みちのく旅日記〜December,1996〜


1996年12月6日金曜日、豊橋駅発23時30分発の夜行バス「伊良湖ライナー」か らこの旅は始まった。ここ1週間くらい公私ともに無理に無理を重ねて、ようや く旅立ちの夜を迎えたためバスの車内では、あっという間に眠りに就き、再び目 覚めたのは東名足柄サービスエリアであった。(ちなみにこの時私は夢うつつで 足柄で用を足したのだが、トイレから戻ってバスの車内に戻るまで「ここは海老 名だ」と、思い込んでいた。
日付が変わった12月7日の午前5時ちょっと前にバチッと目が覚めた。バスは用賀料金所を出たところだった。
伊良湖ライナー/於東京駅
シートについているオーディオサービスのイヤホンからは、エリック・クラプトンの「 チェンジ・ザ・ワールド」が流れていた。しばし9月の岩国でのFENエアチェ ックを思い出す。「そういえば9月のFENは、この曲がヘビーローテーション でかかってたっけな・・・」夜明け前のビルの硲にクラプトンのしわがれ声が妙 にマッチし嬉しくなってしまった。上り大垣夜行(現在は「ムーンライトながら 」)もしかりであるが、夜行で浜松を発って朝を都心に入る手前で迎えると「さ ぁ、これから旅がはじまるぞっ!!」という気になるから不思議である。
つばさ111号/東京駅にて
もっとも渋谷の未明の雑踏でそんな気分も吹き飛んだが・・・(浜松駅前には、人っこひとりいねぇ時間だぜ!!いい若いモンがまっ たく!!)
東京駅から「つばさ111号」で山形に向かう。車内は蔵王にスキーに行こうと いう客が目立った。「そういえばスキー板のチューンアップがまだだっけ!!帰 ったらすぐ出そうっと・・」と思いつつ列車は北へ。目覚めが良かったため気分 はいたってハイで森高千里の「ララサンシャイン」の例の三連符の部分を口ずさ みながらの車内であった。福島からは板谷峠越えの難所。と言っても、それは今 は昔。「つばさ」は力餅で有名な峠駅もあっさりと通過し、米沢への下り坂を快調に歩を進めた。
つばさ111号車内にて
盆地に降りると栗子山(知る人ぞ知る「栗子スキー場」がある) の冠雪が朝日に眩しかった。「ついに雪国に入った」という感慨を新たにした。
山形で仙台ゆき特快「仙山」(山形〜仙台間ノンストップ)に乗り換えた。車 内は午前の都心方面ゆきということで立客がでるほどの盛況。山形で座れないと なると、自動的に仙台まで立ちんぼ決定!!となるだけに座席確保しまくり大会 となり、私もなんとか座席を確保した。この混雑の中で車窓を望むべくもなく、 もっぱらスポニチの競馬欄(明日は朝日杯<GI>)が旅の友となった。
特快「仙山」のサボ
仙台〜盛岡間は新幹線「やまびこ」でつなぎ、くだんの「盛岡走り」の末、特 急「はつかり7号」青森ゆきの車中の人となった。東北もずいぶん北の方まで来 たのだが沿線に雪はなくわずかに車窓遠くの山々が雪をかぶっているだけだった 。
そうこうしているうちに列車は北緯40度線を超え青森県に入っていく。岩手と 青森の県境付近の峠は「十三本木越え」といわれ、好撮影地のためSLブームの ころは全国からファンがカメラを持って殺到したそうな。ところで、私の愛用し ている時計はカシオの「G−SHOCK」で、現在の標高がわかるというスグレモノ。
特急はつかり7号
このような峠越えの時には、刻々と標高が変わっていくため観ていて飽きない(もっとも、車窓を観るのがおろ そかになるのが難点だが・・・)。
列車は三戸、八戸と青森県南部の主要駅に停車し、三沢へと向かった。車窓は おおよそ大陸的な感じとなり、空と大地との間を列車は駆け抜けてゆく。ひょっ とすると、道東に匹敵するくらいの牧歌的ムードがあるのかもしれぬ・・・三沢 に到着する数十秒前から今晩宿泊する「古牧グランドホテル」の広大な敷地が見 え隠れし、今晩の期待感が膨らんだ。
いったん三沢駅をやり過ごし、野辺地へと向かう。野辺地に近づくと、いきなり雪原が出現してきたのには、びっくり!!
この時までおお よそ12月に東北を旅をしているという実感の湧かないうららかな小春日和の中を 旅してきたのに、この劇的な車窓の変わり具合は感動的だった。
さて野辺地に到着して、今回の旅の第一の目的の南部縦貫鉄道の試乗に移る。 野辺地駅ホームから跨線橋を駅本舎とは逆に渡ったところが目指すレールバスの ホームである。既にレールバスは「ちょこん」と鎮座していた。大きさはマイク ロバスと同じくらい、いや、それより小さいかもしれぬ。
野辺地駅手前の雪原 <レールバス/野辺地駅> 及び <雪の野辺地駅>
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今まで特急列車にのっていたので余計に小さく感じたのかもしれぬ。車内に入ると これまた小さい。足を投げ出して座ったりしようものなら対面に座っている人の ヒザに当たりそうな勢いである。最近、若い衆の電車内の座り方のマナーがなっ とらん!!と感じていたが、そういうやつらはここで特訓を受けさせないといけ ない。
さて、定刻になり列車はスタート。いきなり物凄い轟音と腸ねん転になりそう なひどい縦揺れ!!地元の人は涼しい顔で乗っているが初めて乗ったこちらは面 食らってしまった。

