Spring Tour 2019

岡 城 の 遥 か な 記 憶


今年のSpring Tourはこだまグリーン車から

いまどきの吹奏楽の定番曲で「宝島」という曲がある。中学や高校の吹奏楽部で人気の曲だが、オリジナルはザ・スクエア(現T−スクエア)の曲だというのは、現役中高生にはあまり知られていない。先月放送された「あんたの夢をかなえたろか」で、全国トップクラスの高校の共演で選ばれたのがこの曲。このオンエアに触発されて、20数年ぶりにカシオのデジタルホーンを押入れから引っ張り出したが、指使いはすっかり忘れており、もとよりデジタルホーンも潰れていて、まともに鳴らなかった。

さて、今までの春旅のページでもさんざん書いているが、「宝島」は年に一度のSpring Tourには欠かせない曲である。1986年リリースのザ・スクエアのアルバム「S・P・O・R・T・S」に収録されていて、その軽快な曲調にすっかり魅了された。1988年4月に初めて九州上陸した際に、その旅に持っていくカセット・テープを事前に編集し「Spring Tour Attendants T」と名付けた。「宝島」はそのテープのA面1曲目に収録した。以来、毎年の春旅はこの曲から始まる。

2019年2月26日、浜松を朝7時10分に発車した「こだま695号」の車内でも、真っ先に「宝島」を聞いた。今年もSpring Tourが始まるという期待感に震えた。ところで、このこだま号も、新大阪で乗り継ぐひかり号もグリーン車を予約している。エクスプレス予約でグリーンポイントをせっせと貯め、まる1年かけてようやくアップグレードにたどり着いたのである。ちなみにグリーン車に乗れるのは片道だけなので、往路にするか復路で使うか大いに迷った。そして出した結論は、往路でグリーン車。復路は、どうせ酒を飲んで酔っ払ってしまうので、グリーン車も普通車もそれほど変わらないという理由もあるが、年に一度のお楽しみであるSpring Tourの出発の時に、日常を離れた感じで「宝島」を聞きたかったのである。

時は流れ、「Spring Tour Attendants U」のB面を聞くころには、ひかり583号に乗り継いで、半室グリーン車におさまっていた。パートUのB面には、1988年当時に心酔していたハートカクテル(演:松岡直也)が収録されているが、その時には「理想の恋愛のカタチ」だと思っていたことも、今の時点で考えると「男目線のエゴ」と感じる。相手を喜ばせようと、ハートカクテルを真似て手を替え品を替えやっていたが、結局は自己満足だったんだと、今になって思うのである。


半室グリーン車でくつろぐ筆者

ひかり号は広島を過ぎて山口へ。Spring Tour Attendantsを、作った順に聞いているので、先ほどからPartVが流れている。このPartVを作ったのは1989年。今から30年前の2月に行った、九州の卒業旅行用に作成した。序盤に収録したスティーヴ・ウィンウッドの「ユー・シー・ア・チャンス」は1981年のヒット曲だが、リアルタイムでは知らず、1986〜87年ころになって「ハイヤー・ラヴ」を聞いて遡ったのだと思う。で、この曲を聞くと、当時好きだったP嬢のことを思い出す。旅の途中で、何かと彼女のことを思っていており、それゆえPartVの最もお気に入りの曲で、その頃感じた彼女のことを思い出してしまうのだろう。そういえば同じテープに収録した久保田利伸の「インディゴ・ワルツ」では、彼女の名前がそのまま歌詞になっていたりしてたっけ。

厚狭を通過すると、本州の西の果て感が強くなる。かつて駅の電子ベルが「ピリリリリ」と鳴っていた周防地方の山陽線だが、この電子ベルを聞くと「遠くに来たな」という感じがした。九州初上陸の時には、浜松を朝発って、鈍行ばかり乗り継いで、夕暮れにこの辺までたどり着いた。また翌年の卒業旅行では、寝台特急富士で朝を迎えたのがこのあたり。九州を目の前にして、希望に胸が膨らむ感じが好きな理由である。今はもう在来線でこの辺を走ることもなくなってしまったが、新幹線であっという間に通過しようとも、本州の西の果てに来ると「おおっ」と思ってしまうのである。


臨時ひかり583号で北九州小倉に到着


JR九州の株主優待券で発券したきっぷたち


小倉駅に入線するソニックを何度撮っただろう


宇佐駅の左側車窓に見えた「USA」


30年ぶりに竹田の岡城に登城


岡城二の丸にある滝廉太郎像


税込1,620円のCセットを注文

新関門トンネルを抜けて小倉に到着。JR九州の窓口に行き、株主優待券で北九州市内から北九州市内という不思議な券面の乗車券と、3枚の特急券を購入した。しめて6,550円。すべて半額なので、優待券1枚で6,550円得したことになる。まずは大分までソニック19号のグリーン車に乗車。普段なら、乗継割引で普通車指定席にするところだが、優待券ならグリーン料金まで半額になるので、気が大きくなる。さて、昨年のSpring Tourでは、初っ端のソニックが遅れ、その後の行程がつながらなくなって、また小倉まで戻るはめになった。今回は順調に大分まで走り、春めく車窓を楽しんだ。今まで気づかなかったが、宇佐駅東側のハリウッド風「USA」のボードに、思わず例の歌を口ずさんでしまった。

