高 く 肥 ゆ る 街 道


四日市付近の渋滞のため亀山PAで臨時停車


奈良経由で関空へ
体育の日三連休の初日である10月11日(土)、私は奈良行きの高速バスに乗っていた。とりあえずの目的地は関西空港。東名阪道と伊勢湾岸道の合流点は、休みとなると必ず渋滞するが、この日は故障車が車線を塞いでいたため、ひどい渋滞になっていた。名古屋と奈良を結ぶ名鉄の高速バスは続行便がでるほどの満席状態。普段なら奈良駅まで途中休憩を挟まず直行するが、この日は渋滞の遅れのため、亀山PAで臨時停車し休憩をとった。「やれやれ」と思いながら、狭い車内から開放され、外で思いっきり手足を伸ばした。

名阪国道は、73.5`の全線に渡って無料の自動車専用道路である。そのため私は「日本のフリーウェイ」と呼び、ふらりとクルマで走りに行くことがあるほどの、お気に入りの道路である。伊賀上野あたりの伸びやかな景色はもちろん、天理へと下る急カーブからの眺望は、バスに乗っていなければ味わえない車窓であった。

奈良駅に45分遅れで到着し、12時まで小休止。奈良公園あたりを観光する時間も無く、昼食だけでタイムアップ。奈良駅前より関西空港行きのリムジンバスに乗り込んだ。名古屋から関空への運賃は2,500円+1,800円の合計4,300円。所要時間は乗り継ぎも含めて5時間半だったが、時間に余裕がある時には十分使えるルートである。

ナイトラン

関空からのフライトは、旅割運賃ながらアップグレードポイントを使ってプレミアムクラスでゆったり。三連休の初日といえども、午後便ならば格安で北海道まで飛べる。17時ころヴィッツをレンタルし、北海道のドライブがスタート。秋の日はつるべ落としの例えどおり、千歳市内を走っている間にとっぷりと暮れた。


トマムの象徴「ザ・タワー」


保存運動が実り存置された旧奈良駅舎


奈良駅と関西空港を結ぶ奈良交通リムジン


ザ・タワーの客室からトマムリゾートを見渡す


道東自動車道十勝平原PAにて


道の駅コスモール大樹にて筆者


帯広広尾自動車道に入ると雲が低く見えた


十勝と日高を結ぶ「天馬街道」に突入

夕張までの道東自動車道は、上下1車線ずつしかないが、それでもまだマシだった。夕張からの国道274号は、夜間かつ雨中の運転となり、カーブの連続で不当に疲れた。ダンゴ状態の車列の中、車間を詰めてくる後ろのクルマがうざったい。「前が詰まってるんだから、しょうがないだろ!」と叫びたい心境だった。

日高町で石勝国道から離脱し、国道237号に入る。これまでとは違い、交通量の少ない道路で一安心だが、地元車はウェットな路面にもかかわらずビュンビュン飛ばしてくる。バックミラーに小さくヘッドライトが写ったかなと思う間もなく、すぐ直後にぴったり付かれてしまう。道を譲った回数は数え切れない。

ほうほうの体で19時半ごろトマムリゾートに到着。相当気温が下がっていて、クルマを降りたら震えがとまらなかった。今宵の宿「ザ・タワー」の部屋は、当然のように暖房が入っており、逆に暑くて寝苦しかったことである。

天馬街道
明けて10月12日(日)。目覚めるとまだ雨がしょぼしょぼ降っていた。高原の朝の景色が楽しみでトマムに泊まったのに、これでは台無しである。8時半ころにチェックアウトし、トマムICから再び道東自動車道に入る。トンネルをいくつか抜けるうちに天候は急速に回復し、眼下には雄大な十勝平野が朝日に照らされていた。

十勝清水インターをぎりぎり8時59分に通過し、ETC割引に間に合った。ここを過ぎればとりあえず時間の制約はなく、PAに寄ったりしながら、ゆっくりと歩を進めた。道東自動車道ですら、通行量はごくわずかであったが、帯広JCTから「帯広広尾道」に入るとクルマの数がめっきり減った。これで通行料は無料。快適なのはいいが、かえって「日本の財政は大丈夫か?」と不安になるほどだった。

帯広空港にほど近い幸福ICで自動車専用道路が終わり、一般道へ入る。北海道は高速道路と一般道の速度差が小さく、信号の無い一本道を80`くらいで巡航できる。カーナビが示す予想到着時間よりも、かなり早く道の駅「コスモール大樹」に着いた。一応ここが旅の折り返し点である。

天馬街道は大樹町の南隣、広尾町と浦河町を結ぶ国道236号の別称であるが、わざわざ広尾まで出るまでもなく、広域農道でショートカットして途中から合流した。森進一の歌で有名な襟裳岬をショートカットすることになるため、生活道路の色彩が濃い。日高山脈を越える山岳道路であり、実際に走行するまでは「どんな悪路が待ち構えているんだろう?」と不安だったが、カーブのRもゆるやかで実に快適な道路だった。めっけものは野塚峠付近のあざやかな紅葉。地元浜松では11月の下旬か12月の初旬にならないと見られないような景色を、ひと足早く眺めることができた。また、峠から浦河の平野部に下ってくる間には、サラブレッドの放牧が見られ、まさに「天高く馬肥ゆる秋」を実感したひとときだった。

サラブレッドロード
浦河からは、太平洋を左に見ながらのドライブ。海沿いに出るとやはりホッとする。適度に交通量が増え、前のクルマを追っかけるだけで済む、緊張感まったくなしの、のんびりドライブとなった。次なる目標はWINS静内。浦河からは40`ちょっとの道程である。別称サラブレッドロードと呼ばれるだけあって、国道235号の沿線には牧場が点在している。これだけの馬を見ていれば、自分が知っている馬も1頭くらい見たかもしれないが、みんな同じように見えるので真偽のほどは分からない。ただ自分が午年生まれだからなのか、馬を見ると気分が和む。日頃のストレスを忘れる一幕だった。

