エリアマーケティング
2.エリアマーケティングの進め方

1.テリトリー・商圏の把握
  1.顧客マップの作成
  メーカーや販売会社,卸の場合は、あらかじめテリトリーが設定されているが、
このテリトリーが望ましい形になっているか、また形式上のテリトリーと実質上のテリトリー
が合致しているか、現状を把握することが地域NO.1戦略の前提となる。
 そのためには、まず顧客マップを作らなければならない。地図を準備し、顧客をプロット
していく。担当者がそれぞれ自分の顧客をプロットすればよい。
  この顧客マップを作ると、数表では見えないもの−たとえば、どの地域に顧客が多いか少ないか
等がよく見えてくる。最近はパソコンのマップソフトも安くなってきたため、GISソフトを
使って取引先マップを作成する企業も増えてきている。
  待ち商売型の小売・サービス業の場合は,まず商圏の形や大きさを掴まなければならない。
商圏とは一口で言うと「顧客の地理的分布」のことだが、商圏の形や大きさがわからなければ、
折り込みチラシやポスティングを実施する場合の配布地域も決まらない。商圏は立地や競合状況
などにより、それぞれ形も大きさもちがう。そのため、まず商圏の形・大きさを把握することが
必要になるのである。そこで、待ち商売型の小売・サービス業の場合は,来店客調査を実施する。
来店した顧客に、住所を聞くのである。全顧客を対象とし、調査期間も正確な分析をするため、
長くすることがポイントである。但し、都市中心部のビジネス業務地区の場合、住所を聞くと
結構離れた住所を答える顧客が多い。これは店の近くの会社に勤めていて、昼休みや会社の帰り
がけに来店している顧客で、その住所から直接来店しているわけではないから、その場合は会社の
所在地を聞くことになる。

  2.マップのチェックポイント
  顧客マップが出来たら、以下のチェックを行う。
   1.地元地盤強化ができているか?
  五大原則でも述べたように、地元地盤強化ができているかをチェックする。出来ていない場合は
原因を考えてみる。もちろん、この段階では感覚的な判断ではあるが…。
  業績の上がっている支店や営業所,店舗は、地元地盤強化ができているし、ダメなところは
店周強化ができていないことが確認出来るはずだ。
    2.顧客分布のバラツキの原因は何か?
   顧客マップをよく見ると、取引先はきれいに分布していない。比較的集中しているところ、
逆に点在しているところが必ずある。これは、データを見ているだけではわからないものであり、
マップを作る意味でもある。この顧客分布のバラツキの原因を確認する。
  どの地区から多く来店しているか、逆に少ないのはどの地区か?顧客マップと比較してみる。
ライバルの拠点あったり、河川、鉄道、道路や坂などがあると、極端に少なくなってしまうこと
が多い。
 正確に見るためには町丁目字別に支持率を算出する。


2.市場環境の分析  
  市場環境分析とは、企業や支社・支店・営業所・店舗を取り巻く環境をデータを基にして、
もう一度見直してみること、つまり戦う土俵の総点検という意味である。

 1.地域分析
  エリアマーケティングを展開するためには、前述したように、それぞれの地域の特性を分析
しなければならない。それではじめて、地域にあった戦略を立案・展開していくことができる
のである。特に重要な項目は次の5つである。
   1)人口・世帯数とその傾向                        
   2)産業特性
   3)市場体質
  ※地域は体質から「うちもの」地域と「よそもの」地域に分けることができる。
「うちもの」地域とは他の地域から人や企業があまり進出せず、住民も商店も工場も地元の人や
地元の企業が圧倒的に多い地域のこと。うちもの地域は人間関係を重視する土地柄のため
よそものに対しては排他的だから、地元企業としては有利な地域といってよい。シェアの集中度は高く、
安定度も高い。「よそもの」地域とは他地域から人も企業も数多く入り込んできた地域のこと。
もっともよそもの地域といっても県外よそもの地域と、県内よそもの地域がある。このよそもの地域は
排他性は少ないから、よそもの企業は不利ではなく、逆に力を発揮しやすい。シェアは分散型になりやすく、
変動しやすいのが特徴である。
   4)今後の発展性
   5)地域特性のまとめ
  以上の点より、テリトリー内の地域特性、つまり他の地域とのちがいをまとめる。地域特性は
わかっているつもりのことが多いはずだが、いざまとめようとすると、結構考えてしまうはずだ。
これは、実はよくわかっていないのである。

