西 表 山 猫 飛 出 注 意
石垣港離島ターミナルにてカリー観光バス

日本の島を本州から面積の大きい順に20個並べてみれば、私が訪問していない島は16位の西表島だけとなった。そんなわけで、先月屋久島を訪問してから、急に西表島への想いが強まった。沖縄の梅雨が明ける7月初めに旅行する計画を立てていたが、今月予定していた万座ビーチ旅行の前日に休みが取れたため計画変更。西表島に立ち寄ってから万座に行くことになった。

西表島に行くとなれば、どうしても叶えたいことがひとつある。それは「ヤンバルクイナとびだし注意」の看板を撮ることである。つまり、2007年3月のヤンバルクイナ、2011年7月のツシマヤマネコに続いて、道路標識に描かれた「絶滅危惧IA類」三部作の掉尾を飾ってもらおうと思った次第である。しかし道路標識を撮影するとなればレンタカーの利用は必須条件。ただ西表島に行けばいいわけじゃないので、いろいろと余分な費用がかかってしまうのである。

2018年5月22日火曜日、朝一番のこだま号で東上し、京急に乗り継いで羽田空港に8時半ころ到着した。今回は貯めたマイルを使う旅で、かつアップグレードポイントも消化する。つまり羽田〜那覇〜石垣の往復特典航空券を発券し、往路の羽田→那覇の部分をプレミアムクラスにアップグレード。本当はクルマを運転しない復路でアップグレードして、飲み放題のアルコールを存分に堪能したかったが、満席だったので仕方がない。往路の便も、2日前午前0時の解禁と同時にANAホームページから席を確保し、翌朝には空席がなくなっていたので、十分にグッド・ジョブだったのだが…。

アルコール抜きでも、プレミアムクラスなら沖縄まであっという間。30ウン年前に全日空沖縄キャンペーンのCMソングだった名曲のサビを、思わず「高気圧ギャアルゥ〜」とモノマネっぽく口ずさんでしまう。那覇空港での30分の連絡をこなして石垣行きに乗り継ぎ。13時半には「南ぬ島」に到着した。移動はまだまだ続き、バスで石垣港離島ターミナルに移動し、予定より一本早い高速船で西表島大原港に到着。船から降りて陸に上がると、その瞬間に北方領土を除く面積の大きな日本の島トップ20を完全制覇ということになった。

オリックスレンタカーでワゴンRを借り出すも、前月の屋久島とクルマの中身は変わらず、思わず苦笑。ハンドルを握って、まずは南へ向かう。西表島は一周道路がなく、南西部は人里のないジャングルとなっている。太平洋戦争の末期に、この島のジャングルに強制疎開させられた人達がいて、そのほとんどはマラリアに罹って亡くなったという悲しい歴史がある地でもある。現在ではマラリアも撲滅され、滅多なことはないと思うが、道の果てまで行くとなるとちょっとビビる。まぁとにかくクルマで行けるところまで行ってみようと思う。

港から10分ほど走ると、舗装道路が途切れ、小さな駐車場があった。そこにクルマを停めて、隣のイリオモテヤマネコのモニュメントと一緒にクルマを撮影。このモニュメントは1965年に大原中学校の生徒が、この近くでイリオモテヤマネコを初めて発見・捕獲したことにちなんで設置したと書かれていた。クルマを置いて100メートルほど歩くと、急に視界が開けて白砂のビーチが広がった。ここが南風見田の浜という西表島随一のロングビーチである。5月下旬といえば当地は梅雨真っ盛りだが、今年は空梅雨だとレンタカー屋さんが言っていた。おかげで夏本番の浜辺の景色が楽しめ、期待していなかっただけに嬉しかった。

