初診時40歳代、製造業女性。この数か月怒りっぽくなって、職場で同僚との衝突が増えたということで来院された。初診時に収縮期血圧140mmHg台、脈拍は何度測っても100/分以上と軽度の血圧上昇と頻脈がみられた。また、軽度のびまん性甲状腺腫を蝕知した。一方、診察時の話はまとまっており、高揚感もなく、躁状態は考え難かった。怒りっぽいという主訴、血圧上昇、頻脈から甲状腺機能亢進症を疑って検査したところ、抗TSH受容体抗体(TRAb)陽性を伴う甲状腺機能亢進症が明らかになり、バセドウ病と診断して治療開始した。2〜3週間で精神症状も収束し、外来治療のみで寛解に至った。
初診時10歳代男性。初発症状は登校渋りで、朝怠く、学校に行くのを嫌がるようになったということだった。それと前後して、体に力が入らなくなって、自宅の階段から転落するというようなエピソードが時々みられるようになった。近隣の精神科を受診して、身体表現性障害と評価されて、カウンセリングを受けていた。1年経ってもなにも改善がみられないということで、筆者の外来に転医してきた。初診時血圧140/90mmHg、脈拍120/分と血圧上昇、頻脈、びまん性甲状腺腫がみられた。TRAb陽性を伴う甲状腺機能亢進症があり、バセドウ病として治療を開始したところ全ての症状が消失した。朝の怠さは甲状腺ホルモン過剰による心身の疲れによるものであり、階段からの転落はバセドウ病の若年男性に時々みられる周期性四肢麻痺によるものであった。
初診時10歳代女性。1年前からの不眠、半年前からの朝の怠さとそれによる不登校、最近怒りっぽく親子の衝突が絶えなくなったということで筆者の外来に紹介受診。初診時眼球突出、びまん性甲状腺腫があり、血圧上昇、頻脈から甲状腺機能亢進症を疑い検査。TRAb陽性、甲状腺ホルモン上昇からバセドウ病と診断。治療で改善。不眠、朝の怠さ、怒りっぽさは甲状腺機能亢進からの症状であった。
症例4
初診時10歳代女性。何事も長続きせず、すぐに疲れてしまうことを主訴に、母親に連れられて児童精神科受診。勉強も習い事も直ぐに疲れてしまい、長続きしないということであった。最近は体育系の部活動を嫌がり、ロッカールームに隠れて過ごすことがあり、学校から精神科を受診することを勧められた。初診時収縮期血圧120台であったが、脈拍は何度測っても110/分以上あった。頻脈から甲状腺機能亢進症を鑑別する必要があると考えたが、血圧上昇も明らかではなく、頻脈も軽度であったため、甲状腺機能亢進はあったとしても軽度だろうと思っていた。ところが、TSH検出限界以下、fT3とfT4は上限以上、TSAb陽性であり、重度のバセドウ病であった。内服治療に良好に反応して、数週間で寛解した。何事も長続きしないとか運動を嫌がるということは甲状腺機能亢進による高拍出性心不全の症状であったようである。
症例1〜3のように怒りっぽいとか怠いといった症状がある時には、バセドウ病などの甲状腺機能亢進症を常に鑑別しなければならない。特に、頻脈や高血圧は少しでもあればより疑わなければならない。また、精神科においても甲状腺腫や眼球突出は気をつけて観察しておきたい。これらは明らかな症例では見るだけで気づくことであるので尚更である。また、甲状腺機能亢進症による高拍出性心不全の症状は症例4のように非定型な訴えとなることもあるので要注意である。筆者も頻脈がなければ疑うことができなかった。またこの症例のように血圧、脈拍など心血管系への影響が軽微でも、甲状腺ホルモンのレベルとしては重度にあたる症例があることも心に留めておきたい。
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