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院長の部屋Essays

新型コロナ肺炎と自粛生活の影響を乗り切るために

― 街角の精神科クリニックからみえたもの ―

道玄坂ふじたクリニック
藤田基

0.       はじめに

 新型コロナウイルスが惹き起こす肺炎などの疾患(Corona Virus Disease ? 19; COVID-19)が世界に未曾有の被害をもたらしています。その強力な感染力とインフルエンザよりも一桁以上高い致死率のために多くの人々が不幸な転帰を辿ることが明らかとなったため、世界の国々で感染拡大を抑止するために都市の封鎖、学校や職場の一時閉鎖を余儀なくされています。このことが家庭生活、経済活動にまで私たちの生活全般に深刻な影響を及ぼしています。本稿では、新型コロナ肺炎の概略と感染拡大のために必要なことをレビューした上で、関連する不安への対処、そして自粛生活で健康を保つためのポイントについて述べてみます。

1.       新型コロナ肺炎の概略

  中国武漢市で新型コロナウイルス(Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2;  SARS-CoV-2)による肺炎などの疾患(COVID-19)が発生していることが、日本国内でも頻繁に話題になりだしたのはほんの3か月前、この1月のことでした。当時の患者数は中国の武漢市で200人程度、中国国外ではまだごく少数が報告されているに過ぎませんでした。それが3か月余り経った2020421日現在では、世界193の国と地域で243万人あまりが感染し、54万人あまりが死亡しています。この3か月で感染者数は10000倍に膨れ上がりました。日本国内では11532人が感染し、283人が死亡しています(死亡率2.5%)。原因であるSARS-CoV-2201911月に見出され、同年12月にWHOに報告され、翌20201月には遺伝子配列が決定されました。遺伝子の比較から、もともとコウモリを宿主としていたウイルスが、ヒトに伝搬したものと考えられています。この新しいウイルスはなぜこんなにも急速に世界中に広がって、甚大な被害を惹き起こすに至っているのでしょうか。それは以下のような特徴によるものです。

  • 感染者の8割は軽症〜中等症に止まり、無症状〜軽症は気づかずに社会生活を続けて感染を広げる
  • 残りの2割は重症化し、特に感染者の約6%は最重症となって、このうちの半数が死に至る
  • 重症者の多くに呼吸器、時に人工肺(ECMO)が必要となり、限られた医療資源が飽和状態に至っている
  • 現時点では確実な薬物療法がなく、患者の免疫を含めた自然治癒力がウイルスに打ち勝つまで、重症者への呼吸器やECMOの使用を含め対症療法を続けるしかない


以上のことから、でき得る限りの方策で感染を予防して、医療が対応可能な数以上の感染者の発生を抑えなければなりません。そのために現時点で以下のことが全国民(いや全地球人)に求められることになっています。

  • 対人接触機会(=感染機会)の8割削減
  • ソーシャル・ディスタンス(人と人との距離を2m以上取る)
  •   3つの密を避ける(密閉空間、密集場所、密接会話)
  • マスクの着用
  • 手指の消毒


特に、(1)から(3)を達成するために、不要不急の外出の自粛が求められ、多くの学校や会社が一時的に閉鎖され、リモートワーク(授業)が勧告されることとなりました。


           

2.      
コロナ渦の中での子どもたちへの対応

(1)  子どもたちへの対応で気を付けたいこと

 子どもたちは2月の終わりに学校の長期休業が決まったために、急に夏休みよりも長い休暇に入ることになりました。当然のことですが、ほとんどの小中高校生にとって、大人の望むように家に居ても勤勉に勉強して、ゲームは2時間以内にするというような生活をすることは無理難題以外の何ものでもありません。大人が不安を感じるような生活リズムの崩れを来す子どもたちが多くなりました。この休みの使い方で後になって差がついてしまうとか、怠け癖をつけさせたくないという大人の事情も分かります。しかし、ここは子どもたちに二度とない(と信じたい)時間をタップリと味わってもらおうではありませんか。学校が休みなのに同じだけの勉強をさせるとしたら、子どもにも親たちにも過大な負担を強いることになります。学校から与えられる課題はやらせなければなりませんが、その他は、子どもたちに任せてみようではありませんか。

(2)  生活リズムを崩さないために

 しかし、生活のリズムは大きく崩れないように気を付けた方が良いと思います。もう崩れてしまっているという子どもたちは、早々に直すのが良いです。昼夜のリズムが何週間も崩れてしまうと、元通りに戻すためには、人によっては何か月もかかります。毎日規則的な生活をしている時には体内時計によって、朝起きる数時間前から副腎皮質ホルモンなどの心身の活動性を高めるホルモンの分泌が増え、夜寝る前にはメラトニンなどの心身を休めるホルモンの分泌が増えます。このことによって、朝すっきりと目覚めることができ、夜は眠気がきてゆっくり休むことができます。前述したようにこのリズムが崩れると、長いと数か月もの時間を回復に要しますから、お休み中もこのリズムを崩さないのが得策です。

 生活リズムを崩さないためには、朝7時には起きて活動し始めることが大切です。人間の体は、朝起床してから15~16時間経たないと眠気を催しません。反対に、早く寝ることで早く起きるという戦略はあまり上手くいきません。また、入眠前の2時間はスマホやPCのブルーライトを避けること、入浴などで体を温めるのを避けることが望ましいと言われています。寝室は暗く、涼しくしてください。

