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渋谷駅すぐの児童精神科・精神科クリニック

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Topic 1

昼夜のリズムと不登校

 中学校2年生以上の不登校ないし、長期欠席の統計をみて驚くとともに、コロナ渦を経て不登校の相談が増えたことに納得ができました。統計によるとコロナ渦前には、同年代の不登校が子どもたちの全体の4%だったものが、コロナ渦を経て6%にまで増えたということです。なんとコロナ禍前後で不登校の子どもが1.5倍になっていることを示しています。小児科に居たことがある私としては、大いに納得するところがあります。以前から、大きな病気で小児科に入院して、それに引き続いて生活のリズムのずれや体力の減退で、学校に行きづらくなった子どもをみてきたからです。コロナ渦以前は7時に起きて電車に乗って、8時過ぎの登校時間に間に合わせていたものが、登校自粛・リモート授業になってからは8時半前に起きて授業で使うアプリにログインすれば済むようになりました。1時間半近く起床時間がずれてしまったわけです。不登校の助言において、昼夜のリズムがずれると朝が辛くなって学校に行きづらくなるので、土日も起床時間を1時間以上は遅らせないようにするのが良いと言われていました。そのことから考えると、リモート授業で1時間半も起床時間が、それも土日のみならず連日遅くなったわけですから、対面に戻ったときが心配です。果たして、対面授業に戻ったが朝起きられないので学校に行けないと言う相談が来るようになりました。これらに加えて、リモート授業の間外出が減ってしまったので、体力が減退して余計家からでて登校するのが辛いといったことを聞くようになりました。つまり、リモート授業になって朝起きる時間が1時間以上ずれてしまうと、昼夜のリズムのずれと、体力減退がダブルで不登校の要因となるということです。また何らかの要因で欠席が続いたり、入院で午前はベッド上で休む生活が続いたりすると同様のことが起きます。このため、昼夜のリズムの直し方と、体力の回復の仕方を述べてみたいと思います。

(1)  昼夜のリズムとその直し方

a)昼夜のリズムはどのように作られているか?
 
 まず、人間の体が昼間活動して、夜は休んで心身を回復するというリズムがどのように形成されているかを概観してみます。人間の脳の奥深くにある視床下部というところに視交叉上核という神経細胞の集まりがあります。ここが体内時計であると言われています。ここは、眼の網膜からの光の刺激を受けることと、全身が動き出したことをキャッチすることで、1日の心身のリズムを始める基準としています。そして、何時に何を始めたら良いか全身に指令を出します。まずは、7時頃に周囲が明るくなって体が動き始めるということが毎日繰り返されると、その2時間ほど前の5時頃に指令を出して、心身を活性化して、ストレスに耐えるための副腎皮質ホルモンを出すようにします。そして、このホルモンに2時間晒された脳や体は7時頃に無理なく活動を始めることができます。逆に言うと、朝動き出すのが7時ではなく、10時になったとすると、副腎皮質ホルモンの増加はその2時間前の8時になりますから、さらに2時間後のいつも動き出している10時にならないと無理なく動き出すことはできなくなります。このように、朝動き出す時間がずれてしまうとそれを準備するホルモン環境も時間がずれますから、それを戻してやらないと再び7時から動けるようにはなりません。もしもこうなった状態で無理をして7時から動くと、心身がまだ夜の状態で無理をするわけですから、何倍も疲れてしまって、その後週単位で過労状態が続くことになります。だから段階的に朝起きる時間を戻してやる必要があります。

b)一度に早めるのは1時間にする

 具体的には、いっぺんに早めることができる時間は1時間が限界のようです。そして、1時間早めた時間を2週間以上続けて、無理がなく起きられるようになったら更に1時間早めるといった、段階的な働きかけが必要です。では、現在の状態から1時間早く起こすためにはどうしたら良いでしょうか。人によっては、例えば10時おきの人は、8時から副腎皮質ホルモンなどが上昇していますから、9時になれば既に1時間はこれらに晒されています。このため、9時に一生懸命声かけや体を揺り起こすことで強い刺激をすれば起きられるかもしれません。それで上手く行けばそれを続けることで、1時間起床時間を早めることができます。もし、それでは上手く行かない場合は、子どもの体内時計の代わりを親御さんが担う必要があります。具体的には次のようなことです。

c)家族が体内時計代わりを担う

 体内時計は起床の2時間前にストレスに堪えるための副腎皮質ホルモンを出させます。体内時計の代わりになるとは、起床目標時刻の2時間前に、お子さんに声かけをしたり、揺り動かしたりして、ストレスを与えて、このホルモンの分泌を体内時計に代わって刺激するということです。だいたい起床目標時刻の2時間前から15分おきくらいに刺激すると上手く行くようです。多くの子どもは無理に刺激を加えると不機嫌になって、親御さんやご兄弟を蹴るなどすることがありますから、お子さんに乱暴しないようによく言って聞かせるとか、蹴っても上半身に当たらない位置関係を工夫するとかといった注意が必要です。また、親御さんが7時前に仕事に出なければならないというような制約がある場合は、お年寄りに手伝ってもらうのなどの協力体制が必要です。ある親御さんは、都外のご実家にお子さんをお願いして、起床の時間を直していると言っていました。このようなことを続けて、順調にいけば2週間に1時間ずつ起床時間を早めることができます。

d)夜早く寝ることで早く起きられるようにはならない

 よく、速く寝せるにはどうしたらよいかという質問を受けます。これに関しては良い解決策はありません。体内時計の働きで、起床してから15-16時間経たないと眠気は来ません。このため、10時に起きたのでは、深夜2時頃にならなければ眠気はきませんから、就寝は23時になってしまいます。これを直すには、まずは、朝起きて、できるだけ昼寝をしない努力を続けるしかありません。体内時計は起きて活動しだした時間を基準に動いていますから、夜無理に早く寝ても朝早く起きることは極めて困難です。

(2)  体力の回復に必要なこと
 最近は、iPhoneには購入時からヘルスケアというアプリが入っていて、一日の歩数を記録してくれます。これによると、毎日学校に行っている子どもの場合だいたい7000歩から10000歩は歩いているようです。ところが、登校しない日は1000歩も歩かないことが多いようです。歩くだけが運動ではありませんが、歩数は一桁減ってしまうようです。これまで不登校の相談に乗ってきた経験では、再登校するようになってから、体力減退による疲れやすさが治ってくるには1年くらいかかるようです。その間は、夕方まで学校のスケジュールで生活するのにはかなりの疲労感を感じるようです。このようなことですから、学校を休んでいる間も、日中の運動は欠かさない方がよいのです。そして、貧血などの兆候があれば、検査して必要があれば治療することが勧められます。また、運動不足は自律神経の働きも鈍くして、起立性調節障害など、姿勢による血圧変動を起きやすくします。これは薬で対応したとしても収縮期血圧が平均6mmHg程度上昇するに過ぎませんから、運動不足解消による改善が最良です。できることから運動不足を解消しましょう。最近の研究では、少しでも運動すればゼロよりもよいことが分かっていますから、自分に合った運動を生活に入れていくことが大切だと思います。



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