北海道の屋根、ストレートシックス


格安でレンタルしたマークU2.5(94年型?)

最近、私が旅する時のスタイルのひとつに「ニコニコレンタカー」でアッパークラスのクルマを借りてドライブを楽しむというものがある。今年の2月には名機1Gエンジンを搭載したマークUで九州横断を果たした。そして今回は2.5gのスポーツツインカム「1JZ-GE」を搭載したマークUで、北海道の屋根を快速ドライブをする目論見である。中古車をレンタカーとして使用しているので、格安の値段でクルマを借りられるのだが、国産車では絶滅してしまった直列6気筒エンジンを気軽に試せるわけで、まさに一石二鳥。状態の良いストレート6搭載車が今後どんどん少なくなっていくことを考えると、借りるなら今をおいて他に無いといえよう。

で、今回のクルマは90系と呼ばれる1990年代前半のマークUで、初年度登録から17〜8年は経っている年代モノである。私が1年前に手放したST190コロナとインパネまわりの造作がそっくりで、レンタカーを借りたときに感じる違和感は全くなかった。走り出すと、軽くアクセルを踏んでもグッと力強い加速をし、2月にレンタルした110系マークU(2,000ccハイメカツインカム)とは違った乗り味だった。

帯広市街から十勝川を渡り国道241号線を北上する。しばらくは郊外型の店舗が並んでいたが、道東道をくぐりバイパスと合流するころから北海道らしい雄大な風景が広がった。まずは国鉄士幌線のアーチ橋跡である糠平湖のタウシュベツ橋梁を目指して走っているが、この国道は旧士幌線と並行しており懐かしい地名を通過していく。というのも私が中学生時代に愛読していた種村直樹さんの「鈍行列車の旅」で士幌線が取り上げられており、なかでも「道内時刻表にも載っていない駅」として新士幌仮乗降場を紹介していたのが強く記憶に残っていたからである。駅名標の字体は他の駅と一線を画すイタリック体(斜体)で、きっとすごい場所なんだなと想像を膨らましていた。そのころから30年を経て、ようやく士幌に足を踏み入れたが、もとより新士幌仮乗降場の跡地は自然に還っており、地名だけが当時と同じだけであった。

足寄に向かう国道241号線と別れ、上士幌から国道273号に入る。しばらく走ると大陸的な一直線の道路から山岳道路に変わる。とはいってもRが大きなコーナーばかりですっ飛ばせることには変わりはない。糠平ダムの脇を抜け糠平温泉街が山にへばりついていた。この先、層雲峡温泉まで目立った集落がないため、旧士幌線は廃止されるずっと前に糠平〜十勝三股がバス代行区間になった。逆にそれが幸いして、糠平以南と比べると糠平以北は廃線跡がきれいに残っている。21世紀に入った現在では、主要な橋梁区間には国道に案内板が掲げられ、遊歩道を介して気軽にアクセスできるようになっている。

さて、糠平ダム湖畔を北上していくと、お目当ての「タウシュベツ川橋梁」の案内板があった。これまで案内板があった旧士幌線の橋梁は、糠平ダム建設の際、線路がダム湖の底に沈んでしまうため付け替えられた新線区間のもの。一方、タウシュベツ川橋梁は昭和30年に廃線となった旧線区間の橋である。ダム湖の水量が多ければ水面下に沈んでしまうため「幻の橋」とも呼ばれている。梅雨のない北海道ではあるが、雪解けのため水量が多くなる時期であるため、果たして見ることができるかどうか心配だったが杞憂だった。国道から300bほどの林間遊歩道を歩くと、美しい11連アーチ橋が忽然と姿を現した。対岸の林道閉鎖のため、すぐ近くまで行けなくなったのは残念だが、糠平湖の向こうに見える白亜のアーチもなかなかである。ここまで来た甲斐があった。


90系マークUは斜め後ろからが格好イイと思う


2.5g直列6気筒スポーツツインカム「1JZ-GE」


180馬力の1JZ-GEと車両軽量化で加速は抜群


旧士幌線タウシュベツ川橋梁のアーチ


列車がなくなって33年。士幌線の跡

さらに国道273号線を北上する。糠平ダム湖が果て、森の中の一直線の道路を飛ばしていくと、公衆トイレ併設の幌加除雪ステーションがある。そこにクルマを停め、旧士幌線の幌加駅跡を訪ねた。昭和53年にバス代行区間となってからは列車が全く来ない駅であるが、予想に反してレール、ポイント、ホームが残っており、ホームの上には駅名標が鎮座していた(さすがにこの駅名標は後から設置したそうだが)。ちょうど廃線跡めぐりツアーご一行が、案内人の説明を受けていて廃駅周辺は賑わっていた。

さらに北上して旧士幌線の終着駅である十勝三股でもクルマを停めた。ここは駅舎もホームも残っておらず、駅構内と思われる荒野が広がっているだけだった。その荒野から大雪山方向を見渡すと、白樺林の上に雪を被った山脈が連なっていた。北海道らしい風景に思わずシャッターを押した。


ホーム跡もレールも残る旧幌加駅


さすがにこの駅名標は後付けだろう


士幌線バス代行区間は逆に保存状態良好


十勝三股…白樺の森の上には冠雪の山々


層雲峡随一の滝「銀河の滝」


銀河の滝が注ぐ川はあの石狩川


新緑に囲まれた「流星の滝」


手旗を振って入れ換え作業中


国道273号線三国峠。標高は1,152b


三国峠を下ると雪を被った大雪山が正面に


北海道の屋根・大雪の山並みが車窓をよぎる


流星・銀河の両滝が一望できる展望台


留辺蘂をカットしたらWindowsの壁紙に出合った


道の駅「オーロラタウン93りくべつ」前にて


5年前に廃止となった陸別駅構内を望む


左の写真の反対側を撮影。自然に還る途中


奥のクルマのところが上の画像の撮影場所


今では道の駅の旧陸別駅ホームに列車入線

再び国道273号を北上し、つづらおりで標高を稼ぐと三国峠となる。北海道の国道では最も標高が高く(標高1,139b)、まさに北海道の屋根である。かつては冬季通行止めだったが、1994年に道路改良がなされて通年通行が可能となり、今では帯広〜旭川間の都市間特急バスが走るようになった。

