ラ ジ オ デ イ ズ
色づく山を愛でながら80年代の音楽を聴く

昭和50年代、私が地元のAMラジオ局であるSBSラジオを聞き始めたころ、10月の改編期はそれは大変なものだった。18時から21時の3時間がナイターで埋まっていたところが、すっぽり若者向けの番組に替わるからである。中学1年の時には、10月から始まった「SBSポピュラーベストテン」を聞き始め、その後の音楽人生を変えるきっかけとなった。それから40有余年の時が経ち、この秋の改編でSBSラジオに新たな番組が加わった。ラジオ日本で10年前からやっている番組ではあるが、その番組をSBSが買って、一日遅れであるがネットするとは思いもしなかった。その番組は「全米TOP40 THE 80's DELUXE EDITION」。原盤は ケーシー・ケイスンがDJする伝説的な番組である。

それから2か月が経とうとしているが、今回の旅のお供に、エアチェックした全米TOP40を持ち出した。エアチェックといっても、往年のようにカセットテープに録音するのではなく、「どがらじ」や「らくらじ」などのアプリを使って、スマートフォンにそのままデータをダウンロードするだけなので、ずいぶんとお手軽である。近鉄名古屋駅で赤ワインと「しまかぜ弁当」を買い込み、アーバンライナーのDXシートに乗り込んだ。

近鉄の名阪特急の主役は「ひのとり」に替わったが、アーバンライナーの方は割引キャンペーンを実施しており、ひのとりの普通車に乗るのも、アーバンライナーのDXシートに乗るのも、値段的にはほぼ変わりない。新幹線のグリーン車なみのゆとりのあるシートに身をゆだね、ちびちびとワインを飲みながらの2時間20分の旅は、ことによるとこっちの方がいいかもと思わせる。それでは、さっそく全米TOP40に耳を傾けよう。

この旅に持ちこんだのは、前日にオンエアされたものを含めて5週分。そのなかでも心に残ったのは1981年10月17日付の放送分。10位から1位まですべての曲が流れるが、まずはリトル・リバー・バンドの「ナイト・アウル」。ヒット当時、私は中学3年生。中学のころは「ザ・ベストテン」も全盛の時代で、洋楽に行ったり、歌謡曲に戻ったりしていた。それでも1981年になると洋楽中心の生活になっていたような気がする。この週の1位から10位のうち、本当に知らなかったのは1曲だけで、その曲はその週のカントリーチャートで1位の曲だから、日本にいて知らないのは無理からぬところ。とにかく、それだけ全米チャートに傾倒していた。

続いて9位はダン・フォーゲルバーグの「風に呼ばれた恋」。このあとに、ジャーニーの「クライング・ナウ」がかかる。ジャーニーの大ヒットアルバム「エスケイプ」からの1stシングルカット。それこそこの曲は今に至るまで数え切れないほど聞いているが、チャート8位として英語のDJの紹介で聞くと新鮮である。今まではジョナサン・ケインのピアノ中心の曲だと思っていたが、ラジオで聞くとベースラインが特徴的であるのに気づいた。このアルバムでは「愛に狂って」もベースラインが聞きどころで、ロス・バロリー頑張ってるやんという感じである。

7位はスティーヴィー・ニックスの「嘆きの天使」。熱狂的なファンが付いている人で、私も翌年、「愛のジプシー」のだみ声に心を持って行かれた。そして軽快なイントロに乗せて紹介された5位の曲は、ホール&オーツの「プライベート・アイズ」。この曲も今日に限ってはベースラインが良く聞こえる。この時代の曲はベースすらメロディアスだったのか…。で、5位が知らない曲の「ステップ・バイ・ステップ」エディー・ラビット。カントリー・ロックであり、時折聞こえるツインギターがそれらしい。アメリカの田舎道でこの曲がラジオから流れたらかっこいいだろうなぁ。今日は電車だけど…。

4位からは映画のテーマ曲が多くなる。まずはシーナ・イーストンの「ユア・アイズ・オンリー」。サビの部分が美しい名曲である。続く3位は、ローリング・ストーンズの中興の祖と呼べる曲「スタート・ミー・アップ」。ストーンズの曲はいかにかっこいいリフがあるかにかかっている。この曲はイントロで心を掴まれてしまう…。そして2位は「エンドレス・ラブ」ダイアナ・ロス&ライオネル・リッチー。ちょうど電車は名張あたりの山間部にかかるところ。色づく木々を愛でながらこの曲を聞くと秋の深まりを感じる。エバーグリーンな名曲である。

