シリーズ“日本を走ろう”B

関 門 ク ル マ で 渡 ろ う


ホテルの部屋から眺めた尾道水道の日の出

シリーズ“日本を走ろう”は折り返しの第3弾。今回は日産ティアナを借りるために、公共交通機関に恵まれない場所(まるで自分の地元の善地みたい・・・)にあるガソリンスタンドまでアプローチした。なにせ最寄駅の山陽線八本松駅から3.5キロも離れていて、バスはその隣の西条駅から22分もかかる。そのバスも土日は1日2往復で、バスの時刻に合わせて行程を決めるという凄まじさだった。例えば広島の人がお目当てのクルマを借りるために、善地のお店までわざわざ出向いてきたとなれば、善地じゅうの噂になりそうである。まぁとにかく、まず尾道駅前の「グリーンヒルホテル尾道」に、仕事終わりの金曜夜にチェックイン。翌朝、10時過ぎにチェックアウトして、鈍行を乗り継いで西条駅まで行き、そこから11時45分発のバスで、そのガソリンスタンドま で行くという段取りである。

西条駅に着くと、「こんな田舎にどこから沸いて出た?」と思うくらいの人出だった。後から分かったのだが、この日は「西条酒祭り」で、土日の2日間で延べ20万人の人出となるらしい。このごろ意図せずにこういったイベントにぶつかることが多く、最近ではRX-8を借りた8月に今治で「おんまく」にぶつかっている。さて、これからクルマを運転しないといけない自分にとっては酷な響きの「酒祭り」。もとよりバスの乗り継ぎ時間は9分しかなく、それを逃せば4時間後の「終バス」になってしまう。私は酒祭りからわざと目をそらしてバスに乗った。

小型バスに揺れること30分。正力団地入口というバス停の前にお目当てのガソリンスタンドがあった。児玉石油さんというらしい。さっそく借り出しの手続きを済ませ、12時半には白い日産ティアナのハンドルを握っていた。ニコニコレンタカーのシステムは、カーナビもオプション対応。1日1,050円と、クルマの借り賃に比べると結構な値段である。ゆえに、私はいつもカーナビなしで借りるのだが、今回はラッキーなことにビルトインの純正カーナビが自由に使えた。さっそく宇都井駅を入力。事前の調査では三次経由のルートを考えていたが、カーナビは主要地方道を走りまくるルートを示した。その通りに走ってみると、特に困るような狭い道を通過することなく、10キロ以上近道ができた。島根県に入り、14時過ぎに宇都井駅に到着し た。


尾道水道の眺望が楽しめる

宇都井駅は、広島県と島根県の県境にある三江線の無人駅である。三江線は全線を通して走る列車が少なく、全線制覇を志すものにとっては最難関の区間であるが、かく言う私もこの路線には1回しか乗った事がない。宇都井駅を含む口羽〜浜原の県境区間は1日に4往復しか列車がなく、この駅の平均乗降者数は0人/日である。そんな辺鄙な場所にある宇都井駅は、テレビにたびたび登場している。というのも地表からホームまでの高さが日本で一番高い駅だからである。階段を116段、ビルにすると7階建ての場所にあるホームに上がると、谷に沿って集落が肩寄せ合うように続いているのが見渡せた。日中に6時間も列車が来ない時間帯があり、三江線で来るのはちょっと厳しいが、クルマなら割と簡単にアクセス可能なので、興味があった らぜひどうぞ。


7階建ての階段室が駅の主構造物


ホームから谷あいの集落を眺める

宇都井駅を14時半ころ出発し、浜田道大朝インターを目指す。県道7号線は途中で通行止めになっており、カーナビの指示通り広域農道を西に向かう。奥浜名湖にあるオレンジロードのような道で走りやすい反面、相当なスピードを出しているオートバイが多く危険な道でもあった。里に下って国道251号線に合流。県境の長いトンネルを抜けて再び広島県に入り、ほどなく大朝インターから高速道路に流入した。