ひとしきり夏の雰囲気を堪能したあと、クルマに戻って来た道を戻る。先ほど到着した大原港を過ぎて、そのまま上原方面に向かう。上原までの間にくだんの「イリオモテヤマネコとびだし注意」の看板&標識を探す算段である。県道は島の北海岸に沿って続いており、時折ゆるやかな峠道になったりする。道路の両側に林が並ぶ、鬱蒼とした道路際に探していた看板を見つけた。ヤマネコの絵の下に、ご丁寧に「イリオモテヤマネコとびだし注意」と二段書きされていて分かりやすい。カメラに収めたあと少しクルマで走ると、今度は黄色い菱形の警戒標識を見つけた。こちらは「ヤンバルクイナ」の時に見かけたバージョンで、道東で目にするシカの標識でおなじみのやつである。とりあえず、これで西表島での目標を達成したわけで、もう港に戻って帰途についてもいいのだが、もちろんそんなわけにはいかない。いったん上原にある宿を通り越して、星砂の浜に向かった。


西表島大原港に到着した八重山観光フェリー


豊原から西へ3キロ。舗装道路の終点に記念碑


イリオモテヤマネコとびだし注意


ヴィラ西表の夕食@白身魚刺身他


夕食A魚介のダシ!!大鍋味噌汁


夕食B白身魚フライ&デザート

翌朝の朝食は7時半から。一応レンタカーを8時に返却しないといけないので、上原〜大原間35キロの距離を考えると、法定速度では到底間に合わない。泣く泣く朝食の権利を放棄し、7時過ぎに宿をチェックアウトした。わりと時間に余裕ができたので、いろんなところで道草を食っていく。水牛車で有名な由布島を見たり、天然記念物である古見のサキシマスオウノキ群落を見たりしたが、そうこうしているうちに時間がなくなり、大原集落のガソリンスタンドに着く頃には8時を回っていた(8時開店なのでちょうどよかったが)。もっとも「沖縄時間」なので10分くらい返却が遅れても問題なしである。

さて、ここまで便宜上「大原港」と書いてきたが、それは安栄観光や八重山観光フェリーの呼び方で、行政上の正式名称は仲間港旅客ターミナルで、愛称は「なかまりん」である。さすがに西表島の東の玄関口であるので、かなり立派な施設だった。そのターミナルに石垣港を朝一番に出港した高速船が到着し、折り返し8時45分発の便になる。船は昨日と同じ八重山観光フェリーの「サザンクロス5号」で、石垣港までは40分の船旅となる。

天気は昨日に続いて晴れ。いわゆる夏空というやつである。窓の外はどこまでも海が広がり、波しぶきがきらめいている。このシチュエーションなら松岡直也さんしかない。アルバム「ハートカクテルvol.2」に収録されている「今をフリージング」を聴く。もう35年くらい松岡直也さんのフリークなのだが全然飽きない。振り返れば松岡さんを知ったのは1982年の「九月の風」あたり。翌年の「午後の水平線」から1984年の「夏の旅」、「ロング・フォー・ザ・イースト」と続く「ロック三部作」(私だけの呼称)でメロメロにやられてしまった。その後、「ウォーターメロン・ダンディーズ」に収録の「ア・ファースト・フライト」あたりが、松岡さんのロック路線のピークという感じで、和田アキラ氏の超絶ギターに心を奪われてしまった。時代は流れて1988年の秋、その和田アキラ氏も特別講師であったNHK教育「ベストサウンドW」で松岡さんは生徒に対して厳しく辛辣な講師となり、アルバム「マジェスティック」に収録されている「クライ・フォー・ザ・ムーン」を課題曲に講座を繰り広げた。当時、同級生の中でもこの番組を見ている人が多く、課題曲としては難しすぎる上に、インプロヴィゼーション(アドリブ)を各パートに課すという無理難題をする講師ぶりを、面白おかしく茶化したものである。そんな松岡さんにまつわる思い出が、1曲聴くだけで溢れ出す。当時は時が長く感じていたが、実際松岡さんに本当に熱を上げていたのは大学卒業まで。たかだか5年ちょっとくらいのものである。それでも、折に触れて聞きたくなるのは、松岡さんの音楽に過ぎ去った青春を感じるのかもしれない。


