最近ダイエットと関連したトラブルをよく診ますので注意喚起のために書いてみました。若い方々は容姿を気にして、年配の方々は健康を気にして体重を減らす方が多いのは、もう半世紀も前から続いていると言ってよいでしょう。しかし、ダイエットもほどほどにしないと、とんだ落とし穴があることを気に留めておく必要があります。1983年に当時の人気歌手のカレン・カーペンターが摂食障害による低体重と関連して死亡したことは衝撃でしたが、命に関わるところまでの低体重でなくとも、一定以上の低体重、低栄養は心身に深刻な影響を与えてしまうことも多いのです。一番健康に過ごせるのは、標準体重と比べて、±10%の範囲と思えば間違いがないでしょう。やせと肥満は身長と体重の比率できまります。概ね身長160cm以上の場合は、Body Mass Index(BMI)で評価ができます。BMI = 体重kg/(身長m)2で計算できます。標準体重すなわち肥満度±0%は、BMI 22.0に対応します。BMIが19.8なら-10%、17.6なら-20%です。フランスやスペインでは、どんなに魅力的なモデルでもやせすぎているとファッションショーに出演できなくなっています。また、WHOが定める健康なBMIの範囲は18.5〜25(肥満度にして-16〜+14%)です。身長160cm未満の場合、特に子どもの場合はBMI 22.0を基準として評価するとずれが生じてきますので、文部科学省の学校保健統計などを参照して評価する必要があります。それでは、やせすぎにはどのようなリスクがあるのでしょうか?次に、(1)栄養不足や水分不足による直接的なリスク、(2)やせすぎによる内分泌異常から惹き起こされるリスクの順に解説していきます。
1.
栄養不足や水分不足からの直接的リスク
やせすぎによって、肝臓で糖を貯蔵するグリコゲンや皮下脂肪、内臓脂肪が枯渇してしまいます。正常な状態では食事から摂取される糖質が消費されてしまうと、肝臓などのグリコゲンからの糖の供給や脂肪組織からの脂肪酸の供給によってエネルギーが補われます。やせすぎでこれらのエネルギー補給が十分に行われなくなると、まず食事のあと時間がたつと低血糖傾向となり、意欲が出なくなったり、集中力が低下したりします。必ずしもやせていない人でも、朝食を抜くと、午前の低血糖傾向で、ADHDと見間違えてしまうほどの集中困難が現れることがあります。また、やせすぎで低血糖が高度となると、急に意識消失が起きて、バタンと倒れて、頭部などのケガを負うことさえあります。また食事や飲み物からの水分が不足することも低血圧を惹き起こし、ふらつきや転倒のリスクとなります。
2.
やせすぎによる内分泌異常からのリスク
やせすぎによって、さまざまな内分泌異常が生じます。よくみるものに、(1)低T3症候群、(2)生殖機能の減退、(3)骨密度低下、また、極度になると現れるものに、(4)副腎不全、(5)精神症状が挙げられます。
(1)
低T3症候群
甲状腺機能は、視床下部から分泌されるTRH(TSH放出ホルモン)によって、脳下垂体がTSH(甲状腺刺激ホルモン)を分泌し、これが甲状腺を刺激してT4という甲状腺ホルモンが分泌されます。T4は肝臓などでT3というより強力な甲状腺ホルモンに変換されます。低体重だと、TRHやTSHの分泌が低下して甲状腺ホルモン全体が低下するのと同時に、T4からT3への変換が抑えられて(低T3症候群といいます)、甲状腺ホルモンの働きが大幅に低下します。甲状腺ホルモンは、心臓や脳を含む全身の活動度を刺激する働きがありますから、低T3を含む甲状腺機能低下が起こると、体力が発揮できない、集中力が低下するなどの症状が現れます。
(2)
生殖機能の減退
個人差が大きいのですが、概ねBMIで18.5、肥満度で-15%を下回るようになると、生理の周期が不規則になったり、排卵が起きなくなったりする可能性が高まります。やせすぎると個体の生命維持が優先となって、生殖機能にエネルギーを割く余裕がなくなるための、自己防衛的な反応だと考えられます。成長期のこの状態が長く続くと卵巣や子宮の成熟が損なわれて、ゆくゆくは将来の妊孕能に悪影響が生じるといわれています。ちなみに産婦人科の不妊外来の半数が低体重関連であるという報告もあります。
(3)
骨密度低下
低体重では10歳代で起こる骨へのカルシウムの沈着が少なくなります。これが続くと、10歳代から骨粗しょう症になってしまうことがあります。カルシウムが少ない子どもの骨からカルシウムが沈着して大人の骨になるのが阻害されてしまうのです。捗々しいカルシウムの沈着は10歳代で起こりますので、この時期を低体重で過ごしてしまうと、骨が成熟せず、カルシウムの少ない(骨折しやすい)骨を生涯抱え続けるリスクが生じます。骨の健康のためにも10歳代から適正体重を保つようにしましょう。
(4)
副腎不全
極端な低体重が続くと、副腎皮質から分泌されるコルチゾールの量が減少してしまいます。副腎皮質ホルモンであるコルチゾールはストレスホルモンの代表で、ストレスに耐えるための身体反応を惹き起こします。このため、この状態ではストレスに弱くなり、また、低血糖や低血圧も起きやすくなってしまいます。
(5)
精神症状
以上述べたエネルギー不足や内分泌異常の複合的な影響と思われますが、摂食障害レベルのやせでは、約半数が二次的なうつ状態を来すといわれています。そして、このうつ状態の改善のためには栄養状態の回復が最優先です。薬物療法はあまり奏功しません。また、BMIで15を割り込むような高度の低体重では思考力、判断力も低下するため、精神科での心理療法の有効性もなくなってしまうといわれています。
以上述べたように低体重はさまざまな心身の不調を来すリスクがあります。真反対の肥満とともに、学校での保健体育教育で1次予防がなされることが望まれます。
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