黄 金 週 間 を 黄 金 の 島 で


博多駅から始まる「のぞみ」&「かがやき」の旅

ドラゴンルート
2015年のゴールデンウィークは、カレンダー通りに休んでも5月2日〜6日までの五連休となる。ここ何年かゴールデンウィークに必ず旅行を計画してきた自分にとっては、どこでもいいからどこかに行きたい。といっても、どこにいっても混雑する時期なので、いくつかの要素が絡まないと行く甲斐がない。で、最近行きたい場所や、興味を持っているポイントを考えてみた。まずは今年3月に開業した北陸新幹線。旅のコーナーで何度か触れているが、中央線の石和温泉と酒折の間を除いて、全てのJR線に乗っている自分としては、タイトル維持のために早いとこ新規開業した路線には乗っておきたい。次に佐渡。日本国内のほとんどの場所に足跡を残している自分にとっては、まだ行ったことのないところは離島のみ。その中でも大物の佐渡島への旅は、これまで何度か計画してみたものの気候の絡みでまだ実現していない。最後にお馴染みの呑みテツ。これをじっくり楽しむためには、喫煙できる車両にできるだけ長時間乗車することがカギである。現在のところ夜行列車を除くと、喫煙車に最も長く乗れる列車は東京〜博多間の700系のぞみ号。しかし既に主力でなくなった700系なので、東海道山陽新幹線を全線走破するのぞみ号は、ゴールデンウィーク等の多客期のみ運転する臨時列車の一部のみ。この3つの要素をパズルのように組み合わせると以下のような行程となった。すなわち、博多から臨時のぞみ号で東京まで乗車し、北陸新幹線で金沢へ。金沢から上越妙高経由で新潟に行き、佐渡へ渡るというジグザグコース。最近話題の中国人観光客に人気のルートは「ドラゴンルート」といって、能登半島を龍の頭に見立てて高山、京都、富士山、東京を巡っていく。今回の旅は、それよりもスケールの大きなドラゴンルート。佐渡島が頭で新潟、金沢、東京、博多が胴と尻尾の部分になる。いずれにせよ初乗り区間の北陸新幹線を明るいうちに乗ろうとすると、博多を午前中に出発する必要があるので博多に前泊。というわけで、金曜日に旅支度で会社に出勤し、そのまま夕刻に浜松を出発するという、いつものパターンとなった。


今や「のぞみ」方向幕は希少価値

一気通貫
「指定席は全て満席です。指定券をお持ちの方は、指定のお座席にお座りください。」と繰り返される車内放送に先が思いやられたが、とにかく5月2日(土)9時49分、定刻に博多駅のホームを離れたのぞみ160号は、1,000`離れた東京に向けて走り出した。先ほどの車内放送は「普通車の」というフレーズが抜けていたらしく、結局グリーン車は東京までガラガラ状態。博多発車直後から、まだ太陽は南東の空にあるというのに、いい感じでビールを飲み始めた。

小倉、新山口と停車していくが、ご存じのとおり山陽新幹線はトンネルが多く、なかなか車窓が楽しめない。それでも「山笑う」季節。明かり区間でちらっと見える新緑に心が洗われる思いだった。徳山駅付近でぐっとスピードが落ち、大カーブを通過する。まだ100系グランドひかりが走っていたころ、2階にある食堂車のスピードメーターを眺めていた時のことを思い出した。あの時は、220Km/hから170Km/hに50Km/h減速しただけで、スピードが落ちたことを体感したが、現在では100Km/hの減速なので、徳山駅に停車するんじゃないかと思うほどである。

懸念していた広島駅や岡山駅でもグリーン車に乗ってくる客は数えるほどで、これでおそらく東京まで混雑なしで行けることが確定しほっとした。次の停車駅である新神戸では、それほど乗客が増えることはないのが経験上分かっており、新大阪からは定期列車の「のぞみ」がぐっと増えるので、わざわざ臨時列車のグリーン車を選んで乗ってくる乗客は少なかろうという推測。実際そのとおりだった。

姫路付近で、左手に改修工事が終わった姫路城が見え、改修前よりも一段と白さが増した感じがした。その直後の明石付近で日本標準時の塔時計を探すも結局見つけられず、後から調べてみると新幹線からは車窓右手なので、逆方向を必死で探していたことになる。で、再びトンネルだらけになり、新神戸と新大阪に停車。これで乗車時間の半分をようやくこなしたことになる。

