パンダを語るために知っておきたいクルマ達
アウトビアンキ(ランチア)Y10〜リッチでお洒落なパンダの妹
最近、徳大寺有恒氏も購入し、そのあまりに斬新なスタイルが話題を呼んでいるアバンギャルド・コンパクト、ランチア・Y(イプシロン)。そのイプシロンの前任者がこのY10でした。
日本においてはアウトビアンキ・ブランドで販売されていたY10は、骨格・メカニズムを共用するパンダのほとんど双子といってもいい兄弟車です(イプシロンはショートホイールベースのプント)。デビューは1985年。パンダ同様3ドアハッチバックのボディに、駆動方式はFFのみでリアサスはΩアームをパンダに先駆け採用しています。
メカニズムをパンダと共用していても、そのキャラクターには対照的な物があります。独特の「マンボウ」スタイルのボディは徹底したフラッシュサーフェス化により、パンダよりホンのちょっと短いボディながら0.31のcd値を誇ります。このスムーズな外観と、ランチアお得意のバックスキン風合成皮革アルカンタラを多用した独自の内装により、Y10は小さな高級車と呼ぶにふさわしい豪華さを手に入れています。素晴らしくシックなこのインテリアは、イギリス的な価値観から離れられない他の高級車と比較してとても品がよく、このクルマを購入する十分な理由となるでしょう(でも、今から買うのは相当な覚悟が必要ですよ・・・。この手の「輸入元混乱輸入車」はメンテの面で不安なタマが多いんです。今は落ち着いていますが、パンダやY10はコロコロと輸入元が変わっていた時期があったのです)。
豪華装備と遮音の為、パンダより100kg近く重くなったボディを引っ張るエンジンには、これまたパンダに先駆け採用されたFIREエンジンやなんとターボ・エンジンなどが採用されていました。実はY10には2種類のSOHCエンジン(ターボやツーリング他のSOHCエンジンはFIREとは別物)が採用されており、混乱の元になっています。私もよく分かりません(^^;)。
パンダの妹は、お洒落で大人びた、パンダとは全く別の意味で魅力的なクルマでした。それにしても、Y10は資料がないですねぇ・・・。
セアト・マルベーラ(SEAT Marbella)〜スペイン製「パンダ・クラシック」
日本では全く知られていませんが、スペインにはセアトという自動車メーカーが存在します。現在、独フォルクスワーゲン社の一員であるこのメーカーのラインナップはほぼ旧型VWの着せ替えモデルで占められています。そういうわけで現代的で滑らかなフォルムを持つセアト車のラインナップの底辺にあって異彩を放っているのが、真四角なボディに三角窓の古めかしい外観を持ったマルベーラです。
その正体ですが、実は外見も含めフィアット・パンダそのもの。セアトがかつてフィアット・グループに属していた(そもそもフィアットの資本によって1949年に設立された)ことを示す、生き証人なのです。
マルベーラのデビューと前後して、フィアットはセアトの経営権を手放したため、マルベーラはその後のパンダの進化に取り残されてしまっています。エンジンは古いOHV903ccで本家より若干低い40psを発生。駆動方式はFFのみで、リアサスはリーフリジッド。スタイリングも前後は若干モディファイされていますが、三角窓、ドアミラーの位置、フラットなリアフェンダー等、完全に初期型パンダそのものです(残念ながら、ハンモックシートかどうかは調べが付いていません。どなたかご存じありませんか?)。今となっては、貴重なキャラクターです。
私はすごく興味あるんですよ、このクルマ。FARJ(フィアット・アルファロメオ・モータース・ジャパン)に「パンダ・クラシック」とか名付けて入れてもらいたいくらいです(^^;)。
現在、初期型パンダの愛好家は部品不足に悩んでいると聞きますが、このクルマの部品は流用できないのでしょうか?なんと言っても、いまだに現役で生産中なんですから(ってスペインから輸入するの?(^^;))。
シトロエン・2CV〜偉大なるスピリチュアル・ベーシックカー
誰が言い出したのか知らないのですが、よくパンダは「現代の2CV」という呼ばれ方をされます。かくいう私も2CVが欲しかったけど、所有・維持できるほどの甲斐性が無かったため、代替品としてパンダを選んだという経緯があったりします。常識外れのアイデアを駆使することにより、通常の手法では不可能な低コストと機能性を実現するという、本当の意味での合理性を持った小型車としての精神性が、全く姿のかけ離れたこの2台を結びつけているのでしょう。
