台 湾 鉄 路 一 周


快速エアポート成田のG車で空港へ

ゴールデンウィークは、ここ3年ほど国内旅行でお茶を濁していたので、今年は海外に行こうと計画した。といってもカレンダー通りの休みなので最長四連休。ならば久々に台湾に行こうと思った。と、こう書いていると、さもゴールデンウィーク直前に計画したかのように思われるかもしれないが、航空券を予約したのは去年のお盆(!)。毎度のことながらビジネスクラスの特典航空券を押さえようとすると、鬼が笑うような時期に予約を入れなければならない。今回は宿泊もIHGのアワードで予約したので、旅の基本部分はタダになった。

ゴールデンウィーク後半の初日である5月3日。予約した航空券は夕方の成田発なので、混雑を避ける意味もあって、一風変わった行路をとった。まずは浜松発のホームライナーで静岡へ。これは案の定空いていた。静岡から熱海が難関で、横座りの普通列車ではちょっと辛い。で、三島まで「ひかり」を利用したが、これがメチャ混み。わずか18分間の乗車なので、16号車のデッキで立った。次の三島→熱海の普通列車も3両編成でラッシュ並みの混雑。丹那トンネルを走っているときは東京の地下鉄に乗っているかのようだった。

ほうほうの体で熱海に到着し、ここからは普通列車ながらグリーン車に乗車。熱海から成田空港まで通しで買うことができて、休日ならば780円と割安。小田原で湘南新宿ラインの特快に乗り換え、大船で快速エアポート成田に乗り継いだ。3時間半にわたってゆったりと鉄道の旅が楽しんだ(当然、後半は呑みテツと化したが…)。そんなこんなで6時間弱のプレトリップを終えて、成田空港到着は14時17分だった。


連泊したホリデインイン前の草地尾バス停付近


高鉄もMRTも乗り入れたが昔ながらの台北站

成田空港を発着する飛行機は、夕方のピークで軒並みディレイとなった。台北桃園空港行きのNH1083便もその例に漏れず、定刻の17時40分にドアクローズしたものの、離陸したのは18時30分過ぎと、とにかく延々と待たされた。まぁ飛んでしまえば台湾まではあっという間。石垣あたりに行くのと、そう変わりはない。現地時刻の21時ちょい前に到着し、21時20分の國光客運の1819ルートのバスを捕まえた。22時を回って台北站に着き、WEB予約していた明日の列車のキップを窓口で受け取って、少し肩の荷が下りた。MRTを乗り継いで文湖線の終点の動物園站に行き、そこからは(さすがに)タクシーに乗って、ホリデイイン・イースト台北に無事到着。自宅を出てから15時間半のロング・アンド・ワインディングロード。乗り物好きの私も、このときはホテルの部屋で何もする気が起きなかった。

台湾の在来線である「台湾鉄路」は、かなり早い段階でWEB予約が可能だった。2005年の2月にはネットで決済して台湾鉄路に乗っており、かれこれ10年の実績がある。というわけで、発売開始の4月18日の夜にまとめて予約した。驚いたことに台北8時50分発の普悠瑪(プユマ)号は既に満席で、仕方なく7時20分発の太魯閣(タロコ)号を予約した。そういうわけで、ホテルを出たのは6時過ぎ。ホテルの前に草地尾というバス停があり、たまたまやって来た路線バスに乗ったら台北站行きだった。動物園か木柵あたりのMRTの駅まで行ければいいやと思っていたが、バスは均一運賃で15元と格安。日曜の朝なので渋滞もないだろうし、一気に台北站まで直行することにした。結果は目論見どおり7時前に台北站に到着し、余裕で列車に間に合った。

