さ よ な ら Y S − 11

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2003年夏、お盆を前にした深夜、珍しくネットサーフィンをしていたら、ふいにYS-11のことが気になった。今でもYS-11は、北海道のローカル路線でたくさん飛んでいると思っていたが、もはや風前のともしび状態で、わずかに千歳〜女満別線に3往復就航しているに過ぎなかった。さらに驚いたことには、今月いっぱいで引退し、外国製のプロペラ機に交代するらしい。このまま乗りにいかねば、唯一の国産旅客機の乗り心地を体験する機会は、今後訪れないだろうと思い、次の朝いそいで予約を入れた(後で気づいたのだが、日本エアコミューターのYS-11は健在で、来月以降も鹿児島県内の離島路線などで乗ることができる…)。
千歳駅前広場にて筆者

千歳川のほとりにインディアン水車

入口にはインディアン水車が
8月12日(火)の朝、名古屋空港8時50分発の全日空703便で新千歳空港に到着した私は、すぐに地下ホームに向かい「快速エアポート」に飛び乗った。YS-11が千歳を飛び立つ13時までの乗り継ぎ時間に、軽く千歳市内を町歩きしてみようという魂胆である。2時間半という時間は長いようで短い。私は千歳駅の階段を駆け下りた。
事前調査でめぼしい散策場所を探しておいたのだが、その「千歳サケのふるさと館」は想像以上に立派な施設である代わりに、入場料も立派で、大人1人800円だった。私は入場すべきかどうかしばらく迷ったが、「北海道のこの場所に、今後来れる保証は何もない」と思い入場することに決めた。
「日本最大の淡水魚水族館」というノボリがはためいていて、期待して入場したが、中身はごくフツウの水族館だった。ただ隣接する千歳川の水中が覗けるようになっており、これは「おぉっ!」と思った(右上の画像参照)。秋には産卵に向かうサケの群れが見られるとのことで、パンフレットの写真は壮観だった。夏休みということで家族連れが多く、小学校くらいの子供なら、いろいろ体験できる施設も整っており、人気が高いのだろう。
さて、水族館の入り口には「インディアン水車」が鎮座している。また千歳川のほとりにも現役と思われる件の水車が回っている。この「インディアン水車」とは何ぞや?と思ったが、水族館でもらった冊子を読んで理解できた。なんでも、サケの孵化事業のために使われるそうで、秋口にサケが産卵のために帰ってきたところを、この水車でもって捕獲するのだそうだ。インディアン居住区があるコロンビア川の支流で、サケの捕獲に使っているのを見た伊藤一隆という人が、100年以上も前に日本に導入したので、この名前がついたとのことである。
水族館に隣接して、せせらぎ水路という人工の小川が流れていて、地元の人々のオアシスになっていた。多くの人が子供に水遊びをさせていて、北海道の短い夏を満喫しているようだった。私も時間があれば、この場所でずっと和んでいたかった…。でも、いかんせん日帰り北海道の旅の身の辛さ、近くの出店で「鮭まん」(珍しい!)を買って千歳駅に向かった。

せせらぎ水路は子供の水遊び場

雲海の上を行くプロペラ



2列+2列の配置で列車並み

ロゴマークが残された時間を物語る


当時の最先端を極めたエンジン部分

千歳13時ちょうど発の女満別行きエアーニッポン993便は、私のようなお別れ搭乗のお客さんが多く、搭乗時や降機時には、次々とYS-11をバックに、即席の記念撮影会が開かれていた。機内でも次々にストロボが焚かれ、落ち着かない雰囲気のままプロペラが回りだした。離陸後の高度の上がり方、プロペラの音の高まりに、私は先月ニュージーランドで敢行したスカイダイビングのことを思い出してしまった。「飛び降りたのはこのくらいの高度だったかなぁ」と思ったら身がすくんだ。たぶん二度とスカイダイビングはしないだろう…。
YS-11は昭和30年代の製造で、当時は最先端の技術を極めたんだと思うが、現代の自分から見るとレトロな雰囲気が満ちている。シートこそ交換されて、現在の普通の飛行機と変わりないが、読書灯のスイッチ回りなどに昭和30年代を感じさせる。リベットが多い機体や、室内の照明灯などもしかりである。

「スチュワデス」の表記が懐かしい

女満別空港にてYS-11。別れを惜しんで振り向く人が多いのが印象的
1時間あまりのフライトの後、YS-11は低く雲の垂れ込めた女満別空港に着陸した。名残を惜しむかのように、多くの乗客がYS-11の方を振り返りながらターミナルビルへと歩いていく。私も最後に一枚デジカメに収め、それがベストショットとなった…

女満別空港でも、待ち時間が2時間50分もある。もちろん無為に過ごすはずもなく、学生時代バイクで訪れた町・美幌を目指す。美幌行きのバスが出る前に、名古屋便の搭乗手続きをと思い、出発ロビーに向かったが、これがまずかった。手続きを終えてビルを出ると、美幌行きのバスが出発するところだった。私より前を歩いていた初老のおとうさんも、そのバスに乗りたかったらしく、慌てて追いかけたがバスは止まらなかった。私は仕方なく北見行きのバスに乗車した。
バスの運転手さんに、美幌駅までの道順を教えてもらい、瑞治というバス停で下車した。国道39号バイパスへの交差点があるというだけで、付近には何もないところだった。運転手さんのいうとおり右に曲がると、「美幌駅2`」という標識が出ていて、ようやくほっとした。このごろ、ひょんなことからメールのやりとりをしている、美幌在住の「みきこさん」に歩きながらメールをしていたら、ずいぶん心配して下さって、終いには「旦那が様子を見て来いと心配していたから」と、クルマで迎えに来てくれた。みきこさん、その節はありがとうございました。
彼女と落ち合えた場所は、石北線の踏み切り手前。駅もすぐそばに見えていたので、彼女の「クルマで送っていきます」というご好意を、丁重に断って再び歩き出す。5分後に美幌駅に到着した。歩いた時間は20分程だった。
気温20℃の表示のある美幌駅前で、汗まみれの姿を記念撮影した後、女満別空港へトンボ帰り。一駅だけ列車で移動をして、西女満別駅から再び歩いた。北海道ではよくある現象なのだが、空港ビルが見えているものの、なかなかたどり着かない。ようやく空港に着いてみると、盛夏というのに大汗をかいているのは私だけ。こんな涼しい土地では当たり前か…

<おしまい>


美幌駅にて筆者。気温は20℃

西女満別でディーゼルカーを降りた

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