The Last Summer Day 〜未完成の夏〜

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日照時間の短さでは記録的だった梅雨がようやく明けたかと思えば、どうにもすっきり晴れなかった盛夏の頃。そうかと思えば、台風襲来〜お盆休み前後の天候不順と、平成15年の夏はどうかしている。仕事で外回りをしている身にとっては『冷夏』は大歓迎だが、おかげで今年の夏は、あやうくツーリングにも出掛けないところだった。そんな中、ハンドルネーム『おとうさん』氏が当HPの掲示板に、耳寄りな情報を書き込んでくれた。豊橋市内を流れる豊川に、「牛川の渡し」という風情のある渡し舟があるから、ぜひ訪れてみては…という書き込みである。幸い、今度の週末は晴れて暑くなるという予報である。土曜の午前中に1件だけ仕事が入っているが、その後に出掛けても充分オツリが来る近さである。
そういうわけで8月23日の正午、ミニツーリングに出発した。「牛川の渡し」は豊橋市の北部にあるので、北周りのルートをとった。すなわち国道362号をたどり、本坂トンネルを抜けて豊橋に入る算段である。本坂トンネルは有料道路だが、私のバイクは僅か20円で通してくれるお得な道路である。

本坂トンネルを抜けると愛知県豊橋市


『牛川の渡し』は豊橋市中心部からほど近いが、こののどかさ


対岸は目と鼻の距離だが、付近に橋は無い


トンネルを抜けて10分少々で、目指す「牛川の渡し」に到着した。豊橋創造大学のすぐ北側で、場所はごくわかりやすい。豊橋市中心部からは約3`の距離だが、川の両岸はうっそうとした森で、のどかな風景が広がっている。それにしても時間が止まったかのような夏の昼下がりである。あたりには人の気配が無い。正確にいえば、詰め所に船頭さんが一人、時間を弄んでいるだけであった。
「船よび板」なるものを詰め所の前で見付けた。この板を叩けば船頭さんが出てきて、晴れて私は「船上の人」となる。しかし、対岸に渡っても、おそらくそのまま戻ってくることになるだろう。なぜなら、この渡しの上流にも下流にも2`ほど橋が無いからである(橋が無いのでこういう渡船が残っているのだが)。有料の渡船なら、トンボ返りもありかなとも思うが、この渡船は無料である。こんな「おのぼりさん」に、公務員たる船頭さんの手を煩わすのもどうかと思い、「船よび板」を叩くのをやめた。私は、次の目的地である伊良湖に向け、バイクのスターターを回した。
牛川の渡しでの静けさが幻であったかのような豊橋市内のトラフィック・ジャングルをやり過ごし、港湾地区へと歩を進めた。ここからは、上下それぞれ2車線ずつの快適なツーリング・コースである。合併によって「田原市」に昇格した渥美半島の集落を結んで、バイクは快調に走る。三河湾に面した県道2号線は、海水浴場に恵まれている。いろとりどりのビーチ・パラソルを横目に見ながら、今年はじめて「夏」を実感した。牛川の渡しから、ノンストップで1時間。伊良湖の海沿いにバイクを停めた。

下の板を叩いて対岸の舟を呼ぶ仕組み

伊良湖フェリーターミナル(道の駅・クリスタルポート伊良湖)は、この夏最後の盛況だった。来週は夏休み最後の土日なので、ここまで家族連れで賑わうこともないだろう。また、来週は秋雨前線が南下してくるようなので、夏の気配を漂わすのも今日が最後だろう。午前中仕事でなければ、多くの家族連れ客と一緒に対岸の鳥羽に渡っていたところだが、私にはクルージングを楽しむ時間的余裕は残されていなかった。鳥羽行きのフェリーの出航を見送ったのをしおに、私は帰途に就いた。今年の夏が未完成だったように、今回の私のツーリングも未完成に終わりそうである。まっすぐだが、起伏の多い国道42号線をトレースしていると、3年前の夏に、起点の和歌山から終点の浜松へ、この道を走り通した時のことが思い浮かんだ。と同時に、心の中に松岡直也さんの名盤「夏の旅」の上がりの2曲「虚栄の街」と「Uターン」がリフレインしていった…

<終>


伊良湖フェリーターミナルに到着の図

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