ど こ か に 参 る ? … 山 形
山形駅まで来たのは3年ぶり

JALにあってANAにないもののひとつに「どこかにマイル」という制度がある。出発空港と希望日時を選ぶと、目的地の候補が4つ上がり、数日後にそのうちのひとつに決定するという変則的な特典航空券である。必要なマイル数は往復で6,000マイル。通常期で15,000マイルのところが、このマイル数なので相当お得である。普段はANA派である私がJALでもシコシコとマイルを貯めているのは、この制度があるからだといっても過言ではない。今回は、この「どこかにマイル」を利用してどこかに行こうと思う。

さてどこかに行こうと思っても、どこでもいいわけではない。伊丹空港を出発地にしたが、羽田往復ではがっかりだし、新潟は前回のどこかにマイルで行ったから除外。そんなことを考えながら、4月16日出発で申し込んでみると、花巻、山形、松山、那覇の4空港が候補となった。花巻や山形はまだ降りたことのない空港だし、那覇ならひと足先に夏の旅っぽくなるので魅力的。松山は近すぎる感じもしたが、しまなみ海道を渡って尾道泊まりという手を思いついた。4つの候補のうちどれが来てもOKだったが、結果は山形となった。3年前の1月に空港まで行きながら、欠航のため泣く泣く諦めた旅のリベンジとなるので、一番いい旅先なのかもしれない。

目的地は山形と決まったので、温泉に泊まることにして、昼間はどこに行こうかと思いをめぐらした。そういえば山寺のてっぺんまで登ったかどうか記憶が定かでなくなっている。社会人になって2〜3年のころ、東北四大祭りの添乗で花笠まつりに行っており、翌日に山寺に立ち寄ったはずだが、千段以上の階段を登ったかどうか定かでない。その後も何回か仙山線を利用しており、山寺駅で下車したような気がするが、その時もてっぺんまで登ってない気がする。というわけで今回の旅の目的は「山寺のてっぺんまで登る」といことになった。

伊丹空港11時50分発のJAL2235便利用と決まったので、大阪までは新幹線以外の方法でも十分間に合う。そこで1枚だけ残っている名鉄の株主優待券を使い、名古屋〜京都は新幹線の乗継割引を利用することにした。しかし私は平日朝の名鉄特急の混み具合を甘く見ていた。浜松からの始発電車を豊橋で降り、すぐに名鉄の改札内出札所で指定席の空きがないかどうかを確かめた。結果は、豊橋〜名古屋間のミューチケットは満席。もとより普通車の方はひとつも座席が空いていなかった。豊橋〜名古屋間の立席決定! 50有余年生きてきて、初めての体験となってしまった。


名古屋〜米原間は特急しらさぎに乗車


京都から空港リムジンバスに乗るのは初めて

初体験といえども、2年前のSpring Tourで、いつ来るともしれない米原行き電車を、大垣駅のホームで立ったまま1時間以上も待ったことに比べれば、満員電車で1時間立つくらい楽なもの。おまけに先頭車の前面展望かぶりつきの場所にいたので、そうそう飽きもせずに時間は過ぎ去った。豊橋〜名古屋間の所要時間は58分だった。

しらさぎ1号は、ホームライナー大垣の折り返し運用だった。大量の乗客を吐き出した後に車内整備があり、車内に入ったのは発車2分前くらいだった。貫通扉の上でスクロールしている文字を見ると、芦原温泉、加賀温泉、小松といった旅情をそそる駅が表示されている。そういえば北陸にはしばらく行っていなかった。たまには行きたいものである。

久々に新垂井経由の下り線を走って米原に到着。ひかり501号に5分の連絡。しらさぎの車掌氏も、乗り換え列車としてひかり501号ではなく、次のこだま号を案内していたので、新幹線ホームに急いだ。連絡通路から新幹線ホームを見ると、既にひかり号はホームに到着していた。とはいえ、通過待ちをしており、悠々とくだんの列車に間に合った。米原を出てしまえば京都まで20分。トンネルに入れば降りる準備をしないといけない。。。

京都駅の八条口を出たところに、空港行きリムジンバスのバス停があった。伊丹空港に行くなら、ほぼほぼ新大阪で降りてリムジンバス利用なので、京都からリムジンバスに乗るのは初めてである。とはいっても名神ハイウェイバスと同じく、京都南インターから名神に入って、吹田JCTで中国道へという経路なので、特に珍しい道路を走るわけではなかった。伊丹空港まで所定60分のところを50分で到着。新大阪乗り継ぎといい勝負である。

