Spring Tour 2020

西 九 州 線


陽光ふりそそぐ鹿児島空港に到着

一年の中で最も重要な旅に位置付けているSpring Tour。そもそも立春以降に最初に山陽、四国、九州あたりに行く旅を「Spring Tour」と名付けて回を重ねてきたが、その基準に当てはめると今年は既に行ってしまっている。今年は700系新幹線が引退するので、お別れ乗車を無理やりぶち込んだのが原因である。2週間ほど前のその旅は、鳥取の若桜で雪まみれになったので、Spring Tourっぽかったのは福岡県内だけだったが…。

いずれにしてもいったん仕切り直し。今回は2月20日の始発こだまで西下。伊丹から南国鹿児島まで飛ぶので、こちらが名実ともにSpring Tour 2020である。鹿児島までの機内は、プレミアムクラスにアップグレードしたのをいいことに、午前中にもかかわらず赤ワインを3本も飲んでしまった。それでも鹿児島空港に降り立った時には割と平気だったので、後先を顧みずに川内行きのバス車内でもウィスキーの水割りをぐびぐびとやってしまった。早くもこの旅の折り返し地点となる川内駅頭で、ヨイヨイになりながらアリバイ撮影をした。

それにしても暖かな昼下がりである。コートを持ってきて損した感じである。階上駅舎から肥薩おれんじ鉄道のホームに降りると、くまもんラッピングの列車がちょこんと1両で停まっていた。ホームにあるおれんじ鉄道の窓口で、フリーきっぷを買い求め列車に乗り込んだ。ちなみに川内から八代まで乗り通しても、片道だけではフリーきっぷの元は取れない。それでも、乗車の記念に手元に残したくなるようなきっぷなので買ってしまった。


プレミアムクラスにタダで搭乗

2004年に九州新幹線の新八代以南が開通し、並行在来線ということで第3セクター化され発足した「肥薩おれんじ鉄道」。現在では、単行のレールバスが往復するローカル線となったが、私がこの路線に初めて乗った時には九州の大幹線だった。その後、この路線を走る特急列車の名前が有明からつばめに変わり、ガンメタリックの精悍な列車が行き来するようになった。今でも思い出すくらい印象的だったのは、その特急つばめ号にはビュッフェがあったこと。1992年12月の旅で、私は水俣から川内の間でつばめ号に乗り、その時にビュッフェを初体験した。そこで軽食を取りながら眺めた車窓を過る海が忘れられない。ビュッフェでは軽くBGMが流れていて、当時のヒット曲が次々にかかっていた。「決戦は金曜日」「晴れたらいいね」「世界中の誰よりきっと」「もっと強く抱きしめたなら」「もう恋なんてしない」等々。1992年にヒットした曲を聞くと、つばめ号のビュッフェを連想してしまう…。

さて時代は下って、九州新幹線の開業後となると、この路線に一度も乗っていないことに気付く。絶景の車窓は、裏を返せば列車の高速化を妨げる。特にこの区間は、ほとんどが単線であるので、特急列車が走っていた頃はボトルネックだった。九州新幹線の開業でそれが解消され、自分を含む多くの旅行客は新幹線へと移ってしまったのだ。そもそも肥薩おれんじ鉄道を、全線乗り通すと2時間半もかかる。今回は酔っぱらっている状態で乗っているので、乗車時間も短く感じたが、シラフの状態ではなかなか大変かもと思ってしまう…。

太陽が西に傾きかけた頃、列車は新八代に到着。新幹線に乗り継ぎたいが、この駅には乗り換え改札がないので、いったん改札外に出て新幹線改札に入り直す恰好になる。次の列車はさくら406号。「さくら」を名乗っているが九州新幹線内で完結する列車で、モノクラス6両編成の800系で運転される。前寄り3両が指定席、後寄り3両が自由席だが、こういうパターンだと得てして自由席の方が空いている。自由席でも2列+2列のアブレストなので800系は嬉しい。途中、熊本と久留米に停車して、37分で新鳥栖に到着。新幹線は速い。

新鳥栖駅のホームで、特急みどり19号を待っているうちに17時を過ぎた。とはいえ太陽はまだまだ高い。さすがに日本の西の果てに来た感じである。さて今回、八代→佐世保間はJR九州の株主優待券を利用し、運賃・料金を半額に割り引いてもらっている。新鳥栖から佐世保までグリーン車に乗るが、グリーン特急料金は990円と激安である。それでいて1時間半くらい乗るので、またまた酒が進んでしまうという具合である。佐賀県から長崎県に入り、早岐駅でスイッチバックし進行方向が変わる。早岐〜佐世保間という短距離だと、普通はシートを回すこともしないが、グリーン車で空いているのできっちり回転させた。おかげで、この区間は4席ボックスを独り占め。薄明りの残る佐世保駅に18時25分に到着した。

佐世保での今宵の宿は、クインテッサホテル佐世保。15年ほど前は、ホリデイイン佐世保と名乗っており、屋上のプールに入りたいがための旅をしたこともある。その後経営主体が変わり、どんな感じになったか半分怖いもの見たさで今回宿泊したが、わりと上級な雰囲気は維持していた。ただし佐世保駅からはすごく遠い。酔っ払いがどこをどう通ってホテルにたどり着いたのか不明だが、翌朝佐世保駅まで歩いたら、とんでもなく遠かった。

