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 注意欠如多動症(ADHD)の治療

ADHDに対して行われる治療介入としては、薬物療法、親御さんや学校への助言や指導による環境作り、ご本人やご家族の対処能力を高めるための個人療法や集団療法などが挙げられます。これらについて少し詳しく述べてみます。

1. 薬物療法

現在国内でADHDに対して処方できる治療薬は4種類あります。いずれも服用に際してメリットとデメリットがありますので述べてみたいと思います。4種類のうち2種類は精神刺激薬と呼ばれる種類の薬剤で、脳内のドパミンやノルアドレナリンの働きを増強して、集中力を高めることが期待されています。3種類目の薬剤はアトモキセチンという薬剤で、脳内のノルアドレナリンの働きを主として増強して、集中力を高めることが期待われています。4番目の薬剤はグアンファシンという薬剤で、脳内のα2ノルアドレナリン受容体という蛋白に作用して神経伝達を整えると考えられています。

(1) 精神刺激薬

薬剤としてはメチルフェニデートとリスデキサンフェタミンがあります。これらの薬剤は上手く使えば、それまで5分しか集中できなかった勉強に長く集中できるという画期的な薬効を発揮します。しかし、メチルフェニデートはもう何十年もADHDの子どもたちに処方されてきて、ADHDの子どもたちに多くの利益をもたらした一方で、後述するようなリスクがあります。最近では乱用防止と作用時間の延長を兼ねた徐放薬(コンサータ)が専ら用いられます。メチルフェニデートは第二次世界大戦後から国内では広く乱用された歴史があるため、徐放薬として服用時の爽快感が得られないようにしているようです。しかし、法律上は覚醒剤ではないものの、類似の作用があるため、明らかな精神依存★を惹き起こすことがあります。また、「発達障害と薬物療法」で述べたように様々な副作用が起き得るので服用中の子どもを注意深く見守る必要があります。リスデキサンフェタミン(ビバンセ)は体内で覚醒剤であるアンフェタミンに変換されて作用します。メチルフェニデートと同様に脳内でドパミンやノルアドレナリンの作用を増強して、集中力を高めたり、多動を押さえたりします。しかし、作用はより強力であり、覚醒剤原料に分類されている薬物であることから、メチルフェニデートの効果が不十分であるときに限って処方することができます。副作用についてもメチルフェニデートと共通していますが、作用が強力なだけ副作用の頻度も高くなります。「発達障害と薬物療法」をご参照ください。

★精神依存: 薬物依存は大きく身体依存と精神依存に分けることができます。ベンゾジアゼピン作動薬(BZ作動薬)は身体依存、精神依存両方を惹き起こすことがあります。身体依存とは脳が薬に慣れてしまって、薬なしでは薬効と逆方向の症状がでる現象を言います。例えばBZ作動薬では急激にやめると薬効である鎮静と逆に興奮が現れることがあります。そしてその症状を離脱症状あるいは退薬症状といいます。これに対して精神依存とは精神的に頼ってしまう状態のことです。例えば精神刺激薬ではADHDであってもそうでなくとも、100m走るタイムが早くなったり、睡眠時間を削って勉強ができてしまったりするために、それに頼ってしまうことがあります。コンサータの薬効で短い睡眠時間で中学受験が成功したために、その後もう既にADHDが軽減していても、大学受験まで飲み続けたいとか飲ませ続けたいといった希望はよく聞きます。しかし、前述したような副作用もあるため、症状が軽減している子どもには継続処方すべきではありません。

(2) アトモキセチン

上述の精神刺激薬で食欲不振、動悸、不眠、頭痛、過敏性などの副作用が出る場合に選択される場合が多いです。ただし、悪心、眠気などの副作用の頻度が比較的高いようです。また、自殺念慮/自殺関連行動の出現も指摘されていますので、服用中の子どもを注意して見守る必要があります。

(3) グアンファシン

精神刺激薬、アトモキセチンともに副作用などの理由で選択できないときに処方されることが多いようです。ただ、もともと降圧薬であっただけあって、子どもによってはかなりの血圧降下が現れます。また徐脈を来す頻度も多いです。これらのためもあってか、約半数に眠気が出現します。この薬剤を処方する場合には血圧のモニターが必要ですが、特に眠気を呈しているような例では血圧の再確認が必須です。また、心電図上QT延長を来すことがあり要注意です。子どもの場合は抗アレルギー薬やクラリスロマイシンのようにやはりQT延長を来す薬剤を服用していることが少なくないので、それらの併用は極力避ける必要があり、もし併用するのであれば、心電図の注意深いモニターが必要です。