JAL2235便で伊丹空港より75分。山形空港に13時05分に到着した。この瞬間に3年前の大雪の日のリベンジを果たし、国内の未踏空港が一つ減った。機内からも飛騨山脈や木曽山脈といった雪を被った山々が眼下に見えていたが、空港から見える奥羽山脈の山々にも未だ雪が残っていた。とはいっても4月も半ばを過ぎているので、当地では桜が満開という陽気で、浜松と比べて特に寒いとも暑いとも思わない。空港の玄関に横付けされた中型観光バスタイプのシャトルバスに乗り込み、山形市内へと向かった。


快晴の空のもと北アルプスが眼下に広がる


雪が残る山々を遠望する山形空港に到着


山形空港と山形市内を結ぶ空港シャトルバス


仙山線は「走ルンです」じゃないE721系


板そばが名物だが昼はざるそば


ふもとの登山口にある山寺の石碑


国指定重文「三重小塔」の外観


その格子の中に三重小塔がある


山寺随一とされる五大堂の眺め


山懐にいだかれてE721系が走る

山形駅には14時ころ到着。山寺方面へ向かう普通電車の発車は14時56分なので、小1時間の待ち合わせである。この時間を利用して山形名産の蕎麦を食べようと思う。駅ビルのエスパル1階に「そば処 三津屋」というおあつらえ向きの店があり、そこでざる蕎麦をすすった。本当は名物の板そばといきたいところだが、半板でも1,512円と結構なお値段。それに二人前らしいので、あえてのざるである。本格的な味だなぁというのが一番の印象だった。

店を出て2階に上がり、駅の待合室にいても仕方ないので、発車まで30分ほどあったがホームに降りた。すると、既にお目当ての電車は入線していた。北東北でよく見る「走ルンです」の701系ではなく、セミクロスシートのE721系の4両編成だった。今でこそ仙台〜山形間の高速バスに劣勢を強いられているが、往年の仙山線といえばノンストップの快速電車も走るほどの盛況な路線だった。当時より急行型などクロスシート主体の電車が走っており、現在もその流れをくんでセミクロスの電車が走っている。とはいえ山形から山寺へは、わずか18分の乗車。もうちょっと乗っていたい車両だった。

山寺に到着し、案内看板に導かれ登山口へ。そこからすぐの場所に国指定重要文化財の根本中堂があり、たぶん添乗の時にはここまで来たような気がする。そこから先は入山料300円がかかり、山寺でお金を払った記憶はないので、山寺のてっぺんに行くのは初めてだということになる。実のところ、ここに来るまで葛藤があり、「山寺に行かずに左沢線でお茶を濁そう」とか思っていたが、今後年齢を重ねるにつれ、体力が無くなり、山登りが億劫になるのは必然なので、今我慢して登ってしまおうと決心したのである。まぁてっぺんの奥の院まで1,000段あるとして、1段に2秒費やしたとしても2,000秒、すなわち33分20秒で行ける。1段に2秒なら相当ゆっくりなので、計算上まぁ大丈夫だろうと思ったわけである。ところが階段の1段1段の高さはまちまちで、ステップが高ければ高いほど、位置エネルギーを稼がないといけないので、当然辛い。奥の院までの1,000段のうち、半分よりちょっと先に行った仁王門あたりが最も急な階段なので、ここが一番苦しくなるわけである。


山寺駅前にてアリバイ写真に写りこむ筆者


立石寺の本堂である根本中堂は国指定重文


このあたりが最もキツかった…仁王門


山寺のてっぺん奥の院になんとか到着

それでも山門から30分もかからずに、どうにかこうにか奥の院に到着した。仁王門以降は、階段を登っては小休止の連続だったが。本来なら、立石寺の本堂であるふもとの根本中堂で賽銭を出すべきだと思うが、やはりてっぺんで賽銭を投げると気分がいい。5分ほど休憩を取り、下山しながら往路で立ち寄らなかった御堂を巡って行く。

登りの場面では振り返ることもしなかったので、眼下に広がる門前町と雪を被った山々の美しさに心を洗われる。まずは奥の院のすぐ下の中性院から、右手の小道の先にある三重小塔に向かった。国指定の重要文化財で、国内最小規模の三重の塔だとか。格子の扉の奥にあるので、画像ではちょっと分かりにくい。

