1、近藤勇の政治目的

 文久3年(1863)10月、幕府は新選組に禄位を与える旨を達した。近藤勇はそれを辞退したのであるが、その時
の上書と口上願書が残っている。共に文久3年(1863)10月15日付で松平容保にあてたものである。まず上書の
方からみてみることにする。その文面によると、今度格別の改革、議定を立てて幕府は江戸の新徴組を新規召抱に
するとのことで自分たち新選組にも何か御沙汰があるとかいうことで、不肖の自分たちの身にとって有難き仕合わせ
と思っている。しかし自分たちは「尽忠報国」の志士であって、今度の浪士募集に応じて去る2月に上京し、「皇命尊
戴、夷狄攘斥之御英断承知仕度存志にて滞京罷在」るのである。「外夷攘払魁」となりたいという趣意を是迄、愚身
を顧ず度々建白したのであるが、未だ寸志の御奉公もしない内に禄位などいただき、公勤させて戴くのは有難き仕
合わせとは申せ、その幕府の処置によって報国志士たちが万一ためらったりくじけたりしたらどうしようかと心配して
いる。自分たちは新徴組のようにはならないつもりである。私共存意は只々報国の為少しでもお役にたちたく、すで
に先月中より関東においても鎖港の趣旨を承けたまっておりますので、そうであるならば漸々攘夷の期限を仰せ付
けられたその節は、尊命を蒙り醜慮を当てて御奉公するのつもりです。それを待っております。その上で禄位を仰せ
付けられたら有難き仕合わせです(註4)、ということを上書に述べている。近藤は禄位辞退の理由を、自分たちの志
である「外夷攘払」がまだ達成されていないということにおいている。 
 次に同じく10月15日に容保に出された口上願書をみてみることにする。その口上願書には、去る8月中、御所妄
動の一条(註5)に不肖ながら御固めを仰せ付けられ・・・・且三条木屋町奸人(註6)召捕方の御用を仰せ付けられたこ
とは、ほんとうに有難き仕合わせである。しかしながらこの儀は今日の御奉公と心得ております。「私共志意は外夷
攘払魁仕度」よって愚身を顧みず、及ばずながらかれこれと、いささか周旋しておりますが、未だ私共本懐の御奉公
をしておりません。・・・・御馬前において寸功ない内に禄位等仰せ付けられることは御免願い上げます(註7)、と上書
と同様の理由で禄位辞退を願っている。この口上願書でもはっきり「私共志意は外夷攘払魁」と述べており、しかも
文久3年八月十八日の政変での御所固めや不逞浪士の捕縛は「今日之御奉公」とまで言い切っており、自分たちの
本来の役目ではないことを主張している、。これらの上書、口上願書から近藤勇の政治目的は明らかに「攘夷」にあ
ることがわかる。
 さらにその上書、口上願書が呈出されてから約半年後の元治元年(1864)5月3日に、近藤は会津藩公用方を 通して老中に、新選組の役目について触れた上書を呈出している。上書の主な内容は「将軍家茂の東下への反対」である。 しかしそれに関連させて、自分たちの役目についての不満も鋭い口調で訴えている。 この上書で近藤ははっきり「見廻等之御奉公」のために現在自分たちがあるのではないことを述べている。「万一 有変之節」に「一廉御奉公」をしたいと考えているのである。そして将軍東下の中止を自分たちの進退をかけて訴え ている。近藤はこの上書で、将軍東下の反対理由として皇国の基本が立ってないことと長州処分が決定していないこと、 開港か鎖港かの決定がまだであること、をあげている。尽忠報国の志士である近藤にとっては、これらの重要なことを 未決のままで将軍が
東下してしまうことは我慢のならないことであったのだろう。またこのような情況の中で、自分は京都市中見廻りのみ
に甘んじなければならないことに憤りを感じてこの上書を老中に呈出したものと思われる。
 以上みてきたところの上書2通と口上願書1通から、近藤の思う新選組の本来の役割(究極の政治目的)が何であ
ったのか、ということが明らかになったと思う。それは決して彼らが5年間勤めたところの京都市中見廻りではなかっ
た。近藤は自分たちを尽忠報国の志士として「外夷攘払の魁」となって活躍する日を待ち望んでいたのである。だか
ら近藤勇の究極の政治目的は「攘夷」にあったということがいえるのであろう。

(註4)平尾道雄「新撰組史録」26−27頁。
(註5)小島政孝「近藤勇」(「新選組隊士列伝」所収)69頁。谷春雄「井上源三郎」(「新選組隊士列伝」所収)175頁。
(註6)前出「新撰組史録」72−73頁。
(註7)文久3年八月十八日の政変のこと。

左上写真・・・近藤勇の生まれた多摩郡上石原の宮川家。天保5年、宮川久次郎の三男として生まれた勇は、幼名を勝太と称した。
                    新人物往来者編「新選組写真集」より

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