2. 環境作り

ADHDは発達障害ですから、年齢とともにだんだんと軽減していきます。逆に、不注意や多動は年齢を経なければ軽減していきません。薬物療法はあくまで対症療法であり、薬剤の作用している時間帯だけこれらの症状が一時的に軽減します。丁度、近視の子どもの眼鏡のように、かけている間(薬物の作用時間)だけ症状が目立たなくなります。毎日服用していてもそれによって障害が速く軽減することはないのです。ですから、不注意や多動が目立つ低年齢の間、環境を低刺激にしたり、構造化したりして、ADHDの子どもたちが適応し易いように手助けすることが何よりも大切なことになります。また、集中を要求する時間も急にではなく徐々に延ばしていく、課題の量も急にではなく徐々に多くしていくといった配慮が必須です。また、ADHDの子どもはその衝動性や飽きっぽさによって周囲との衝突を引き起こすことがあります。このようなことは教師や家族など周りの大人が穏やかに解決してあげることが大切です。早く大人っぽくなるように叱咤激励するのではなく、ちょっとした進歩を褒めてあげて、「あなたのペースでいいのよ!」と伝えて子どもを焦らせないようにしましょう。このような配慮がなされれば、発達障害によって起こってくるいわゆる二次障害★★を予防もしくは最小限に抑えることができます。

★★二次障害: 発達障害があることによって、多くはそれと関連したストレスによって起きてくる新たな障害を言います。例えばADHDがあると、不安障害やうつ病が起きやすいと言われています。

3. 本人への個人療法や集団療法、そして本人、親の障害理解のための援助

ADHDは発達障害ですから、不注意や多動などの基本的な症状そのものは、成長とともに軽減していくのを待つことが肝要です。しかし、子ども本人に対するプレイセラピーやSSTなどの集団療法、また、本人、親の障害理解のための援助(親御さんに対するペアレントトレーニングを含む)など、施設によって得意な援助が様々あります。施設ごとに得意な治療介入が違いますから、聞いてみるとよいでしょう。子どもに対するプレイセラピーは、言葉によるやり取りだけでなく、様々な表現技法、例えば箱庭療法や粘土細工や折り紙による表現などを活用して治療を進める方法です。そのための人員、設備などが必要となるため、設備の整った大きな病院や相談機関で受けることが多いと思います。SSTは社会技能訓練(Social Skills Training)の略で、多くはグループで会話や遊びの練習をします。同種の患者が多く通っている病院や相談機関でやっていることが多いです。親御さんに対するペアレントトレーニングは、ADHDの子どもとのやり取りでつい過度に禁止したり、お互い感情的に高ぶってしまったりすることを修正するために、親御さん自体に対する助言、訓練をしていきます。

4. 薬物療法卒業を目指すことの重要性

当院では、ADHDの薬物療法は可能であれば思春期までに卒業することを目標にしています。理由は、ADHDの症状は年齢とともに軽減していきますから、薬物療法以外の対処スキルや周囲の環境整備で卒業が可能となる場合が多いこと、服薬継続に伴って年齢とともに後述するような不利益が生じてくるからです。東京都や隣県の特殊事情かもしれないのですが、2024年になってから、服薬しているために免許の更新が困難になり、何とか断薬できないか?といった相談が来るようになりました。ADHDの薬に限らず添付文書上「運転をさせないように」という指示が記載されている薬剤は少なくありません。しかし、このような相談は2023年までは聞いたことがありませんでした。昨今、運転装置の操作ミスによる交通事故がしばしばニュースになっていますが、もしかすると当局はそれらの一部が薬剤による認知機能障害と関連しているとみ始めたのかもしれません。また、数年前から向精神薬を服用していると、生命保険などの加入が普通の掛け金では難しくなっているようです。これも数年前から精神科の治療を受けているということで一般の生命保険の契約ができなかったという相談が何件か来ています。一例は生命予後や社会適応に影響がない旨の診断書を書いてみましたが、結局加入できませんでした。10歳代になると徐々に抗ADHD薬がなくともやれるようになっていく例が多いですから、薬を卒業することを10歳代の目標にすることをお勧めします。



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