そこから少し下って右の道に折れると、その先に崖の上に建つ開山堂と赤い納経堂が見える。その脇を通って再び階段を上がると、山寺随一のビュースポットである五大堂がある。この階段で私のふくらはぎが悲鳴を上げ、つる寸前だった。慌てて五大堂で水をがぶ飲みし、事なきを得た。まぁとにかく、五大堂まで登って来なければ、眼下に広がる景観を見られないわけで、一種のご褒美のようなものである。

五大堂でしばらくたたずんだ後、一気にふもとまで下山した。五大堂から山門まで10分もかからなかったので、いかに下りはあっけないか…。山寺駅を16時56分発の快速列車で脱出。おそらく最初で最後の立石寺奥の院往復となるだろう。山寺の奇岩が一気に後方に過ぎ去り、小駅を通過して羽前千歳に17時11分に到着。駅前というには遠すぎる千歳駅前バス停から山交バスに乗車。30分弱揺られて天童温泉に18時ころ到着した。


奥の院のすぐ下にある宝珠山中性院


崖の上に建つ開山堂。左の赤い建物は納経堂


五大堂まで登ったというアリバイ写真


雪山のてっぺんまで写っていればいい写真だが


山形駅と天童温泉を結ぶ山交バスに乗車


将棋の駒で有名な天童らしい玄関の飾り


天童温泉ホテル王将に宿泊


朝食バイキングでがっつり

若いころは仕事でしか泊まらなかった温泉旅館だが、ここ1年間で4度目の宿泊である。今夜の宿はホテル王将で、玄関に団体の歓迎幕がかかるほどの大きな旅館である。チェックイン後、指定された部屋に入ってびっくり。居間と寝室が分かれており、寝室はツインベッド。内風呂は檜造りで、大きな窓から外が眺められるしつらえだった。これで1泊朝食付きで8,900円とは格安である。ところが、大浴場に行くためにタオルを部屋じゅう探したが、どうしても見つからない。たまらずフロントに電話を掛けたら、どうやら部屋を間違えたようだった。顔を真っ赤にしながら、テーブルの上に広げてしまった部屋呑みの惣菜を、本来の部屋に大移動させた。

大浴場の方は、大好物の露天風呂はなかったが、泳げるほどの広い浴槽だった。おまけに団体の宴会時間中だったので、私の他には年配の方が1人だけ。ほぼ貸し切り状態で、温泉にゆっくり浸かることができた。そして風呂上りは部屋呑み。間違えた豪華な部屋と比べると見劣りするが、それでも10畳+応接セットという広さなので、1人で過ごすのには広すぎるほどだった。

山寺のてっぺんへの往復は、想像以上に堪えたので、その晩は早寝。おかげで日の出前に目覚めてしまった。部屋からは静まりかえった温泉街が見下ろせた。反対側の廊下の窓からは、雪をかぶった出羽山地がそびえており、あぁ山形に泊まったんだなぁという感慨にふけった。

がっつり朝食バイキングを食べた後、8時50分にホテル玄関前に「山形空港ライナー」が停車するとのことなので、その時間に合わせてチェックアウト。その山形空港ライナーの実態は小型タクシーで、乗り合いでもなく、私一人を乗せて空港に直行した。まぁ静岡空港でも同じような体験をしたことがあるが。。。


ホテル王将の西側の窓より天童駅方向を望む。雪をかぶった出羽山地の山々が朝日に輝く


部屋の窓より未だ明けきらぬ温泉街を望む


山形空港ライナーというタクシーで空港到着

往路と同様にエンブラエルのJ-AIR機で山形→伊丹を飛び、大阪モノレールと阪急宝塚線を乗り継いで梅田に到着。大阪駅北口の高速バスターミナルに移動し、12時10分発の東海道昼特急14号に乗車した。指定した席は、1階の22Bというお気に入りの席。一人掛けで、進行方向左側の最後列にあたるので、後ろの乗客に気兼ねせずシートを倒すことができる。また2階よりもシートまわりに余裕があり、手荷物を気軽に置けるのも美点のひとつである。

大阪駅を発車すると同時に、白昼堂々だが宴会を開始。東名浜松北バス停までの4時間半は、居眠りしようが、酔っぱらおうが自由である。浜松と大阪を結ぶ交通手段はいくつもあるが、4,000円以下という料金と居住性を考えると、時間が許すかぎりは2階建て高速バスの22Bに勝る手段はないと感じる。ところが、三菱ふそうが2階建てエアロキングの製造を中止して来年で10年が経とうとしている。高速バスの寿命が約10年であるので、引退までそれほど時間があるわけではない。それまでに、せいぜい機会を見つけて乗っていこうと思っている。
<終>

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