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渋谷駅すぐの児童精神科・精神科クリニック

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Topic 9

 鉄欠乏で集中困難、不眠、月経困難に!

クリニックに来院される方のなかで、集中困難、不眠はよく聞かれる訴えです。最近ではインターネットの情報で、集中困難や物忘れと関連して注意欠如多動性障害(ADHD)を心配されて来院される方、不眠で睡眠薬を求めて来院される方が多くいらっしゃいます。日々の臨床の中で、これらの方々の中で鉄欠乏が原因であった例が多いことに気づいたため、ご紹介させていただきます。また月経困難や月経前症候群が鉄欠乏と関連していた例も経験していますので紹介させていただきます。

1.     鉄欠乏と集中困難

症例を紹介します。ただし、個人情報の問題がありますので、いつものように個人が特定される怖れのある情報は削除、改変したうえ、複数症例をブレンドしてありますのでご了承ください。

症例1. 30歳代女性が職場でのミスや大切な用事をうっかり忘れていることが増えたということで来院されました。このような症状をはじめに気づいたのは大学生のころだといいます。最近職場で責任ある立場に昇進したことで、このようなことがより問題となっているということでした。インターネットの情報で、ADHDを疑われて来院されましたが、ADHDとしては症状に気づいたのが大学生と遅いため、ミスや物忘れの要因を広く検索することにしました。身体所見として貧血がみられたため血液検査をしたところ、軽度の貧血と、その原因と思われる比較的重度の鉄欠乏(フェリチン<10ng/mL)がみられたため、鉄剤で補充療法を行いました。その結果、フェリチンが50ng/mLに達した34か月後には当初の症状は改善したので、原因はADHDではなく比較的重度の鉄欠乏であったことが判明しました。

鉄は細胞内でエネルギーを産生する呼吸鎖の酵素を始めとしたさまざまな酵素に必要とされるため、鉄欠乏は脳や心臓を含め全身のエネルギー不足を来し、集中困難、易疲労性を惹き起こします。そして、鉄欠乏が貧血を起こすのは最終段階ですので、小児科や内科で、貧血はない!心配なし!と言われても安心してはいけません。因みに、鉄欠乏が多くの人に貧血を惹き起こすのはフェリチン<12ng/mLと言われていますが、50を割り込むと、集中困難や易疲労性や事項で紹介するように入眠困難や朝の怠さを惹き起こします。

2.     鉄欠乏と不眠

症例2. 10歳代女性が夜寝つけず、朝だるくて起きられないため、学校に遅刻することが多くなったと来院されました。よく聞くと横になると体がムズムズして火照ってなかなか入眠できない。学校でじっと座っていると足がムズムズするといいます。これらはムズムズ足症候群でよく聞く症状です。そしてそれは鉄欠乏でよく起こる状態です。このため鉄代謝を検査したところ、フェリチン 20ng/mL、トランスフェリン飽和度 15%と鉄欠乏がみられました。このため鉄剤を処方して鉄欠乏の治療を始めました。治療開始2週間後に来院した時には、入眠時や授業中のムズムズ感は消失して、入眠や朝起きも改善しました。その後フェリチン5080ng/mLを目指して治療を継続しています。

鉄欠乏による皮膚感覚や口腔内、咽頭の感覚過敏はよくみられ、ムズムズ感が不眠を惹き起こすこともあります。また、口腔内、咽頭の違和感が、鉄欠乏によることもよくみられ、時に嗽を止められない、何でも口に入れてしまう、氷やスルメを好むといったことで来院される方も少なくありません。これらが心因性と誤診されて、長期の心理療法を受けていたり、向精神薬を処方されたりして拗らせてから来院される方をしばしばみます。これらの過敏性が起きたら、一度鉄欠乏も疑ってみましょう。

3.     鉄欠乏と月経困難

月経困難で精神科を受診する方はほとんどいませんが、なんらかの理由で鉄欠乏と診断されて、治療で改善したら、予期せずに生理痛が軽減したり、月経前症候群が改善したりした方によく出会いました。このため、最近は月経困難や月経前症候群の方には積極的に貧血や鉄欠乏の検査をお勧めしています。これらには低用量ピルによって生理を整える治療が勧められ、その効果も確立しています。また、低用量ピルは億単位の人々に使われて、肥満や喫煙がある方など以外には安全性も確立されています。しかし、鉄欠乏があった場合はその治療も併せて行うことで、より良い効果を期待できたり、低用量ピルの治療を終えることを期待出来たりします。また、月経関連以外の鉄欠乏症状は鉄補充以外では治りませんから、これらの症状をみたときにも鉄欠乏の可能性を考えたいです。


鉄欠乏は見逃さやすい

鉄欠乏の多くは見逃されてしまっています。その多くの理由は、病院の検査室や検査屋さんが検査結果に示している「基準値」にあります。これは「基準値」であって、「正常値」あるいは「望ましい値」ではないのです。では「基準値」とか何かというと、被検者のおよそ95%が入っている範囲です。これが貯蔵鉄であるフェリチンでは日本人女性で5157ng/mLなのです。しかし、日本人女性の1/3に鉄欠乏があるといわれていますから、この範囲の人の1/3近くが鉄欠乏ということになります。ところが、一般の方々のみならず、医師のなかにも、基準値=正常値、という勘違いをしている方が多いので、せっかく検査をして、フェリチン低値が分かっても見逃される例が多いのです。さらに言うと、小児科では、採血を嫌がる子が泣き出して険悪なムードになるのを避けたいという医療側の気持ちが採血回避→見逃しという事態を惹き起こしがちです。せっかく検査してもらったら、結果のフェリチンをみてみましょう。12ng/mL以下だったら貧血必発あるいは直前、30ng/mL以下は易疲労性、集中困難、感覚過敏が起きる可能性大、50ng/mL以下は上述の症状が出る可能性あり、80ng/mL以下は鉄欠乏に弱い方に欠乏症状起きる可能性があると考えてください。



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