国道42号 海と山の道


吉野熊野国立公園「鬼ヶ城」にて筆者

2000年にCB125Tを買い、その年に和歌山から浜松まで国道42号をバイクで完全走破した。今回の旅は、交通手段こそバイクから路線バスに替わっているが、紀伊半島の多くの区間で国道42号を走っている。22年ぶりの本州最南端の国道の様子は実のところそれほど変わっていない。それでは、アプローチである近鉄ビスタカーⅢ世から始めよう。

近鉄30000系電車は、それこそ私が鉄道趣味を始めた頃から走っている電車だが、かれこれ44年も経つのに、まだまだ乗りたいと思わせるところがすごい。シートやカラーリングなどは、たびたびリニューアルをしているが、それでも基本構造はそのままなので、デビュー当時にいかに将来を見据えていたのかが分かる。2階からの眺めもさることながら、階下席のサロンシートは小グループの旅に最適で、仲間内の呑みテツ旅でたびたびお世話になっている。

松阪でそのビスタカーを降り、三交南紀行きの発車まで時間があるので、バス停をひとつぶん歩くことにした。この日は前日までの天候不順が嘘だったかのように晴れ上がり、真夏の青空が戻っていた。バス停ひとつぶん歩いただけだったが、一気に汗が噴き出した。

松阪中央病院始発の三重交通「熊野古道ライン」のバスは、5分ほど遅れて新町1丁目のバス停に到着した。次の松阪駅前バス停で7分ほど時間調整があるので、それを見越しての運行なのか。とにかくこの5分が暑かった。駅前でかなりの客を乗せて発車。ほとんどの人は1時間ほどで着く多気町のVISONで下車し、最初の休憩場所である道の駅奥伊勢おおだいで車内にいたのは運転手さんと私だけだった。

3月に下車した柏崎バス停を過ぎ、荷坂峠を下ると三重県ながら伊勢から紀伊の国へと移る。紀北町の海山バスセンターで2度目の休憩となりバスを降りると、夏の日差しがいくぶんやわらいでいた。この後、尾鷲市街地を抜け、熊野古道センターに寄り、厳しい山越えをすると熊野市に入る。今度はつづら折りの下り坂。海が見えると鬼ヶ城東口バス停の案内があり、降車ボタンを押した。新町1丁目のバス停を発車してから4時間とちょっと。運賃は2,650円だが、株主優待券を運賃箱に入れた。


1978年に登場以来44年! まだまだ活躍が期待できる近鉄ビスタカーⅢ世


三重交通 熊野古道ラインにまたまた乗車。動画の方は3月に下車した柏崎以降が中心


熊野市鬼ヶ城バス停より三交バス新宮駅前行きに乗車。和歌山県に越境する


夕闇迫る新宮駅から紀伊勝浦駅まで227系1000番台に乗車。本州最南端を走る電車

国立公園の鬼ヶ城まで5分ほど歩き、ほんの少しだけリアス式海岸特有の奇岩を眺め、すぐ折り返し。鬼ヶ城始発の新宮駅前行き三交バスに乗車した。こちらはすぐに熊野市街地に入り、その後は海沿いの国道42号を、丹念にバス停に停まりながら走って行く。七里御浜とよばれるロングビーチが見え隠れし、非常に景色が良い。45分くらい乗っていると、ようやく熊野川の左岸に取り付き、熊野大橋で熊野川を渡り和歌山県に入る。三重交通と名乗りながらも越境し他県を走るのは痛快である。終点の新宮駅前まで乗り通して、所要54分。運賃は1,030円だが、こちらも株主優待券を利用した。ちなみに三重交通の株式100株所有で、半期に一度2枚の株主優待券をもらえる。三重交通の2022年7月22日の終値は486円なので、48,600円の投資で毎年2回こんなバスの旅が楽しめるというわけだ。なんかすぐに元が取れそうだと思うのは私だけだろうか。

新宮駅で来月の旅のキップを発券しようと思ったら、みどりの窓口が廃止され、代わりに「みどりの券売機」が一台置かれていた。複雑な経路を株主優待券を利用して発券するつもりだったので、一瞬躊躇した。しかし、やくものパノラマグリーン席を押さえねばならず、背に腹は代えられない。インターホンボタンを押すと25人待ちで10~15分かかるとの表示が出た。このまま待っていたら、私の後ろに次々に人が並び行列ができた。インターホンでやりとりして発券はできたが、後ろに待っている人の事を思うとやるせなかった。新宮駅といえば、特急くろしお号の終点の駅であり、JR東海とJR西日本の境界駅。窓口廃止はしかたないとしても、みどりの券売機をもう2台くらい増設してもいいのではと強く感じた。

