出 陣 〜 嵐 の 中 へ
朝一番の船は引き返したらしい

メイストームという言葉があるぐらいだから、5月の嵐には気をつけなきゃいけない。でも、よりによって旅立ちの朝に直撃するとはね…。まぁとにかく、雨が小康状態になったのを見計らい、朝4時台にバイクで浜北駅に向かった。いつ電車が止ってもおかしくない天候なので、遠鉄電車も始発に乗ってしまおうという算段である。

結局、遠鉄も新幹線もダイヤ通りに動いたが、静岡から乗車予定の在来線でつまづいた。時間雨量の規制値を超えたとのことで、興津〜富士間が不通となってしまった。本来なら沼津行きのホームライナーに乗車するところを、大雨の影響を受けていない新幹線に変更し、三島に向かった。在来線の不通区間をクリアして三島駅に到着すると、今度は下りの静岡方面に向かう乗客で大混乱だった。また静岡方面からやってくる上り列車が止っているので、熱海方面行きの列車も大幅にダイヤが乱れていた。

さて最初の目的地は、静岡県内唯一の離島である初島。新幹線の車内から富士急マリンのホームページをチェックしたところ、初島行きの高速船は通常運行となっていた。しかし熱海港に着いてみると午前中の便は全便欠航になっていた。なんでも始発の初島行きを運航させたら、初島港で4mの波があって接岸できず、ほうほうの体で戻って来たとのこと。午後イチの便に乗ったとしても、行った船で戻らない限りは、今日中に長野までたどり着けない。無念ではあるが、富士急の株主である限り、また初島に行ける機会もあると思い、熱海駅行きのバスに乗った。

富士急の株主優待券2枚をフイにしてしまったが、あと3枚は活かさねばならない。三島駅10時55分発御殿場駅行きの路線バスに狙いを定め、熱海発10時15分ごろの下り列車で三島に向かった。相変わらずダイヤは乱れており、この列車の後は11時すぎまで下り列車がないらしい。すんでのところで命拾いをした。


初島行き高速船の乗船はまたの機会に


再び三島駅。甲府までの路線バス旅が開始


東海道線が不通〜新幹線で三島へ


富士吉田の金鳥居と富士山


富士山駅東口の鳥居にて筆者


甲府のB級グルメ・鳥もつ煮


身延線ホームで甲府城の櫓発見

松本行き特急あずさ21号に乗車。元々の予定では、甲府を20時34分に発つ予定だったので、4時間繰り上がっている。今まで固い路線バスのシートに座り続けていたこともあり、最新鋭のE353系のリクライニングシートに、すっかりメロメロにされてしまった。また、進行方向右側のシートを予約したので、八ヶ岳が見放題。これも予定が4時間繰り上がったおかげであるので、初島に行けなかったのが帳消しにはならないが、若干取り戻した感はある。

八ヶ岳が終わると、今度は諏訪湖。座っている側とは逆になるが、諏訪湖が夕日に照らされていた。岡谷を出ると中央分水嶺を貫く長いトンネルに入り、それを出ると高原地帯となる。中央東線をこの時間に乗るのは初めてということもあり、とにかく車窓に飽きることなく終点の松本に到着した。一方、松本からの篠ノ井線は、特急しなの19号に乗車。長野までの区間で楽しみなのは、日本三大車窓である姨捨からの善光寺平。18時半過ぎの通過だったが、この時期ならまだ薄明りが残るので、こちらも堪能することができた。そんなこんなで19時ころ長野に到着し、嵐のち晴れの一日目が終了した。


格安だが居心地のよいホテル日興


ナカジマ会館の駅そば(長野駅)

素泊まりで4,080円という格安の割には、部屋が広くて居心地が良かった、ホテル日興を9時半すぎにチェックアウト。長野駅まで徒歩数分なので、それほどアクセスが悪いわけでもなく、コスパの良いホテルだった。川中島古戦場へ向かうバスは10時15分発なので、待ち時間を活かして駅ビルの立ち食いソバ屋に寄った。長野駅で駅弁販売をしていたナカジマ会館という店で、駅弁は止めてしまったが、立ち食いソバは2015年に復活させたとのことわり書が掲げられていた。昔のようにホームにあれば旅情的にベストであるが、たとえ駅ビルの店舗であったとしても、地元の人には復活を歓迎されたのだろう。

アルピコカラーの川中島バスに乗って、川中島古戦場には20分ちょっとで着いた。セコイようだが、長野駅からここまでの運賃は470円。飯田行きの高速バスは、長野駅で乗ろうが、ここから乗ろうが運賃は一緒なので、470円を重複して払っている形になる。まぁ今度の旅の目的のひとつがここの見学なので致し方ないのだが…。

川中島古戦場一帯は広大な公園として整備されていて、その一角に八幡社がある。ここの境内に「信玄・謙信両雄一騎討ちの像」があり、川中島古戦場の随一のビュースポットである。さて、昭和63年の大河ドラマで「武田信玄」を観て以来、私は戦国武将の中で武田信玄が最も好きなのだが、戦国武将の中で最強を誇ったのも信玄の軍ではないかと思う。ただ俗にいう三英傑より15年から20年も早く生まれており、最終的に歳には勝てなかったということだろう。

八幡社の境内をひととおり見て回り、広大な公園を一周してしまうと、やることがなくなってしまった。まだバスの発車時刻まで2時間近くある。そこで園内にある、立ち寄る予定のなかった長野市立博物館に入館することにした。館内収蔵品を足早に見て回り、残った時間は館内の休憩室で、旅の画像の整理などをして過ごした。WiFiが飛んでいて、なおかつコンセントも使えたので、入館料の240円の元は取った。

