多 島 海
両備フェリー「にゅうおりんぴあ」新岡山港にて

先月の大阪北部地震の被害も収まらない間に、今月は西日本豪雨が起こり、列島に深い傷跡を残した。特に今回の豪雨で災害を被った地域は広範囲に広がり、西日本の各地で在来線の不通区間を生じたので、正直のところ旅行の中止も考えた。それでも旅行当日の7月17日から山陽線岩国〜柳井間が開通したこともあり、目的地の周防大島まで若干行程を変更しつつも旅行できるようになったので、予定通り出発することに決めた。東日本大震災の時も、被害がそれほどでもなかった東北地方の各地で、旅行のキャンセルが相次ぎ、私と同じように観光に携わっている方々が苦労されたと聞いている。微力ながらも、予定通り旅行することが最善と考えた次第である。

まぁ堅い話はこのくらいにしておいて、海の日の夕方から旅が始まる。早出だったこの日は17時15分に仕事が終わり、家で短パンに着替えて赤電に乗車。浜松発18時27分のこだま671号に間に合った。名古屋までは全区間日没前で、車窓も楽しめ、ちょっと得した感じ。名古屋からは近鉄アーバンライナーのDXシートを予約しており、こちらも桑名到着ぐらいまでは薄明りの車窓を楽しめた。タバコをやめるまでは、近鉄特急に乗るとなれば40年も前に製造された在来タイプの車両を探し、シートでタバコが吸える号車を指定していた。しかしタバコを辞めた後は、今まで避けていたアーバンライナーが苦にならなくなり、DXシートを指定して優雅に列車の旅を楽しむことができるようになった。700系とかに乗ると「喫煙車でタバコを吸いたいなぁ」と思うこともあるが、こういった面ではタバコを辞めてよかったと思える。

さて今回の旅の主な目的は、小豆島と周防大島を訪ねることである。左下の表に、日本の主な島を面積順に挙げてみた。本土(本州、北海道、九州、四国)と北方領土の該当する島(択捉島、国後島、色丹島)以外の、面積100平方キロメートル以上の島は22島。そのうち18島は既に訪れており(修行の旅で降り立った利尻島など、あやしい島はあるにせよ…)、我ながら「ここまでよくやった」と褒めたい気分である。今回、小豆島と周防大島を訪ねると、未訪の島は五島列島の中通島と、渡島半島の脇にある奥尻島の2つだけになる。来年の今頃までには、なんとか方を付けたいものである。


岡山駅から岡電バスで約40分

日本の主な島〜100平方キロ以上〜
面積順(本土、北方領土を除く)
順位 名前 面積(平方キロ)
1 沖縄本島 1,206.98
2 佐渡島 854.78
3 奄美大島 712.35
4 対馬 695.74
5 淡路島 592.51
6 天草下島 574.98
7 屋久島 504.29
8 種子島 444.30
9 福江島(五島) 326.34
10 西表島 289.62
11 徳之島 247.85
12 島後(隠岐) 241.53
13 天草上島 225.95
14 石垣島 222.24
15 利尻島 182.09
16 ※1 中通島(五島) 168.39
17 平戸島 163.40
18 宮古島 158.87
19 ※2 小豆島 153.26
20 ※1 奥尻島 142.69
21 壱岐島 134.63
22 ※2 屋代島(周防大島) 128.48
※1 未訪の島、※2 今回訪問

さて、まずは小豆島から訪問する。岡山で新幹線を下車し、駅前より岡電バスに乗車する。40分ほどで新岡山港に着いて、そこから両備フェリーに乗り継ぎ、70分間の船旅となる。出航後1時間もすれば、正面に土庄の町並みが見え始め、船の横には小豆島の山並みが並走し始める。今まで計画しては流れることを繰り返してきた小豆島に、ようやく来ることができた。欲を言えば赤穂線の日生港から福田港に渡りたかったが(それが30年前に赤穂線に初めて乗った時からの夢だったので)、時間とお金の問題でそうもいかなかったのが心残りである。特にお金の面では、岡山駅→新岡山港→土庄港のバスとフェリーのキップがセットになった「かもめバスキップ」が片道1,300円と激安で、今回の旅では重宝した。

さて小豆島での滞在時間は、11時40分着の13時発ということで、わずか1時間20分しかない。というわけで見学場所は1か所に絞った。それはギネスブック認定の世界一狭い海峡である土渕海峡である。さっそく11時50分の路線バスに乗車し、土渕海峡を渡ってすぐの東洋紡跡で下車した。ちなみにバスで渡った橋が永代橋で、そこの海峡の幅が9.93メートルと最も狭くなっているそうだ。バス停から見える場所に建っていたジョイフルに、何も考えずに昼飯を食べに入ったが、「冷やしユーリンチーうどん」の麺は絶品だった。そういえば小豆島は香川県だった。