レールバスの運転手さん
とても試乗どころではなかったが、それでも運転手さんの方を観察していると 、なんと右手でチェンジレバーを握り、左足でクラッチ(しかもダブルクラッチ )踏んでいるではないか!!ほとんどこの列車はバスの感覚だね。
揺れにもようやく体が馴染み、車窓に目を転じると林間の中を進んだかと思え ば、今度は牧場の中という感じで随分と変化に富んでいた。終点の七戸の手前で 雪はなくなり、またまた小春日和の中ホームに滑り込んだ。
七戸駅のまわりをざらっと一瞥した後、三沢に戻る算段を考えた。とりあえず 、来た時とは別ルートにしようと思い、バスで三沢に出る事にした。

右手でシフトは外車仕様?

林間の中を駆け抜けて・・・ 「早い黄昏」

七戸駅の駅本舎

夕陽を浴びるレールバス/七戸駅にて
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バスの運転手さん
道に迷いながらバス停を探し、やっと見つけた時 には、三沢への直通便が出てしまった直後であった(一日に数本しかない)。し かし、次善の策はあっという間に見つかった。十和田市までバスで出て、そこか ら十和田観光電鉄で三沢に出れば夕方には宿に入れるだろう。
およそ20分後、十和田市駅ゆきのバスに乗り込んだ。学生時代にバイクで北海 道に行った時に通った道「国道4号線」を経由するのだが、しばし学生時代を思 い浮かべ心が和んだ。
十和田市駅は、バスターミナルと鉄道駅そしてショッピングセンターが同居す る近代的な建物で、こんな所にこんなものが・・(地元のみなさんゴメンね)とビックリした。

十鉄バス/十和田市BTにて
ショッピングセンターで 今晩のホテルの部屋での晩酌と明日の朝食の済ませたのだが、店内はクリスマス 商戦まっさかり!!BGMには、定番の山下達郎「クリスマス・イヴ」がかかっ ていた。
この「クリスマス・イヴ」という曲が発表されたのは、1983年の4月。彼のア ルバム「MELODIES」の中の一曲として発表された。彼はこのころ「ラヴランド・ アイランド」など「夏!!海!!」のイメージがついてまわり、「どうにかして このイメージから脱却したい!!」と、この「クリスマスイヴ」を作ったと当時の彼のFM番組で聞いた。

十和田観光電鉄
発表当時、ファンからの評判 は良かったが、一般的にはマイナーな曲だった。それが1987年冬、JR東海のC Mに採用されて大ブレーク!!現在では「クリスマスソングといえばこの曲」に なってしまった。まさか発表当時の山下達郎もここまでのヒットは想像しなかっ ただろう。通算150万枚を超える売り上げを記録し、現在でも売れ続けていると いう超ロングセラーとなった。私もこの曲はカラオケの十八番だもんなぁ!?
さて、十和田市駅から三沢へ十和田観光電鉄に乗った。わりあい盛況で地域の 足として機能していることがわかった。

