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4〜6枚作品
- その1 -
        その日の私 ―キューバン・サルサ―


 サルサのサの字も知らない私が、キューバン・サルサのライブに行くことになりました。村上龍のメールマガジン(JMM)に、ロス・バンバンのライブが名古屋でも開催されるとの情報が載っていたからです。リーダーのフォアン・フォルメルは高齢で、しかもここのところ体調を崩しているそうです。今回行かなければ、もしかしたら彼のライブはもう見られなくなるかもしれません。娘のキトリは大のキューバ好き。この話をしたら、ぜひ行きたいというので、二人で出かけることにしました。
 2005(平成17)年8月12日、会場はボトムライン。指定席ではないので一番乗りを目指し、約1時間半前に会場に行きました。もちろんまだ誰も来ていません。
ライブ会場には観客用の椅子が並べてあると思いこんでいましたが、あに図らんやスタンディングです。チケット代6500円も出して、スタンディング、しかもワンドリンクも付いていないなんて、ちょっと信じられない。一番乗りなので、ともかく最前列中央を陣取りました。最前列にはバーがあるので、バーにもたれることができます。この席を死守することを私とキトリは誓い合いました。
 観客の4分の1は南米系の人たちです。コロンビアやペルー出身の人たちらしいのですが、熱狂的というか、血の気が多いというか。前にいる観客をぐいぐい押してきて、私たちのいる特等席を奪い取ろうとします。私の隣にいた痩せ形の日本人男性は、南米人の強烈な押しに屈して、とうとう2列目に追いやられてしまったぐらいです。しかし、私はどんな事態が起ころうとも、決してバーを離しません。
 午後6時半開演の予定が午後7時前までずれ込みました。南米の人ですから、時間におおらかなのでしょうか。まず前座のバンドが演奏を始めました。事前の打ち合わせが不十分だったのか、不手際が目立ち、ちぐはぐした演奏でした。その次はラテン系ダンスが披露されました。舞台の上ではなく、客席の中央を空けて、そのダンスは始まりました。群舞を見ていると、ダンス教室の発表会を彷彿させます。素人芸のようなダンスのために、一番乗りでゲットした最前列中央を南米人に取られたら、死んでも死に切れません。ダンスの最中も、良い席を奪い取ろうとする彼らに、強烈な押しを喰らいました。しかし私は絶対にバーを離しません。
午後8時を回って、やっとロス・バンバンが登場。館内は熱狂の渦で、後ろから凄い勢いで押してきます。演奏、歌ともに確かに迫力はあるのですが、なにせ全く分からないスペイン語。しかもリズム中心なので、音痴な私には、どの曲も同じように聞こえてきます。また舞台と私との間は50〜60pぐらいしか離れていないため、ミュージシャンの汗が飛び散ります。しかしその反面、ボーカルが握手をしてくれます。ラッキーなことにキトリはボーカルに頭をなでてもらいました。終盤にかけてますますライブは盛り上がってきます。なんとボーカルが観客に向かって、ペットボトルの水をまき始めるではありませんか。最前列の私の頭に水がビシャッ。
 終わり3曲とアンコール曲は、客席からリクエストを取りました。スペイン語が母国語の南米系の人たちが、まるで喧嘩をしているような興奮した口調でリクエスト曲を叫びます。そして彼らはそれらの曲を大声を張り上げて、ロス・バンバンといっしょに歌うのです。
 10時半頃ライブは終了。並んで待っている時間も入れると、約6時間立ちっぱなし。帰る頃には足はパンパン、耳は大音量でボーン。生で世界的なキューバン・サルサを聴けたのはすばらしい経験でしたが、多分私はもうサルサを聴きに行くことはないと思います。南米系の人たちのように、この音楽に同化することができないのです。サルサって、日本人の感性から最も遠い距離にある音楽のような気がします。

 サルサを聴くことはもうない、と思っていた私ですが、ライブからわずか12日後、再びサルサとの出会いがやってきました。その会場は愛知万博キューバ館。小さいパビリオンで、待ち時間はいつも0分。館内には飲み物コーナー、映像コーナー、お土産売り場しかありません。キューバ好きのキトリに連れられて、今回二度目の来館です。この日は午後5時から「サルサ教室」が開催されることになっています。映像コーナーの椅子を片付け、サルサ教室が始まりました。
 50人は集まったでしょうか、狭い会場は満員です。まず基本の3つのステップを教えてもらい、その後コンテストを兼ねて、音楽にあわせてサルサダンスを楽しみました。
 踊り終わった後、上手に踊れた人のトップ3が選ばれます。トップ3には、好きなラム酒を1杯プレゼントされます。そのトップ3に、なんと、キトリが選ばれたのです! お酒を飲めない彼女は、ラム酒の変わりにマンゴジュースを1杯もらい、キューバ人スタッフと記念撮影をしました。よかったね、キトリちゃん。
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