本文へスキップ

渋谷駅すぐの児童精神科・精神科クリニック

電話でのご予約・お問い合わせはTEL.03-5489-5100

〒150-0043 渋谷区道玄坂1-10-19糸井ビル4階

Topic 13

 発達障害と薬物療法

注意欠如多動性障害(ADHD)に対する薬剤

このグループの薬剤は、脳内のノルアドレナリン and/or ドパミンの濃度を高めたり、伝達を調整したりして、ADHDの多動や不注意を改善すると考えられている。脳内で基本的な情報をニューロンからニューロンへと伝達しているのは、グルタミン酸などのいわゆる興奮性アミノ酸であると考えられているが、カテコラミンと総称されるノルアドレナリンやドパミンは、その情報の流れを量的に調節すると考えられている。脳内の情報の流れを川の流れに例えるならば、カテコラミンは水門の開け閉めをする制御信号を担っているイメージである。以下に述べる4種の抗ADHD薬のうち始めの3種の薬剤は脳内カテコラミンの濃度を上昇させることによって、情報の流れの水門を開けて、情報処理能力を改善して、集中力をアシストすると考えられている。集中力が改善することによって多動も軽減するとされている。しかし、カテコラミンは情報の流れの制御のみではなく、食欲、吐き気、不安、睡眠の調整などをも担っているし、全身的には血圧や心拍数の制御も担っているので、これらの薬剤の投与は様々な副作用を無視できない頻度で惹き起こす。4種類目のグアンファシンの作用機転は未だ詳細が不明であるが、やはりカテコラミンの作用を修飾するため関連した副作用が生ずる。

メチルフェニデート徐放薬(商品名: コンサータ)

ADHDに頻用される薬剤であるが、シナプス間隙のノルアドレナリン、ドパミンの濃度を高めることによって、集中困難や多動を改善すると考えられている。添付文書には不眠症(18.2%)、食欲減退(40.8%)、動悸(12.1%)、悪心(11.7%)、体重減少(16.4%)、その他チック、不安、頭痛などが頻度の高い副作用と記載されている。

リスデキサンフェタミン(ビバンセ)

体内で覚醒剤であるアンフェタミンに変化して、シナプス間隙のノルアドレナリン、ドパミンの濃度を高める。メチルフェニデート徐放薬と比較して作用はより強力であるとされているため、副作用の頻度も高い。添付文書では不眠(45.3%)、食欲減退(79.1%)、体重減少(25.6%)、その他頭痛、悪心などが頻度の高い副作用と記載されている。副作用の頻度がメチルフェニデート徐放薬よりも高いため、基本的には同様の薬効をもつメチルフェニデート徐放薬の効果が不十分であるときに限って適用可能とされている。法令上、覚醒剤原料とされているのも第一選択として用いられない理由であると思われる。

上述のメチルフェニデート徐放薬とリスデキサンフェタミンに共通に目立つ副作用として、ASD併存例に投与されたときに行動の切り替えが困難になる現象がある。子どもたちの様子を聞くと、恐らく、今現在考えていることを考え続ける時間が延長する(集中時間が延びる)ために、計算ドリルを持続可能な時間が延びるのと同様に、恐竜や昆虫や電車など自分が拘っていることを考えている持続時間も延びるようである。この状態で、「今は算数をする時間だよ!」と切り替えようとすると、こだわりに介入された不快感が服薬前よりも強くなって、時として暴力がでるようである。他院でこれらの薬剤を処方されて暴力的になって当院に転医してくる子どもたちの多くは薬剤を漸減中止するだけで問題が解決している。

また、上述の2剤の集中力をアシストしたり運動能力を増強したりする作用はADHDの患者に特異的に発現するわけではない。ADHDではない子どもや大人でも発現するので、濫用された事例が報告されている。数年前、歯科医が自身の子どもの受験を成功させる目的で不正に処方して、それが発覚して事件となった例が報道された。もとよりこれら覚醒作用のある薬剤がなぜ濫用することが禁止されていることを思い起こす必要がある。臨床的に適切な適用であっても、薬効が切れる時間帯に虚脱状態になる例も散見される。また、これらの薬剤を急激に減量/中止するとリバウンドで虚脱状態となることもある。これらに加えて、薬剤の薬効と関連して成功体験を得ると(成功体験が得られないとしたらそれはそれで問題ではあるが)、薬剤に対する心理的な依存が生じてしまうので、思春期以降に減薬/断薬することは難しくなることもある。年齢を経てADHD症状はほとんどみられなくなっても、薬効で長時間勉強できたおかげで中学受験を成功したので、大学受験まで継続したいと希望する親子は珍しくない。

これらに加えて、これらの2剤は脳内のドパミンの作用を増強するために、対人関係や環境に対する過敏性を惹起することがある。そのため、これらの薬剤を服用中に、対人的な過敏性が高まって、家から出たり、登校したりすることにより強い抵抗を示すことがある。また、もともと統合失調症やその周辺の症状がある場合はこれらを悪化させる怖れがある。

アトモキセチン(ストラテラ)