大いなる台湾一周鉄路の旅がスタート。私は列車の中でお気に入りの音楽を聞くのが常だが、今回はどうしても聴きたいアーティストがいた。それは、このゴールデンウィーク中の4月29日に76歳で亡くなった松岡直也さんである。私が松岡さんの音楽に出会ったのは高校生のころ。クルマのCMのバックに流れた「九月の風」や「午後の水平線」が若い自分の心を捕えた。アルバムとしては1983年の「午後の水平線」、1984年の「夏の旅」と「ロング・フォー・ジ・イースト」がお気に入りで、私は「松岡直也ロック三部作」と呼んでいる。これらのアルバムには、それぞれ別のギタリストが参加しているのが興味深い。「午後の水平線」は是方博邦さんで、ソリッドな風味。「夏の旅」はツイン・ギターで斎藤英夫さんと今泉洋さんが素晴らしいリフを弾いている。そして「ロング・フォー・ジ・イースト」では和田アキラさんが復帰。「この道の果てに」では松岡直也さんのラテン・ピアノをバックに従え、メロディアスなソロを弾いている。アキラさんは、その後のアルバム「ウォーターメロン・ダンディーズ」のハード・ロックナンバー「ア・ファースト・フライト」で超絶なギターを弾きまくり、多くのファンから「この曲はアキラのためにある」と言われたとか言われなかったとか…。まぁ、松岡さんの音楽にはアキラさんのギターが一番しっくりくる。とにかく前置きが長くなったが、台湾一周は「午後の水平線」の1曲目「サンスポット・ダンス」からスタート。イントロのシンセサイザーによるコードバッキング。いきなりトップ・スピードである。


日本製の最新車両TEMU2000形普悠瑪号


台湾では普通の週末。でもこの混みよう


花蓮站にてアリバイのため記念撮影


花蓮站前の駅弁屋。店の中で食べられる


駅弁のパッケージらしく汽車の写真


フライドチキン弁当95元也

さて太魯閣号を予約したつもりが、7時20分の列車は日本車輛製の最新鋭電車の普悠瑪形の車両だった。太魯閣にしろ普悠瑪にしろJR九州の振子特急をモデルにしただけに、車内に入ると日本の特急電車に乗っているようだった。台湾と九州はほぼ同じ面積で、形も縦長という点で似ている。仮に台北を福岡(博多)とすると、これから向かう花蓮は大分にあたり、ソニックに乗っていると考えて差し支えない。豪快に車両を傾けながらいくつものカーブをこなし、轟然と駅を通過していくと「今は中津の手前あたりかなぁ」と妄想してしまいがちである。

昨夜遅くにホテルにチェックインし、今朝も早起きして電車に乗っているので、居眠りを繰り返しつつ花蓮站に到着。ここで2時間のインターバルがある。まずは駅前の広場でアリバイ撮影し、その足で駅前商店街の一角にある花蓮弁当という店に入った。ホカ弁屋さんのような駅弁屋さんで、テイクアウトだけでなく店の中で食べることができる。95元のフライドチキン弁当(現地名は失念しました!)を食べたら、骨付き鶏もさることながら、ご飯の美味しいこと。少なくとも食の面なら台湾で生活しても心配はないなと思った。

お腹を満たしたところで、腹ごなしの街歩きをする。駅頭の観光地図によると海側に「花蓮鉄道文化園区」という施設があり、食指が動く。しかし駅からどれだけ離れているのか観光地図からは判断できず、とりあえずそっちの方向に歩いてみて、時間が無くなったら引き返すことにした。案の定、ぱっと見の観光地図の記憶だけでは、お目当ての鉄道文化園区にたどり着けず、そこよりも大幅に手前の河川敷公園でお茶を濁すことにした。別になんてこともない河川敷だが、牛が放牧されていた。人口10万人ほどの地方都市とはいえ、町の真ん中を流れる川の岸辺で牛を放牧するとは! おまけに、しばらくすると牛の家族が一列になって川を渡っていくではないか!! 日本ではまずありえない光景に、ちょっとしたカルチャーショックを覚えた。

