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 自閉スペクトラム症の子が健やかに育っていくために

ASDの子どもたちが健やかに育って、その能力を伸ばして行くためには何が必要なのでしょうか?ASDの特徴がかなり目立つにもかかわらず、穏やかに育って、持てる能力を遺憾なく発揮している人が居る一方で、それほど特徴が目立たないのに、対人関係に悩んで引き籠りがちな生活を続けている人も居ます。この違いはどこから生じるのでしょうか?そしてどのように対応するのが良いのでしょうか?今回はそういったことを述べてみたいと思います。

1. 発達特性の偏りの強さと対人関係の苦手意識の強さは比例しない!

上述のような違いは、その子がそれまで周囲との間でどんな経験を積み重ねてきたかによるものと考えられます。ASDかどうかに関わらず、周囲との衝突を繰り返していると警戒心が強くなり、反対に周囲との関係が穏やかだった子どもはのびのびと育っていくものです。このようなことを書くと、「あっ、しまった、間違った対応を繰り返してしまった!」と心配になる方々が多いかもしれません。でも心配には及びません。ASDの子どもに最初から発達を考慮した適切な対応ができる親なんて居ないのですから。昨日よりも今日はより適切な対応をしていけば、明日は今日よりも良くなることを信じてやっていきましょう!これは決して気休めではなく、発達特性を理解した途端に親子関係も周囲との関係も改善していった例をたくさんみています。

2. 基本障害と関連した特徴への対応

(1) 知覚過敏

ASDの子どもは五感が斑状に過敏だったり鈍感だったりすることがあります。例えば呼んでも気づかないのに、風の音や自動車の音など特定の音にだけ過敏で怖がるなどといったことはしばしば見られます。触覚は、乳児期に異常が気づかれることがあります。抱っこによる接触を異常に嫌がったり、逆に抱っこに慣れてしまうと常に触れていないと泣き叫んだりするという話はよく聞くことです。幼児期になると衣服の首のあたりやお腹の辺りに付いているタグの肌触りが我慢できないとか、特定の生地の肌触りが我慢できないといったことを訴えることもあります。聴覚に対する過敏性は幼児期に目立つことが多いようです。掃除機の音や車の音がすると耳を塞いで嫌がることがあります。また運動会のピストルの音が嫌でどうしても参加できないといった話も時々聞きます。合唱や楽器の音に強い不快感をいだくために音楽の授業に参加できない小学生も居ます。味覚や嗅覚に対する過敏性も幼児期から学童期早期にピークとなることが多いです。そのために、偏食が強くなる子ども少なからず居ます。別の原稿に記述しましたが、これは無理に治そうとして一口食べさせるようなことをすると、反って増強してしまい、
偏食がどんどん悪化してしまうことがありますので、慎重な対応が求められます。視覚に対する過敏性が目立つ子も居ます。明るくていろいろな色合いの商品が並んだスーパーや百貨店が苦手な子どもが居ますし、このような場面で興奮して、言動がまとまらなくなることもあります。このような知覚過敏やそれと関連した問題は、取りあえずは苦手な刺激を避けておくことがベストであることが多いです。ASDの子どもの場合には、慣れさせるつもりで与えたちょっとだけの刺激によって、あたかもアレルギー反応のようにみるみる反応が増強してしまう場合があるからです。一例をあげると、知覚過敏のためにピストルの音を嫌がった子どもが運動会に参加することを続けると、ピストル恐怖症が増強して、遂には運動会そのものに参加できなくなったり、園そのものに行かれなくなったりすることは珍しくないのです。一方で、これらの過敏性は、無理をして悪化させなければ10歳代になると軽減していくことも多いのです。

(2) 視線について

ほとんどの子どもでは乳児期早期に他者との視線が合うようになります。しかし、ASDの子どもでは小学校になっても視線を合わせることが苦手であることも珍しくありません。これは決して対人関係や親子関係の問題ではなく、脳幹部を中心とした視線固定のためのメカニズムの発達が遅れているためであることが分かっています。視線を合わせることを訓練課題とする向きもありますが、これには多大なリスクを伴いますから放っておいて発達を待つのが得策のように思います。視線が合わないと多くの親は顔を接近させて、目を精一杯見開いて、子どもの目を見つめます。そして、つい大声で親の目を見るように呼びかけます。これは視線を固定するメカニズムが未熟で、もしかすると聴覚過敏を持った子どもにとっては物凄いストレスとなることがあります。このため、ちょっと視線が合うようになることと引き換えにストレスによって気持ちが不安定になる、他のことを学習する余裕がなくなるといった有害なことが起きかねません。そして、後年多くは小学校に上がってから、顔を近づけて、目を見開いて、大きな声でお説教をした学校の先生に突然暴力を振るうといった悲劇の元になることがあります。何例かは、その先生はお母さんに似ていましたので、2〜3歳の頃の強烈は不快感がフラッシュバックしたことが考えられます。また、視線固定のための学校や通所施設での訓練や、家庭での同様の練習をすると、後年視線を合わせることに不快感を抱くようになる原因となることがあります。これらのことを勘案すると、視線の問題は、ゆっくりと発達を待つことが得策のようです。