南風見田の浜〜ここより西側はジャングル


黄色ひし形の警戒標識にイリオモテヤマネコ


宿からさらに西にある星砂の浜で折り返し


上原港から徒歩圏内にあるヴィラ西表に宿泊

星砂の浜は、文字どおり星の形をした砂のある浜辺である。しかし近年、星砂(小さな貝殻の破片?)が少なくなっており、浜辺の砂をすくっても、ほぼ普通の砂ばかりである。浜辺の景色は、サンゴ礁のビーチに奇岩が点在し、ちょっとした景勝地である。しかし、かえって景色が良すぎて人が集まり、星砂が減ったのかもしれない。星砂の浜を早々に退散して上原方向に戻り、17時前に今夜の宿である「ヴィラ西表」にチェックインした。

当初は西表島のもうひとつの道の果て、白浜港までクルマで行こうと思っていたが、いざチェックインして部屋に落ち着いてしまうと、再度クルマを動かすのがどうにも面倒になってしまった。結局、夕食の時間の18時30分まで部屋でだらだらしてしまった。で、その夕食の時間に食堂に行くと、1泊2食付7,000円そこそこにしては、なかなかの食事が待っていた。魚の種類は分からないが白身魚がふんだんに食材として使われており、特に大鍋の味噌汁が魚介のダシが効いていて旨かった。ただコースのように料理が一品一品出てくるので、どこで終わりなのかよく分からなかったが…。

食事の後、部屋のバルコニーで夕暮れを見ながら酒でも飲もうと目論んでいたが、やぶ蚊が多くて5分で退散した。じゃらんの紹介文では「オーシャンビューの部屋で、バルコニーでゆったり過ごせる」みたいな感じで載っていたが、肝心の海も少ししか見えず、実際に来てみないことには分からないことが多いものである。ただ、朝日は海から昇り、やぶ蚊もそれほど飛んでいないので、ゆっくりできたのは確かである。


バルコニーより上原港に昇る朝日を見る


イリオモテヤマネコ銅像と筆者


水牛車でおなじみの由布島の入口に立ち寄り


由布島へ一直線に延びる電線


古見のサキシマスオウノキ群落碑


天然記念物サキシマスオウノキ


ミニソーキ丼&ミニ沖縄そば


吹き抜けを8階より1階を望む


BGMのチャンネルにAFNがあった


瀬良垣アイランド方面に日が昇る


朝食バイキングをがっつりと

ビーチから部屋に戻ると、「やりきった感」があり、「もういつチェックアウトしてもいいや」という感じになった。ホテルからの脱出方法を検討しているうちに、路線バスで2時間というルートもよぎったが、やはり帰りもリムジンバスに乗ることにした。ただし、昨日のように各ホテルに立ち寄っていくのは面倒なので策を講じた。すなわち、ここのホテルを最後に停車する便を探してみた。すると9時26分発のバスが、ここを出ると次は那覇バスターミナル、そしてその次は那覇空港といい感じで運行することが判明。予定より30分早くなるが、万座ビーチに思い残すことはない。すぐさまツアーデスクでリムジンバスの乗車券を購入した。

9時26分発のバスは、予想に反してほぼ空車で到着。ここまでに5〜6軒のホテルに寄っているはずなのに意外だった。バスはホテルを出ると、屋嘉インターまで最短ルートを走り高速に入る。30分ほど高速を走り、那覇インターを出て、国場、壷川などのおなじみの地名を巡り那覇バスターミナルへ。下車客はおらず、そのまま5分ほど走ると那覇空港が見えてくる。結局10時20分に到着。万座から1時間もかからずに空港に着けたので、速達効果は満点だった。

当初の予定では、那覇空港到着が11時40分。那覇空港を12時55分発のANA996便で出発するつもりだった。ところがホテル出発を30分早めたおかげで、11時10分発のANA462便にゆうゆうと間に合う。旅割など安いチケットでは、たとえ空席があっても前便への変更ができないが、今回は特典航空券なので席がある限りは便の変更は自由である。カウンターに寄ってANA462便に変更してもらい、ラウンジに立ち寄ってオリオンビールを一杯飲むことまでできた。その後、飛行機の出発遅延があったものの、浜松にはまだ日が高い18時前に到着。最初からこの予定を組んでおくべきだったと、ちょっと反省した。