花蓮站に戻り改札を抜けると、11時37分発の新左営行き自強号が出発の準備を整えていた。DR3100形と呼ばれる最新のディーゼル特急列車で(それでもデビューから20年近く経過しているが)、こちらも日本車輛製。日本の在来線特急の普通車と比べると、シートピッチに余裕があり、リクライニングもかなり深く倒れる。フットレストも付いていて、普通車とグリーン車の中間くらいの格式である。花蓮から終点の一駅手前である高雄までの所要時間は5時間16分。距離は311.4Kmなので表定速度は60Km/h弱と、さすがに鈍足である。値段は672元(日本円2,322円)と相当安い。今回の列車の旅では、必ず隣客が座っていたが、その理由は現地の人たちにとっても列車のキップは手軽な値段だからかもしれない。例によって列車が動き出すと睡魔に襲われ、揺れに任せてうつらうつら。こんな時に深く倒れるシートは非常に重宝した。台東までの道のりは、大きく言えば海岸部を行くが、実際は花蓮渓という川を遡り、田園地帯のゆるい分水嶺を越えて富源渓沿いを下っていき、同じ水系の秀姑密渓を遡って、再び分水嶺があって卑南渓を下って台東へというルートである。したがって海は一切見えず、昼寝には最適の単調な景色が続く。居眠りしている間に列車は北回帰線を越え、熱帯に入る。ここまでの車窓は田園が広がっていたが、徐々にバナナ畑が目立つようになる。山間から徐々に視界が開け、街並みが目立つようになると列車は大きな車両区の脇を通過。ほどなくすると駅に停車し、駅名標を見ると台東だった。


花蓮の街中を流れる美崙渓の河川敷。なぜか牛が放牧されていて時折渡河する


美崙渓河川敷公園のウッドデッキと鉄橋


花蓮から新左営まで南回り5時間半の列車旅


台東線沿線に広がる田園地帯。高架で好眺望


台湾といえばバナナ畑。鉄路は熱帯を行く


台東站〜九州に例えるなら宮崎


日本の気動車特急と同等以上の車内設備


南廻線の太麻里あたりで車窓に広がる太平洋

先にも書いたが、九州に例えると台東は宮崎にあたる。九州同様、台湾も西海岸に大都市が集まり、それに比べると東海岸は鄙びている。西海岸には新幹線が走るが、東海岸はようやく来月台東まで電化区間が延びる予定だが、台東以南は単線非電化となる。自強号の鈍足ぶりもそれが大きな要因である。台東でしばし停車した後、列車は昼下がりの南廻線に踏み入れる。海岸線が近づき、九州で言うなら日南海岸の雰囲気。日南海岸のトロピカルな雰囲気は若干作られたものだが、こちらは正真正銘の熱帯。どこまでも続く大海原を横目に見ながら、いよいよ台湾鉄路の最大の難所が近づいてきた。

日豊線は都城を出ると錦江湾沿いの国分隼人まで霧島を北に見ながら山また山の中を行く。当地でも同様で、南シナ海沿いの枋寮までは山また山の厳しい隘路である。トンネルが連続し、長いトンネルだなと思ったら、それが台湾鉄路のトンネルの中で2番目に長い中央トンネル(長さ8,070m)だった。ちなみに最も長い新観音トンネルも今朝通過しているはずだが、寝ぼけまなこであったためよく覚えていない。トンネルで峠を越してぐんぐん下っていき、海がちらっと見えだすと車内のムードも心なしか和んだ。台東からは立客も多く、終点もそれほど遠くないと、乗客の誰しもがホッとするひとときだったと思う。枋寮でさらに乗客が乗り込み、高雄までの1時間はピーク時の新幹線並みの混雑。自強号には自由席がないので、とにかく混むとなれば、どの車両も一様に混む。こうして16時53分に高雄站に到着。最後は人いきれで息がつまりそうな列車の旅が終わった。


終着駅のひとつ前の高雄站で自強号を下車


九州なら鹿児島中央駅の高鉄左営站


高雄MRT紅線で左営站を目指す

列車は高鉄との乗換駅である新左営が終点だが、高雄の街の雰囲気をちょっと感じたかったのと、2008年に開業した高雄捷運(地下鉄)に乗りたかったので、あえて高雄下車。駅前は日曜日の夕暮れ時を過ごす人でごった返し、ダンスを興じる若者もそこかしこで見られた。MRTの駅は高雄站を出てすぐ左手にあり、25元払って左営へ13分。外に出ると巨大な高鉄左営駅がそびえていた。すぐに駅には入らずに駅前を散策。セブンイレブンでウィスキーのミニボトルと氷を仕入れ、ここからは乗りテツから呑みテツに変身する。