古牧第三グランドホテル玄関


古牧第三グランドホテルフロント と 外観
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館内のボウリング場
三沢駅から古牧グランドホテルまではすぐなのであるが、なにせ広大な敷地を 持つこのホテルのこと、敷地の中で10分くらい迷いに迷った挙げ句、ようやく予 約を入れてあった「古牧第三グランドホテル」に到着した。一応、仕事柄ホテル の中を案内してもらい30分くらい歩きに歩きまくった。当日ホテルでは「舟木一 夫ディナーショー」が行われていて、私は観なかったが、中年のご婦人方のグル ープが館内の至る所にはびこっていた。館内で目立った施設は、25メートルの室 内プール、30レーンくらいのボウリング場、そして中で迷いそうな大浴場とい ったところか・・・

夕食はこんな感じ
レストランで夕食をとった後、部屋に戻り三沢の夜景を観ながら水割りを飲ん でいたところ、まるで水割りの中に睡眠薬が仕込んであったかのように急速に眠 くなり、記憶がなくなっていた・・・目覚めたら午前2時。とりあえず先程見学 した大浴場にでも行くかと思いたった。しかし大浴場の前まで来てガーン!!風 呂の営業は夜の12時までだとさ(これで温泉旅館?)!!プスンプスンしなが ら部屋に戻っている途中で(これが往復20分かかる)ガードマンに呼び立てられ 、まるで不法侵入者のように取り扱われた。「こちとら、れっきとした客だぞっ チクショー!!」

未明の三沢市街(雪の朝)
部屋に戻って、気分直しにまた飲み直した。この旅の第二の目的であるFEN のエアテェックを始めた。1980年代のアメリカン・ヒッツがガンガンかかりまく り、途端に気分が良くなってくる所は現金なところ。それとともに昨日の朝バス の中で聴いたクラプトンの「チェンジ・ザ・ワールド」も流れてきた。もうこの 曲は今度の旅のテーマソングだね!!
「やけに冷えるなぁ」と窓の外を見ると雪が降っていた。
ベランダに出てみたら、昨日積もっていなかった雪があたり一面に積もってい た。気分直しだったはずの酒が、雪見酒に変わった・・・・

701系電車
結局午前2時から起きたままで、散々な目に遭ったホテルを後にすることにな った。三沢駅までの道はアイスバーンになっており、時間がないにも関わらず走 ろうにも走れないのには参った。三沢駅からは、左の写真の701系型電車(ただ し写真は八戸駅)を2つ繋いで五能線の乗り換え駅川部まで行った。東北線北部 の50系客車をこの電車に置き換えた時は「トイレがない」とか「ロングシートじ ゃ弁当が食べられん」などの理由で地元の方からも抵抗があったこの電車。今朝 の青森〜弘前(川部)の混雑からみると、置き換えも仕方なしといったところか ・・・

川部から五能線のディーゼルカーに乗り換えて、30分で五所川原に到着した。 五所川原からはこの旅の3番目の目的、津軽鉄道の「ストーブ列車」に乗り換え だ!!ストーブ列車は、津軽の冬の風物詩として全国的にも名が通っているが、 私も遅れ馳せながらようやくの試乗である。
なぜか、今日は前寄りに「サンタ列車」なるものを連結しており「一粒で二度 おいし」かった。カップルを見つけてモデルになってもらったのだが、名前を聞 くのを忘れてしまった。だれか左の二人に見覚えはありませんか?
クリスマス三題
古牧グランドHのツリー

サンタクロース(中身は・・?)とホームのデコレーション
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燃えしきるストーブ
ストーブ列車は基本的に客車のため、走り出してもレールの継ぎ目の音しか聞 こえず、耳を澄ますと窓の外を彩っている、降りしきる雪の音が聞こえてきそう だ。車内はかなりあたたかく感じ、ストーブの視覚的効果もかなり寄与している ようだ。
太宰の故郷、金木で「サンタ列車」に乗り込んでいた親子連れがあらかた降り て、車内はますます静かになった。私が思うに、クリスマスというのは「恋人た ち」のためではなく「家族」のためにあると思うのだが、みなさんはどうお考え だろうか?