また,よそもの企業の場合は以下の情報も整理しておくことが必要だ。
   6)歴史
  わが国の地域間のつながりや対抗意識は、長い間の歴史によって形成されてきた。だから、
歴史のなかに、エリアマーケティングを考えていくうえで重要なヒントが隠されている。
地元以外の場合、結構知っているつもりでも、地元に比べ、その地域のことがよくわかっていないはず
だから、しっかり調べる必要がある。
  市区町村役場にある市(区・町・村)勢要覧などにも、簡単な歴史が載っているので、参考にすること。
   7)県民性
  わが国の地域毎の性格である「県民性」は、ヨーロッパの国々の国民性に匹敵するほどのちがいが
ある。また、同じ県でも静岡の東部と西部、青森の東部と西部、長野の北部と南部のように性格が
大きく異なるところも多い。だからビジネスでもそれぞれの県民性に合ったやり方が要求されてくる。
 一般的に港町は開放的で新しいもの好き、内陸部は保守的。雪国は粘り強く、南国は淡泊であきらめが
よい。特に商人気質の強い大阪などは「ナニワ商法」になれるまで結構苦労する人も多い。
 県民性は排他的か開放的か、また金に細かいか、おおざっぱかで整理するとわかりやすい。
(ちなみに世帯当たり預貯金が最も多いのは福井)例えば名古屋は排他的で金に細かいし、
熊本は排他的だが金より感情が優先する、大阪は開放的だが金に細かいし、東京は開放的で金にも
おおざっぱな地域といえる。これだけのちがいがあるのだから、それぞれの地域に合ったやり方が
必要だ。どの地域でも同じやり方では通用しないし、相性も問題になる。ビジネスを展開していくうえで
この県民性の違いを無視する訳にはいかないのである。

 2.業界動向分析
   1)末端顧客の動向
   2)総需要推定

 3.自社データの分析
   1)商品別売上分析
  2)自社顧客分析

 4.競合状況
   1)競合企業は?
  2)競合企業情報
  3)強みと弱み


3.テリトリーの細分化
1.細分化の必要性
    テリトリーの把握ができたら、地域を細分化する。細分化には地域、顧客層、部門・商品など
 多くのテーマがあるが、地域戦略では地域を細分化するのが基本である。細分化する狙いは二つある。
 ひとつは、地域により特性の違いがあるからである。人口の増減、年齢別人口構成、単身・二世帯
 ・三世帯住宅比、農林・水産・工業・業務地区やベッドタウンなどの産業特性などの違いから、
 需要やマーケットシェアが異なってくるのである。
  二つ目は、戦いをより局地戦にすることである。弱者は広域戦(テリトリー全体)の戦いを
 していては勝つチャンスがない。細分化することにより、広域戦を局地戦にしていくことで、
 敵の死角や弱点を掴むことができるし、勝つチャンスも生まれてくるのである。

   2.細分化のしかた…町丁目字別
 メーカーや卸売業は、河川、山、国道、鉄道などで細分化する。但し,小売・サービス業の場合は、
 データの分析の手間を考えると、町丁目字で細分化すればよい。この細分化した地域をエリアと呼ぶ。
      

4.エリア分析
  テリトリーの細分化ができたら、いよいよ重点エリアを設定することになる。重点化はあくまでも
 戦略的に決めなければならない。そのためには以下の情報を、細分化したエリア別に整理しておく
 ことが必要だ。
 情報は少なすぎると重点エリア設定を間違えてしまう、かといって情報が多ければ正しい設定が
 できるというものではないし、多すぎると迷うことにもなりかねない。第一時間もかかるし、
 分析が目的ではないのだから、以下の4項目でよい。