東海道区間に入ってしまえば、よく知った道でとたんに眠くなる。それでも浜松通過は見逃せないと、無理やり目を開けていた。で、右の画像を撮影したが、シャッタースピードが1/1600秒で、これじゃ停車中に撮影したのと変わりがなく、ちょっとがっくりした。浜松を通過すると車窓にも興味がなくなり、天竜川を渡るあたりで居眠りを始めた。とにかく「のぞみ」は県内の駅を全て通過するので、静岡県民で新横浜〜名古屋間でのぞみを利用したことのある人は僅かだろう。かくいう私もこれで三度目なので、新幹線の利用頻度からすると極端に少ない。そんなわけで静岡県は眠っている間に通過してしまい、目覚めた時には、丹沢の山並みが見えていた。ほどなく新横浜に到着し、今後の行程に備えて、そこから2本のタバコに火を点けた。東京には定刻通り15時03分に到着。博多〜東京を一気通貫し、5時間14分の長旅だったが、後半は居眠りしていたこともあって、時間が長く感じられなかった。まぁ禁煙車だと、こうはいかない。おそらく「早く着かないかなぁ」と思うこと請け合いで、「だったら飛行機を使えばよかった」となっただろう。JRさんもスモーカーの声をちょっとは耳を傾けていただいて、700系を少しでも長く走らせてもらえればと思った次第である。

初乗り北陸新幹線
東海道新幹線のホームではそれほど感じなかったが、乗り換え改札を抜けて東北・上越・北陸新幹線のホームでは「これぞ日本のゴールデンウィーク」を実感した。ホームを真っ直ぐ歩けないほど混雑しており、人波をかき分けて乗車位置に立った。ほどなくE7系が回送されてホームに到着し、先頭車付近では家族連れが子供を列車の前に立たせての大撮影大会が繰り広げられた。15時24分発のかがやき553号は、先ほど乗車したのぞみ160号同様「多客臨」であるが、こちらはグランクラス、グリーン車、普通車全て指定席は売り切れ。自由席はないので満席である。1か月前の予約開始にきっぷを購入したが、その時「グランクラスにしておこうか」と脳裏をよぎった。「まぁそれでも2時間半なのでグリーン車で十分か」と思い、グリーン車のキップを買ったが、いざ満席状態になってみると、グリーン車も案外窮屈なものである。隣の見知らぬオッチャンと無為な肘掛争いをしたりと、意外と気を使う。例えば国内線空路のプレミアムクラスなら、グリーン車よりも肘掛がゆったりとしており、たとえ満席でも肘掛争いをした覚えはない。JRや車両メーカーもこのへんのところを考慮して、シート幅を狭くして見栄えが悪くなっても、肘掛の幅をゆったりとしてもらいたいなぁと思った次第。おそらく「それならグランクラスでそうぞ」って言われそうだが…。

さて、定刻に東京を発車したかがやき533号は、上野、大宮と停車し、ようやく本気モードになる。おそらく本庄早稲田駅ができてから初めて乗車すると思うが、そんなことはお構いなしに猛スピードで通過する。上越新幹線との分岐点である高崎でさえ通過するので、群馬県民に同情してしまう。高崎を出ると北陸新幹線区間となるが、長野までは既乗区間。といっても1999年に初めて乗車してから一度も乗っていないため、車窓風景はすっかり忘れていて新鮮だった。碓氷峠を長いトンネルで抜けると軽井沢。まだ桜が咲いていてびっくりする。「確か小諸は通らなかったんだよなぁ」と思っていると佐久平を通過。「次はどこの駅だっけ」と思っていると上田を通過。「篠ノ井あたりに駅があったような」と思っていると長野に停車で、まぁとにかく高崎から先が初乗り区間みたいなものだった。

長野で在来線の接続待ちで発車が5分ほど遅れたが、その遅れを取り戻すべく新規開業区間を爆走。感じとしてはトンネルに次ぐトンネルで、明かり区間に駅があるといった感じ。車窓が楽しめるようになるのは黒部宇奈月温泉付近からで、進行方向右手には遠くに日本海を眺め、左手には立山連峰が眺められるという感じ。夕暮れの富山で3分の1ほど乗客が下車し、砺波平野をあっという間に過ぎてトンネルへ。「ミニ新幹線」やら「スーパー特急」やら、建設中はいろいろと揺れ動いた北陸新幹線を象徴する加越トンネルを抜けて、ほぼ定刻通りに金沢に到着した。回復運転もあって、長野〜金沢はざっと1時間。開業時のニュースで金沢で降りた乗客が口々に言っていた「長野からはあっという間だった」という言葉を実感した。とにかく全線フル規格で金沢まで開業したことで、地元では祝賀ムードに溢れていた。金沢の新名所になった兼六園口の鼓門の前では記念撮影する人が後を絶たなかった。

