シリーズ“日本を走ろう”A

中 山 峠 を ブ ン 回 す


ハイパーホテル千歳の部屋からの眺め

シリーズ“日本を走ろう”の第2弾。今回は北海道は千歳のニコニコレンタカーで日産ステージアを借り、大学3年生の時にバイクで越えた中山峠を中心にドライブすることにした。今年の9月は三連休が2回あり、その2つめの方を使って計画を立てた。結果これが正解で、もし1つめの方で旅行していたら、各地に被害を及ぼした台風18号の直撃を受け、太平洋フェリーをあきらめ、新千歳空港で立ち往生といったことになったかもしれない。

例によって、休み前の金曜日(9月20日)の夕刻に新幹線で出発。羽田空港を経由して新千歳空港には22時過ぎに到着した。遅い時間なので、その日の宿泊は千歳駅前の「ハイパーホテル千歳」を予約した。着いた夜には気付かなかったが、翌朝部屋のカーテンを開けると、眼下にまっすぐ伸びる線路が見えた。北海道の大動脈である千歳線で、朝も早くからひっきりなしに列車が行き来し、レールファンにはたまらない「トレインビュー」の部屋。さっそく本州方面を目指すと思われるDF200牽引のコンテナ貨物列車を撮影した。

7時半頃チェックアウトし、千歳駅からひと駅移動。南千歳駅の東側に広がる千歳アウトレットモール・レラの中にあるニコニコレンタカーを探す。朝8時から営業開始とのことだったが、10分前には借り出しの手続きが終わり、8時の時点ではステージアのハンドルを握っていた。 オプションのカーナビは断ったので、千歳インターまでカンを頼りに走ったが、案の定迷った。8時半ころ無事に道央道に入り、苫小牧を越えた樽前SAでステージアの撮影会。恒例によりエンジンフードを開けた。すると直列6気筒とばかり思っていたエンジンカバーに真田六文銭のような丸が並んでいた。「なーんだV6じゃん。」後から調べてみれば、ステージアが直6を積んでいたのは「WC34型」と呼ばれる初代まで。2001年以降の二代目(M35型)はVQエンジンに積み替えられV型6気筒となった。プラットフォームを共有するV35型スカイラインも、このタイミングで伝統の直6を捨てたので、さもありなんという感じ。まぁエンジンがコンパクトになったおかげで、前後バランスが50:50に近づき、コーナーリング性能が上がったのだから、この後の中山峠が楽しみではある。


2,495cc直噴V6のVQ25DD

再び本線に戻り、虻田洞爺湖インターで降り国道230号へ。三豊トンネルを抜けると正面に洞爺湖が見え、左折。しばらくは車窓右手に洞爺湖が寄り添う爽快なシーニックロードとなる。どこかで1枚洞爺湖の画像を撮りたいものだと機会をうかがっていたが、道の駅どころか小さな駐車場すらなく、速度の高めな北海道の一般道では、路肩に中途半端に停車すると事故のもとなのでじっと我慢。しばらくすると上り坂にかかり、これでは湖岸がますます遠のくと思い、たまらず斜め右に下っていく細い道にハンドルを切った。坂を下っていくと、いい具合に湖岸の通りに出て、とある野原にクルマを停めて洞爺湖に浮かぶ中島をカメラに収めた。これで洞爺湖は一丁あがりである。

再び国道230号を札幌方面に進めていくと、ようやく道の駅「とうや湖」があり、そこで小休止。構内の展望台からはあまり洞爺湖が見えないので反対側に振り返ると、北海道らしい地球が丸く見える畑が広がっていた。小ぶりながら羊蹄山も見え隠れしていたが、羊蹄山を見るなら中山峠と心に決めていたので、さっさと先を急いだ。留寿都、喜茂別と割合大きな集落を通り過ぎ、いよいよ中山峠へ。冒頭にも書いたように、昭和62年9月1日に、私は確実にこの道をバイクで走っている。何か見た事のあるような、ないような景色が続く峠道を登っていく。ステージアの全長は4.8m弱、ホイルベースも2.8m以上あり、このようなワインディングロードでは物干し竿をブン回すような感じになると思っていたが、そうでもなかった。確かに125ccの バイクと比べれば、ヒラリヒラリとコーナーをこなす感じではないが、先にも述べたように絶妙な前後バランスであるので、オンザレール感覚は十分だった。かなり高速でタイトコーナーを回ってもタイヤが鳴くようなことはなかった。さすがにスカイラインと車台が共通なことだけはある。


26年前は霧の中だった中山峠にて

昔ながらの言い方ならば峠の茶屋。登りきったところに道の駅「望羊中山」があるので、そこで小休止。望羊とは、言うまでもなく羊蹄山を望むという意味である。しかし肝心の羊蹄山は頂上付近に雲がかかり、ちょうど富士山に傘雲がかかった状態だった。ちょっとがっかりしてクルマに戻り、今度は坂道を駆け下りる。ふもとには定山渓温泉があり、そこから少し行くと懐かしい「藤野」という地名がそこかしこに踊っていた。大学3年生の時、バイクで北海道を回った折には、北海道の1泊目は同級生の孝ちゃんの実家に泊まらせてもらった。その実家がここ藤野にあったのだ。今となっては、その家もどこにあったのか忘却の彼方にあるが、藤野通過のひとときはそんな若き日々の思い出に浸っていた。