ジョイフルを出た後、少し歩いて土渕海峡に到着。土庄町役場の前の海峡(というより川)には、SNSでもお馴染のアーチが何本も立っている場所があり、フレトピア公園と呼ばれている。三連休直後、夏休み前という旅行者が最も少なさそうな日にも関わらず、少なくない数の外国人やら若い女性が思い思いに写真を撮っていた。私も小豆島に来たというアリバイ作りのため、セルフタイマーで1枚撮影した。

土渕海峡で過ごしているうちに、帰りのバスの時間が近づいてきた。帰りは土庄本町を12時43分発、土庄港12時50分着のバスに乗車予定。フェリーは13時出航ということで、カツカツの乗り継ぎである。バスが遅れてきた上に、終点ひとつ前のバス停で客扱いに手間取って、土庄港着は出航の5分前。ヒヤヒヤものであったが、もちろんフェリーには悠々と間に合った。田舎のフェリーはそんなものである。

帰りのフェリーは、行きのフェリーよりも新しく豪華な仕様だった。行きのフェリーは1988年就航の「にゅうおりんぴあ」。前向きの背の低いロマンスシートが並ぶ高速船のような船内だった。一方の帰りのフェリーは「おりんぴあ どりーむ」。こちらは2005年就航で、デザインは水戸岡鋭治氏が担当している。列車のアコモデーションでも氏のデザインは木を印象的に使っているが、フェリーでもそのコンセプトは変わらず、あぁ水戸岡デザインだなという船内だった。細かいところでいうと、前向き2人掛けロマンスシートの窓際のテーブルが使いやすく、それでいて使っていない状態でも邪魔にならず、いいデザインだなと感心した。

14時10分に新岡山港に入港し、バスに乗り継いで15時前には岡山駅に着いた。コンビニで氷やつまみを仕入れ、新幹線ホームに上ると、既にこだま747号は入線していた。もともとの計画は、この列車で徳山まで行き、徳山から柳井回りで大畠に出る予定だった。しかし今回の豪雨で山陽線の柳井〜徳山間の運転が再開せず、「おとなびWEB早得」という激安の企画きっぷゆえ行先の変更も不可であるので、岡山→新岩国(新岩国〜岩国はいわくにバス別払い)岩国→大畠と乗車する予定である。それでも昨日までは岩国〜徳山間が不通だったので、まだ幸運だった。運行再開のお知らせが出るまでは、岩国駅でレンタカーを借りる心づもりだった。レンタカーを借りることを思えば、行程の変更が生じたとはいえ、損害は最低限に抑えられ、胸をなでおろす結果となった。


シンプルな作りの新岡山港フェリー乗り場


日生からではなかったがついに小豆島に参上


小豆島の玄関。船上から見た土庄港ターミナル


ギネス認定の世界一狭い「土渕海峡」


土庄町役場前のフレトピア公園にて筆者


1時間の小豆島滞在で訪れたのはここだけ


土庄本町バス停よりオリーブバスに乗車


小豆島からの帰路はオリンピアドリーム乗船


水戸岡デザインらしくふんだんに木を使用


東広島〜広島間は通学列車と化したこだま号


新岩国〜岩国間の臨時連絡バス


17時を回ったとはいえまだまだ暑い新岩国駅


5年前まで御庄駅だった名残も。清流新岩国駅

先の豪雨で新幹線は早々に運転再開したが、在来線はズタズタになった。山陽線でいうと笠岡〜福山は7月14日、前述のとおり岩国〜柳井は7月17日に運転再開したものの、旅行当日の時点で、福山〜三原間(7月18日運転再開)、三原〜海田市、柳井〜徳山が不通となっていた。福山〜広島間と新岩国〜徳山間が新幹線による代替輸送区間に指定され、7月6日までに購入した定期券、乗車券、回数券を持っている乗客に限り、特急券なしで新幹線自由席に乗車できるという措置が取られた。その影響で福山から自由席が混み始め、東広島では指定席車両の通路まで乗客が立つ状態だった。私は指定席車両の真ん中あたりで、フルリクライニング状態で酒をかっくらっていたので、影響はなかったが、毎日こんな状況で通学をしている高校生を思うと不憫でならなかった。

広島を過ぎると、嘘のように車内がガラガラになり、そうこうしているうちに新岩国に到着。17時を回っているとはいえ西日本の夏の西日はキツい。新岩国は初めて下車したので、気になっていた錦川鉄道の清流新岩国駅まで、汗をかきかき歩いてみた。5年前に国鉄時代からの駅名である御庄から改名されたが、待合室にかかる駅名標はそのままだった。いくら待っても、不通区間ゆえ列車が来るわけでもなく、早々に新岩国駅に戻った。駅前で岩国駅行きの路線バスを待っていると、2台の観光バス風のJRバスに目が留まった。歓迎用紙を見ると、岩国駅と新岩国駅を結ぶ連絡バスらしいことが分かった。17時30分発の定期路線バスを見送り、高校生らがJRバスの方に乗り込むのを待って、ファイルを持つ社員風の女性に尋ねてみた。「このキップでこのバスに乗れますか?」 女性は発行日(6月29日だった)を確認し「乗れますよ」と答えてくれた。これで本来540円かかるところを、無料で岩国駅まで移動できることになった。

