Spring Tour '08

C O R A L B E A C H E S


昼下がりの久米島空港に降り立つ


沖縄本島から西へ約100`。東シナ海に浮かぶ珊瑚礁で囲まれた久米島。想像していたよりも小さな島で、外周を一周しても1時間もかからないほどだった。

沖縄県を旅するのは今回で6回目。うち半数は3月である。3月の沖縄は二月風廻り(ニンガチカジマーイ)と呼ばれる低気圧が発生しやすく、曇りがちで風の強い日が多いので、うっかり薄着で行ったりすると大変なことになる。現に4年前の宮古島も昨年の山原(ヤンバル)もそうだった。しかし今回の久米島は強い日差しが照りつける初夏の様相だった。

早朝に浜松を出発して中部空港から那覇へ。那覇で1時間45分の乗り継ぎ待ちのあとJTA211便で久米島空港に降り立った。冷房の入った空港ビルから一歩外に出ると、そこは亜熱帯気候だった。レンタカーまで案内してくれた係りの人に私は聞いた。「海開きはいつですか?」 それほど気候の違いを実感したわけである。

イグニッションキーを回し、小さな島を回るドライブがスタート。フェラーリを思わせるエグゾーストノイズが響くスズキMRワゴンの3気筒エンジンが心地よく回る。

まずは空港からほど近い具志川城跡を訪ねてみる。建物はなく城壁が残るだけだが、風雨に耐えた石垣がその歴史を物語っていた。眼下には青い海が広がり、その一角にはミーフガーが見える。

城からミーフガーはクルマで1分ほど。空港からの外周道路はここで途切れる。女性器を連想させる穴が開いた岩で、拝むと子宝に恵まれるとか…

続いてクルマで5分ほどの比屋定バンタに移動する。久米島を訪れた観光客のほとんどが来る景勝地で、それこそ「わ」ナンバーのレンタカーがわんさと停まっていた。しかしこの時は日差しが雲に覆われていたため、全般的に眺めはモノトーンで良さが出ていなかった。

島の北部を巡るドライブはここで一旦終了。本日のメインディッシュである南部の海岸線に移動する。といってもクルマで10分程度の移動ですぐ着いてしまう。ミニ海中道路という感じの橋を渡り奥武島へ。クルマを降りて浜辺に行くと、巨大な亀の甲羅が横たわっていた。これが畳石で沖縄県の天然記念物に指定されている。まぁそんな石はどうでもよくて、マリンブルーの海とオフホワイトの砂浜が爽快で、しばし浜辺で佇んだ…


まずは島北部の具志川城跡を訪ねた


野づら積みという特殊な城壁が残る


具志川城跡の眼下には青い海が広がる


ミーフガーで外周道路が途切れる


比屋定バンタの眺望


観光客が集う比屋定バンタの展望台


亀の甲羅を思わせる奥武島の畳石

亀の甲羅のイメージでこの場所を選んだのか、畳石に隣接して久米島ウミガメ館が建っていた。ちょこちょこと足を動かすアカウミガメの赤ちゃんの様子や、大きな水槽を悠然と泳ぐアオウミガメも良かったが、シアターで観た10分間の映画が印象的だった。ウミガメの一生がテーマなのだが、1回の産卵で産み落とされる300個の卵のうち、孵化して海にたどり着けるのは平均1匹未満であること。また太平洋を回遊して生まれた海岸に産卵のため戻ってくるが、エサのクラゲと勘違いしてビニール袋を食べてしまい、生地の直前で命を落とす親亀が多いことなどがコンパクトにまとめられていて、ウミガメへの理解が深まった。旅先でこういう映画に出会うたび自分を戒めるのだが、旅から戻るとすっかり忘れてしまうのは、ちょっと反省しなければいかん。

