2007年ロサンゼルスの旅 ―MEND―
2007年6月、キトリの住むロサンゼルス郊外の町・ノースリッジを初めて訪れました。今日は滞在3日目。午後からはキトリの友達も誘って、ユニバーサルスタジオに遊びに行くことになっています。予定が空いている午前中に、中南米系の人たちの居住区にある「MEND」に連れて行ってもらうことになりました。 MENDというのは、低所得者のためのボランティア団体で、主に食糧の提供をしています。キトリはソーシャルケースワーカーを目指していることもあり、1年ほど前からMENDでボランティアをしています。ここで援助を受けたい人はまず面接を受けます。サービスエリア内に居住しており、かつ収入が限度額を下回っていれば、MENDの会員になれます。貧困の程度に応じて援助を受ける回数は変わりますが、基本的には1ヶ月に1回の食糧無償供給を受けることができるのだそうです。食糧援助以外にも、英語の話せない移民のための無料英語教室も開催しています。 私が訪れたときにも、待合室に20人ほどの人たちが座って順番を待っていました。子ども連れの人もいます。皆小綺麗で、とても食べ物に困っているようには見えません。本当にごく普通の人たち(主に中南米系とアフリカ系アメリカ人)ばかりです。待合室の奥にやや大きめのスペースがあり、もらった食糧を段ボール箱に詰めている人たちを何人か見かけました。 待合室の両横には、小さなショップが一つずつあります。一つはブティック。ディスプレイが素晴らしく、思わず欲しくなったぐらいです。新品・古着・手作りの服が、まるで若者向けの専門店のようにセンス良く並んでいます。MENDの会員に無料で提供されるのだそうです。もう一つはクッキー中心のお菓子屋さんです。美味しそうなお菓子が、所狭しと並んでします。こちらは有料ですが、激安価格で購入できるそうです。 「待合室にいる人たち、そんなに生活に困っているようには見えないけど」 「うん。だけど申請した人の家を実際に訪問すると、ガレージに住んでいる人もいるんだよ。そういう人は移民で英語も話せないので、職業にも就けない。日本では考えられない環境で暮らしているよ」 「そうなんだ」 「勉強どころではない酷い状態なのに、一所懸命勉強して将来は大学に行くんだ、と言う子どもたちもいるの。けなげだよね。何とかしてあげたい、と思っちゃう」 昨今日本では格差社会が問題になっていますが、アメリカにおける貧困を目の当たりにすると、人生観が変わる、とキトリは言っていました。 「あっ、この前すごいクライアントに出会ったよ」 キトリはMENDを案内しながら、驚きの経験を話し始めました。 「その人、男の人なんだけど、何と、前日に刑務所から出所して来たばかりなんだって! 本人曰く3年服役したらしいけど、アメリカでは窃盗で3年というのは長いらしいから、もっと酷い犯罪かも。でもね、前科があるって言わなければ、普通の人って感じ。受刑者は囚人(プリズン)用のIDを持っているんだけど、出所後も本人の希望があればそのID、貰えるらしいよ。そのクライアントは自分を証明する物が何も無いから、出所する時に囚人(プリズン)用IDを貰ったらしい。それを面接の時提示したんだけど、私、さすがに退いちゃった」 「へぇ。そういう人、よく来るの?」 「初めて。今までクライアントが女の人で、その夫が服役中というパターンは何人もいたけど、さすがに出所ホヤホヤっていうのは今回が初めて」 MENDの見学を終え、私たちはイタリアンレストラン「オリーブ・ガーデン」に向かいました。そこでキトリの友達と合流。3人でイタリア料理を堪能しました。私では到底食べきれない量の料理の数々。MENDで見聞きした事柄は、違う世界のお話のように感じられました。 |
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