対面通行の浜田道を13キロほど南下し、千代田ジャンクションから中国道を走る。この中国道というのが思いのほか難物で、通り過ぎていくインター名がことごとく知らない地名で、いったいどこを走っているのか分からなくなる。全線80キロ規制でスピードも出せず、トンネルも多く単調なことも手伝って眠気を催してくる。これじゃいかんとパーキングエリアに立ち寄り、タバコを一本。そしてまた走り出すといった感じで、眠気のピークには30分おきにクルマを停めねばならなかった。

何度目か分からないが休憩を取った朝倉PAで、眠気覚ましにティアナの撮影をした。日産ティアナはローレルとセフィーロを統合して生まれたクルマで、「ローレルは高級だが狭い」「セフィーロは広いが高級感がない」というそれぞれのネガを消す方向で成立している。電動オットマンを始めとする広々として快適なインテリアが最大の売りである。一方で図体が大きくなってしまったため、日本の狭い道にフィットしにくく、アメリカの道を走るのにちょうどいい仕上がりになってしまった。まぁ小さなクルマが良ければ、同じようなコンセプトの内装を持つシルフィーやティーノにすればいいわけで、ティアナは「デカいクルマを、なるべくコストをかけないで、ストレスなく運転したい」というニーズに合わせているわけだ。エンジ ンはV型6気筒2,349ccのVQ23DEという型で、レギュラーガソリン指定である。翌日の山口〜八本松を満タン法で燃費計測したら14.5Km/Lで、高速道路主体とはいえなかなか優秀な燃費だった。2.3リットルのクルマであるので、高速の合流加速などは余裕があるが、あくまでも直線番長で、コーナーリングマシーンではない。実際、路面の悪いタイトコーナーで後輪がバタついて怖い思いをしたりした。スカイラインじゃないので、あくまでもコーナーはスピードを落として回るのが肝要である。

さて中国道を再び西へ。山口県に入るとようやく「下関」という地名が案内表示に現れ、ようやくどの辺を走っているのか見当がつくようになった。一難去ってまた一難。今度は西に傾いた日差しが真正面から差し込み、眩しくて前が見づらい状態になった。山口ジャンクションを過ぎ、山陽道からのクルマで交通量が多くなったので、慎重に運転をしなければいけない。伊佐PAを過ぎ、ちょうど一週間前に桜塚やっくんが亡くなった逆バンクコーナーを無事抜けて、下関市内へ突入した。


向島への渡船が行き来する平和な休日


東広島から島根県まで足を延ばして宇都井へ


宇都井駅前広場(?)にて筆者とティアナ


高さ20メートルの高架上にある宇都井駅


三江線は1日4往復しかないのでクルマで来訪


トンネルとトンネルの間にホームがある印象


中国道朝倉PAにてレンタカーの日産ティアナ


V型6気筒2,349ccのVQ23DEを横置きする


ティアナの売りである助手席電動オットマン


明るいうちに火の山公園に到着し関門橋撮影


左奥が北九州、中央が下関、海は関門海峡


夕暮れのグラデーションに宵の明星がきらめく


下関駅西ワシントンホテルプラザ11階の「眺望部屋」から見た関門海峡の日の出

下関インター直前の王司PAにクルマを停めて私は迷っていた。このまま関門海峡を渡って門司港に行き、九州に渡った「アリバイ写真」を撮って、とんぼ帰りして下関の火の山公園に行くか、それとも下関インターで降りて火の山公園に行き、門司港は明朝に回すか。本州の果てとはいえ、秋の日はつるべ落とし。既に日没の時刻である。結局、門司港に行くと火の山公園が真っ暗になる恐れがあるので、下関インターで降りることにした。インターを降りて火の山公園に到着したのは日没直後。駐車場の屋上では西の方向にカメラを向ける人がたくさんいた。私もその隣に加えてもらい、茜色に染まる玄界灘と下関・小倉の街の灯を撮ることに成功した。続いて展望台に登り、今度は関門橋もおさえる。明るさはぎりぎりだったが、きれいに夜景まで撮れたのでこれも満足。もう一度駐車場に戻ると、トワイライトブルーから茜色へのグラデーションの空が美しく、またシャッターを押した。ホームページの画像では十分表現できているか分からないが、それはもう息を呑む夕景だった。