新宮駅での44分のアイドリングタイムは、ほぼ券売機の前で過ごし、18時04分の紀伊勝浦行き鈍行に乗車する。227系1000番台のロングシート仕様だが、それまでに走っていた105系などと比べると、新車投入なので通学生の受けは間違いなくいいと思われる。帰宅する高校生と一緒に海沿いを20分ちょっと揺られながら紀伊勝浦を目指した。

紀伊勝浦駅には18時26分着。山の端に日が落ちてはいるが、まだまだ明るい時刻である。駅から徒歩10分ほどのホテルサンライズ勝浦に素泊まり予約を入れており、19時前に到着。久々の温泉宿で露天風呂が気持ちよかった。

翌朝は早起きして太平洋から昇る日の出の様子を撮影した。こう書くといかにもゆったりと旅館の朝を過ごしたようだが、なにせ紀伊勝浦駅前を6時35分に発車するリムジンバスに乗らねばならないので、いくら早起きしたとはいえ朝の時間は余裕がない。最後にはバタバタでホテルをチェックアウトし、駅に急いだ。

熊野御坊南海バスの南紀白浜空港行きリムジンバスの乗客は私ひとりだけだった。紀伊勝浦駅前を発車するとほどなく国道42号に入り、それから周参見まで、おおむね海沿いの国道42号を延々と走ることになる。昨日もそうだったが、一般道を走る長距離路線バスを乗り継ぐ旅はそう悪いものでもない。それは信号停車が少ないこの道を走るから感じることかもしれないが。


18時30分ごろ紀伊勝浦駅に到着


ホテルサンライズ勝浦に素泊まり予約


オーシャンビューの部屋に泊まり温泉も


早朝の静かな海を眺めながらコーヒーを一杯


サンライズ勝浦の部屋から眺めた日の出の様子。おまけで夕暮れの海岸も収録


熊野御坊南海バス運行の南紀白浜空港リムジンバス。勝浦からでもたっぷり2時間


リムジンは終点の南紀白浜空港に到着

紀伊勝浦を出ると太地駅に停まり、次の停車は串本町内のバス停である。有名な橋杭岩を過ぎ、串本駅でトイレ休憩(乗客は私だけなので休憩は辞退)。ふたたび国道42号をひた走り、すさみマリオットという道の駅すさみ最寄りのバス停を通過すると、いよいよ国道42号と別れ紀勢自動車道へ。すさみ南ICから南紀白浜ICまで高速道を経由する。とはいえ無料の対面通行の道路ではあるが。

制限速度が低いとはいえ、国道を走るよりかなり時間を短縮して南紀白浜へ。インターから空港へも通行量が少なくスムーズに走り、定刻で南紀白浜空港に到着した。勝浦からの所要時間は約2時間。風光明媚な海沿いを走る、リムジンバスの枠を超えたクルーズバスという感じだった。

JAL212便は南紀白浜空港を9時35分出発。ボーイング737-800による運航で、今回はクラスJシートをおごった。紀伊勝浦に宿泊しているので、わざわざ白浜から羽田まで飛行機に乗らずとも、特急南紀号と新幹線の方が早くて安いのでは、と旅を計画した私でもそう思う。というのも1年に1回は「初回搭乗ボーナスマイル」を貰わないと気が済まないので、7月に入ると俄然「JALに乗らないと」と焦り出すのである。

久々のクラスJは快適だったが、いかんせん距離が短すぎる。安定飛行に入り、一息ついて窓の外を見るともう伊豆諸島が見えていた。その後は房総半島経由で東京湾を半周し、羽田空港に着陸。なんともあっけない空の旅だった。

京急で品川に出て、普通なら新幹線で浜松に戻って旅が終了だが、今年初めて小田急の株主優待券を貰ったので、この機会に使っておきたい。わざわざ新宿に出て、12時ちょうど発のロマンスカー「はこね55号」に乗車。使用車両は初めて乗車するEXEαだった。この車両は小さな子どもたちが「ロマンスカーじゃない」と泣いて怒ったという逸話があるが、乗ってみると快適な車両だった。

私の一列前には小学校低学年の兄弟とおぼしき2人が、新宿駅で見送りの母と別れ、2人で伊勢原まで乗車するという、夏休みならではの光景が見られた。その伊勢原を出ると次は小田原。ここからがロンマンスカーの走りが冴えるところ。残念ながら富士山は雲に隠れていたが、山あいのワインディングロードを車体を揺らせながら快走。昼間から呑みテツに励んでいた私は大いに溜飲を下げたのだった。


南紀白浜空港から羽田空港までJALのJクラスシートでひとっとび


小田急のロマンスカーは何度も乗ったが30000形EXEに乗るのはこれが初めて
パート2 パート3 の動画もあります


<おわり>

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