札幌市南区石山地内で国道230号線と別れ、真駒内の南で国道453号線に合流する。しばらくすると深い森の中に入り、ゆるやかな峠道を越えると支笏湖が見え始める。この道も大学時代に走っているはずだが、全く記憶に残っていない。湖が見えたのは一瞬で、また林間コースとなり、次に湖水が見えたのは支笏湖岸に下りてからだった。先ほどの洞爺湖と対照的に、3キロほど水際を走り、これで天気が良ければ、どれだけ爽快な道だったかと思った。水際から別れると、支笏湖で最も賑わいのある観光船乗り場を中心としたスポットを通り過ぎる。クルマを停めようとウインカーを出したものの、駐車料金を徴収されることが分かり、慌ててウインカーを戻した。それでも「どこかに立ち寄りたい」と機会をうかがっていると、「野鳥の森」という案内看板を発見。とりあえずそこに寄ることにした。

野鳥の森の駐車場は目論見どおり停め放題。しかし支笏湖が見えるわけでもなく、単なる森林公園だった。せっかくなので森を巡っていると「親水広場」という看板を発見。その示す方向にしたがって階段を下りていくと、支笏湖岸に出てしまった。なんのことはない、さきほど諦めた観光船乗り場とも、湖沿いに橋でつながっていた。フリーで停められる駐車場を「野鳥の森」なる不思議な表現で案内するくらいなら、メインの駐車場で料金を取らなければいいのにとも思ったが、それは大人の事情というもの。親水公園のベンチでボズ・スキャッグスの名盤「シルク・ディグリーズ」のジャケット写真っぽい自画像を、「支笏湖に確かに来ました」というアリバイ写真代わりに撮影し、そそくさとクルマに戻った。


「えんや」で注文した野菜味噌


道央道樽前SAにて借りた日産ステージア


ステージアの横に立つ筆者。樽前SAにて


エンジンカバーにシリンダーを模した6つの円


26年ぶりに訪れた洞爺湖は快晴で気持ちいい


道の駅「とうや湖」展望台の北海道らしい眺め


道の駅「望羊中山」に相応しい羊蹄山の眺め


林間道路を抜けてようやく支笏湖岸へ


シルク・ディグリーズのジャケット風ポーズ


逆光が差し込む苫小牧駅前バスターミナル


船がビルに見える苫小牧フェリーターミナル

さて、他の旅のページで何度か触れていることだが、「北海道のラーメン屋にはハズレがない」ことを今回も実証したい。昼飯抜きのまま14時を回り、支笏湖からレラに戻る途中で何か食べないと腹ペコで死にそうである。とりあえず街道沿いでラーメン屋があったら、迷わずそこで食べることにして、ハンドルを握りながら血眼になってラーメン屋の看板を探した。しかしながら、支笏湖から千歳市内に戻る県道16号の約20キロの区間は、例によって深い森の中を走るルート。ラーメン屋はおろか、供食施設などひとつもない。ようやく郊外っぽくなるのが道央道をくぐるあたりで、ここに来てラーメン屋を発見。お店の名前は「えんや」さん。品書きを見ると塩ラーメンが一押しらしいが、「北海道なら味噌を選べばまず堅い」 という経験則にのっとり、野菜味噌ラーメンを注文した。まぁまぁ旨かったが、後からこの店のことを調べてみると、やっぱり塩で有名だった。テーブルにはスープの濃さを調整するための「塩だれ」があったので、選択をミスったことは否めない。郷に入っては郷に従え。自分のこだわりを捨て、品書きで判断するのが、一見の店で旨いものを食べるコツであることを悟った。


広々としたツインルームで缶詰め


約40時間で苫小牧と名古屋を結ぶ「いしかり」


日が暮れて無数の明かりが灯る苫小牧西港


2回の朝食の時しか部屋の外に出なかった


苫小牧〜名古屋を結ぶ僚船「きそ」とすれ違い

レンタカーを返す前に、千歳市内で給油したら31リットルも入ってしまった。そこまでの走行距離が295キロだったので、平均燃費は10キロを割ってしまっている。まぁ、おそらく借りた時に完全に満タンでなかった可能性が高いが、これだけ好燃費条件の揃った北海道で燃費が10キロ前後では、いくら走りが気持ち良くてもマイカーにはならないなと思った。15時過ぎにステージアを返却し、南千歳駅から鈍行で苫小牧駅に移動。フェリー乗船のためにコンビニで買いだめをし、駅前のバスターミナルで連絡バスを待った。

三連休中ということで、苫小牧フェリーターミナルの太平洋フェリーカウンターは長蛇の列だった。列に並んでからカウンターに着くまで30分。そのくせ手続きは1分もかからず終わり、徒労感だけが残った。気を取り直して乗船すると、太平洋フェリーご自慢の最新鋭フェリー「いしかり」だけあって、今まで乗船したどのフェリーよりも綺麗な造作だった。船内のカウンターでカードキーを貰い、自室に入ってしまえばこっちのもの。苫小牧〜名古屋間の39時間30分は、何もせずに飲んだくれていても誰にも咎められることはない。さっそくスーパードライで乾杯だ!!

<終>


遠州灘に朝日が昇る。年賀状に使えそう


3日目の朝10時半前に名古屋港に到着


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