18時を回ってもうだるような暑さ。飲み疲れと暑気あたりが重なって、岩国駅ホームで柳井行きの電車を待つのは本当に辛かった。運転再開直後ゆえ、夕方のラッシュでも普段より本数を減らして運行しているとのことで、ホームには次々に乗客がたまっていき、人いきれで余計にしんどい。発車の3分前に柳井方から4両編成の115系が入ってきて、折り返し柳井行きとなった。なんとかシートにありついて人心地がついた。岩国でのこの経緯が、この旅で初めて被災地を旅している気分になった。とはいえ、ここ岩国〜柳井あたりでは、もうほとんど日常を取り戻していたとは思うが。

2扉転換クロスシートという、117系のような115系3000番台末期色で大畠まで運ばれ、駅前でバスに乗り継ぎ、大島大橋を渡った。橋を渡れば今回の最終目的地である周防大島である。橋のたもとにある東瀬戸バス停で下車し、徒歩数分で今宵の宿である周防大島温泉ホテル大観荘に到着した。チェックインもそこそこに5階の部屋に向かう。5月の万座ビーチ、先月の湯野浜温泉に続いて、3か月連続でオーシャンビューの部屋に泊まることができて大満足。日没後、景色が見えなくなるまで大畠瀬戸を眺め、小さな渦潮が発生するのを飽きもせずに見ていた。日が暮れれば露天風呂へ。温泉に入るのも2か月連続である。


柳井〜徳山間が未開通のため行程を変更した


昨年11月に新駅舎となった岩国駅


岩国〜柳井間を往復する115系末期色


周防大島への玄関口である大畠駅


大畠駅前より発車する防長バス


大島大橋のたもと右手に今宵の宿の大観荘


19時半ころ大島大橋を渡って周防大島へ

翌朝、チェックアウトの時に追加で朝食代を請求されて面食らった。前日チェックインの時に、素泊まりで予約していながら朝食付きになっていると聞き「おかしいな」と思ったが、そのまま気にも留めずに部屋に向かったのがまずかった。チェックアウトの時には、朝食も残さず食べてしまっているので、朝食代を支払わざるを得ない。典型的な旅館の和朝食に、税込み1,296円を泣く泣く支払ってきた。しかし、どこで間違ったのだろうか?

帰りは広島まで在来線で出て、10時59分発のこだま736号に乗車した。この列車は岡山止まりなので、岡山からはひかり470号に乗車した。このひかり号に、そのまま乗車していれば、浜松には15時06分に到着する。この列車で帰れれば楽なのだが、実際には姫路で新幹線を捨て、山陽電鉄の直通特急に乗車、尼崎で阪神なんば線に乗り継ぎ、大阪難波からは近鉄特急、名古屋でふたたびこだま号に乗り継いで、浜松到着は18時47分の予定である。

それでは金額的には一体どれだけ得しているのだろうか? 広島→浜松を往復乗車券利用として、エクスプレス予約(e特急券)を使うと、指定席で13,090円。一方、今回の行程で実際にかかった金額は10,430円。近鉄の株主優待券を使い、おとなびWEB早得を使った割には、差額が2,660円と微々たるものである(定価の約2割安)。3時間40分も余分に列車に乗れるから、お得というべきかもしれないが…。


周防大島温泉ホテル大観荘にようやく到着


5月、6月に続き今月もオーシャンビューの部屋


チェックイン直後に部屋から撮影。左手には海に小さな灯台が浮かび、正面は大畠瀬戸に渦潮が出現。右手には大島大橋が架かる


典型的な旅館の朝食。税込1,296円


姫路で新幹線を降り、私鉄を乗り継ぎ名古屋へ

まぁともかく姫路で下車して山陽電車の駅まで歩く。狙いは梅田行きの直通特急。ホームで待っていると、たまたま山陽5000系の5次車が来て、「総統シート」と私が呼んでいる1人用の転換クロスシートに座った。5次車はドア間の真ん中2列の窓が大きく、この位置に座ることができれば、通勤車両とはいえ、有料特急に乗ったような気分になれる。

居眠りをしたり、ちびちびと水割りを飲んだりしながら、1時間半にわたって乗車し、尼崎駅で阪神なんば線に乗り換え、大阪難波へ。ようやく近鉄線にたどり着き、伊勢志摩ライナーのDXシートに初乗車。タバコを吸っているときには、喫煙コーナーの少ない伊勢志摩ライナーに乗る気にならなかった。伊勢中川で名古屋行きのビスタカーに乗り換え、こちらも2階席に初乗車。最近ではリニューアルが進み、喫煙コーナー化が進んだものだが、その昔のビスタカーでは、平屋の1号車が必ず喫煙車で、私はそこを根城にしていたのである。禁煙を始めてから3か月半。列車の指向がこうまで変わるものかと思いつつ、名古屋に向かった…。
<終>

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