しばらくすると、車窓の風景が、イギリスらしい風景になってきた。煙突のある家が、広い草原にぽつりぽつりと在って、羊が放し飼いにされている。こういう、のどかな風景は、日本ではめったに味わえないので、しっかりとその情景を頭に焼き付けた。日本という過密化した国から来ると、イギリスは、広々としているなあと、まざまざと思い知らされる。
すばらしい風景を眺めていると、係員が昼食を持って来た。こういうことは、日本の鉄道では、普通考えられないサービスで、まるで飛行機のようである。日本の鉄道車内で食事をしようとすれば、最近、数が少なくなってきた食堂車に行くか、弁当を買うかくらいしかない。日本も、このような形式を採用してほしいものだ。日本はさておき、メニューの方に話は移る。メニューは、全員共通で前菜があり、そして、主食は、肉と魚の2種類のコースに別れており、どちらにするかという注文は、乗車後20分くらいしてから、係員が聞きにくる。私は、肉を選択した。最初に運ばれてきた、前菜を見ると、なかなかおいしそうである。
前菜の内容を一言で言うと、クルマエビにセイヨウワサビがかかっている料理と、スモークサーモンの2種類である。食べてみると、スモークサーモンの塩加減が何とも言えず、車エビも、ソースの味が日本風で、とても美味であった。外国に来てから、一度もこのようなおいしく食べられる料理を口にしていなかったので、この料理は、格別の味だった。
Waterloo駅発車から約1時間後、「まもなくユーロトンネルに入ります」というアナウンスが流れた。それによると、ちょうど20分で通り抜けるということだから、あまりトンネルの長さは長くはないのかと思われた。それとも、ユーロスターの速度が速いからだろうか。答えは、両方のことが言えそうだ。英仏海峡は、泳いで渡る人もいるくらい距離が短い。そして、ユーロスターは、時速160km運転をするからだ。ユーロスターはフランス国内を時速300km運転をするが、ユーロトンネル内は、安全のためか、160km運転をすることになっている。
次に、ユーロトンネルの構造について説明する。トンネルは全部で3本あり、そのうちの2本には、1つずつレールが敷いてあり、上下線を分離している。もう1本のトンネルは、非常時などのためにあるようだ。列車走行に使用する2本のトンネルの2つのレールは、水面下2カ所で、交差している。つまり、ポイントが2カ所あるというわけである。なぜ、そのようなポイントがあるのかというと、それは、一方のトンネルのレールの一部分が使えなくなった場合、そこの部分をもう片方のトンネルのレールで補い、輸送に障害を与えることのないようにするために、あるのである。このような点まで考慮して造られているとは、とても感心させられる。しかし、昨年、ユーロトンネル内で、貨物列車の火災事故が起きてしまい、ユーロトンネルに大きな損害をもたらした。一時不通になったが、ユーロスターは、先に述べた利点を活かして、すぐに運行が再開されたのである。現在でも、完全に復旧しておらず、ユーロトンネルの危機は脱していない。早く元通りの姿に戻って欲しいと心から願う。
トンネル走行中に、主食がテーブルに並べられた。料理は、チキンが主で、あとは、ライス等がついている、という内容である。このチキンも、またおいしかった。フランス行ユーロスターでの食事のひとときは、一生、忘れないであろう。
(次は、フランス上陸編)