ひと昔前までは、私が旅に出るといえば「列車に乗りに行く」と同じ意味だった。しかし去年は鉄道の旅が「0」。相当「鉄分」が欠乏していたので、雪景色の見えるところで鈍行列車の旅をしたくなった。「さて、どこへ行こうか」と思いをめぐらしていると、おあつらえ向きの路線を思いついた。それは長万部〜小樽間の函館本線、通称「山線」。1991年の暮れに乗車して以来、全く乗る機会がなく15年ぶりの乗車となる。その時は長万部から乗車して、右に羊蹄山、左にニセコアンヌプリを眺め、極上の時を過ごした。


夜の白石駅〜ここから函館本線


光線の具合があまりにもきれいで思わず撮影


小樽へのアプローチは国鉄型車輌711系

函館と小樽・札幌を最短距離で結ぶ路線として、特急「北海」や急行「ニセコ」など、数多くの優等列車が走っていた山線だが、現在この区間を通して走る優等列車は全く無い。全線通しで走る鈍行列車も、上り長万部行きは一日に5本しかなく、乗車するにはかなり難しい区間である。また、倶知安や小樽を経由する北海道新幹線が開通すると、並行在来線である山線は廃止されるのではないかと言われている。

2007年が明けて間もない1月12日金曜日、仕事をを早めに切り上げて、私は浜松駅5番ホームで「こだま542号」を待っていた。寒の内とは思えない、春の夕暮れのようなのどかさだった。逆光越しに300系新幹線がホームに入線してくる。その姿があまりに美しかったため、まだ旅が始まっていないにも関わらず、新幹線を撮影した。このところ旅に出ると雨にたたられていたため、今回は幸先が良い。
品川駅、京急線、羽田空港と、金曜日の夜はどこもかしこも帰宅ラッシュ。新千歳空港行き全日空79便も出張帰りのビジネスマンで満席だった。それでもボーイング777-200のスーパーシートに腰を落ち着けると、少し旅気分が高まった。夜のスーパーシートの楽しみのひとつであるお弁当は、北海道を意識させるイクラとカニの炊き込みご飯。これをつまみにワインで前祝い。すっかり酔っ払いと化し、もう止まらない。「すみませ〜ん、ボトルもう一本!!」

新千歳空港から「快速エアポート213号」で札幌方向へ進み、函館本線に入る白石駅で乗り継ぐ。一昨年の暮れ、金曜日の同じ時間帯の列車を札幌駅から乗車したところ、ほろ酔い気分ムンムンの帰宅ラッシュにちょうどぶつかって、30分ほどデッキで身動きが出来ない状態だった。今回はそれを教訓に、手前の白石駅で乗り継いだ次第である。案の定、札幌の混雑が尋常でなく、座っている者は天国、立っている者は地獄という状態だった。

ニセコへの玄関口倶知安で最初の長時間停車



雪深い銀山駅のプラットホーム



雪国を行くキハ150〜蘭越駅にて

国鉄型車輌への惜別の想いから、キハ40のボックスシートに腰を降ろし、車窓を流れる雪景色を眺めた。発車してしばらくは日本海が見えるが、余市を過ぎると本格的な山岳区間。雪深い銀山駅のプラットホームは厳寒ムード。それを暖かい車内から見られるのが鈍行の旅の醍醐味である。

倶知安では、対向列車待ち合わせのため、最初の長時間停車があった。一服するため軽装で車外に飛び出すと、身を切るような寒さ。コートを取りに車内に逆戻りするという一幕もあった。この後、蘭越でも長時間停車があったが、車内禁煙の鈍行の旅では、このタバコタイムがありがたい。JR北海道は、特急も含めて車内全面禁煙なので、同じ3時間乗るなら鈍行列車の方が快適である。

粉雪が降る天候のため、楽しみにしていた羊蹄山もニセコアンヌプリも望めなかったが、3時間余りの鈍行列車の旅を終え長万部に到着した。長万部といえば駅弁の「かにめし」が有名で、北斗8号の待ち合わせ時間に、駅前の売店に買いに出掛けた。今回の旅で食べた唯一の「北海道の味」は1050円也。ありがたく北斗8号の車内でいただいた。


倶知安駅にて筆者〜吐く息が白く写る

すっかり小樽の常宿となったヒルトン小樽の滞在時間はわずか8時間半。当然、海の幸を愛でる余裕も無く、7時56分の小樽行き鈍行列車に乗車した。小樽築港からわずか2駅の乗車であったが、国鉄型電車の生き残りである711系のボックスシートを堪能した。東海道線静岡地区では、私が子どもの頃から慣れ親しみ、大学時代の通学の友だった113系の引退が決まり寂しい限りだが、札幌地区の711系も最後のご奉公といったところである。

小樽で長万部行きのディーゼルカーに乗り換えて、いよいよ「山線」の旅は始まった。キハ150とキハ40の2両編成で、ボックスシート1つに1人ずつ座るという混み具合だった。ただし、このうち約半数が長万部まで乗り通したのにはビックリ。小樽から函館方面に向かうには、札幌経由の「海線」と、この「山線」の選択肢があるが、8時過ぎの出発なら長万部へは「山線」が先着する。そして函館へも同じ時刻の到着になり、それなら「山線」の方がキップ代がずっと安いからである。


山線をともに旅したキハ40


大沼公園まで特急列車に1時間乗車


北斗8号車内で北海道の味「かにめし」を賞味


大沼公園駅から徒歩連絡で大沼駅へ


白銀の世界に緑のラインカラーが映える


全面結氷した大沼〜厳冬の世界が車窓を彩る


山線の旅の終着駅・函館

北斗8号が5分延着したため、大沼公園駅から大沼駅の徒歩連絡が非常にタイトになった。所定なら12時27分大沼公園到着で、1`歩いて大沼駅12時50分発の鈍行列車に乗車すれば良かったが、連絡時間が18分に減ってしまった。駅前タクシーは望むべくも無く、とにかく自分の足で行くしかない。厳寒の北海道の雪道を、会社帰りの革靴で歩くなんて正気の沙汰ではないが、それでも行くしかない。アイスバーンに足をすくわれぬよう、歩幅を狭めて、なおかつ早足で歩を進めた。なんとか12時45分頃大沼駅に到着して事なきを得たが、冬なのに大汗をかいた。

大沼からは再びキハ40の旅。何重にも着込んだ地元の乗客には奇異に映る軽装で、私は必死にクールダウンに努めた。「しかし、北海道の列車って、なんでこんなに暖房がキツいんだろう…」
<おしまい>

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