蜃 気 楼 の 街 。
Light Trip To Uozu


スモーカーにとってのオアシス。特急しらさぎ号

ここのところのマイブームといえば「列車を居酒屋状態にする」ことである。健康増進法の施行を受けて、鈍行列車だけでなく、特急列車も全車禁煙が増えてきた。近距離を走る特急は全国的にほとんど禁煙。3時間以上走行する中長距離特急も、JR北海道やJR東日本では新幹線も含めて全て喫煙者をシャットアウト(夜行列車を除く)。というわけで、酒を飲みながらタバコをくゆらすことができる列車を求めて日本中を旅する…というのが最近の旅のスタイルである。今回は、身近な特急「しらさぎ」号をターゲットに選んだ。

飛び石連休合間の2008年9月22日月曜日の夜、仕事を終えて新幹線に飛び乗った。コンビニで買ったにぎり寿司をつまみにビールをゴクゴク。仕事終わりのビールというだけでかなり旨いのだが、今日は車窓という肴もある。しらさぎ号に乗る前にかなり出来上がってしまった。

名古屋で乗り継いだ「しらさぎ15号」は予想以上に空いていた。それもホームライナー的に利用している乗客が多く、途中の大垣までにほとんどが降りてしまった。夜の関ヶ原越えは、前のシートを回転させて、ゆったりと旅の気分を堪能することができた。

米原で進行方向が逆になり、新幹線からの乗り継ぎ客を受け入れてリスタート。敦賀までは、わが喫煙自由席車両の乗車率がピークの状態だったが、それでも乗車率は5割を切るくらいだった。明日乗車する東海北陸道高速バス相手に、かなり苦戦しているのだろうか…。

武生、鯖江、福井と停車するうちに車内は再びガラガラに。米原でいったん前向きにしたシートを再び回転させ、ボックスシートで夜汽車の風情を楽しんだ。学生時代に北陸ワイド周遊券を握り締め貧乏旅行をしていた頃が蘇ってきた…


乗客の減った北陸線内でくつろぐ筆者


小学校以来憧れだった元レッドアローに対面


単線がまっすぐに伸びる


古い列車とはいえ回転リクライニングシート


収穫の終わった田園地帯を快走する

富山到着は23時33分。すっかり飲みすぎてしまい、ホテルのベッドでも寝付けなかった。翌朝は朝寝坊して、10時過ぎにチェックアウト。魚津へのライト・トリップを楽しんだ。

富山から魚津へ向かうなら、JRが速くて安く、並行する富山地方鉄道に圧倒的に優位に立っている。JRの乗車券が480円に対して、富山地鉄は乗車券750円+特急料金100円。所要時間は、JR普通列車の25分に対して、富山地鉄は特急でも36分。この区間で富山地鉄を選択するのは、ほとんど酔狂の世界である。しかし私は富山地鉄を選んだ。小学校以来の憧れ、元西武鉄道のレッドアローに乗車するためである。

西武鉄道の特急列車レッドアロー号は、昭和44年に運転開始。小学生の私にとっては、前面窓下に横一列に並ぶ尾灯と4つの丸型ヘッドランプの格好よさといったらなかった。平成7年に西武鉄道から姿を消したこの車輌は、その年から富山地方鉄道に譲渡され、余生を送ることとなった。

40分間の試乗を終え新魚津駅で特急とお別れ


春先なら蜃気楼の浮かぶ富山湾にて筆者



国の特別天然記念物の埋没林


昭和5年発掘の埋没林展示

新造から40年を経た車輌とはいえ、素性の良さゆえ地方都市の優等列車ならまだまだ使える。現在の水準からいうとシートバックが低いかなと思うが、回転リクライニングシートが奢られ、1時間程度の乗車なら十分に快適である。また富山平野を最高速度100`弱で快走するなど、性能も折り紙つきである。ともあれ、新魚津までの40分弱は、憧れの列車に乗車できて、夢のような時間であった。


平成元年の発掘現場を再現したドーム館


2000年前に埋没した樹根が原型をとどめる


昭和27年発掘の樹根は水槽の中で展示


水槽を横から眺めると古代の海の雰囲気


魚津埋没林博物館の展望台から海を眺める


休日の昼下がり。眠ったような魚津駅舎


立山をはじめとして急峻な山々が連なる北アルプスの雄大さに息を呑む

魚津は蜃気楼の街。春先は、海面近くと上空の気温差が激しいため、その空気の層で光が屈折し、蜃気楼が見えるとのことである。初秋の今日は、それも望むべくもないが、蜃気楼が見える海岸で佇みながら、「この旅も私の人生の中では蜃気楼のようなもんだ」と、ひとり納得していた。

魚津には、もうひとつ全国的に誇れるものがあり、それが「魚津埋没林」である。約2000年前に片貝川の氾濫によって杉の原生林が埋没し、その後の海面の上昇によって海面下にとどめられたとのことである。この埋没林は、国の特別天然記念物に指定されている。海沿いに魚津埋没林博物館が建っており、さっそく入館してみた。

館内には、海底から発掘された大小さまざまな杉の幹や樹根が展示されており、地味ながらも古代を感じさせるものだった。特に、水槽に展示されている樹根は、見せ方が素晴らしく、自分が古代の海を漂っているかのように錯覚した。

魚津〜富山間を18分で結ぶ特急北越号


東海北陸道高速バス(富山駅前にて)


博物館屋上の展望台からは富山湾と北アルプスが見渡せ、じっくり立ち寄れば良さが実感できるところだった。しかし私には、時間が僅かしか残されていない。魚津駅に戻り、富山まで特急北越号に乗車した。富山地鉄の半分以下の時間しかかからず、あらためて特急銀座という言葉を実感した。

その後、名古屋に戻るため、富山駅前バスターミナルから「東海北陸道高速バス」に乗車した。今年7月6日に東海北陸道が全線開通し、このバスも以前に比べて所要時間を45分短縮した。富山〜名古屋間を3時間47分で結び、運賃は4,500円。往路に乗車したJRの特急しらさぎ号は、富山〜名古屋間を3時間40分前後で結び、自由席で運賃+特急料金は7,770円。二点間を結ぶなら高速バスが圧倒的に優位に立った。実際に乗車してみると、13時40分発という中途半端な時間にもかかわらず、始発からほぼ満席。おかげで窮屈なバスのシートで我慢を強いられることになってしまった。

昨夜の睡眠不足も手伝い、富山インターから高速に入る頃には夢の中。ふと目覚めると、五箇山の集落が眼下に広がっており、息を呑んだ。が、あっという間にトンネルに突入。この高速道路は上下1車線ずつで暫定開業している上に、いやというほどトンネルが多く、睡眠不足で走ったら地獄の行路となること請け合いである。バスに乗せてもらっていることをいいことに、私は再び惰眠をむさぼった。次に目覚めた時には西日が傾き、バスは名古屋都市圏に入っていた…

東海北陸道大和PAにて筆者

<おしまい>

旅と音楽のこころへもどる