佐伯〜宿毛 コバルトライン
日の出前から走り出す始発電車も見える部屋

今年のゴールデンウィークは並びが悪い。4月27日からの3連休のあと、3日間の谷間を挟んで5月3日から4連休。このパターンだと混むのは後半と相場が決まっているので、空いている前半に遠めの旅をすることにした。行き先は大分県の佐伯から高知県の宿毛を結ぶ海のルート。実は3月のSpring Tourで行く予定だったが、その月のダイヤ改正で廃止される「広島行ひかり」に乗ってみたくなって、この行程は先延ばしすることにした経緯がある。おかげで小倉→佐伯で乗車する「にちりんシーガイア7号」は、ダイヤ改正で787系から783系に変更されてしまい、楽しみにしていたDXグリーン車はおジャンになってしまった。まぁそれでも、783系ハイパーサルーンはグリーン車が先頭車展望席になっているので、そちらも楽しみではある。

というわけで、仕事終わりの金曜日の夜に小倉まで移動。例によって浜松停車のひかり号を岡山まで乗り通し、そこから700系の臨時のぞみ号に乗り継ぐという黄金パターン。今や昼行列車でタバコをシートで吸えるのは、この区間と近鉄特急ぐらいなものである。これまた例によって、浜松を発車する前から酒を飲み始めたが、すっかり酒が弱くなってしまった。若いころはウィスキーの水割りなら底なしだったが、このごろはすぐに眠くなる。のぞみ号に乗り換えた途端に睡魔に襲われ、ただでさえ短い乗車時間がもっと短くなってしまった。小倉には23時14分に到着し、駅至近のリコホテル小倉に投宿。


当然ホームからもホテルが見える

寄る年波で、前夜にどんなに飲んでも朝早く目覚めてしまう。部屋から見えるのは始発電車が動き出す小倉駅。九州の日の出は遅く、まだ太陽が昇っていない。東京のビジネスホテルでは「トレインビュー」と称して、こういう部屋を鉄道ファンに高値で売っていたりするが、このリコホテル小倉は1泊素泊まりで3,000円。施設は古いが良心的な値段である。

8時過ぎにチェックアウトし小倉駅へ。部屋から小倉駅が見えていたので、当然ホームからもホテルが見える。そのレンガ色の建物を背景に、ハイパーサルーンが入線してきた。小倉から先頭になる半室グリーン車に乗り込むと満席。さすがに三連休初日の朝の列車だけのことはある。指定した1番C席は1人がけのシートだから隣に気兼ねすることもなく気楽である。定刻の8時34分に小倉駅を発車。すれ違っていく列車がもの珍しく、しばらくはシャッターを節操もなく押していたが、そのうち飽きて、今度は沿線のレンゲ畑を狙うようになった。とはいっても九州は既に初夏の様相で、ほとんどの田んぼは水が張られている。早春の象徴である菜の花畑まで撮れてしまったのはご愛嬌だが、なんとか納得がいくレンゲ畑も押さえることができた。


今流行りのトレインビュー?のぞみもこのとおり


このダイヤ改正より再びハイパーサルーンに


杵築駅手前で885系白いソニックとすれ違う


車窓を過ぎる菜の花畑。春らしい風景が広がる


大分駅で姉妹列車とご対面


分オイには普通に国鉄色がいた


小倉駅の「かしわ弁当」


1,000円高い1等船室も桟敷部屋

別府の手前の豊後豊岡駅ホームに、撮りテツさん数名を発見。こういう時には何か特別な列車が運転される確率が高い。対向列車に気を配りつつカメラを構えていたが、すれ違うのは青いソニックや鈍行など日常的に見られる列車ばかり。ところが、別府を発車し少し気を抜いたところで、国鉄色の特急電車がすれ違った。とっさにカメラを構え直すも、時すでに遅し。後で確認すると連休中だけ運行する「にちりん82号」だった。これだけ対向列車を撮りまくっているのに、肝心なやつを撮り逃すとはどういうこと?と後悔したが、あとで通過した大分車両センター(分オイ)に若干くたびれた485系国鉄色を発見。汚名返上のチャンスとばかりシャッターを押した。後々ネットで調べると、分オイにある485系は1編成だけ波動輸送用に残っているが、それ以外は廃車待ちの保留車とのこと。撮りテツさんが三脚を構えるのも無理は無かったのである。

そうこうしているうちに佐伯が近づいてきた。列車を降りる前に小倉駅で買った「かしわ弁当」を開き、昼前だがアルコールにも手をつけた。ちょっとほろ酔い気分になったころ、にちりんシーガイア7号は佐伯駅に到着した。