脳内のノルアドレナリンの濃度を高める。添付文書にも悪心(31.5%)、食欲減退(19.9%)、頭痛(15.4%)、傾眠(15.8)、その他不眠症、体重減少などが頻度の高い副作用と記載されている。作用機転が抗うつ薬に類似しているため、抗うつ薬の子どもへの適用でみられる衝動性亢進が懸念される。添付文書でも重要な基本的注意として、臨床試験で本剤投与中の患者で自殺念慮/自殺関連行動がみられたとの記載があるため、これらの出現には注意する必要がある。

グアンファシン(インチュニブ)
脳内のノルアドレナリンの伝達調整をしていると考えられているが、作用機転の詳細は未だ不明。添付文書にも低血圧(20.5%)、徐脈(14.9%)、傾眠(49.8%)、その他頭痛、不眠、口喝、便秘などが頻度の高い副作用と記載されている。このように低血圧が高頻度でみられ、添付文書上にも投与に当たっては血圧のモニターが必要とされているが、残念ながらこれが遵守されていないために、体調不良を来して転医してくる子どもは少なくない。このような子どもは夜尿を来していることがあり、自尊心に関わることであるため要注意である。

上述のADHDに処方される薬剤は全て、その添付文書の重要な基本的注意の項に、「本剤投与中の患者には、自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事させないよう注意すること」と記載されており、服用中は運転免許の取得や更新が困難となることも知っておくべきである。特に、2024年になってからは、東京都と近県では、免許更新の際に免許センターなどで、向精神薬を服用していることを理由として免許を停止あるいはそれに準ずる措置を受けたという相談が何件も生じている。このような事情であるから、できることならバイクの免許を取得できる16歳あるいは普通免許を取得できる18歳までには上記の薬剤を含めた向精神薬は卒業したいものである。因みに統合失調症やてんかんに関しては、関連学会や警察庁が認めている運転可能な条件が定められているので、それらの疾患の治療薬を服用していても運転可能である場合もある。ADHDに用いられる薬剤についても、統合失調症やてんかんのように、服薬治療していても運転可能である条件が明確化されることが望ましい。

自閉症スペクトラム障害(ASD)に対する薬剤

ASDに対しては、ドパミン拮抗作用の強い抗精神病薬や気分安定薬が処方されることがある。それぞれの作用と副作用を概観する。

抗精神病薬

リスペリドンやアリピプラゾールといったドパミン拮抗作用が強い抗精神病薬が処方されることがある。多くは、ASDの聴覚過敏などの過敏性をターゲットとする処方と思われる。前述したように、ドパミンなどのカテコラミンは情報の流れを増加させるので、これに拮抗するこのクラスの薬剤は、過剰な聴覚、視覚などの情報を部分的に遮断して、過敏性を改善すると考えられている。しかし、全身投与される薬剤の作用では、遮断される情報に選択性は期待できないので、必要な情報もある程度遮断されて、学習や仕事のパフォーマンスが低下することがある。また、上述の2剤を含む多くの抗精神病薬には食欲亢進や体重増加作用がある。体重増加のために、生活習慣病のリスクを高める怖れがあることが指摘されており、注意が必要である。抗精神病薬や後で述べる気分安定薬のために体重が増加して、そのせいで睡眠時無呼吸症候群や肥満低換気症候群に至った例を多数みている。これらはある程度以上の重症度では、昼間の酸素飽和度も低下するので、認知機能の負の影響を及ぼす場合も少なくない。これらに加えて、ある程度以上の体重増加は、容姿に影響を及ぼし、若者の自尊心を損ねる怖れがある。

気分安定薬

気分安定薬はもともと双極性障害(躁うつ病)の躁状態やうつ状態を軽減したり、それらの再発を予防したりするために用いられていた。その後、1980年代以降に、双極性障害以外にも気分を安定させる目的で用いられるようになった。統合失調症の気分の不安定さや、ASDなどの発達障害の情動の不安定さに対してである。これらの適用に関して、1980年代から1990年代頃まではかなり有望な報告がなされていた。しかし、残念なことに、ここ10数年の報告では、有効性を否定するものが多い。さらに残念なことにはこのような報告が増えてきたにも関わらず、精神科臨床では相変わらず多用されている。このなかでバルプロ酸(デパケンなど)は服用中に知能指数(IQ)10程度低下させるという報告があるのみならず、胎内でバルプロ酸に暴露された子どもは10歳代になってもIQが劣るという報告もあるので子どもや女性には処方してほしくない薬剤である。また、バルプロ酸や炭酸リチウムといった気分安定薬には、食欲増進作用や体重増加作用があり、抗精神病薬の項で述べたリスクがあることにも注意が必要である。特に抗精神病薬とバルプロ酸が併用されている時には相加的/相乗的な体重増加作用が発現するという指摘もある。


Dougenzaka Fujita Clinic道玄坂ふじたクリニック

〒150-0043
渋谷区道玄坂1-10-19糸井ビル4階
TEL 03-5489-5100
FAX 03-6455-0864