最終更新日2001/10/31

ミッフィーの
安達太良山浪漫紀行






屏風岩より相恋の滝をのぞむ 僕はあなたをおもふたびに

一ばんぢかに永遠を感じる

僕があり あなたがある

自然はこれに尽きている


「僕等」より









八幡滝付近 あなたは本当に私の半身です

あなたが一番たしかに私の信を握り

あなたこそ私の肉身の痛烈を奥底から分つのです

私にはあなたがある

あなたがある


「人類の泉」より









くろがね小屋にて(食堂) 「ああ 御覧なさい あの雪」

と、私が言へば、

答へる人は忽(たちま)ち童話の中に生きはじめ、

かすかに口を開いて

雪をよろこぶ。


「深夜の雪」より









くろがね小屋にて(ストーブの前) 二時が三時になり

青葉のさきから又も若葉の萌え出すやうに

今日もこの魂の加速度を

自分ながら胸一ぱいに感じていました

そして極度の静寂をたもつて

ぢつと坐つていました

「人類の泉」より









くろがね小屋にて(寝室) われらは雪にあたたかく埋もれ

天然の素中(そちゅう)にとろけて

果てしのない地上の愛をむさぼり

はるかにわれらの生(いのち)を讃(ほ)めたたへる


「愛の嘆美」より









くろがね小屋にて(寝室) 私達の最後が餓死であらうといふ予言は、

しとしとと雪の上に降る霙(みぞれ)まじりの 夜の雨の言つた事です。

智恵子は人並はづれた覚悟のよい女だけれど

まだ餓死よりは火あぶりの方をのぞむ中世期の夢を持つています。

私達はすつかり黙つてもう一度雨をきかうと耳をすましました。

少し風が出たと見えて薔薇の枝が窓硝子(ガラス)に爪を立てます。

「夜の二人」









牛の背より沼ノ平の火口をのぞく 我等はただ愛する心を味へばいい

あらゆる紛糾を破つて

自然と自由に生きねばならない

風のふくやうに 雲の飛ぶやうに


「或る宵」より









安達太良山山頂付近にて あなたは僕をたのみ

あなたは僕に生きる

それがすべてあなた自身を生かす事だ

僕等はいのちを惜しむ

僕等は休む事をしない

「僕等」より









安達太良山山頂より かうやつて言葉すくなに坐つていると、

うつとりねむるやうな頭の中に、

ただ遠い世の松風ばかりが薄みどりに吹き渡ります。

この大きな冬のはじめの野山の中に、

あなたと二人静かに燃えて手を組んでいるよろこびを、

下を見ているあの白い雲にかくすのは止しませう。

「樹下の二人」より









安達太良山〜薬師岳への道 わたしは松露をひろひながら

ゆつくり智恵子のあとをおふ

尾長や千鳥が智恵子の友だち

もう人間であることをやめた智恵子に

恐ろしくきれいな朝の天空は絶好の遊歩場


「風にのる智恵子」より









薬師岳〜奥岳温泉へ下る道 わがこころはいま大風の如く君に向へり

そは地の底より湧きいづる貴くやはらかき温泉(いでゆ)にして

君が清き肌のくまぐまを残りなくひたすなり

わがこころは君の動くがままに

はね をどり 飛びさわげども

つねに君をまもることを忘れず

「郊外の人に」より









薬師岳〜奥岳温泉へ下る道 足もとから鳥がたつ

自分の妻が狂気する

自分の著物がぼろになる

照尺距離三千メートル

ああ此の鉄砲は長すぎる


「人生遠視」









薬師岳〜奥岳温泉へ下る道 ここの疎林がヤツカの並木で、

小屋のまはりは栗と松。


智恵さん気に入りましたか、好きですか。

うしろの山つづきが毒が森。

そこにはカモシカも来るし熊も出ます。

智恵さん敢(か)ういふところ好きでせう。

「案内」より










しみじみと








----------このページ内のテキストについて----------

すべて角川文庫刊 高村光太郎(中村稔 編)「校本 智恵子抄」による。


・ルビ部分はかっこ書きとしました 例:温泉(いでゆ)
・旧かな使いの「い」は新かな使いにしています

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