  1.市場規模                  
  エリア別に市場規模がどのくらいあるかを整理する。クルマなどの業界を除くと,ほとんどの業界は
 テリトリー全体の市場規模もわかっていないから、推定したり、他の指標で代行することになる。
  2.成長性                                  
  エリア別の市場規模が今後どう変化していくのか。地域格差が拡大している今日は、市場規模に加え、
 成長性も重要なポイントである。市場規模が正確に掴めている場合は前年比も掴めるし、今後の成長性も
 予測しやすいが、市場規模が掴めていない場合は、成長性も推定するしかない。
 その場合はエリア間の相対順位でよい。今後の開発計画などを考慮して、将来性も付け加えると
 よりベターである。
 3.競合状況
 ここでは、自社他社のマーケットシェア数値が出てくるのが理想だが、これはなかなか難しい。
 そこで先に述べた、カバー率(自社顧客数を全顧客数で割ったもの)で代用する。
 それも無理な場合は、シェア順位でもよい。
 4.市場体質
 地域分析で触れたように、地域は、うちもの地域とよそもの地域に分けることができる。
 ブレイクダウンすると、この顧客は地元の顧客だから、うちもの顧客、このユーザーは東京本社の
 出先だからよそものユーザーというように躊躇することはないが、地域というくくりで見ると、
 うちもの顧客とよそもの顧客が混在しているため、悩んでしまうこともある。その場合はうちものと
 よそものの比率で判断するか、排他性の度合いでどちらかに決めることになるが、「よそもの的」と
 いう表現を使ってもよい。
 5.エリア特性のまとめ
  以上4項目の情報を整理したらまとめる。

5.重点エリア設定

  1.重点エリア設定の注意点
  テリトリーのエリア特性のまとめができたら、いよいよ重点エリアを設定する。
ここでは、どのエリアを重点化するかが最大の問題である。この選び方が間違ってしまうと、
エリアマーケティングの成功はない。戦略の目標は勝つことだから、最も重視すべき情報は
競合状況である。そもそも重点化とは優先順位づけのことである。優先順位をつけて、
ひとつづつ押さえていくことなのである。NO.1作りをめざして、重点におくべきエリアを選ぶこと。
これがポイントである。もちろん、その場合、位置的な要素も加味することも忘れてはならない。

  2.テリトリー攻略の定石
  定石は囲碁将棋などでよく使われる言葉だが、地域攻略にも定石がある。テリトリー攻略の
プログラムを決める時には考慮したほうが、より的確なエリアマーケティングが展開できる。
定石には以下の3つがある。
  1)包囲作戦
  大市場は市場規模は大きいが、競争も激しいため、弱者は最初から重点におくべきではない。
当然他社が力を注いでいるところだから、まず周りから固めて、最後に大市場を攻める。
弱者の地域戦略の成功事例として多いものである。
  2)北守南進論
  城下町の歴史をもつ地域の場合は、まず城の北を固め(北守)、それから城の南側から城に
向かって攻めていく(南進)。これをランチェスター戦略では「北守南進論」という。
  3)上りベクトル
  街道・鉄道沿いや河川流域などの線の市場の場合は、ベクトル(方向に加わる力)が重要である。
街道や国道沿いの市場は上りに向かうベクトル(東海道は西から東に向かって攻める)、
河川流域は上流から下流に向かうベクトルで攻略プログラムを策定したほうがよい。

6.全顧客ローラー作戦

  1.ローラー作戦はシェアアップの切り札
  重点エリアが決まったら、いよいよエリアマーケティングの中核であるローラー作戦を展開する
ことになる。近年、大きく売上やシェアを上げた企業や支店は、業界を問わず必ずといっていいほど、
このローラー作戦を展開している。
 このローラー作戦、昔はメーカーや卸しか実施しなかったが、私が小売・サービス業でもやるべき
と勧めてきたこともあって、小売・サービス業でも展開するところが増えている。
最近は地方のSM(食品スーパー)などでも3千世帯ローラーをやっていたり、住宅建設や広告代理店でも
大きな成果を上げている。まさにローラー作戦はシェアアップの切り札といってよい。

