気分障害
気分障害とは気分と意欲が障害される一群の精神障害をいいます。
古くは循環病といわれ、最近では躁うつ病といわれ、
現在では感情障害あるいは気分障害といわれています。
気分障害では躁状態あるいはうつ状態が顕われますが、
うつ状態のみのものをうつ病、躁状態も顕われるものを双極性障害
(狭義の躁うつ病)といいます。このなかでうつ病は最近の社会の複雑化、
ストレスの増大と呼応して明らかに増加しており、
10人のうち1人は生涯のうち1回は罹患するといわれています。
うつ病は非常に多い疾患なので"頭の風邪"ともいわれています。
気分障害は分裂病とは異なり、10代から老年期まであらゆる年代で発病し
得る障害です。
【うつ状態】
一言でいうと"頭の電池切れ"の状態です。気分、意欲、思考全体にエネルギー
の切れた状態で、次のような症状が出現します。
- @ 抑うつ気分
- 憂うつ感、悲哀間、厭世観、絶望感などで表現される
状態です。患者は"落ち込んでいる"、"滅入っている"、"無性に淋しい"
などと訴えます。
- A 制止症状
- 意欲、行動面で気力のない状態です。
患者は"おっくうで気力が出ない"、"家事をするのも億劫だ"などと訴えます。
体のだるさもよく訴えられます。また思考面でも"考えがまとまらない、
進まない"などと訴えます。前記の抑うつ気分とあいまって、
人と会ったり家族で団欒することも億劫うになり、閉じ篭りがちになります。
- B 不安症状
- 不安が強くなり、重症例では居ても立ってもいられない
状態となったり、常にそわそわと体を動かしたりすることもあります。
また患者によっては動悸や呼吸困難の発作をおこします(不安発作)。
- C うつ病性妄想
- 重症例では物事を悪い方、悪い方へと考えて、
なにか罪深いことをしたと信じ込んだり(罪業妄想)、
破産してしまうと信じ込んだり(貧困妄想)、重大な身体病に罹患したと
信じ込んだり(心気妄想)することもあります。
- D 希死念慮
- うつ病者の約半数は死にたいと考える時期があります。
最も注意しなければならないことですが、治療が適切に行なわれれば、
多くの自殺は防止されます。
- E 身体症状
- 睡眠障害、食欲不振、性欲減退、便秘、口渇、頭痛
などがよくみられます。
【躁状態】
うつ状態とは逆に、気分、気力が病的に高揚した状態です。
精神活動全般にエネルギーが亢進します。
- @ 躁的気分変調
- 病的に爽快となり、体力、気力が充実し、
自信満々の態度で颯爽と活動します。身なりも派手となり、
恐いもの知らずにどこにでも顔を出し、尊大、傲慢な態度をとります。
- A 多弁、多動
- 活動性が亢進し、おしゃべりとなり、
電話をかけまくったり、一日中あちらことらと活動します。
躁的気分変調とあいまって、借金をして買いあさったり、
無謀運転をしたり、性的逸脱もよくみられます。活動性が著しいときには、
寝ないでも活動を続け、強い不眠となります。
- B 観念奔逸
- 思考の回転がよくなり、いろいろな考えが湧き起こります。
しかしその時々の気分で考えがあちこちへ変化するので、思考内容にまとまり
を欠き、全体としてはあまり役立たない発明を乱発したりします。
- C 誇大妄想
- 自分を過大評価し、思考内容も誇大的となるため、
だんだんと現実ばなれをしたことを言い出すこともあります。
- D 易刺激性
- 躁状態にもとづいて、周囲と衝突すると、
急に攻撃的となり不機嫌、いらいらが目立ってくることもよく見られます。
★正常な気分変動との相違:気分障害の気分変動は日常生活や、
社会性に問題を起こす深さと持続期間(概ね1〜2週間以上)が特徴です。
【経過による分類】
気分の状態を次のように分類します。
- A:躁状態
- B:軽躁状態
- C:正常気分
- D:軽うつ状態
- E:うつ状態
この分類を用いて感情障害は次のように分類されます。
- @ 双極性障害T型
- 経過のうち一回でもAを呈したもの。
(この人々はいづれD、Eの状態を呈するといわれている。
現実的にはAのみの患者はほとんど存在しない。)
- A 双極性障害U型
- 経過のうちBとEが存在するもの。
- B 気分循環性障害
- 経過のうちBとDを繰り返す物。
- C 気分変調性障害
- 経過のうちDを繰り返すもの。
- D うつ病
- Eのみのもの。
- E その他
-
【気分障害の頻度】
@の生涯有病率は1%、Aも同程度、Bは1〜3%、Dは10%以上
といわれています。すなわち感情障害は極めてありふれた障害といえます。
【気分障害の原因】
以前は感情障害に対して病因別の分類がなされていました。すなわち、
外因性(脳の器質的な病気によるもの)、内因性(明らかなストレスと
関連しないもの)、心因性(ライフイベントやストレスと関連したもの)
といった分類です。しかし現在では内因性といってもよく調べると、
環境と関連していることが多いことがわかってきています。
したがって最近では感情障害を原因によって分類することは以前と比べて
あまり重視されていません。
【気分障害の治療にはどんなものがあるか】
気分障害は自然治癒傾向のある疾患です。薬のない時代でも多くは自然に
寛解していたようです。しかし、自然寛解には長期間を要し、
その間に自殺や事故の危険もあるため、早期の治療が望まれます。
- @ 薬物療法
- うつ病や躁病には特異的に有効とされている
薬物があります。すなわち抗うつ薬や抗躁薬です。
また躁状態やうつ状態の再発を予防する薬物もあります。
早期に薬物療法を開始すれば、治療期間を短縮できます。
- A 精神療法
- 感情障害の成因には程度の差こそあれ、環境、
ストレスやライフイベントが関連しています。
したがってこれらに対処する力を得るために精神療法は有効です。
また重要な対象を失ったときに発病する、喪失うつ病などの場合には
喪失体験の処理のために、精神療法は不可欠です。しかし、
重度のうつ状態のときには思考制止、極度の不安のために精神療法的介入
が困難であることもしばしばあります。この場合には、繰り返し回復を保証し、
自殺予防のための支持を行なうことが中心となります。
- B 心身の休養と家族介入
- うつ病は"頭の電池切れ"の状態ですから、
心身の休養が必要です。また患者が休養できる環境を整えるために家族の協力
が不可欠です。