新選組 <17>
 

第3章 近藤勇の政治思想と新選組 第1節 近藤勇の政治思想(1) 2、近藤勇の政治目的               <建白書・書翰などを中心に>

       土方歳三の刀剣 (所有者のご好意により、その写真を掲載させて頂きました。)
              非常に軽く、実戦向きの刀剣であることが解ります。


 近藤は京都市中見廻りを本来の役割とは思っていなかった。したがって尊王攘夷派志士を捕縛したり斬殺したり
することも、近藤にとっては本来の目的ではなかったのである。しかし徳川幕府に敵対する者たちを放置しておくこ
とは当然できないことであり、それ故近藤は尊王攘夷派志士を何人も斬殺していくことになる。近藤自身そのことは
本来の奉公ではないが、「妖悪共斬戮仕、寸志御奉公仕度」と述べている。近藤にとって尊王攘夷派志士はあくま
でも「妖悪」であり「妖人」でありまた「妖物」でしかなかったのである。「妖人共表ニは尽忠報国飾り内ニは徳川家権
威○らん彼是妖謀廻し」ておりその上「大諸侯ノ後呂見」がある大変厄介な者たちであった。近藤はそういう者たち
を「誅戮」しなければならなかった。そのことについては、会津藩主松平容保から、会津藩の者と力を合わせてやる
ようにとの内意があり、近藤は「何レモ会藩と心合是非天誅加度」と志を述べている。近藤が尊王攘夷派志士を斬
殺するのは「天誅を加える」という意識の下で行われたことが解る。
 また近藤は、自分自身を「尽忠報国の有士」と規定しているが、同時に「勤王攘夷基キ捨命可仕と覚悟仕」と述べ
ている。つまり近藤は自分自身を「勤王攘夷派志士」と規定しているのである。近藤が攘夷の心を強く持っていたこ
とは前項で触れたが、ここで近藤の勤王について少し見てみることにする。(註8)
 第3章の初めに近藤の和歌を紹介したが、その中に「事あらはわれも都の村人となりてやすめむ皇御心」という歌
がある。これを見ても近藤の天皇に対する気持ちがよく解る。また文久3年(1863)3月10日に芹沢鴨と連署し、
松平容保に呈出した歎願書がある。この歎願書は京都残留を希望して出したものである。その一節に「・・・天朝ヲ
奉御守護候は勿論・・・勅ニ基キ、攘夷仕候ハ同志一統之宿願ニ御座候」(註9)という文章がある。このように近藤は
朝廷に対して敬愛の念を持っていたのである。そして文久3年(1863)の夏の書翰の中で、近藤ははっきり次のよ
うに述べている。「拙者関東発足之時々より忠天朝ニ奉シ、躬ハ幕府致し候者、素より僕志願候。(註10)この一節は
非常によく近藤の考えを表している。このような気持ちであるが故に、近藤は自らを「勤王攘夷派志士」と規定するこ
とができたのである。
 ところで近藤は、文久3年(1863)3月2日に予定されていた将軍家茂東下に強い反対の意思を示しており、それ
を伝えるために22日に老中板倉勝静のもとへ建白書を携えて訪れている。そして板倉に対して、もし23日将軍が
発駕されたら、「勤王攘夷拒絶、国家大事、公武合体の義、海岸防禦の備向策略」はどうなるのか問いつめた。す
ると板倉は返答が差し支え、それより早々に登城したという。その夜将軍滞留の叡慮があった。近藤は板倉に建白
書を呈出したときの気持ちを「既ニ公武之間隔相成候ヘハ、妖物共之二藩謀計ニも陥り候」心配があるので、死を
決して歎願をしたのである、と文久3年(1863)3月の書翰に書いている。近藤は、将軍を支えるはずの旗本八万
騎がだらしがないから将軍が東下するという話が出たのだろうと推測し、幕臣を厳しく批判している。そしてその後で
自分も京都に滞留中はとかく不自由であるが、忠義こそが大事であり、捨命は勿論、不自由は小事と思っている、と
述べている。武士階級に対する近藤の鋭い批判が読み取れる。また文久3年(1863)夏の近藤の書翰を見てみる
と、近藤は攘夷の実現が不可能になった場合、違勅の罪に問われること、しかも策略により万一薩長土に攘夷の勅
諚が降りた場合、日本の国が「東西」に分裂してしまい、幕府の存在が無になってしまうことを恐れている。そして内
乱が始まれば、その危に乗じて外国が何をするやもしれず、その時になって後悔してももう遅い、ということを力説し
ているのであろう。近藤は同志とともに25日(おそらく3月25日であろう)決死の覚悟で学脩(ママ)院、老中板倉勝
静、京都守護職松平容保にあてて3通の建白書を呈出し、今や形勢が切迫しているのである、ということを言上した
という。

(註8)ここまでに引用した史料は、文久3年(1863)3月の佐藤彦五郎ら17名にあてた書翰(志大略相認書)である。谷春雄「井上源三郎」
    172−173頁。
(註9)同書、173−174頁。
(註10)平尾道雄「新撰組史録」新撰組関係文書、17−19頁。

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