車窓の風景は、イギリスと変わらず、のどかな田園風景が広がっている。だが、イギリスと2つ異なる点がある。まず一つ目は、点在している家々の構造が微妙に異なるのである。詳しく言うと、イギリスでは、ほとんどの家に見かけられた煙突が、ここフランスでは、全く見当たらないのである。そして、外観も、イギリスより簡素な感じがする。こんな文化の違いが、20分の時を隔てただけで、はっきりと分かるとは、ユーロスターならではのことであろうと思う。
そして、二つ目の相違点は、電柱が線路わきに立ち並んでいるのである。これを読んだあなたは、不思議に思うかもしれない。なぜなら、日本の都市では、ごく普通の光景だからである。しかし、イギリスからフランスへ来ると、誰もが思うことなのである。それは、イギリス南部では、列車を運転させるために使用する電気を、第三軌条から取り入れているからである。第三軌条というのは、2本のレールの隣に敷かれていいる、もう1本の電気取り入れ用レールのことである。日本の地下鉄でも、この第三軌条方式を採用している路線がある。それは、JRやフランス国鉄等で採用されている、架線方式に比べて、スペースが小さくて済むからである。電柱を立てなくて済むから景観も損なわれなくてよいのだが、当然、安全のため、電圧が低くなってしまう。750ボルト直流なのである。では、フランスでは、どうかというと、25000ボルト交流である。こういうことで、イギリスでは高速走行できない。電気関係の話になったので、ここで少し整理しておきたいと思う。イギリス、フランス、ベルギーの3カ国間では、電圧も違うし、電気を取り入れる方式も違う。さらに、信号設備や、列車無線設備も異なる。異なる3種類の方式上でも、安全に走行できるように、最先端の技術を結集させて開発されたのがハイテクノロジー国際特急、ユーロスターである。そのため、様々な設備を装備している。
フランス国内では、イギリス国内よりも、走行時間が30分ほど長く、約1時間40分である。フランスでは、世界最高速度、時速300kmで営業運転するTGVと同じ時速300kmで、高速新線上を走行する。日本では、まだ、東海道・山陽新幹線のぞみ号が最高速度、時速270km、上越新幹線あさひ号の一部が最高速度、時速275kmだから、日本では味わえない速度を体験することができ、非常に感激である。車窓が田園風景だと、一般的には速度を感じにくいのだが、さすが時速300kmもなると、速さを感じる。しかし、思ったより、ほとんど揺れない。これは、圧搾空気による新式サスペンションのせいだろうと思われる。日本でも、今年3月から、営業運転で最高速度、時速300kmが、山陽新幹線500系のぞみ号で実現されたので、わざわざ外国に行かなくても、日本でTGV、ユーロスターと同じ速度を体験できるようになったのは、大変喜ばしい限りである。(4月に、早速、500系のぞみ号に乗車したが、ユーロスターよりも結構、揺れが感じられ、ユーロスターの方が快適であった。)
次に、車内の案内をすることにする。1等車、2等車に別れていて、1等車は、座席が横3列で、濃いグレーのシート、2等車は、横4列で、淡いグレーのシートである。どちらにも、セミコンパートメントは設置されている。そして、日本同様、禁煙、喫煙車と区別されている。1編成中に、バー車が2つあり、そこには、軽食をとるためのテーブルがいくつか設置されている。食事のサービスがない、2等車の人が主に利用するようだ。トイレも、日本の新幹線とは違い、ハイテクである。トイレのドアが自動なのである。ドア横に、開閉ボタンがつけられており、それを押すことによって、ドアが開閉するという仕組みになっている。そして、トイレ室内も広い。さらに、温風で手を乾かす装置もある。便器に水を流したり、石鹸水を出すなどの操作ボタンには、すべて、その操作を示すイラストが描かれていて、誰でも理解出来る工夫がなされている。国際社会に対応した設備といえよう。次に、ドアデッキと客室の間にあるドアは、自動であるが、完全自動ではない。日本の新幹線、特急等のようなセンサー式ではなく、ドアのある部分を押すと、ドアが電動で開くという構造である。そのほかに、編成中には、出入国審査官のための控室もある。フランスからイギリスへ戻る際に、車内でパスポート、入国カードの審査を受けた。こういう点が、国境を越える、国際列車ならではの出来事である。 (次は、パリ北駅到着編)