1958年の開通以来ずっと有料道路


門司港駅は大規模保存工事中

下関駅西ワシントンプラザホテルにチェックインし、事前に指定した通りちょっと割高の「眺望部屋」に通された。夜のうちは関門橋がわずかにみえるだけで、海峡の雰囲気が感じられず「何が眺望部屋だ」と思ったが、翌朝窓の外を見て「これなら少しばかり値が張っても仕方ないか」と思った。ビルとビルの間に関門海峡を行き来する船が見え、日の出の瞬間はなかなかのものだった。このままゆっくりめのチェックアウトができれば良かったが、昨日の宿題の門司港が残っているので7時過ぎにチェックアウト。再びティアナのハンドルを握った。


部屋の眼下は下関駅で「トレインビュー」


念願の関門国道トンネルで本州から九州へ


旧門司三井倶楽部にてアリバイ撮影


今度は関門橋を通って再び本州へ戻る


後姿も美しいティアナ。山陽道下松SAにて


500系こだまの両端にあるこども向け運転台

1988年春に初めて九州に行って以来、関門海峡は何度越えただろうか。最初の時は人道トンネルを抜けて九州入り。それ以降、新幹線、在来線はもちろん、高速バスで関門橋を渡り、渡船も乗った。関門間で唯一通行していないルートが1958年に開通した「関門国道トンネル」である。下関側の入口は、書籍などで見覚えのある長方形のトンネルの周りにふくのイラスト。これを初めて見たのは小学生の頃、こども百貨辞典だったかなぁと思いつつトンネルに入った。最深部で山口県から福岡県に入り、ものの3分ほどで門司側の出口へ。日曜朝の門司市街地を走り、門司港駅前にクルマを停めた。

本当は国指定重要文化財の門司港駅舎を背景にアリバイ写真を撮りたかったが、あいにく門司港駅は保存修理のために大規模工事中。仕方ないのでアリバイ写真は、駅の向かい側の旧門司三井倶楽部の洋館前で撮影。とっとと九州を後にすることにした。帰りは関門橋を経由して、そのまま中国道〜山陽道を帰る。連休中日だったが、大して混雑するところもなく志和インターまで快走した。というわけで八本松のガソリンスタンドには、予定より2時間も早く到着した。

さて冒頭にも書いたように、最寄りのバス停から西条駅へは1日2本しかバスが走っていないので、酒まつり対策も兼ねて八本松駅までの3.5キロを徒歩連絡することにした。肩にずっしりと重さのかかるバックパックには閉口したが、そこそこ快調に歩いて、当初予定の2時間前の糸崎行き電車に乗車した。次の西条駅では予想通り大勢の行楽客が乗車して、座席確保のありがたみを実感。三原までの間に新幹線の時刻を調べ、ちょうど2時間前のこだま740号に指定を変更した。このこだまが500系を使用しており、指定席は元グリーン車のシートで乗り得である。また、編成両端2つの運転席の背後には子ども用の運転席がしつらえられており、これがかなりリアルでビックリする。最高速度300Km/hの「のぞみ」としたデビューした500系も、今や半分にちょん切られて山陽新幹線のこだまとして暮らしているが、依然として新幹線史上もっともかっこいい車輌(あくまでも個人の意見)として君臨しているのを再確認した。たまには「こだま」でゆっくり行くのもいいものである。

新幹線史上最もかっこいいと思う500系

<終>

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