佐渡日帰り
翌日は早朝6時11分の「はくたか552号」で金沢を発った。これだけ早い列車に乗ろうとすると、「乗り遅れてはいかん」というプレッシャーで早起きしてしまい、かなり寝不足のまま列車に乗車した。各駅停車タイプの「はくたか」は自由席を連結しており、「たった1時間の乗車で、始発駅から早朝に乗るから指定席でなくても大丈夫」と目論んで自由席のきっぷを購入。これが正解で、下車駅の上越妙高まで自由席は終始ガラガラの状態。昨日の満席のグリーン車よりも何倍も快適な時間を過ごすことができた。昨日撮影できなかった車窓からの立山連邦の眺めを何回も撮影し、ベストショットが右の画像である。糸魚川付近の日本海も撮影したら良かったが、進行方向逆側の車窓で、気付いた時には防音壁に隠れていた。そんなこんなで7時14分に上越妙高駅に到着。ちなみにこの駅がJR西日本と東日本の境界駅である。


700系臨時のぞみで東京まで一気通貫


酒タバコにグリーン車なら何時間でも大丈夫


浜松駅を通過〜1/1600秒だと停車している様


北陸新幹線E7系の人気は凄まじかった


金沢まで2時間半ならグリーン車で十分


夕日にきらめく日本海を眺めながらの疾走


休日夕方の喧騒と対照的な朝の金沢駅鼓門


混んだグリーン車より空いた自由席が快適


まだ雪の残る立山連峰を眺めながら新潟へ


発車直前のC61の前部には黒山の人だかり


上越妙高にて新設特急しらゆき号


昭和の雰囲気が漂う新潟駅万代口


新潟市街地に隣接している佐渡汽船のりば

上越妙高では9分の待ち合わせで、新幹線ホームから「えちごトキメキ鉄道」ホームへ移動。新幹線開業後の並行在来線は第3セクター化という例のルールで新鉄道会社ができたが、路線は従来の信越本線である。乗車する列車も新幹線開業と同時に新設された「しらゆき」号で、全て直流区間であるが交直流車両のE653系が投入された。途中駅から乗車するので、わざわざ指定券を用意していたが、その必要がないほど空いており、しかも指定した場所が車端部だったので、よく揺れるは、連結ホロがギシギシうるさいはで宜しくなかった。まぁ席を希望して指定したのが自分なので文句を言う筋合いはないのだが…。それでも、寝不足には勝てず、乗車中の3分の2は居眠りをしていた。長駆2時間乗車して新潟に到着。静岡も東西に長い県だが、新潟はそれ以上であることを思い知らされた。

ゴールデンウィーク真っ盛りということで、臨時で運行される「C61ばんえつ物語」に群がる人たちを横目に万代口へ。ここの駅舎は昔の豊橋駅そっくりで、ちょっと懐かしくなってしまった。新潟交通のバスで港に運ばれて、佐渡汽船ターミナルに到着。ここは朱鷺メッセに隣接する市街地の乗り場で、交通の便も申し分ない。新潟港から佐渡の両津港へはジェットフォイルで65分なので、新潟空港と佐渡空港を結ぶ空路が廃止されるのも無理からぬことである。で、あれよあれよという間に佐渡に到着。まだ時刻は12時である。レンタカーを6時間借りているので、昨夜のうちから「どこを見て回ろうか」と、ああでもないこうでもないと思いを巡らしていたが、初めてなので佐渡らしいところを訪れることにした。

まずは尖閣湾へ。両津港から30`ちょっとの場所にあり、1時間ほどのドライブで到着。ここは尖閣湾揚島観光という会社が経営する観光地で、尖閣湾の絶景を楽しむためには入場料が必要である。いつもなら、「けっ、景色を観るためにお金なんか払えるかよ」と啖呵を切るところだが、今回に限っては佐渡汽船をネット予約した時に発行される「佐渡観光施設 割引証」で10%引きになるので入場。調子に乗ってグラスボートまで乗ってしまった。グラスボートも含めて尖閣湾は「二度はいいけど、一度くらいは見ておいても(乗っておいても)いいかな」というレベル。割と迫力のある奇岩を下から間近で見るために、尖閣湾に来たならグラスボートも乗るべきかなという感じであった。ただ、海底にあるのはサンゴではなく海藻で、わざわざグラスボートにする意味があるのかねと思った。そんなこんなで30分ちょっと滞在し、次の佐渡金山へとクルマを走らせた。

