見るために、ちょっとした人垣ができていた。この道の突き当たりには、横長の灰色の階段が横たわっている。 階段の前まで来ると、右手側に東山動物園の正門が見える。もうすぐキリンやライオン・ゾウなどの動物たちに会える。両親に手を引かれ、転ばぬよう足下に気を配りながら、階段を一歩一歩上っていく。するとどこからか動物園には似つかわしくない、もの悲しいメロディーが聞こえてきた。顔を上げると、そこには白い着物に布の帽子を被った四人の男たちが立っていた。その中の一人はアコーディオンを弾き、また別の一人はハーモニカを吹いていた。アコーディオンを弾いている男の片足は本物の足ではなく、薄茶色の筒のような義足である。ハーモニカを吹く男の片袖は、干された洗濯物のようにふわふわと宙を漂っていた。男たちの右横には、何やら文字が書かれた白い四角形の箱が置いてある。そしてその後ろに、黒い中華鍋が一つ、三脚架の上に載せられていた。 「おかあちゃん、あの人たちなぁに?」 「戦争で怪我をした兵隊さんよ」 背伸びをして鍋の中を覗いてみると、お札と小銭がいくつか入っていた。 |
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