降りしきる雪

ストーブ列車の車掌さん


雪原の中をゆく・・・

終点の津軽中里まで来れば、旅はもはや帰り道。ここからは酒を飲みながらの 旅である。
五所川原に戻り、弘前へは趣向を変えてバスで行くことにした。車内では日曜 日の午後にいつも聴いているFM番組「山下達郎のサンデーソングブック」を聴 く。旅先でこのようにFMを聴くのも結構好きな私である。
弘前からは、特急「たざわ4号」で秋田へ。朝日杯(GI)の結果が気になり つつも、歩を進める。秋田県の能代の手前で16時になり、こんどは「福山雅治の トーキングFM」にスイッチ。家で聴いてる分にはかなりすべっている福山のト ークも、列車の中で笑うに笑えない状況にある時に限って、笑えてきてしまうの だなぁ。
すっかり暗くなった秋田で、この旅の最後の目的である特急「秋田リレー」20 号に乗り込む。この列車は近々開業する秋田新幹線の工事で田沢湖線が休止し ているため、その代替ルートの北上線を東北新幹線と秋田の連絡のために走って いるのである。車両は急行で使用しているキハ110系をグレードアップして使用 している。もともとキハ110系は急行型としては豪華仕様であったが、さすがに 特急として使用するとなると外観を含めて見劣りは否めない。ただ、秋田新幹線 が開業してしまえばもう二度と乗車できないので、興味のある方は試乗してみて も良いと思う。

秋田リレー号の車内はかなりの混みようで、既に酩酊の状態となっている自分 には立つはめになり辛いものがあった。それでも、大曲で席にありつけ、再度飲 み直し!!「酒を飲むとタバコがうめぇやっ!!」とガンガン飲っていたら、斜 め前のご婦人からクレームが来た「少しタバコを控えてもらえませんッ!!」喫 煙車でタバコを吸うのはある程度自由だと思っていたが、考え違いだったらしい 。いくら私だって禁煙車でタバコは絶対吸わない(これが、私を鈍行列車から遠 ざけている最たる理由だが)のだから、こういうご婦人は、とっとと禁煙車に移 っていただきたい!!とまで言ったら言い過ぎだろうか?まぁとにかく酔いは一 気に吹き飛んだ。残ったのは苛立ち感だけであった。
北上からは「MAXやまびこ56号」の一階自由席に乗り込む。夜に乗る分ならMAX は横6列シートでリクライニングしない二階席よりも、横5列でリクライニング する一階の方が圧倒的に居住性が良い。デッキへのドアの上のスクロールLEDに は競馬の朝日杯の結果が流れ、自分の買い目が当たったことに、ひとりほくそ笑 んだ。新幹線なら東北と東京の間もあっと言う間で、まだ宵の内に東京駅高架ホ ームに列車は滑り込んだ。
東京からは、いよいよ通い慣れた道、東海道線である。373系特急型電車使用 の「ムーンライトながら」に乗り込めば浜松に着いたも同然である。以前の大垣 夜行のように出発1時間前からホームに並ばなくても、全車指定席だから絶対に 着席でき、気分も軽い。座席もリクライニングするからよく眠れる(ただし早朝3 時半に降りる事を考え眠らなかったが)。ずいぶん夜行の旅も楽になったもの だ。熱海を過ぎると駅名標がオレンジとなる。慣れ親しんだ故郷の色だ。三島、 沼津、富士、静岡と県内主要駅に停車し、勤務先の袋井を通過!!まさか、この 日出勤するはめに陥るとは思わなかった!!で、降りる支度を整えて無事浜松に 到着・・・しかし背中のリュックのお土産の重かったこと!!


この旅には、JR東日本が発売している「ウイークエンド・フリーきっぷ」を 使用しました。これはJR東日本の管内なら新幹線を含めた特急の自由席が乗り 放題という太っ腹のきっぷで、土日の2日間有効で15000円という破格の値段です 。という訳でこのきっぷの他には私は往路の「伊良湖ライナー」と復路の「ムー ンライトながら」の指定席および熱海から浜松間の普通乗車券、そして現地の私 鉄とバス代以外は交通費を支払っていません。計算はしていませんが、おそらく 普通にきっぷを買った場合に比べて、交通費は半額以下だと思います。みなさん もこのきっぷを使って雪国に旅立ってみませんか?(おわり)


旅と音楽のこころへ