元はといえば2CVはシトロエンが自動車など全く手に届かなかった農民達のため(開発スタート時はまだ戦前でした)の安価なミニマム・トランスポーターとして開発されました。その為に当時の副社長ピエール・ブーランジェが掲げた「こうもり傘に4つの車輪を付けたもの」、「2人の大人と50kgのじゃがいもを積んで60km/hの最高速と、悪路でも籠に積んだ卵の割れない乗り心地をトラクシオン・アバン11の1/3の価格で実現する」という設計コンセプトはあまりに有名です。
結果として戦後間もない1948年10月に発表された2CV(2馬力の意味)はきわめて独創的な構造とスタイリングを持った小型車でした。
軽量化のため空冷を採用したのフラットツインエンジンで前輪を駆動するパワートレイン、サイドシルの下に置かれたコイルで前後をつないだ(つまりコイルは2本のみ)関連懸架とホイール内の筒の中に吊った錘でダンピングする慣性ダンパーが特徴の足周り、パイプに布を張っただけの取り外し可能なハンモックシート、速度計のケーブルで駆動するワイパー(だから、車速と比例して作動速度が変化する)、大きな荷物を積むための巨大な開口部を持ったキャンバストップ・・・と、揚げると切りがないほどの特徴を持ったクルマでした。その全てが対象とする人たちに移動の自由と喜びを与えるためにストイックなまでの割り切りによる産物だったのです。その高い志は40年たった現在でも全く色褪せていません。
2CVは徐々にメカニズムをモダナイズさせつつ、結局フランス本国で1987年4月まで生産されつづけ、その後ポルトガルで1990年7月までされるという、驚異的なロングセラーになったのでした。
日本における2CVは「ルパン三世」「ナウシカ」でおなじみの宮崎駿氏のかつての愛車として有名かもしれません。名作「カリオストロの城」でも、クラリスが2CVに乗ってカーチェイスをしていましたね。この2CVはすぐにバラバラになってしまいますが、内部の構造まで正確に描き込まれているのはさすがです(^^;)。
アウトビアンキ・プリムラ/フィアット128〜隠れた「革命児」
パンダのみならず、現代の小型車はスペース・ユーティリティの関係で、ほぼ例外なくフロントエンジン/フロントドライブ(以下FF)という、前にエンジンを置き前輪を駆動するという駆動方式を採用しています。その祖はシトロエンのトラクシオン・アバンや誰もが知っている英国のミニ等なのですが、実はこれらは現在のカローラやゴルフ等の前輪駆動車と駆動系の搭載の仕方が若干異なっているのです。
初期のFFは全て縦置きエンジンでしたが、より高い空間効率を求めて、英国BMCの技術者アレックス・イシゴニス氏がエンジンを進行方向から見て横に置き、ギアボックスをその真下に納めるという、画期的なレイアウトの小型車「ミニ」を作り出しました。しかし、このレイアウトはボンネットが高くなり、車高を高く取れない、エンジンとギアボックスのオイルを共用しなければならない、開発において既存のメカニズムに大きな変更を加えなければならない、等の問題があり一般化しませんでした。
このミニに触発されて、フィアットの乗用車開発部門のチーフだったダンテ・ジアコーザ氏(トッポリーノ/500生みの親として有名)は横置きエンジンのFF車の開発をはじめるますが、彼はイシゴニス氏とは異なったアプローチを取りました。エンジンをギアボックスごと横置きにしたのです。要するに既存のFR車の駆動系をそのまま横にしただけの、この方式は前述のデメリットを持たない代わり、幅が広くなってしまうという重大なデメリットを持ちます。しかし、巧みなパッケージの構築を得意とする同氏はギアボックスの小型化等で対応し、1964年にフィアット傘下のアウトビアンキ社から「アウトビアンキ・プリムラ」として商品化されました。3ドア・ハッチバックボディを持ったこのクルマをアウトビアンキ・ブランドでデビューさせたのは、この画期的なメカニズムをいきなりフィアット車として世に出すのはリスクが大きいという判断があったと言われています。
そして、その5年後の1969年に新世代の駆動方式にふさわしい新エンジンとサスペンションを持った3ボックス車(2ドア&4ドア)「フィアット・128」がデビューします。
後の世界中の小型車が採用したレイアウトの創始者としては、何故かあまりに無名なこの2台ですが、その訳は簡単で、そのメカニズムによる広い室内以外何の特徴も持たないんですよ。128のデザインなんて、知らない人が見たら旧共産圏のクルマだとしか思えないでしょうね(^^;)。ちなみにこの2つのレイアウトはそれぞれ開発者の名前を取って「イシゴニス式」、「ジアコーザ式」と呼ばれています。
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