古戦場のバス停に飯田行きの「みすずハイウェイバス」が到着したのは、定刻より少し遅れて13時15分ころ。ここからはアルコール解禁で、白昼堂々「走る居酒屋」を始めた。安曇野付近で見える、進行方向右手のアルプスの山々は、まだ雪を被っており、手前の山々の新緑とのコントラストが美しい。こんな感じで飯田までの2時間半を優雅に過ごして、定刻より少し早めに飯田駅に到着した。

高速バスが早く着いたので、飯田15時58分発の特急伊那路4号に間に合ってしまった。本当なら16時19分の鈍行列車に乗る予定だったが、この時間帯の列車は帰宅する高校生で混むので、思わず特急料金1,180円を払ってしまった。まぁ「走る居酒屋」のテーブルチャージだと思えば、それほど高いものではない…。

特急の威力で、水窪駅には予定よりも1時間近く早く到着した。水窪に早く着いても、次に乗るバスは変わりない。18時31分発なので、1時間半近くの待ち合わせである。谷あいの町・水窪では早々に太陽が山の端に隠れてしまい、冬場だとバスを待つのも命がけであるが、初夏ならばボケーっと待っていても大丈夫。水窪川の流れを見ながら、妄想にふけっていた。

この旅の最終走者は、遠鉄バスの西鹿島駅行きの路線バス。既に報じられているとおり、西鹿島駅と水窪を結ぶ北遠本線は、今年の9月末をもって遠鉄が撤退し、他社に移管される予定である。移管後の運賃等は発表されておらず、もし大幅値上げとなれば飯田線と絡めて利用するのも今回が最後になるかもしれぬ。そんなわけで、690円で乗れるうちに乗っておこうと思い、今回の利用となった。北遠本線に限らず、地方のバス路線は衰退する一方である。今度の旅は路線バスにたくさん乗ったが、今後も地方の路線バスを応援するために、乗れる時にはどんどん乗って行こうと思う。

土砂降りの中、御殿場駅行きのバスは発車した。電車が止るような大雨でも、よっぽどのところまで路線バスは動くので心強い。三島〜御殿場間は所要50分。沼津駅での御殿場線の接続次第では、電車よりバスの方が御殿場に早く着くこともありそうだ。御殿場駅で25分の待ち合わせで、次の河口湖駅行きのバスに乗車した。かなりの悪天候であったが、籠坂峠を無事に越えて山梨県へ。山中湖畔を走るころには、雨も小降りになってきた。

富士山駅にはダイヤ通りに到着。雨はすっかり上がっていた。今度は38分の待ち合わせ時間があるので、さきほど通ったときに気になっていた金鳥居を見に行くことにした。鳥居の先にはくっきりと富士山が現れ、さきほどまで嵐のような大雨が降っていたとは、とても信じられない。富士吉田の町をぶらぶらしているうちに時間は過ぎ、甲府行きのバスの発車時間が近づいた。駅に戻って14時発のバスに乗車。狭いシートで窮屈だが、ここから酒盛りを始めた。予定では甲府駅で特急に乗ってからと思っていたが、もう我慢できなかった。


籠坂峠を越えて山中湖まで来ると天候回復


御殿場からのバスを富士山駅で下車

急速に天候が回復し、酒も入ったことで気分が良くなってきた。こういう時には爽快な曲を聞きたいと思い、「ロック・メイカー」というこんな雰囲気にぴったりの曲を収録している、TOTOのデビューアルバムを聞いてみた。「ロック・メイカー」もさることながら、久々に聞いた「ユー・アー・ザ・フラワー」が出色であった。TOTOの主要メンバーである3人、すなわちドラムのジェフ・ポーカロ、キーボードのデビッド・ペイチ、そしてギターのスティーヴ・ルカサーが、後半部のリフで絶妙なハーモニーを奏でている。今まで何度も聞いたはずなのに、なぜ今までこの曲の良さを気づかなかったんだろう。TOTOの最高傑作アルバムの「聖なる剣」に収録されていても違和感がない。そんな曲を聞きながら、霧が徐々に晴れていく御坂みちを下っていった。

15時半すぎ、甲府駅に到着した。三島から所要4時間半、3本を乗り継ぐ路線バスの旅は、ある意味では修行の旅である。ここで修行の疲れを癒したい。次の列車まで小1時間あるので、ちょっと甲府の名物を試してみよう。というわけで、B級グルメとして名を上げた「鳥もつ煮」を、駅ビルのラーメン屋で食べてみた。今から40年以上前の小学生の頃、地元に肉屋があり、そこで親父が鳥もつを買ってきては晩酌のツマミにしていた。私も一口食べてみたが、独特のクセがあり、子どもの口には合わなかった。それ以来ぶりに食べたが、やっぱりもつ煮は牛に限ると思った。


御坂みちを下るとともに霧が晴れてきた


3本の富士急バスを乗り継いで甲府駅に到着


予定より4時間早く特急あずさ号に乗車


初島に行けなかったため八ヶ岳が拝めた


日本三大車窓のひとつ姨捨からの善光寺平


19時ごろ長野駅に到着して一日目終了


早暁、ホテルより長野市役所方面を望む


アルピコカラーの川中島バスで古戦場へ


第四次川中島合戦の舞台に立つ八幡社


信玄・謙信両雄一騎討ちの像にて筆者


古戦場にあるこうした合戦地図が大好物


梓川SAにて休憩停車中のみすずHWバス


213系に乗るつもりがついつい特急に日和る


余命わずかの北遠本線西鹿島駅行きバス

<終>

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