水牛車の傍らの厩舎で水牛が出番を待つ


整備された木道の脇には熱帯植物が生い茂る


大原港=仲間港旅客ターミナル「なかまりん」


那覇空港よりリムジンバスで万座ビーチに直行

石垣港離島ターミナルからバスで石垣空港に移動し、空路1時間で那覇空港に到着。ちょうど昼時になったので、空港内のレストランで、ミニソーキ丼とミニ沖縄そばのセットを注文。せっかくなので沖縄っぽい料理を食べてみたが、町中の食堂でないのでイマイチ感動が薄かった。

12時55分発のリムジンバスに乗車したら、乗客は私1人だけ。空港とANAインターコンチネンタル万座ビーチリゾートを高速経由で直通するが、運賃は路線バスなら1,450円のところを1,700円と、ちょっと高い。まぁ路線バスだと2時間かかるところを60分〜90分で走り、リクライニングシートの観光バス仕様なので、少しばかり料金が高かろうが普通は一択である。それなのに貸切状態になってしまったので、いかにこの時期には観光客が少ないかということを表している。

高速を石川インターで降りて、ホテルムーンビーチを皮切りに5つのリゾートホテルに停車。6つ目がようやく万座ビーチで、「ホテル引きずり回しの刑」という感じだった。到着は14時15分ころで、リゾートホテルを満喫するにはいい時間。部屋に荷物を下ろすとすぐに屋外プールに直行した。週に1度泳いでいる私も、屋外プールとなると今シーズン初である。天気が良ければ、万座ビーチで過ごすことも考えていたが、那覇に着いてから梅雨空になってしまった。ここはおとなしく明朝に期待することにした。


ハイフロアツインオーシャンサイドの室内


リゾートホテルだからプールくらいはあるわな


屋外のプールで泳ぐのは今夏初


東シナ海ならぬ本部半島と瀬良垣に昇る朝日

プールから大浴場を経由して部屋に戻った。このホテルは、夏休みには1部屋1泊4〜5万円以上もするので、とても一人旅で使う気にはならなかった。しかし梅雨時の今時分ならルームチャージが1万5千円くらいになるので、リゾートホテルへの憧れもあって、思い切って泊まってみた。せっかくなので朝食を付け、6階以上のハイフロアを指定したら19,119円となったが、まだ許容範囲である。ところで、部屋に戻ってきたらやる事はひとつ、酒盛りである。BGMは何にしようかと思っていたら、部屋に備え付けのシステムでAFNが聴けることが判明。今は無き岩国錦水ホテル以来のレアアイテムに心が躍った(あちらはFENの時代だったが)。最新の全米ヒット曲を聴きつつ、暮れていく海を眺めながら水割りをチビチビやった。うーん、至福の時。

酒を飲みながら早々に寝てしまったので、翌朝は日の出前に起きた。部屋の向いている方角がイマイチ分からないが、たぶん目の前の海から日が昇るはずだと信じて、日の出の時間を待った。結局、太陽はハイアットリージェンシー瀬良垣アイランドの宿泊棟の上、本部半島の山並みから昇ったため、海からの日の出にはならなかったが、年賀状用の画像として使えそうなものが撮れた。

楽しみにしていた朝食バイキングを、朝6時半の開店を待ってがっつりといただき、その足で昨日行けなかった万座ビーチに行ってみた。昨日とは一転して快晴となり、ビーチの左手に見える景勝・万座毛もきれいに見えた。さすがに泳ごうとは思わなかったが、5年前の与論島の朝のような雰囲気があり、脳内音楽プレイヤーでは当時のように「モーニング・アイランド」が鳴り響いた。


ビーチよりANAインターコンチネンタルを望む


万座ビーチの左手には景勝万座毛を望める


前日午後が晴れていたらビーチを楽しめたのに


バルコニーよりチャペルと紺碧の海を望む


ホテルのプールも天気次第で全然違う


速達効果〜ホテルより那覇空港まで55分

<終>

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