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渋谷駅すぐの児童精神科・精神科クリニック

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Topic 3

 そのうつ、もう治っていませんか

 最近他院から転医で、「何年も通院しているが一向にうつが治らない」という相談に来られる方が結構居られます。そのなかでかなりの方が、うつはもう治っているのに必要のない抗うつ薬を継続しているために、薬剤性のアパシーと呼ばれる状態で、やる気のなさのみが続いているのです。まずは、典型的な症例を挙げてみます。いつものように個人情報は改変して、何例かをブレンドしてプライバシーを保護してありますのでご了承ください。

症例1

初診時50歳代女性。10年以上前にがんの手術を受けた。がんの薬物療法継続中にうつ状態となって以来、10数年に渡って抗うつ薬を服用している。当院転医時はずっとやる気の出ない状態が続いていて、家の片づけもままならないということであった。症状をよく聞いてみると、うつ病の薬物療法を始めた当初は、気持ちの落ち込みも著しく、睡眠障害や食欲不振もあったという。しかし、これらは数か月で良くなり、今残っている症状は意欲の減退のみだという。ここまで聞いた時点で、うつはもう治っているのではないか?意欲の減退は、抗うつ薬の副作用である薬剤性のアパシーではないか?という疑問が湧いてきた。そこで、患者にそのことを説明して、数か月かけて抗うつ薬を漸減、中止した。その結果、気持ちがすっきりして、家の片付けも始める気がでてきた、とたいへん喜ばれ、その後数回の経過観察で10数年ぶりに精神科を卒業していった。

  この症例、うつがまだ続いているとすると疑問なことが2点ある。まず、うつ状態が、意欲減退のみで何年も続いているということは典型的ではない。大概のうつ状態というのは、気持ちの落ち込みか、物事に対する興味や喜びが消失している。これは私たちが日常用いている診断基準DSM-5の基準ともなっている。もう1点典型的でないことは、10年もうつ状態が続いていることである。経過中に躁状態がない、いわゆる単極性うつ病の場合、長くとも2年間でうつ病相が終わることが多い。というわけで、この症例は症状と持続期間の2点において、単極性うつ病が続いている可能性が低いことになる。少なくとも数年前には抗うつ薬も精神科通院も必要がなくなっていたわけである。それでは、なぜ前医は治療を続けたのだろうか?その答えはハッキリしていて、「精神科医療の患者1人当たりの収入があまりに少ない」からである。そのため、何処のクリニックでも、経営存続のために、患者数を増やさなければならない。そうしたら1人当たりの診療時間が短くなって、うつが治ったことさえ気づき難いということが起きている。治療継続に何も害がなければまだ良い。しかし、不必要な抗うつ薬の継続は、薬剤性のアパシーを惹き起こし、やる気が起きない状態が何年も続き得るのである。もう1例呈示しよう。

 症例2

初診時60歳代男性。大手企業の管理職として勤めていた50歳代後半に、過重労働からうつ状態となり、休職して薬物療法を始めた。治療を開始して3か月ほどではた目には元気になり、家で趣味を楽しんで元気に過ごすようになった。しかし、家族の心配をよそに一向に復職する気が起きず、数年後にそのまま退職になってしまった。退職して更に数年間、家族からみて元気そうなのに趣味中心の生活を続けているということで、心配する家族に連れてこられた。初診時にはまだ前医から処方された抗うつ薬を服用しており、面接時もにこやかで、会話もむしろウィットに富んでおり、とてもうつ状態と評価できる様子ではなかった。もううつ状態は治っていると考えられることを告げ、抗うつ薬を漸減、中止した。その結果、「まだ元気で、同級生も働いている、まだ趣味だけでやっていく年齢ではないと思い始めた」と言い、地域のボランティアなどに参加し始めた。

  この症例も、必要のない抗うつ薬のマイナス面を良く表している。抗うつ薬は強迫性障害にも奏功する。たとえば、汚れが気になって、手洗いを繰り返すような症例に処方すると、「洗わなくとも、まあいいか」、「汚れているが、洗うのは面倒だな」と思うようになる。同様に、うつが治っていても、「仕事しなくとも、まあいいか」、「働けと言われるけど、面倒だな」と思ってしまうようだ。以前にある開業医が、この20年処方されている代表的な抗うつ薬であるSSRIのことを、「ハッピーは気持ちになる薬」と患者に説明していた。確かに患者はハッピーになるかもしれないが、周囲は心配になるばかりである。患者本人にしても、気持ちがハッピーになれば良いというわけでもあるまい。


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