台湾高速鉄路(高鉄)に乗るのは二度目。前回は台北〜新竹までの体験乗車だったので、全線に乗るのは初めてである。よく知られていることだが車両は日本製で、700系新幹線の台湾仕様である700T型が12両で走っている。台北〜左営間339Kmを速達タイプで1時間36分、各駅停車タイプで2時間で結んでいる。さて、私は日本で高鉄の予約をするのに一計を案じ、週末のみ運行の各駅停車タイプを選んだ。もちろん混雑しない確率が高いという理由からだが、乗車してみてそれは意味のないことが分かった。まず、24分早く着くということが現地の人たちにあまり重きをなしていないこと。かなりの人が目的地に早く着くという理由より、すぐ乗れるということを理由に列車を選んでいるというのは、発車間際になって急速に席が埋まったことで分かった。また、嘉義や台南といった速達列車が停車しない駅からの乗車が意外に多く、左営を出発してものの20分前後のうちに隣席が埋まってしまう可能性が高いこと。最後に商務車という日本でいうところのグリーン車を予約していたが、この商務車は1編成に1両しか連結していないため、普通車より満席率が高いこと。結局、隣席を気にせずゆっくり酒を飲もうというあては外れ、台南から乗車してきたお父さんを気にしながらの「走る居酒屋」となった。

夕方の新幹線なら、車内でビールを飲む人が目立つが、当地では車内でアルコールを飲む人なんてわずかで、国民性の違いを感じた。5時間以上の乗車になったさきほどの列車でも、そんなおじさんはついぞ見掛けなかったので、車内でアルコールは禁止?と思ったくらいである。まぁ車内の雰囲気無視で呑みテツするのが自分流で、おかまいなしにウィスキーの水割りをぐいぐいいった。いつのまにか車窓に夜の帳が降りて、台中あたりでは夜景が綺麗だった。車内で飲むには2時間くらいの乗車が適当で、まだちょっと飲み足りないなと思うくらいでちょうどいい。20時30分過ぎに台北站に到着し、大いなる台湾鉄路一周の旅は終了。もう少し乗っていたいなと思うのもいつもの通りである。

台北站からMRTとバスを乗り継いでホテルへ戻った。MRTの木柵站か動物園站ならばホテル最寄の草地尾バス停を通るバス路線を見つけるのも難しくないが、台北站周辺は全てのバスが通るバスターミナルは存在せず、ほとんど道端のバス停で乗降することになる。ゆえに、バスで台北站に来ることができても、帰りもバスでというのは至難の業。またまた九州比較をしてしまうが、西鉄のバスシステムはよくできているなと感心した。

翌日は台湾の羽田空港にあたる松山機場から16時45分に出発するANA便にのるだけなので、ホテルの部屋で13時過ぎまでゴロゴロしていた。冒頭にも述べたが、ホリデイイン・イースト台北は無料での宿泊にも関わらず、部屋をアップグレードしてくれていた。ダブルベッドが置かれたベッドルームが2つあり、それとは別にリビングルームがあり、バストイレも広いスイート級の部屋に通されたので、1人で泊まるのは本当にもったいなかった。台湾のホテルの部屋は原則禁煙なのが玉にキズだったけど…。

レイトチェックアウト特典で、14時まで部屋にいることができたが、13時過ぎにチェックアウト。ホテルの前からバスを拾う。よく海外で路線バスに乗るのは難しいと言われるが、3度目となればコツもつかめる。MRT動物園站で15元を料金箱に投げ入れ、文湖線に乗り継ぐ。昼間にこの路線に乗るのは初めてだったが、他のMRTとは異なり文湖線は高架上を走る新交通システムなので車窓が楽しめる。カーブがきつく、那覇のゆいレールに乗っているようだった。また動物園站から松山機場には乗り換えなしなので、台北郊外にあり足場の悪いホリデイイン・イースト台北もなかなか使えるなと思った次第である。23分の乗車で35元の文湖線を降りると、そこは松山機場。都心の空港で、まるで福岡空港のように滑走路の向こうには高層ビルが立ち並んでいた。またここでも九州との相似点を見つけてしまった。


左営站ホームに勢ぞろいする高鉄700T型


日本に戻ったような車内。普通車は3列+2列


商務車と呼ばれているグリーン車は1編成1両


すっかりお馴染みとなったMRT文湖線車両


MRT文湖線が乗り入れ便利な松山機場


都心の空港らしく767の背景にビルがそびえる

<終>

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