(3)  子どものストレス発散法

 子どもによっては、自ら普段できなかったことに熱中して、休みを謳歌しているものもいるようです。一方で、そうでない子ども、特に小中学生が自分でストレス発散法を見出すことは必ずしも容易ではありません。大人が手伝ってやって、インドアでのストレス発散法を探すことが勧められます。その場合に、ゲームやSNSなどのような大人から考えてあまり望ましいと思えない活動も、長時間にならなければ許容する寛容さが必要でしょう。ただ、前節で述べたようにブルーライトは入眠直前には避けた方が良いでしょう。


             

3.       在宅勤務での大人たちの問題

(1)  過剰な不安、心配を軽減するために

 前述したように、COVID-19はインフルエンザよりも一桁以上高い致死率を示しています。国内で2.5%ということは、感染者の40人に1人が死に至るということです。特に高齢者では1割前後が死亡するとされており、これは恐ろしいことです。日本中、いや世界中の人々が身近に死を感じながら日々生活しているのです。精神科外来では、感染してしまうかもしれないという不安のために定期的な受診ができず、月1度必要な注射薬の投与が受けられずにやむを得ず治療薬の変更が必要となった患者、定期的なカウンセリングが長期に渡って中断して症状が悪化してしまった患者などがでています。また、何年も前に治癒していた恐怖症が、COVID-19と関連した不安により再燃して久しぶりに受診した患者など、もともと不安を感じやすい人の症状が顕在化した例もみられるようになりました。

 私たちはこのような不安にどう対処したらよいのでしょうか。ここでは、正しく心配して対処すること、不安に巻き込まれないゆとりを持つことについてお話ししたいと思います。

(a)正しく心配して正しく対処すること
 感染することへの現実的な不安を軽減するために一番大切な対処は、不安解消のための現実的な対処を行うことです。私たちが未曾有の災害に直面して、死の恐怖と隣り合わせで生活している現状で、不安や心配というのは、私たちにこのままでは危険である、どうにかしなくてはいけないと思わせ、対処行動を起こさせるために必要な心の仕組みなのです。適切に対処できれば不安は軽減するし、対処できなくて手も足も出ないと思った時には不安は増強します。この記事の冒頭にCOVID-19について一般的なレビューをしたのも、ご家庭や職場においてそれぞれが話し合って、感染予防のために正しく対処してほしいと願うからです。このことは、過剰な不安や心配の解消のために一番大切なことです。天災であれ、病気であれ、人間はそれに対して適切に対処できていると感じるときには、過剰な不安や心配に圧倒されることはないものです。ちゃんと対応できていないと感じるときに限って過剰な不安が生じるものなのです。
 (b)不安に巻き込まれないゆとりを持つということ
 世の中がどんな状況にあっても、気持ちがどんなに打ち沈んでいても、道端の雑草には花が咲き、春先ともなれば桜の木々が華やかに花を咲かせます。陽の光は温もりを、春風は沈丁花の香りを運びます。そんな日常の自然や生き物の営みに目を向けることは、不安で一杯になった心にゆとりを持つために意外と役立つものです。それぞれの方法で、たとえば、SNSに花の写真をアップロードしてみるのも、気分が変える助けになります。「楽しいから笑う」のではなく、「笑うから楽しい」のだと昔の心理学者は言いました。心が行動を変えるのと同時に、行動が心を変えるのです。

  (2)  おうち時間が長くなったための困難

 COVID-19の蔓延を阻止するために、政府は不要不急の外出自粛を強く求めています。会社はリモートワークになり、学校は子どもたちに家でやる課題を出して一時閉鎖になったり、オンライン授業に移行したりしています。これらのために、人々のライフスタイルは大きく変わってしまっています。普段日々短時間しか一緒に過ごしていなかった家族メンバーが終日一つ屋根の下で過ごすことになっています。家庭によっては、このことが大きな問題を引き起こしています。顕著な例では、いわゆるDVの状況が悪化してしまうといったことが起きてしまっています。家の中で距離をとる工夫、場合によっては専門家の助言が必要な場合もあるでしょう。

(3)  リモートワークと関連した問題

(a)   リモートワークそのものの問題
 テレビ会議システムなどを用いたリモートワークでのコミュニケーションのすれ違いについては、既に多く言われていますし、それぞれが問題を意識しやすいため、特別な工夫がなくとも解決していきやすいと思います。逆に、お互いが常に画面に映っていることから、管理、監視されていると感じることによるストレスが大きいこと指摘されてきています。この点に関しては、管理する立場からの問題提起が肝要であるように思います。
 (b)  運動不足などの関連した問題
 リモートワークによって、大幅な運動量の減少、出勤、退勤に伴う場所の移動がなくなることによって気分転換ができにくくなることも指摘され始めています。インドアでの運動、他人と出会うことが少ない時間帯での散歩など、適切な運動機会を確保する工夫も必要でしょう。

4.       健康対策―自分だったら

 私自身は業種からして、リモートワークは困難なのですが、もし自分がその立場になったとしたら、自分と家族の心身の健康のために気づかうであろうことが3点ほどあります。一点目は、運動不足の解消です。室内でできる有酸素運動を日課にしたいと思います。二点目はついつい子どもの勉強不足やゲームのやりすぎに口出ししたくなるでしょうから、その我慢です。三点目は増えた家族との時間を良いものとする努力です。この点に関しては今のところ具体案はありませんが、まあ、皆これまで経験したことがないことなのです。皆で知恵を出し合って乗り切っていこうではありませんか。リモート飲み会などで、それぞれの知恵を出し合うのも良いでしょう。先人は、神様は私たちに超えられない試練は与えないと言っています。私は神様と先人を信じたいと思います。




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