ASDの子どもの国語の勉強に関しては、いろいろな側面で悩みを持つ方が多いようです。まず彼らは共通して他人の気持ちをイメージしたり、昨日あったことや将来の自分の仕事をイメージしたりして言葉、文章にすることが苦手です。このため、文章を読み取って登場人物の気持ちを答えるような問題、運動会の感想文、将来の希望を書かせる問題などで困難を生じます。また、ASDの子どもは読み書きの困難が併存していることがあるので、これに対しては早めに気付いてあげて、別の述べたように対応することが必要です。加えてASDの子はいわゆる不器用であることがあり、その不器用さは発達性協調運動症のように自転車や縄跳びが苦手であるような点で現れることがあるだけではなく、子どもによっては手指の巧緻性に問題があって、筆圧が弱すぎたり、鉛筆を普通のやり方で持つことができなかったりします。今回はこのようにASDの子の国語の勉強で様々な側面で現れる問題について概観して、直ぐにできる工夫を述べてみたいと思います。
1. 登場人物の気持ちなど(読解問題)
ASDの子どもにとって、他人がどう思っているか、どう考えているかといったことを推察することはかなり苦手な分野になります。ASDの子がサリーとアン課題で代表されるような心の理論課題★をクリアするのは平均で発達年齢10歳ころですから、それまでは他者の心のうちを推察するような問題が困難であることは予想できます。ですから、発達を待つのが一番無理のない方法なのですが、それでも、適切な短文でトレーニングするとか、問題文の情景を目に見える形で図示して一緒に考えてあげるとかといった方法は一定の有用性はあるようなので紹介してみます。
★心の理論課題: 他者の思っていることは自分とは違うこと、またその自分とは違う他者の考えや感情を推察するといった一連の能力を指して心の理論と言います。サリーとアン課題は、サリーがアンの見ていないところでビー玉の場所を変える、アンはどこビー玉があると思っているか?という課題。非ASDの子どもは発達年齢4〜5歳でクリアできるが、ASDの子は同9〜10歳でやっとクリアすると言われている。
(1) 適切な短文でトレーニングする
10数行程度の短いあまり複雑でない文章を読んで、登場人物の気持ちなどを設問とした教材を親御さんと一緒に解いてみることは手軽で直ぐにでもできるトレーニングです。スラスラできる(答えを書くのでも言うのでもよい)まで何度も同じ問題を解きまし
ょう。算数・数学の勉強で述べましたが、ASDの子に例題の考え方を定着させるためには全く同じ問題の繰り返しが有用です。公文の低学年用のプリントなどが秀逸ですが、似たような教材はほかにもあると思いますので、繰り返しのためにコピーして使ってみましょう。
(2) 問題の情景を図で表す
ASDの子が読解問題を解けないのは、問題の文章を読んでもその情景が思い浮かべられないからであることがあります。このような場合には、情景を線画で描いてあげるなどのアシストで上手く理解させることができる場合があります。線画の代わりに縫いぐるみなどでミニ劇場をやってみてもよいでしょう。
以上のような工夫をして読解問題にチャレンジしてみましょう。でも、くれぐれも無理はしないでください。今できなくとも、数か月後にはクリアできるかもしれません。発達の問題でクリアできないものをやりすぎると、苦手意識が強くなって長期にわたって同様の問題を回避するようになることがあります。また、時には普通に考えるととんでもないことを答えることがあります。例えばAさんに恨みを持っているBさんがAさんをやっつけてしまってから、やりすぎたと後悔しているというような文章で、Bさんの気持ちとして「やりすぎて後悔している」と答えることが期待されているところで、「やっつけて清々した」などと答えることがあります。その時にその回答の全否定だけはしないようにしましょう。答えられたことを褒めてあげましょう。その上で、でも、Aさん可哀そうだったね〜と振ってみましょう。このような時に、なんて心無いことを言うのだという気持ちで対応すると、子ども自体が自分の性格に自信を無くしてしまいます。これは性格の問題ではなく発達の問題であり、穏やかに育ってくれさえすれば数年後には共感することが少しずつできるようになることが多いのです。そもそも論を言えば、入試問題の題材に文章を使われている作家に、その問題を解いてもらったら、「正解」は半分程度だったという実験があるそうです。読解問題なんてそんなもののようです。
