事例1「少人数の幼稚園」                                       はじめに

年長児と年少児の集団遊び「ころがしドッジ」をとおして
〜A児と周りの幼児の変容より〜

○教師の願い…年長児と年少児がかかわることで,友達と一緒に集団での遊びを楽しむ ようになってほしい。

○ねらい… ・友達と一緒に遊ぶことを楽しむ。(年少)

○背景…  本園は少人数で,年長児と年少児のかかわりはなくてはならないものである。 昨年は,秋から冬にかけて年長と年少で
      角ドッジをして子供たちの大好きな遊びとなった。今年度になってまた年長児が始 め たくなり,人数が足りないこともあって,
      年少児を誘う。時期的に年少児には角ドッジは難しいので昨年の1学期に遊んだころがしドッジをしようと年長児が考える。

○A児について…体を動かして遊ぶことが好きで,ころがしドッジにも興味を示す。

           しかし,自分の思いのままに行動し,周りの幼児や状況に意識が向いていない。

○A児のねらい… ・友達と一緒に体を動かして遊ぶ楽しさを知る。

○ころがしドッジの始まり
5/16
年長児が「うさぎ組さん,角ドッジしよう」と年少児を誘いに来る。角ドッジを
知らない年少児が返事に困っているので,教師が「小さい組はしたことないな,
小さい組でもできるかな」と年長児に言うと,「そうだ,(小さい組のときにした)
カエルとザリガニのころがしドッジは?」と言う。教師が「やり方を思い出して
教えてくれるかな」と言うと,「わかった,遊戯室に来て」と返事があり,年少児と
年長児が遊戯室に集まる。そして,年長児を中心に遊び方を説明して,
ころがしドッジを始める。途中でコートの外の年長児同士がボールを同時につかみ
取り合いになる。教師が周りの幼児に「どうしたらいいかな」と投げかけると,他の
年長児が「ジャンケンしたらいい」「ジャンケンして勝った方のボール」と考え,
他の幼児も賛成する。そこで二人はジャンケンをし,遊びを再開する。


○A児と周りの幼児の様子 (□;遊びの様 ・;援助 *;考察)
5/18
A児,ころがしドッジに参加しているが,ルールを気にせずに思いのままに行動
している。そのうち「Aちゃん,線から出た」「線から出たらいけんのに」と友達に
言われ,泣きそうになる。さらに「Aちゃん,いつもじゃもんな」と言われて
泣きながらコートから出ていく。教師は友達から言われた理由や
友達の気持ちをA児に伝える。

・すぐにボールに当たる,ボールが
捕れないなど自分の思うようにならない
 ことがあると,やめようとしたり
泣いたりするので,その度にA児の
気持ちを受け止めながら友達の思いや
遊び方を伝え,ルールを守って遊ぶ
楽しさに気付くようにする。
・教師も参加し一緒に遊びを楽しむよう
にすることで,友達と遊ぶことを楽しみ
友達とのかかわりが深まるようにする。


・一生懸命ボールから逃げる姿やボ
ールの取り合いでジャンケンをする
姿を認め,みんなで決めたルール
を守って遊ぶと楽しいことに気付く
ようにする。
*繰り返し遊びに参加して友達と
かかわることで,遊びの楽しさを感じ,
その場に応じて気持ちをコントロール
しよ うとする姿が増えてきた。


5/25
初めてチャンピオンになる。教師が「Aちゃんがチャンピオン
おめでとう」と言うと,周りの幼児も「Aちゃん,おめでとう」と言い,
A児は「もう1回しよう」と最高の笑顔になる。次の回,友達同士が
同時にボールを捕ったときに「ボール持っていてあげる
ジャンケンして」とA児が仲介する。
主体的1

・自分から進んで友達にかかわっている姿や楽しく遊びに参加している姿や
楽しく遊びに参加している姿を周りの友達も気付くように声をかけていく。
*チャンピオンになるうれしさやルールを守って遊ぶ楽しさが感じられるように
なり,自分から友達にかかわっていく姿が見られるようになってきた。

6/9
みんなで作戦を考えているとき,A児も「思いきり,えいっと転がしたら
いい」と自分の考えを友達に言う。周りの幼児もうなずく。教師は
「よく考えたね みんなも同じ気持ちだって」と代弁する。
心豊か3
主体的2

・A児の考えが他の幼児に伝わるように必要に応じて援助
するとともに,友達の考えも聞くことの大切さを知らせる。
*いろいろな経験を積み重ねる中で,自分で考えて発言したり
行動したりする姿が少しずつ増えてきた。

6/22 「Aちゃん,泣かなくなったね」「うん」と周りの幼児たちが話をして
いるのを聞いてうれしそうな表情になる。
心豊か6

・周りの幼児がA児の変容に気付き
始めているので,さらに他の幼児
へと広まり多くの友達に受け入れ
られるようにしていく。
*A児の変容に,友達の存在は
欠かせない。友達がA児の
いろいろな面を認めることで,様々な
場面で A児の成長が見られる。

6/26
〜9月
A児が「先生,ころがしドッジしたい」と言うので,一緒に友達を
誘いに行く。すると,皆から「いいよ」という返事が返ってくる。
次の日か らは,一人でも友達を誘いに行くようになり,「みんなー,
ころがしドッジしよう」と呼びかけ,その声で「するー」「いいよ」と大勢集まり,
遊びが始まるようになる。
主体的1
主体的3

・自分から友達にかかわることで
一緒に遊ぶ楽しさが感じられる
ように援助する。
*教師が友達を誘うきっかけを
作ったことにより,自分で友達を誘う
ことができ,以後も自分から声を
かけるようになった。

考察

・少人数で生活しており,園生活に慣れるのも早く,1学期の半ばから年長児との
集団での遊びに参加することができる。
人数的にも年少児と年長児とが集まると集団遊びが成り立つということもあるが,
年少児と年長児とのかかわりは日常的に見られる。
年少児は,年長児と楽しく遊ぶ中で,ボールの投げ方や逃げ方をまねるだけでなく,
友達とのかかわり方や問題解決の方法など年長児の行動をモデルとして多くの刺激を受けた。
そのことにより心を動かし,関心をもって意欲的に遊ぶ,自分の思いを表現する,
友達とのかかわりを楽しむなど,主体的で心豊かな姿が見られ た。

・A児にとってルールのある遊びは,自分の思うようにならないこともあって長続き しないことが
多かった。しかし,好きな遊びであるボール遊びをする中で,励まし認めてくれる友達の存在や,
幼児の気持ちに寄り添う教師の存在によって,友達と遊ぶ楽しさを全身で感じ,ボールが捕れない・
チャンピオンになれないなどの困難 や葛藤の場面を少しずつ乗り越えようとするようになってきた。