大分からはレンタカー。トヨタの販売店で全車種扱うという流れから、車名が無くなるのではと噂されているマークX250Gを借りた。目的地は豊後竹田の岡城址。30年前の卒業旅行で訪れて以来の訪問である。1989年の九州卒業旅行は、私にとって思い出に残る旅で、その後ほとんどの場所に再訪しているが、竹田の岡城だけは未訪であった。あの旅から30年という区切りの意味をこめて、岡城を最後に卒業旅行の振り返りは一段落にするつもりである。それゆえ、今回の岡城の再訪は楽しみだった。30年前は雨が降っていて、逆に「荒城の月」の舞台に相応しい旅情があって良かったが、今回は雲ひとつない快晴。大分駅から1時間ちょっと走って竹田市内に入り、岡城への上り坂を登った。30年前に登ったはずのこの坂にまったく記憶がなく、「あれ、初めて来たんだっけ?」と勘違いするほどである。

駐車場まで来ても記憶は戻らず、「30年前はここまでバスで来たのかなぁ?」と、どんな手段で来たのかも思い出せない。「岡城跡」の石碑が立つ入口と、本丸と二の丸の石垣のカーブに、かすかな記憶があったが、これは当時の写真が残っていたから。つくづく旅先では写真を撮っておかねばいけないなと感じた。若い頃は、「心のシャッターを切ればいい」と、観光地では写真を撮らない主義だった。ところが記憶というものは、上書きにつぐ上書きで簡単に変化してしまう。今思えば、あんな風にカッコつけなければ良かったと、後悔することしきりである。今回はこうして何回もシャッターを切り、ホームページに画像を残しているので、そうした心配は無用である。

竹田からの帰りは、多少遠回りになるが、中九州横断道路を行く。先月開通したばかりの竹田インターから、国道10号線の犬飼インターまでは自動車専用道路で、快適なドライブルートだった。国道10号線も、大分市街地に入るまで流れが良かったが、燃費の方は11〜12キロほど。4GR-FSEという2.5リッターV6エンジンで、1.5トンを超える車重なので仕方ないが、私の愛車プリウスなら倍以上走るはず。レンタカーで借りるのはいいが、日常使いには?がつくクルマである。

大分駅には17時すぎに戻り、ゆふ6号の発車まで1時間以上あったので、アミュプラザという駅ビルに入っている竹田丸福というお店で、一杯飲んでいくことにした。竹田丸福の「竹田」は、今まで訪れていた竹田に本店があるからで、大分名物の鳥のから揚げを味わえる有名な店だそうである。軽く一杯の晩酌用にセットメニューがあり、私はその中から一番品数の多いCセット(1,500円別)を選択。骨付きもも肉のから揚げに、豚冷サラダ、とり皮ぽん酢、ずりみその4品と生ビール(中)がセット内容だった。から揚げを食べるのに手こずったが、1時間という時間潰しには、ちょうど良い品数だった。本当はビールをおかわりしたかったが、「ゆふ6号」から「きらめき14号」の車内で存分に飲めるので、今回は自重した。


883系グリーン車よりパノラマキャビンを望む


この代限りと噂されるマークX250Gをレンタル


30年前もこのアングルで記念撮影したような


本丸跡にある岡城天満神社


大分名物のから揚げを食べに竹田丸福に入店


この日は4両編成だった特急ゆふ6号


普通車指定席2号車1番〜6番は元グリーン車


すっかりベテランとなった783系特急電車


JR九州ホテル小倉にて宿泊


30年前に水前寺から熊本まで座ったような…


783系グリーン車は前面展望も魅力だった

大分からは特急ゆふ6号で博多に向かう。キハ185系を使用するディーゼル特急で、この日は4両編成だった。このうち運転台が付いていない中間車がキハ186で、通常は2号車の指定席に充当される。この車両は元キロハ186という半室グリーン車で、全車普通車に改造された際、シートはそのまま使用した。つまり普通車指定席でありながら、実態はグリーン車そのもので、シートピッチもフットレストもグリーン席のままである。席番は1番〜6番が元グリーン車なので、ご乗車の折には指名買いされたし。

さて、その元グリーン車両に揺られながら、ウィスキーの水割りをちびちびやると、これがまた至上のひとときである。3時間ほどグリーン座席を堪能して、お代は760円ポッキリ。九州旅行の際にはぜひどうぞ。で、21時33分に博多に到着すると、その向かいのホームに、次に乗車する「きらめき14号」が入線する。もはやかなり酔っぱらっている状態なので、このような楽な乗り継ぎはありがたい。そのうちシルバーの783系が入線し、最後尾のグリーン車に乗り込んだ。

きらめき14号は、いわゆるホームライナーなので、グリーン車に乗り込んでくる大人などいるはずもない。半室グリーン車を独り占めしていると、30年前の卒業旅行のことを思い出した。当時、博多〜熊本間を結んでいたL特急ハイパー有明号は、水前寺まで豊肥線に乗り入れていた。当時の豊肥線はまったく電化されていなかったので、DE10に電源車としてスハフ12を挟んで783系をつなぎ、無理やり乗り入れていた。熊本〜水前寺間は普通列車として走っていて、グリーン車も無料開放していたため、30年前の卒業旅行で、この半室グリーン車に座ったのである。当時はバブル真っ盛りで、シートひとつひとつにTVモニターまで付いていた。それから30年を経て、TVは外され、すっかり薄汚れたよれよれのシートになってしまったが、1人掛けシートはまだ健在である。ベテランとなってしまったが、まだまだ現役として走れるうちは頑張ってほしい。社会人として同じような年月を重ねてきたクロハ782に、思わずエールを送った…。
<終>

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