別府湾を横目に「にちりんシーガイア」が快走


意外と少なかったれんげ畑。九州はもはや初夏


快適な先頭展望車乗車であっという間に佐伯


「四国行」が目を引く佐伯フェリーターミナル


佐伯港接岸中の宿毛フェリー「ニューあしずり」


気温はともかく夏の日差しの中で出航


豊予海峡の南側、宇和海に点在する島々


3時間ちょっとの航海で四国の玄関に到着


尾根に立ち並ぶ風力発電が四国への旅人を出迎える。宿毛は四国の最果ての地でもあり、九州への出口のひとつでもある

佐伯駅から港までは、ゆっくり歩いても10分ほど。佐伯フェリーターミナルには「四国行」の看板が立ち、学生時代に岡山駅で見た「四国方面」の乗り場案内を思い出した。あの頃は、宇野まで備讃ライナーに乗り、そこから宇高連絡船に乗り継いでようやく四国の地を踏むことができた。深夜の乗り継ぎからはや26年。久々に四国という地を意識させる場所に来た。

窓口で1,000円余計に支払って1等船室に乗船。乗ってみれば2等と変わらない桟敷席で、メリットは1人で独占できたことと、そのためBSイレブンの競馬中継が見放題なことくらいだった。まわりを気兼ねすることなく過ごせるとはいえ、宿毛までの3時間あまりを密室に閉じこもったままでは息が詰まる。甲板に出てみると、真夏のような日差しが降り注いでいた。「ゴッサマー」から始まる松岡直也の夏に似合うセレクションを聴きながら、宇和海に浮かぶ島々を見ていた午後だった。

15時過ぎに宿毛港に入港。佐伯と違い港から市街地へは距離がある。列車や船で贅沢するのはいっこうに気にしないが、プライベートの旅の中でタクシーを使うのは抵抗がある。結局、宿まで歩いて行くことにした。道を間違え遠回りをし、最短2.6キロの道のりを1キロ近く余分に歩き、16時前にやっと今宵の宿であるホテルアバン宿毛に到着した。このホテルも部屋の窓から列車が見えるトレインビュー。しかし小倉駅と違い、四国の果ての宿毛駅を発着する列車の本数は少なく、時刻表がなければおいそれと列車を撮影できる環境ではなかった。


2泊めはホテルアバン宿毛


巡視船の日章旗も見える宿毛港に到着


宿毛の宿もトレインビュー。頻度は低いが…


宿毛駅にて筆者。四国脱出まで特急で4時間


平成生まれの開通区間ゆえにきれいな高架駅

翌朝は、始発列車である5時50分発の岡山行き特急南風6号を部屋から見送るも、そのあと二度寝。7時半ころベッドからはいずり出て、9時05分発の南風12号に乗るべく身支度を整えた。8時半すぎに駅に到着すると、まだ改札前。本数の少ない田舎の駅では列車別改札になっており、四六時中改札を抜けられるわけではない。折り返し列車となる8時42分着の「あしずり52号」を、ホームで出迎えることは叶わなかった。それでも列車到着直後に改札が開いたので、発車前に存分にカメラに収めることができた。

定刻となり、プラグドアが閉まって発車。岡山到着は昼下がりの13時41分予定で、とてつもなく乗車時間が長い。時間を持て余しそうなので、「今日がゴールデンウィークのスペシャルデーだ!」と勝手に決めて、朝もはよからウィスキーの水割りを飲み始めた。県庁所在地の高知まででも2時間以上かかるわけで、宿毛の遠さを改めて実感した。その分、土佐くろしお鉄道沿線は、大自然の中を駆け抜け、風光明媚な車窓が連続し、乗りテツとしては大満足なのだが…。


1列+2列シートがならぶ半室グリーン車


豊かな自然が広がる風光明媚な中村線


ビルの間に高知城がチラリ


険しい山中を走る土讃線のハイライトのひとつ


いよいよ佳境。瀬戸大橋に突入

高知を過ぎて、土佐山田を出発すると土讃線は山岳区間となる。岡山までの道のりはようやく半分を過ぎたところ。そして、ここがこの列車のハイライト区間となる。まずはスイッチバック駅の新改。特急では通過線を行くだけで感動もなにもないが、その昔50系客車が健在だったころは、長編成の鈍行列車が行きつ戻りつし、通過待ちの長時間停車もある、旅を実感する駅だった。次の名物駅は土佐北川。鉄橋の上に1面2線の細いホームがある、いかにも山間の駅。土讃線を通るたびに降りてみたくなるが、クルマで立ち寄ったことはあっても実際に降りたことはない駅である。そして大杉。種村直樹さんの「鈍行列車の旅」の中で、大杉のものを言うカラスのことが書かれていて、世間が狭かった中学時代の私の憧れの場所だった。ここまで来るとお腹いっぱいで、大歩危・小歩危はそっちのけで居眠りを決め込んだ。

居眠りから目覚めると琴平。香川県に入っており、ほどなく瀬戸大橋を通過。午後のやわらかい日差しがうちうみを照らしていた。児島に停車すると岡山は目前である。宿毛からの乗車時間4時間36分は、前半の高知までは長いが、その後はあっという間だった。まぁ居眠りしているから当たり前なんだけど…。グリーン車限定で、機会があればまた乗ってみたい長距離ランナーだった。

穏やかなうちうみを行く小船を眺める午後


長駆4時間35分の旅を終え岡山駅に到着

<終>

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