わざわざクインテッサホテルに泊まったが、別に屋上のプールに入るでもなく、さりとて佐世保名物の外国人バーに行くでもなく(ホテル周辺にはこの手のバーがそこかしこにあった)、部屋でおとなしく過ごした。ただし、佐世保で泊まるからには、ひとつしたいことがある。それはAFN佐世保を一晩中部屋に流しておくこと。AFNはAmerican Forces Networkの略で、米軍放送網のこと。日本では東京、三沢、岩国、佐世保、沖縄に局があり、それぞれ独自の番組も持つ。かつては、その土地に行って聞かなければならなかったが、現在ではインターネット放送もしているので、わざわざ出向く手間もなくなった。しかし、AMラジオのチープな音を現地で聞くのも趣があるものである。というわけで、わざわざAMラジオを持ち込んで、一晩中部屋で流していたというわけである。まぁほとんどが最新の全米ヒットチューンであるので、曲はほとんど分からなかったが…。


川内行きのバスは高速仕様だった


早くも旅の折り返し点〜川内駅にて筆者


くまもんラッピングの肥薩おれんじ鉄道


ロングシートにちょこんと腰掛け行儀がいい


かつて特急つばめで通った海沿いを行く


久々に800系。自由席でも2列+2列が嬉しい


990円のグリーン車の旅を終え佐世保到着


クインテッサホテル佐世保客室からの眺め


少し上級なクインテッサホテル

翌朝は最悪の体調だった。昨日あれほど好き放題に飲んでいれば、さもありなんである。それでも7時半前にチェックアウトし、佐世保駅の方向に歩き出す。佐世保には長いアーケード街があるが、その途中に松浦鉄道の佐世保中央駅がある。有人駅なので、1日フリーきっぷを買えれば、そこから佐世保駅に戻って、折り返しで戻ってこようと思ったが、出札窓口は朝9時のオープンということで断念。仕方なく佐世保駅までの長い道のりをたどることとなった。繰り返しになるが、昨晩の状態でよく歩けたものだと感心した。

佐世保駅のJR改札口の反対側に松浦鉄道のホームに上る階段があり、迷いながらもホームに着くと、松浦鉄道の出札と事務所があった。出札口は佐世保中央駅と同様午前9時オープンとの掲示があったが、その前で整理をしていた駅員さんに聞くと、1日フリーきっぷを販売してくれるという。佐世保→伊万里→有田の片道利用でも、フリーきっぷで元が取れるので、天恵と思い2,000円を差し出した。

7時50分の佐々行き快速が隣のホームを発車すると、伊万里行きの単行レールバスのドアが開いた。車内は中央部に4人掛けの固定ボックスシートが2組と、1人掛けの転換クロスシートが4つ縦に並んでおり、それ以外はロングシートである。人の流れの逆向きに走る列車なので、高校生が目立つ以外は概ね空いていた。もちろん座るのは転クロの1人掛け。シートの両方にひじ掛けが付いた、いわゆる「総統シート」である(かなり下の方の総統だが…)。8時05分に発車し、こまめに各駅に停車していく。先ほどホームまで上がってきた佐世保中央駅を発車すると、国道をオーバークロスしてすぐに中佐世保駅に到着。駅間距離は200メートルしかない。あまり目立たないが筑豊電鉄と並んで日本一駅間が短い区間である。その後、佐世保市内の郊外を淡々と走るが、退屈で眠気を催した。松浦鉄道は初乗りであるので、できれば眠りたくはないが、やはり睡魔には勝てなかった。

はっと目覚めると、相浦駅。まだ佐世保市内だった。列車は各駅にこまめに停まって佐々駅に到着。ここで15分停車して、後続の快速列車の到着を待つ。なにか大都市のダイヤのようだが、ローカル線のレールバスの話である。追いついてきた快速列車から2〜3人が乗り込み発車。ここからは1時間に1本のローカル区間となる。

松浦鉄道西九州線といえば日本最西端の鉄道駅である、たびら平戸口が有名である。沖縄モノレールが開通して以来、その立場が微妙になっているが、軌道ではない普通鉄道の駅としては最西端の地位を保っている。私も過去にレンタカーでこの駅に乗り付けているので、見覚えがあり懐かしい。この駅でも8分停車し、鉄路は東へ向きを変える。

たびら平戸口が佐世保〜伊万里間の真ん中くらいで、次の大きな駅は松浦である。ここでも5分間とやや長い停車をし、発車すると左手に海が見えてくる。玄界灘とつながる伊万里湾で、波穏やかな多島海である。しばらく海の景色を堪能し、長崎県から佐賀県に入って伊万里に到着。頭端式ホームとなっており、有田方面に行くには必ず乗り換えとなる。また、JR筑肥線も伊万里駅に乗り入れているが、現在では道を挟んで西駅(松浦鉄道)と東駅(JR)に駅舎が分かれていて、線路はつながっていない。

伊万里駅で小休止の後、ラストスパート。有田まで所要時間は26分である。南に向かっていた線路が徐々に東へと向きを変え、進行方向右側に座っていた私のからだに春の陽光が差し込む。また眠気を催したところで終点有田に到着。ささいなトラブルもあったが、実質的に今年のSpring Tourはここで終了。来年のSpring Tourはどこに行くことになるか、楽しみではある。


フリーきっぷ片手に佐世保からスタート


佐世保行きが頻発する佐々駅で15分停車


松浦鉄道といえば最西端のたびら平戸口


波静かな伊万里湾の多島海を望む


菜の花が咲き乱れる久原駅のホーム


頭端式ホームの伊万里駅で乗り換え


佐世保から3時間半。有田で松浦鉄道を完乗


有田駅近くの橋で見つけた欄干の陶磁器

<終>

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