年 越 し の 夜

混雑する浜名湖SAを避け三方原に佇む昼特急


2009年3月のJRダイヤ改正が発表され、ご存知の通り寝台特急「はやぶさ・富士」号の廃止や、「ムーンライトながら」号の季節列車化等の夜行列車の削減が図られることになった。場合によっては大阪と新潟を結ぶ夜行急行「きたぐに」号も合理化されるのではと心配になり、ダイヤ改正発表直前の12月中旬に、「きたぐに」号での年越しを含む乗り継ぎの旅を計画した(結果的には取り越し苦労であったが)。それが今回の旅である。

旅行当日の2008年の大晦日。私は朝からハイウェイバスの運行状況チェックに余念がなかった。年末年始の里帰り渋滞は分散化の傾向にあり、大晦日になっても結構な渋滞が予想されたからである。私が予約している「東海道昼特急大阪5号」は東京駅を13時10分に発車し、大和・綾瀬の渋滞部に引っ掛かるものの30分程度の遅れで県内に入ってきた。これなら、予定通りに自宅を出発しても、バス停で待ちぼうけを食らうことはあるまい…。

東名浜松北バス停、17時15分。定刻より20分遅れで昼特急に乗車。発車して3分も経たないうちに、三方原PAにて15分の休憩タイム。所定なら浜名湖SAで休憩するところだが、年末の混雑を避けてこちらに寄ったものと思われる。さぁリスタートと行きたいところだが、三ケ日ICで乗務員交代のため運転停車。結局、静岡県を脱出したのは18時過ぎで、ここが「東海道昼特急」の泣き所である。まぁ急ぐ旅ではないのでいいが…。

豊田JCTまでは交通量が多く、平均80`程度のスローペースだったが、伊勢湾岸道からは本来のスピードに回復する。途中、甲南PAで休憩したものの、大阪駅到着時には遅れを解消し、21時15分に桜橋口バスターミナルに降り立った。

実は、あまり早く着いてしまうのも痛し痒しで、急行「きたぐに」発車までは、まだ2時間以上もある。寒風吹きすさぶホームで待つわけにもいかない。というわけで、大阪駅の上にあるホテルグランヴィア大阪19階のパブレストラン「アブ」に立ち寄った。大晦日にキタの夜景を見ながら、芋焼酎のロックグラスを傾けるというシチュエーションは、今後の人生でもまず経験しないだろう…。

そろそろ「きたぐに」の出発時刻が気になりだした23時頃、「アブ」を引き払い、10番線ホームに向かった。ホームに上がると、ほどなく「きたぐに」が入線。製造以来40年以上経過した583系が、その巨体をホームに横たえた。久々に普通車自由席に乗車するため、「満席だったらどうしよう」と心配していたが、大阪駅発車時点では各ボックスに1〜2名が座るだけの状態で、正直拍子抜けだった。


きたぐに乗車前にグランヴィア大阪で夜景鑑賞


2008年も残り僅か。大阪駅にきたぐに入線


時計は午前0時。京都停車中に新年を迎えた


昭和の夜汽車の風情を残すきたぐにの自由席


急行きたぐに4号車での一夜


まだ夜が明けぬ直江津できたぐにを見送る


信越線直江津〜長野間では雪景色を望む

23時27分、大阪駅を発車。京都停車中に0時を回り、人生初の「夜汽車での年越し」を体験した。もとより、昼特急、グランヴィア大阪、そして「きたぐに」車内と、いいペースで飲み続けていたため、年が改まる瞬間は定かではなかったが…。

京都を発車したところで「おやすみ放送」が入り、懸案だった寝床も確保できている。「せめて雪景色が見えるところまで」と、眠い目をこすりながら水割りをチビチビやっていた。とにかく車内の雰囲気は、私の学生時代に北陸ワイドでねぐら代わりにした頃から、全くといっていいほど変わっていない。まさに「昭和の夜汽車」の雰囲気。平成も21年目に入った今では貴重な存在である。ホームに雪が積もる敦賀を出発した頃には、私もその夜汽車の雰囲気を醸し出すメンバーのひとりになっていた…。

金沢、富山と大きな駅に停車するたびに目が覚めたが、肘掛を枕にして、寝る態勢を固めると、すぐに眠りに落ちる。シートのサイズが大きいので、急行型電車を使用していた往年の大垣夜行よりも快適に寝られる。そういえば、北陸ワイドで夜行折り返しをしていた学生時代も、あまりの快適さのため寝過ごしてしまったっけ…。

結局、直江津到着10分前まで快眠し、「きたぐに」の一夜は終わった。その後は「おまけ」である元旦の乗り継ぎ旅。妙高高原付近で一面の銀世界を眺めたり、長野駅で国鉄急行色と対面したりと、それなりに収穫はあった。そして最後は、振り子電車の豪快な走りを堪能。定番の姨捨付近の車窓や、寝覚ノ床をカメラに収めつつ一路名古屋へ。車内で短い旅を振り返りながら考えた。「こんな旅を、あと何度できるだろうか…」

長野駅で国鉄急行色の169系に再会


長野から一路名古屋に向け特急しなのに乗車


日本三大車窓のひとつ。姨捨からの善光寺平


木曽路の車窓のハイライト。寝覚ノ床

<おしまい>

旅と音楽のこころへもどる