精神分裂病

 精神分裂病は、青年期に好発する精神障害です。およそ100人に1人がこの病気に 罹患します。とてもありふれた病気なのです。知覚の障害(幻覚)、思考の障害(考え がまとまらなくなったり、妄想が出現する)、感情の障害、意欲の障害が出現します。 経過には個人差があり、短期間に回復することもあり、慢性の経過をとることもありま す。他の病気と同じように、早期に発見し、拗れないうちに治療すれば予後は良くなり ます。

原因について

原因は複合的であるといわれています。ストレスを感じて傷つき易い素質の人が、いろいろなストレスを受けると発病するといわれています。またストレスが再発の引き金になります。
【遺伝や素質のみでは発病しません】
親が分裂病でなくても100人に1人が発病しま す。片親が分裂病でも子供が分裂病になる確立は1/10です。また遺伝的に全く同一 の一卵性双生児でも必ずしも発病は一致しません。
【育て方が原因ではありません】
特定の育て方(例えば過度に厳格であるとか、逆に甘やかしすぎたとか)が発病に関連するという証拠はありません。
【ドパミン】
脳内には、覚醒、緊張、注意などのレベルを制御するといわれる神経系が あります。エアコンに例えればサーモスタットのようなものと考えれば良いでしょう。 この調節装置の設定が低すぎればボーっとしたり、体が動き難くなったりします。一方 設定が高すぎればと感覚が過敏となり、頭が空回りするような状態となります。この脳 内の調節装置はA10と呼ばれる一群のの神経細胞で、A10はドパミンという神経伝 達物質と分泌して大脳皮質の神経細胞を刺激します。これが過剰な状態が精神分裂病で あるという学説があります。分裂病の薬はドパミンの働きを一部遮断して過敏になった 大脳の働きを正常に近づけます。
【ストレス】
心理的・社会的ストレスは発病や再発と関連します。世の中にストレスが 全くなければ人生はボーっとして変化のないものになってしまうでしょう。また学生が 試験前にストレスを感じないでボーっとしていたらあまり良い結果は望めません。スト レスは人間の行動力を刺激する重要なものです。しかし、過度のストレスは健康を害す ることは過労死で代表されるところです。ストレスに耐える能力には個人差があり、大 きなストレスでも健康を維持できる人もいれば、比較的小さなストレスで健康を害する 人もいます。



【再発は防げる】
分裂病の治療において最も大切なことは再発防止です。再発を繰り返 すたびに症状が重くなり、回復にも長期間を要する傾向があるからです。現在では分裂 病の再発を予防するための方法がかなり確立されています。

再発を防止するための4原則

@ 薬物療法の継続
病気が寛解した後も再発を防止するために少量(維持量)の薬を 飲み続ける。(デポ剤の注射でもよい)
A ストレスの軽減
急激なストレスや疲労を避ける。(家族にも協力してもらったり、一緒に工夫してもらったりする)
B リハビリテーションプログラムの利用
対人的ストレスに対する耐性をつけるために、適切なリハビリテーションプログラムに参加するなど家以外の対人関係の練習の場をもつ。
C 病気を理解する
患者自身、家族など身近な人も病気のことについて理解して再発の早期発見、早期治療を心がける。(患者自身よりも家族の方が再発の兆候を早期に発見できる場合が多い)

精神分裂病の症状

精神分裂病では多彩な精神症状が出現します。これらの症状を次のように分類して考え ると解りやすいようです。
@ 陽性症状:
その人の普段の精神活動や行動に病気によって何か新しい要素が付    け加えられたり、普段の精神活動の程度が増加したものです。 たとえば、幻聴(実際にはない声が聞こえる)、妄想(事実ではない ことを信じ込む)、異常な興奮などです。陽性症状は病気の急性期に 強く現れます。病気の性質、治療の遅れなどで長く持続することもあ ります。
A 陰性症状:
陽性症状とは逆に精神活動や行動が減少したものです。 意欲の減退や、無為自閉傾向などです。主として急性期が過ぎてから 目立つようになります。

※ これらのほかに思路の障害(連合弛緩、滅裂思考:思考の連続性が失われる)の  ように必ずしも陽性症状とも陰性症状ともいえないものもあります。(陽性症状   に分類する研究者もいる)

なお重要なことは、これらの症状が重くとも、患者の中に(特に病気の初期には)自分 自身の心の中に生じた変化に困惑し、恐れおののいている、何とかしなければと思って いる部分があることを忘れないことです。この患者の健康な部分に共感することが、関 わりの中で最も重要です。

精神分裂病の経過

薬物療法

分裂病の治療には主として抗精神病薬が用いられます。薬物療法には2つの目的があります。
@分裂病の陽性症状を治療する
A 分裂病の再発を予防する
現在の抗精神病薬には残念ながらいくつかの副作用があります。主なものは不随意運動(手足のふるえ、筋肉の緊張、むずむず感)、眠気、のどの渇きなどです。しかしこれらはいずれも処方の調整によって解決できます。 また抗精神病薬は長期に服用しても体に対してほとんど悪影響をあたえることはありません。 妊娠や出産に対してもかなり安全な薬とされています。ただし、分裂病の治療のためにときには妊娠に影響する薬物が用いられることがあります。妊娠前に医師と相談しましょう。

入院治療について

入院治療には次のような目的があります。
@ 対人関係の刺激を避けて心身を安静にする。
A ときに現れる興奮や周囲とのトラブルからもたらされる本人や周囲の不利益を回避する。
B 集中的な薬物療法を行う。
C あまりにも症状が重いときに、家族が適切な対応ができないときに保護する。
D リハビリテーションを集中的に行う。
しかし一方で、長期の入院は本人の社会への適応能力に2次的な障害(ホスピタリズム)をあたえることがあるため、入院適応については慎重に考える必要があります。

リハビリテーション

急性期を過ぎて落ち着きを取り戻した患者は、急性期の心理的混乱の後遺症、慢性期の意欲の低下のために、生活能力の障害や、社会適応の障害を生じていることが多いものです。またこの時期は急性期に消耗した心身のエネルギーをまた貯えるために、十分な休養が必要です。したがって、この時期には休養とリハビリテーションという一見矛盾する2つの仕事をしなければなりません。このために病院では基本的な生活指導プログラム、生活技能訓練、社会適応訓練、自立生活の準備などの段階的なリハビリテーションプログラムが準備されています。

身体疾患と同様の援助が必要

機能障害
→薬物療法
生活障害
→リハビリテーション、家族の介護
社会的ハンディキャップ
→社会福祉制度、地域ケア