(3) 同時並行機能について

運動会や学芸会でのお遊戯もASDの子どもにとっては鬼門となる場合があります。これもどうしてもできないとか苦手であるとかいうことが、運動会や登園、登校への抵抗を生み出してしまうことがあります。ASDの子どもの多くは、音楽のリズムに合わせて体を協調的に動かすといった同時並行的な課題が苦手です。このような時に、一人だけリズムに合わないことを友人や先生から注意されると、ますます苦手意識が増強されてしまいます。お遊戯に並んでASDの子の同時並行機能の苦手さが目立ってくる活動として、自転車乗りや大縄跳びなどが挙げられます。多くの子どもにとって、お遊戯や自転車乗りや大縄跳びは、それをやらなくとも将来の生活や仕事にとってほとんど影響がないのですから、そのようなことが自信喪失の原因となることは残念なことです。

3. 社会行動の発達のために

社会行動の発達のためには、無理のない穏やかな対人関係の場が必要です。親との間で穏やかな会話を日々たくさん体験するとか、学童保育で同年代の子どもとボードゲームをするなどの体験は社会行動の発達にプラスになります。一方で、そのような場で衝突を繰り返すと、それがストレスの要因となったり、衝突するのが癖になってしまったりするので、穏やかな解決に導くために大人が適切に介入することも大切です。また、ASDの子どもに対人関係での適切な言動を学習させるために、ソーシャルストーリーといった方法もあり、親御さんや学校の先生にも比較的容易に活用することができるためお勧めです。ネット検索でもいくつか参考書がでてきます。簡単に紹介すると、(1)いろいろな場での適切な行動を言葉で説明するのではなく、例えば、「友達を遊びに誘うときのルール」といった課題について、1課題1ページ程度で解説したものを作成して、繰り返し読ませたり、一緒に読んだりして、目から情報を入れる、(2)10歳未満のASDの子どもへの社会的ルールの説明に、他者の気持ちを想定することが必要であるような説明を避けて、子どもの発達に合わせた説明に留意するといったことに配慮した指導法です。

4. 大きな集団について

ASD子どもにとって、運動会のような大人数で日常と違うことがたくさん起きて、しかも、視覚や聴覚から入ってくる情報が多いような場は苦手であることが多く、問題を生み出しやすいのです。良くある例として、1年生の頃は、競技に参加することはあまりできないものの、半日くらいは皆と一緒の場に居られたものが、だんだんに参加自体にも抵抗が生じてきて、4年生になる頃には運動会の数日前から体調不良を生じるようになり、遂には2週間前の練習期間から学校に行けなくなったというようなことをしばしば聞きます。これは、運動会という場で、苦手な大きな音や予想外の出来事への遭遇を繰り返したり、大きな音への暴露が繰り返されたりするうちに、だんだんと苦手意識が強まったという経緯であることが考えられます。それではどうしたらよかったのでしょうか?より安全な慣らし方としては、ASDの子どもが不快感を抱かない程度の時間、内容からゆっくりと参加時間、内容を増やしていくことです。このときに注意すべきことは、限界まで頑張らせないことです。限界になったらSOSを出すという手順では、参加するたびに限界になって不快感を体験することになります。こうして運動会と不快感が結びついてしまうと、運動会への抵抗が徐々に増強してしまいます。あくまでSOSは非常手段として、SOSを使わないで済むように計画するのがよいのです。最悪、運動会に参加できなくとも、その子の将来に大きな悪影響があるわけではないですから、ゆったりとした気持ちで取り組みましょう。

5. それでは何を伸ばしたらよいのでしょうか?

上述のようなことを言うと、熱心な親御さんや学校の先生には、「あれもダメ、これもダメではなにをやったら良いのかわからない」といった感想を述べる方が居ます。答えは、ASDの子どもにとって将来の大目標は、(1)自立して一人でも暮らせること、(2)毎日仕事に行く場があること、(3)休みの日に親に頼らなくとも趣味の時間や場を確保できることです。このためには援助すべきことはたくさんあるはずです。興味を持っていることで将来上記のような大目標の足しになることを伸ばすとか、趣味を探すために一緒に探究してあげるなどが考えられます。注意すべきことは、ASDの子の「普通化」を目指さないことです。「魅力的な変人」を目指しましょう。一見普通だけれど、得意技がないというよりも、変人だけど掃除の天才だったり、変人だけど数学がとても得意である方が、世の中に適応できる手段が増えますし、なによりも本人の人生が楽しいものになると思います。




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