静内でいったん国道から離れ、ナビを頼りにWINS静内へと歩を進めた。今日は、本気で勝負をする気でWINSに行くのではなく、「写真を撮って記念馬券を購入できればいいな」ぐらいの感じだったので、WINSの駐車代500円の出費は正直痛かった。しかし付近にはパトカーも停まっているので路駐する訳にもいかず、しぶしぶ係員に駐車代を払って入場。WINS静内自体は、体育館みたいな所に座席が並んでいて、別にどうということもない施設だった。都会のWINSを想像して行くと、ちょっと面食らうかもしれない。

毎日王冠のウォッカの単賞+複勝馬券(いわゆる「がんばれ馬券」)を2枚購入して合計400円の投資。ところが、後で馬券を確認したら、1枚は「エリモハリアー」の馬券だった。まぁお土産のつもりで買ったわけだし、襟裳岬の近くに行ったのだから、これはこれで成立してるかと自分を慰めた。


十勝側から野塚峠を越えたところにある翠明橋。周囲の山々は早くも紅葉の盛り


野塚峠から下ってくるとサラブレッド牧場が点在


太平洋に沿って日高管内をひた走る


サラブレッド産地の場外馬券場「WINS静内」


平屋のワンフロアでコンパクトなWINS静内


サラブレッドの産地らしくWINSの隣にも牧場が


基本的に人懐こく人影を見ると寄って来る


2度期待を裏切ったノーリーズン


道の駅サラブレッドロード新冠に建つ銅像


門別競馬場の周りにも牧場が点在する

WINS静内のすぐ隣には、サラブレッドの産地らしく牧場があった。日本広しといえども場外馬券場の隣に、馬の牧場があるところはここだけだろう。牧場の柵に近づくと、牝馬が自分の方に寄って来た。「エサをもらえるかもしれない」と思ったかもしれないが、基本的にサラブレッドは人懐こい。柵越しに手を振ってWINSを後にした。

再び国道235号に戻り、少し走ると道の駅「サラブレッドロード新冠」の看板を見かけた。サラブレッドと命名するからには、なんらかの馬関連の施設があるかもしれないと思い、立ち寄ってみた。すると、ここにしかないようなモノが場内にあふれていた。まずは「ハイセイコー」の銅像。競馬場なら馬の銅像は珍しくないが、道の駅に競走馬の銅像があるのは、日本中でここだけじゃなかろうか。そして、場内には新冠で生産されたGT馬のレリーフがそこかしこに。数あるレリーフの中で「ノーリーズン」の前で私は足を止めた。

私はこの馬にGTレースで2度期待を裏切られている。1度めは2002年の皐月賞。この時は現場の中山競馬場で観戦していた(詳しい模様はこちら)。辛くも抽選で出走できたノーリーズンは15番人気の低評価。道中まくり気味にポジションを上げると、最後の直線で鮮やかに伸びて快勝。2着に8番人気のタイガーカフェを連れてきて、馬連は5万馬券となった。このレースに1万円以上投資していた私は、見事にオケラとなり、惨めな気分で浜松に帰ったことを覚えている。

2度めは同年の菊花賞。ダービー馬のタニノギムレットが引退、ダービー2着のシンボリクリスエスが天皇賞へ向かい、押し出される形でノーリーズンが1番人気に支持された。鞍上は天才武豊ということもあり、私は躊躇なくノーリーズンを馬券の軸に指名した。で、レースの方はご存知のとおり、スタート直後にノーリーズンが武豊を振り落とし、1秒で馬券が紙くずになった。その後のレース内容は記憶が飛んでしまっているが、10番人気のヒシミラクルと16番人気のファストタテヤマのワンツーで、馬連96,000円超の大荒れとなった。

サービスのつもりか葦毛君が転がってくれた


日本一新しく、日本一小さな門別競馬場


こじんまりとした門別競馬場の入場ゲート


コース左側に収容人員500名の小さなスタンド


その後ヒシミラクルが春の天皇賞と宝塚記念を連勝し、「ミラクルおじさん」が話題になるなど、「この時代の競馬は当たらなかったけど面白かったなぁ」と、ひとしきり昔を懐かしんでサラブレッドロード新冠に別れを告げた。次の目的地は門別競馬場。さらに35`先にある。いくつかの丘を越えて、門別競馬場に着いたのは14時過ぎ。レースが休場のため、ひっそり閑としていた。全国の地方競馬同様、ホッカイドウ競馬も深刻な財政難に陥っており、旭川競馬場も先日のレースを最後に閉鎖されてしまった。その中で、ここ門別競馬場は来年からナイター施設を整備するなど、北海道の地方競馬の灯を守ろうとしている。スタンドの収容人員は500名と日本一小さな競馬場だが、サラブレッドの生産牧場に囲まれた現地に立ってみると、「存続に向けてなんとか頑張って欲しい」という思いを強くした。平日にしかレースが行われていないが、「次に来る時には、必ずレースを観に来るぞ!」と心に誓った。

寂寥
門別競馬場を出発すれば、旅の終わりの寂寥感をひしひしと感じる。日高自動車道から道央自動車道へと歩を進めると、既に秋の日は西に傾いていた。やわらかな日差しが中央分離帯の色付いた木立を照らす。その大陸的な雰囲気に、私は昨秋に走ったワシントン郊外の高速道路をオーバーラップさせた。

ワシントン近郊の高速道路を思わせる風景

<おしまい>

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