ツシマヤマネコ 飛び出し注意!!


旅のスタートは対馬やまねこ空港

2007年3月、沖縄本島北部をドライブした時にヤンバルクイナの飛び出し注意を喚起する標識を見かけてビックリした。絶滅危惧動物を標識に掲げているところは日本国中探しても他にはないだろうと思っていたが、たまたま訪問した対馬で、ヤンバルクイナ同様に「絶滅危惧IA類(CR)」に分類されているツシマヤマネコが標識に掲げられていた。今回は、その話題に触れながら、対馬訪問記を綴っていこうと思う。

福岡からの全日空機で「対馬やまねこ空港」に着いたのが朝8時半ころ。空港名にもそのまま「ツシマヤマネコ」の名前が入っているので、島中いたるところでヤマネコがみられるのかと思いきや、さにあらず。日本で6番目(本州、北海道、九州、四国を除く)に大きい島の中に僅か100頭しか生息していないらしい。今回の旅ではまず出会えそうもなく、生息地の知識もないまま対馬一周ドライブをスタートさせた。


朝8時半の対馬空港。レンタカーでドライブ開始


ヴィッツを借り出し、まず上見坂公園へ

まず、最初に訪れたのは上見坂公園。朝もや煙っていたため、リアス式海岸で知られる浅茅湾の眺めはイマイチだったが、芝生の広場が広がり気持ちのいい場所だった。山を西側に降りると、今度は海辺に出た。小茂田浜と呼ばれている浜辺で、700年以上前の元寇の際には合戦の場になったそうである。その時には多勢に無勢の状態で、あっという間に惨敗し、その後一週間にわたって全島を蹂躙されたそうである。


元寇古戦場である小茂田浜


豆酘崎の丘の上にもう一つの灯台


棹崎灯台は釜山まで49.5`の地


上見坂公園より浅茅湾方向を望む


豆酘崎の展望台と沖合に浮かぶ灯台


明治33年、日本海軍が開削した運河に架かる


日本最北西端の碑で記念撮影


棹崎公園の展望台にて灯台方向を望む


条件が良ければ異国が見える?農道を走る


千俵蒔山の麓にある異国の見える丘展望所


韓国は見えなかったが展望図には釜山の文字


ツシマヤマネコが載る道路標識


至る所でハングルを見たが、極め付きはここ


韓国展望所の展望台は異国の雰囲気


こちらの標識はそのものズバリ


対馬海峡に浮かぶ海栗島。その先は釜山


ナンジャモンジャが生い茂る鰐浦の森

小茂田浜から対馬の南東端の豆酘崎に向かって走っていたときに、はじめてツシマヤマネコ飛び出し注意の標識を発見。生息域に入ったようだ。豆酘崎への往復は、道幅が狭い上にタイトコーナーが絡み合う厳しい道のりだったが、その分開発が進んでいないため、ツシマヤマネコが生息できる環境が整っているということだろう。

豆酘崎で少しばかり散策した後、今度は島の北西端(=日本の北西端)に向かってハンドルを握る。カーナビによると目的地まで100`近くあり、過酷な悪路に先が思いやられる。小一時間の格闘の後、厳原港が見えてくると急に道路が良くなり、国道382号線に合流。三桁とはいえ国道は国道。信号も少ないので、遅いクルマに邪魔されない限りは快走できる。

明治時代に旧日本海軍が開削した運河の上に架かる万関橋を渡り、いよいよ下島から上島へと旅路が移る。橋からまた1時間ほど走って、次の目的地である棹崎公園に到着した。この公園一帯が日本の国土の中で最も韓国に近い(49.5`)ところで、空気が澄んでいるなど条件が整えば釜山の街並みが見えるらしい。もとより夏場は空気中の水蒸気が多いので滅多に見られないらしいが…

公園に鎮座する日本最北西端の碑で記念撮影した後、先を急ぐためクルマに戻った。実は公園内にある対馬野生生物保護センターで、生きているツシマヤマネコを見ることができるが、とりあえず対馬の南端から北端までざっと見ることが先決だと思い、訪問は次回の宿題としたのである。

千俵蒔山の麓、海岸沿いの何の変哲も無い道路には「韓国の見える農道」との看板が立っていた。その道を走っていくと、今度は異国の見える丘展望所があった。このあたりの売りは「韓国が見えまっせ」なのだろうが、今日のところは全く見えないものを「見える、見える」と宣伝されてもねぇという感じである。30分ほど走ったところにある韓国展望所に着いたころには、いささか食傷気味だった。その韓国展望所からも当然韓国は見えなかったが、韓国風の門や展望台の建物、あるいは案内板のハングル文字から多少異国の雰囲気が感じられたからヨシとしよう。


日本の渚百選のひとつ三宇田浜の夏


厚狭駅停車中の100系新幹線車内にて筆者


来春引退予定の100系新幹線が最後の力走

韓国を見ることをあきらめた私は、釜山方向に浮かぶ海栗島から左手の鰐浦に視線を移した。そこは静かな漁村であるが、こんもりと茂る森はヒトツバタゴ(別名ナンジャモンジャ)の自生地で、国の天然記念物に指定されている。毎年5月上旬にはその白い花が満開となり、地元ではヒトツバタゴ祭りが開かれるという。

観光展望所よりクルマで10分走ると、今回の旅の最後の訪問地三宇田浜に着いた。対馬には海水浴場が散在しているが、今まで見てきたビーチには水遊びをする人が全くいなかった。しかし、ここ三宇田浜は対馬じゅうの海水浴客が集まったのではと思うほどの賑わいぶりだった。さすが日本の渚百選に入ったメジャーなビーチだけのことはある。時間があれば泳ぎたくなるほどの暑さであったが、飛行機の出発時間までは2時間ちょっとしかない。後ろ髪をひかれる思いで午後の水平線を後にした。

三宇田浜から対馬空港までは、国道382号線経由で70`。飛行機の時間に間に合うかどうかヒヤヒヤものだったが、1時間半後にはレンタカーを返し、空港に到着していた。対馬やまねこ空港を16時55分に出発するANA4938便は、わずか30分のフライトで福岡空港に到着し、私を現実の世界にひきずり戻した。しかしその50分後には、再び夢のリゾート空間が待っている…

博多駅発18時15分の岡山行き「こだま762号」は、私のお気に入りである100系新幹線である。しかも自由席5両中2両は喫煙車で、もともとグリーン車で使用されていた「2&2シート」を装備する。この充実装備は、私に「ぐでんぐでんになるまで飲んでください」といっているようなもの。というか本当はとことん飲みたいがために、この列車を選んだのであるが…。

先日急逝された俳優の原田芳雄さんが生前言った言葉「俺はこだまじゃないと行かねぇぞ」が、しみじみと心に響いていく…。そんな夕暮れの100系新幹線。原田芳雄さんのご冥福を心よりお祈りいたします。
<おしまい>

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