2. 作文
作文もASDの子が苦手なことの一つです。運動会の感想文にしても、将来の自分についての文章にしても、目の前にないものをイメージして、それを文章にしてアウトプットするというASDの子が苦手な領域の課題です。その上、事実を文章にするだけでなく、気持ちや希望を文章にするといったASDの子にとって更に高度な課題であるからです。まず分かっていただきたいのは、ASDの子どもでも正常知能であると、大学受験で小論文を求めら
れる18歳ころにはこの能力は遅ればせながら追いついてくることがあることです。発達の問題ですから、遅れて追いついてくることは多々あるのです。それまでは少なくともあまり特訓して、もう見るのも嫌だ!というような苦手意識を増大させないことが一番大切です。以上の前提で、作文問題をクリアする方策を述べてみます。一番手軽な指導法は、起承転結のようなどの作文でも応用できる決まりきったパターンでトレーニングすることです。昨日の運動会についての作文を例に挙げます。ノートの1ページに大きな四角を書いて、縦割りに4つに分けます。最初の長四角の上に「起」、次に「承」といった具合に起、承、転、結を書いておきます。「起」の長四角に運動会について最初に思いついたことを1-2行で書きます。「運動会の日は暑かったです」でもよしとしましょう。なにも思いつかなければ「昨日は運動会でした」でもよいのです。「承」の長四角には、「起」に書いたことで思いついたことを書きましょう。「毎年6月は暑いのですが、年々暑くなっていきます」などと書けたら200点をあげましょう。「また今年も運動会なんて、ウンザリです」でもよしとしましょう。あくまで作文の練習ですから。先生を喜ばせる必要はありません。「転」の長四角には、起承で書かなかった他のことを書きましょう。「途中で雨が降りました」などなんでも思いついたら褒めてあげましょう。「結」では最後に言いたいことを書いてもらいましょう。「もうほんとうに疲れました」で十分です。つなげると、たとえば「昨日は運動会でした。運動会の日は暑かったです。途中で雨が降りました。もうほんとうに疲れました。」で47文字の文章ができました。こういったものでもとにかく書けたら褒めることが大切です。この例で言ったら、疲れたのに頑張ったのね!とか苦手な作文を50字近くもかけたねえ!とかと褒めることです。そうすることで、またやってもいいかな、と思ってくれれば勿怪の幸いというものです。
3. 読み書き障害
ASDには読み書き障害、算数障害などの他の発達の問題が併存することがしばしばみられます。これらを見逃さないようにすることは大切です。特に日本語には漢字があるために、書字の障害が多くみられると言われています。作文が苦手だというときに、そもそも書字が苦手なのではないかチェックしてあげることは必要です。学校の漢字テストで低点数であったり、書いた字がとても読み難かったりした場合には、書字障害の検査を受けることをお勧めします。また、読むのがとても遅い場合には読みの障害がある可能性があるため、この場合も検査を受けることが勧められます。初診を含め5回程度の通院で評価がお伝えできると思います。最近は読み書きの障害がある程度以上であると、高校受験や大学受験でも時間延長やワープロ使用などが認められる可能性がありますので、適切な評価、診断が望ましいです。
4. 手指の巧緻性
ASDの子どもでは、筆圧がとても弱かったり、鉛筆の持ち方が独特だったりすることがあります。こういった点もときどきチェックしてあげたほうが良いようです。そして、鉛筆の持ち方の上述のような問題がみつかった時には、簡単に修正できる場合はよいのですが、なかなか修正できない場合には、指先を適切に使うことが苦手なのかもしれません。このような場合には日常生活や遊びの中で手指を使う場面を多くしていくことが役立つと言われています。昔からの遊びのなかでは、折り紙や粘土遊びやLEGOブロックなどが役立つようです。また、最近は鉛筆の正しい持ち方をアシストすることを目的としている補助軸とか鉛筆ホルダーといった商品もあるようです。子どもに合ったものを探してみるのも役立つと思います。厚生労働省のWebページで公開されている「DCD支援マニュアル」の第4章第5節などにも巧緻性を育てる具体的な支援方法が記載されていますので参考になるでしょう。
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