次の訪問地である佐渡金山は2つのコースがある。ここも割引証が使え、なおかつ時間に余裕があったので両方とも見学することにした。入口の係員の案内されるがままに、まず道遊坑コースから見学。こちらは明治以降の近代的な採掘を展示しており、佐渡金山を紹介するパンフレットの類には必ず掲載されている「道遊の割戸」や「高任立坑」がある。概して学術的で、トロッコの線路跡も残されていて私好みだった。一方の宗太夫坑コースの方は、江戸時代の展示。随所に人形が配置されているが、それがかえってリアリティを失わせている感じで、「なんだかなぁ」と足早に駆け抜けてしまった。結論から言うと、どちらか一方しか回る時間がないのなら、文句なく道遊坑コースを回るべきで、こちらは世界遺産の構成資産になる可能性もある。そして2つとも回れる時間があるなら、まず宗太夫坑コースから回るべきで、そうすれば道遊の割戸を見たときの感動が増すと思う。というわけで、今回は回る順番を間違えてしまったことになる。

さて、佐渡金山で1時間ほど滞在し、次は最後の訪問地「トキの森(佐渡トキ保護センター)」である。今回佐渡を訪問するにあたって、ここだけは見たいと思っていた場所で、一番最後にとっておいたのである。現に尖閣湾や佐渡金山よりも混雑しており、閉園間際の時間に行ったことを思えば、佐渡島でも群を抜いて人気のあるスポットじゃないかと思う。まずは、キンの石碑から。最後の日本産のトキとして有名なキンだが、老齢にもかかわらず、中国に持って行ってオスのトキとペアリングさせられたりして、私には可愛そうなことをするもんだなと映った。続いてトキ資料展示館を見学。展示館と棟続きで観察回廊があり、まずはここでトキを撮影。飛んでいるところをなんとか押さえようと何度もシャッターを押したが、飼育ケージまで遠いのと、トキが割と素早い動きをするので、満足のいく画像が撮れなかった。あきらめてトキふれあいプラザに移動。なんのことはない。さきほどの観察回廊よりもずっと間近でトキを観察することができ、「始めっからこっちへ来とけばよかった」とすこしばかり反省。じっと佇んでいるトキを望遠で撮影し、ケージの中をぐるぐる飛んでいるトキも、何回かシャッターを押しているうちにフレームに納まり満足した。これで今回の佐渡での予定は全て終了。両津港に戻り、レンタカーを返却したのは予定よりも1時間早い17時だった。


佐渡まではジェットフォイルで1時間5分


尖閣湾で珍しくグラスボートに乗船


見えるのは海藻の類でガラス張りの必要性?


断崖絶壁の奇岩が迫力満点で眼前に


入園料が必要だが尖閣湾ならではの風景


尖閣湾展望台をめぐる遊歩道にて筆者


高任立坑はエレベーターの跡


佐渡金山のシンボル道遊の割戸


ペアリングなどでキンは受難だった

新潟港行きジェットフォイルの最終便に間に合ってしまい、当初予約していた19時30分のフェリーを2時間前の便に変更した。そんなわけで、まだ薄明りの残る新潟港に到着したのは18時35分。新幹線を乗り継げば今日のうちに自宅に戻れる状況になってしまった。しかしながら、24時間以上後の新潟〜中部のANA便をキャンセル不可の予約を入れているので、おとなしく予約を入れているANAクラウンプラザホテル新潟に宿泊することにした。


海底が見える透明度も尖閣湾の魅力のひとつ


佐渡金山道遊坑コースは明治以降の展示


複線トロッコの線路が単線になり金鉱入口へ


宗太夫坑コースの人形はリアル感減退


トキの森公園ふれあいプラザで渾身の一枚


これを撮るのに何十回もシャッターを切った


加茂湖から雪の残る北金山・妙見山を望む


佐渡の表玄関である佐渡汽船両津ターミナル


ANAクラウンプラザH新潟に宿泊


午前4時すぎ初夏の東の空は白みはじめる

ゴールド会員のステータスをフル活用して14時までホテルの部屋でのんびり過ごし、「それじゃチェックアウトして、新潟の街歩きでも」と思っていたら、小雨が降りだした。部屋でインターネット検索し、飛行機の出発時刻まで白山神社と新潟市歴史博物館(みなとぴあ)くらいは回れるなと予定を組んでいたが、いっぺんに行く気が失せてしまった。それじゃ、このまま空港に直行しようということになり、予約便の出発時刻の4時間以上前に空港に到着。「あれ?このシチュエーションってなんか似ているぞ」と思ったが、それは今年の正月に新千歳空港の乗り継ぎで4時間15分滞在した時の状況だった。「それじゃ同じことをするべ」ということで、パソコンのスイッチを入れ、シコシコと旅の模様をホームページに起こしていった。

実は新潟空港に着いた時には雨が降っておらす、正直失敗したなと思ったが、夕暮れ時には土砂降りとなった。その雨をついてボンバルディアQ400は離陸した。中部空港には1時間後に到着の予定。それまでは呑みテツならぬ呑みエアを存分に楽しめる…。
<終>

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