  2.ローラー作戦とは
    1)ローラー作戦の特徴
      ○末端顧客を全数調査する
     ローラー作戦の最大の特徴は、末端顧客の全数調査という点である。
   マーケットシェアとは末端顧客でのシェアだから、ここを調べるのは当然だが、
   なぜ全数調査かというと、従来のようなサンプル調査では、正確な実態が掴めなくなっている
   からである。たとえば、テレビ番組の視聴率、政党・内閣の支持率などは調査機関や新聞社に
   よって数値がかなり違っていたりする。昔と違って、個人の価値観が多様化してくると、
   サンプル調査では正確な実態を把握しにくい。特に顧客間のバラツキが激しくなっている今日
   ではサンプル調査はあてにならなくなっているのである。
    また、戦略を立案するためには他社顧客の実態を掴んでおかなければならない。
   実はこちらの方が全数調査をやる意味といってよい。後述するが、戦略立案とは目標を決めたら、
   次いで目標を達成するための標的(どの顧客をどうする)を決めなければならない。自社顧客に
   ついては、ある程度の情報はあるが、他社顧客の情報は断片的であり、それでは戦略の立案が
   できないのである。
      ○自社の社員が調査する
    ローラー作戦は自社の社員が行う。これは結果的に経費節減にもつながるが、もともとの狙いは
   教育・研修を目的としている。
   ○短期間で調査する
     ローラー作戦は短期間、集中的に行う。何事もだらだらやっていては、いい結果は生まれない。
   情報の精度が悪くなるばかりか、日常業務にもさしさわりが出てくる。3〜5日間、せいぜい
   1週間で終了するようにする必要がある。

7.NO.1になるための戦略立案のしかた
    戦略立案では、目標の決め方、標的の決め方、他社顧客を奪取するための差別化戦略が重要だ。

  1.目標のたて方
    エリアマーケティングの最終目標はNO.1だから、目標も「○年後にNO.1になる」と
 いうのが望ましい。しかし、シェアがあまりにも低くて、ちょっとやそっとではNO.1には
 なれそうもない場合は、1位を目標にする。それも無理な場合は「○年後△△でNO.1になる」
 という目標をたてる。この△△というのは細分化したなかでという意味だから、○○地区や部門・分野で
 NO.1を目指すという目標を設定するのである。
 つまり、目標はNO.1少なくとも1位であり、当面の目標といえども、2位や3位を目指すべき
 ではない。

  2.目標必達のための手段
  目標が決まったら、次に目標を達成するための手段を決めなければならない。
 売上は以下の式で決まる。
 売上=一顧客当たり平均売上×顧客数
 売上=客単価×客数
    1)増客
  業績やシェアをアップするためには、一顧客当り売上を増やすか(客単価)、
顧客数を増やさなければならないが、果たしてどちらを優先すべきか。これを間違えてはならない。
まずやるべきことは増客である。顧客が増え、かつ業績が上がっていて、初めて企業は発展成長している
といえる。一顧客当たり金額がアップして業績が伸びているのは、企業や支店が発展成長しているとは
いえないのである。単純に対前年で見る場合でもここを見ておくことが大切だ。
  では、顧客数はどこまで増やすべきか。先に触れたようにカバー率60%までは顧客数を増やさなければ
ならない。現状から逆算して、目安を求めておくこと。また、ライバルのカバー率を掴んでいれば、
カバー率をどこまで増やさなければならないかをわかる。
  2)深耕
  次いで、一顧客当り平均売上アップを推進する。

  3.効果的な差別化戦略のすすめ方
    1)差別化の必要性
  年間のロスト顧客の発生率は5〜20%ある。逆に言えば顧客の80〜95%は固定している
ことになる。他社の顧客はよほどのことがない限り、今年も来年もずっと他社の顧客なのである。
他社顧客を奪取するには他社とのちがい、つまり差別化が必要だ。同じことをやっていては、
顔すら向けてもらえないのである。差別化については,ランチェスター戦略のページを参照のこと。
   2)差別化の進め方
  差別化は以下の手順で進める。
      1)自社、他社の長所欠点を把握する
     まず、現状を分析する。ここでは顧客の生の声を聞くことがポイントである。
    こちらの視点と顧客の視点は決して同じではないからだ。
      2)差別化を評価する
    顧客の生の声を聞けば、どんなことで自社、他社が評価されているか、つまり差別化の
    実態がよくわかる。
      3)三つ以上の差別化を進める
     差別化は強力なものがあればひとつでも大きな武器になるが、今日ではこれはなかなか難しい。
    そこで、3つ以上のシナジー(相乗)効果で大きな武器にする。                                                                      
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