三国峠を下っていくと、林の間に大雪山が見え隠れするようになる。石狩川のダム湖である大雪湖のほとりを大回りして、大雪トンネルの西詰で国道39号に合流。この国道は別名「大雪国道」と呼ばれていて、まさに大雪づくしである。国道39号を旭川方面に向かいトンネルを2つほどくぐると「銀河・流星の滝」の案内板が出て左折。ほどなく駐車場に到着し、クルマを停めた。

1987年にバイクで北海道を周遊して以来、北海道には何度も来ているが、名立たる観光地である層雲峡に来るのは今回が初めて。下流では壮大な大河となる石狩川も、ここでは小川のようになっているのが信じられない。さて層雲峡を代表する滝といえば、この銀河・流星の滝だが、銀河の滝と流星の滝は隣接しているものの、駐車場からは同時に見ることができない。そこで「双瀑台」という展望台まで登ることにした。急な山道を駆け上がって息が切れたが、壮大な2つの滝を見ると、その疲れも吹っ飛んだ。体力と時間が許せば、ここまで登ることをお勧めしたいポイントだった。

滝から戻り、国道39号のドライブを再開。来た道を戻り、石北峠を目指す。普段レンタルするヴィッツあたりと違って、2.5gツインカムなら厳しい峠も余裕でこなす。鼻歌まじりで石北峠をクリアし、留辺蘂へ。手前の温根湯温泉でショートカットし、置戸で国道242号に合流した。今度は5年前に廃止となった「北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線」沿線を走ることになる。つい最近まで列車が走っていたが、線路や駅舎がそのまま残っていたのにはびっくり。「ちょっと整備すればまた列車が走れるのになぁ」と思いつつ、池北峠を越えて陸別へ。そこで驚きの光景に出合った。

旧陸別駅が道の駅「オーロラタウン93りくべつ」になったことは下調べで知っていた。しかし、その道の駅で本物の列車が動いていたのにはビックリした。なんでも廃線から2年経過した2008年に「ふるさと銀河線りくべつ鉄道」として開業し、旧陸別駅構内の1`ほどを整備して列車を動かしているとのことである。それに加えて2,000円払えば、素人も列車を運転できるらしい。さすがにこの歳で、ひとりで運転体験に申し込むのは憚られたが、今度来るときには誰かを誘って、ぜひ列車を運転したいものである。ちなみにこの日の運転席にはプロの運転士さんが座っていたので、飛び入りで運転できたかもしれない…

陸別を後ろ髪をひかれる思いで出発し、国道242号を再び南下する。足寄からは道東自動車道に入り、帯広には1時間ほどで到着した。19時までクルマを借りているのに、まだ16時前。本土の感覚で行程を組んでいると、北海道ではやっぱり時間が余ってしまった。それじゃ競馬場に行くか!!

予定が早まったので帯広競馬場に参戦


第1障害をすんなりこなすばん馬たち


勝負どころの第2障害前に集まるファン達


決勝線をソリ後端が通過するとゴール


連泊した「ホテル日航ノースランド帯広」


部屋の窓から見える風景。右手には帯広駅


何度か紹介しているように、帯広競馬場は日本で唯一「ばんえい競馬」を開催している競馬場である。サラブレッドの倍の体重がある「ばん馬」が1t弱のそりを引っ張り障害を越えるレースである。この日から夏のナイター開催となったので、19時まで時間を潰すのにはちょうどよかった。しかし、こんなどうでもいいついでみたいな感じで競馬場に行くと、往々にして惨敗してしまう。よせばいいのに場外発売していた盛岡競馬場のレースにまで手を出し、こてんぱんにやられてしまった。結局、余分なカネを使ってホテルに戻ってきた。当然、ホテルの部屋では安いツマミでヤケ酒をあおるハメに…


アッパーデッキへの階段


午前3時50分の帯広。夜明けの早さに驚く


まもなく退役との噂が広がるジャンボジェット


ボーイング747のアッパーデッキの様子

翌朝、外が明るくなったので目覚めると(私は必ずといっていいほどカーテンを閉めずに寝てしまう)、まだ4時前というのに夜が明けていた。いくら夏至が近いといっても非常識な朝の早さである。北極圏では白夜の時期。高緯度の北海道も夜が短いのである。当然二度寝したが…

朝7時半すぎにホテル日航ノースランド帯広をチェックアウトし、8時前の特急で新千歳空港へ。往路では追分駅の信号故障で1時間15分遅れたが、ほぼ予定通りに空港に着いてほっとした。いつもは空港に来ると旅が終わった感じになり、「次に北海道に来れるのはいつだろう…」とか、妙に感傷的になってしまうが、今回はひとつ楽しみがある。JALでは退役になってしまった、ボーイング747-400(いわゆるジャンボジェット)で帰れるからである。アッパーデッキの2列目窓側は足元が広い特等席。ゆったりとした気分で羽田までの空の旅を楽しんだ。ANAの747-400は2015年度に全機退役となる予定なので、それまでせいぜい乗っておきたいと思う。
<おしまい>

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