で、この週の第1位がイントロとともに紹介される。美しいピアノのメロディで始まるこの曲はクリストファー・クロスの「ニューヨークシティ・セレナーデ」。この放送のオンエアで不覚にも涙してしまったが、やはり今日も涙がこみ上げてきた。この曲が全米1位になった時、確かに私はこの曲を繰り返し聞いていた。まだカシオペアも松岡直也も知らない時代で、全米チャートにピュアな心で向き合っていたころである。このごろは涙もろくなり、ラジオで懐かしい曲がかかると、不意に涙を流してしまうことがある。この曲もそのうちの1曲である。それにしてもこの秋の改編で、SBSはいい番組を買ってくれた。私にとってこの番組は、長年にわたって聞いてきたSBSからの贈り物だと思っている。さて、まだまだ書き残したいこともあるが、旅の記録としてはいささか方向が狂ってきたので、この辺で軌道修正しようと思う。


「ひのとり」もいいがアーバンライナーも


集団離反型シートの山陽5000系1次車


昭和の香りが残る車内の色使い


網干線は上下線から階段なしでアクセス


山陽電車のもうひとつの西の果て

大阪難波でアーバンライナーを降り、尼崎行き普通電車で関西の大動脈に出る。一番速いのはJRの新快速だが、便利で空いているのは阪神・神戸高速・山陽の三社に乗り入れる直通特急である。最初に乗った時は、神戸の市街地でなんでこんなに止るのと思ったが、これが便利さの源泉である。地上に出ると、JR山陽本線と並走し、新快速よりは遅いが、快速ならいい勝負という感じの飛ばしようである。たまたま乗車したのが、昭和末期に製造された山陽5000系の1次車。先頭車の最前席、進行方向に向かって右手のシートに座り、すれ違っていく多彩な車両に目を奪われた。

終点姫路を前に飾磨で下車。初乗りとなる山陽網干線に乗り換えた。複線の本線から単線に変わるが、しばらく高架線を走ることもあり、想像していたよりも都市的な路線である。15分ほどで山陽網干駅に到着。これで日本全国の鉄道にすべて乗車するという野望に一歩近づいた。まぁもともとそんなことする気もないけど…。

網干駅にはホテルの送迎車が迎えにきており、10分ほどで今夜の宿である新舞子ガーデンホテルに到着した。例によってGoToトラベルキャンペーンを利用しており、1泊2食付きで1万円を切る料金となっている。プラス地域共通クーポンが2,000円分付くので、温泉宿に1人で泊まることを思えばやっぱり安い。ここのところ感染者数が最多記録を更新しており、GoToトラベルの見直しをした方がいいという意見もあるが、たぶん政府筋はなんらかの形でこのまま続けるんだろうなぁと思っている。まぁひとり旅なら感染リスクも低かろう…。

チェックイン後、さっそく大浴場を使った。私1人だけの貸切状態で、ジャグジーや露天風呂を楽しみながら、日頃の疲れを癒した。露天風呂からは瀬戸内の島々を眺められ、遠くに小豆島も浮かんでいた。考えてみれば当地は相生や赤穂に近く、赤穂市の隣の日生港からは小豆島へのフェリーが出ているので、決して遠くはない。雲が多いのが残念だが、のんびり風呂につかりながら静かな海を見るのはいいものである。

風呂の後、自室の窓を全開にして、海を眺めながらパンツ一丁で風に当たる。これが心地よかった。11月も半ばを過ぎたというのに、こんな夏の島みたいな感じで過ごせるとは思わなかった。この旅で一番心に残るひとときだった。

播磨灘会席
先付 菊菜 法蓮草 湯葉和え
造里 鮮魚四種盛り
焼物 和牛陶板焼き
揚物 小フグ唐揚げ 海鮮網春巻き
台物 新舞子寄せ鍋
煮物 里芋万十
酢物 帆立貝柱 酢〆
食事 すずしろ御飯
汁物 赤出汁
甘味 ティラミス 巨峰

通常なら夕食の画像を上げるところだが、会席料理のため一品ずつしか撮影できない。というわけでメニューを挙げた。このごろ焼き肉を食べていなかったので「和牛陶板焼き」が美味かった。

翌朝は曇り空で、どうやら夜半に雨が降ったようだ。夕食と同じテーブルで朝食をとったが、外が明るい状態だと海の眺めが最高な席だった。欲を言えば、快晴ならもっと素晴らしい景色だったのだろうが、これを言い出すときりがない。

朝食後は、10時のチェックアウトまでのんびり過ごし、久々のホテルライフを楽しめた。ホテルを出れば、延々7時間の乗り継ぎ旅が待っている…


新舞子ガーデンホテルに2食付きで宿泊


一応オーシャンビューのツインルーム


天空の湯には露天風呂もジャグジーもある


風呂上がりに夕暮れの海を見て過ごす


夕空の下には瀬戸内海〜小豆島も見える


朝食はオーシャンビューのレストランで


夏には海水浴場となるビーチをバックに


右端の小豆島ほか瀬戸内の島々を眺む

<終>

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