さぁ“On The Road Again” さらに島を南下する。海岸線を横に見ながら、気持ちの良いドライブで鳥の口を目指す。最南部の集落を過ぎてしばらく進むと道路が途切れる。ここからは自分の足で展望台を目指す。途中の展望台からは、鳥の口をした岩が影絵のように海に浮かんでいるのが見えたが、さらに遊歩道は続く。鯨の見える丘と名付けられた一番上の展望台へは長い階段を登らないといけない。昨年暮れの尾道ではあまりの急坂に息が切れたが、このごろ定期的にウォーキングをしているためか、今回はそれほど苦労することなく登れた。クジラは見えなかったが、心地よい風が頬をなでていった…


マリンブルーの海を背景に筆者


アオウミガメが悠然と泳ぐ久米島ウミガメ館


よく整備されたシーサイドロードをドライブ


逆光の中に「鳥の口」のシルエットが浮かぶ


遊歩道の胸突き八丁…長い階段


運が良ければ展望台からクジラが見えるらしい


サンゴのかけらの砂浜が続くイーフビーチ

鳥の口を出て来た道を戻る。この旅のテーマである「サンゴに由来する浜辺」を巡る。まずひとつめはイーフビーチ。砂浜のロングビーチで、日本の渚100選のひとつだそうだ。著名な浜辺らしく、シーズンオフの夕刻にもかかわらず水遊びをしている家族や、ビール片手に海を眺める若者がいたりした。サンゴや貝殻が砕けたらしい真っ白な砂浜で私もしばし佇む。クルマの運転があるので、ビールを飲めなかったのは残念だったが…

イーフビーチを出て島を横断し、いったんホテルにチェックイン。今回は兼城港にほど近いホテルガーデンヒルズに泊まった。部屋からは海が見渡せ、プールも併設している割に、朝食付きで1泊5,775円と手頃な値段で気に入った。ただクレジットカード払いが出来なかったのは痛かったが…

さぁ身軽になったので旅に戻ろう。レンタカーの返却時間まであと1時間半。ホテルから1`圏内にある五枝の松と上江洲家だけは見ておきたい。五枝の松は樹齢250年の大きな松である。台風の通り道であり、年中風が強いこの久米島で、よくここまで枝を伸ばしたと思える奇跡の松だった。久米島には沖縄戦直後に悲しい事件があったが、その歴史も見ているんだなぁと感じ入った。

その五枝の松と同じ歴史を持つのが上江洲家で、こちらは国の重要文化財に指定されている。琉球王朝の士族の家だったということで、赤い瓦と家を囲む石垣がいかにも琉球っぽく、当時の面影を伝えていた。


コーラルリーフが夕陽に浮かぶ



昭和40年代を彷彿させる搭乗券


風の強い久米島にある奇跡の五枝の松


琉球王朝時代の暮らしを伝える重文・上江洲家


上江洲家を背景に佇むスズキMRワゴンと筆者


シンリ浜に静かに落ちていく太陽


プール併設の割に手頃なホテルガーデンヒルズ


広いテラスの向うに海が見渡せる部屋


日本の離島が良く似合うDHC8-300
空港そばのレンタカー屋に戻るため、再び北辺の外周道路を走る。強烈な逆光の中で海がきらめく。カーラジオからは元ちとせのワダツミの木が流れる。オフビートに身を任せると、なんだか夏の夕暮れをドライブしているような気分になった。

決められた18時にクルマを返し、もうひとつの「サンゴに由来する浜辺」を歩く。シンリ浜は夕陽が美しい海岸という触れ込みで、珊瑚礁が隆起したとみられるリーフのシルエットが浮かんでいた。空港から約5`の道のりを、浜辺に沿って一歩一歩、夕陽に追い立てられながら踏みしめた。ホテル到着は19時前。部屋で飲んだオリオンビールの一口めが美味しかったこと!!

翌日は朝一番の便で那覇へ飛んだ。搭乗券は昭和40年代を彷彿させる厚紙製。搭乗機は利尻・礼文や八丈島などでもおなじみのボンバルディアDHC8-300。最後の最後まで離島気分を満喫し、久米島空港を飛び立った…
<おわり>

旅と音楽のこころへもどる