世界遺産まで行けなかったよ… | 大阪・伊丹空港に駐機中の長崎行ANA781便 |
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JR線を実質的に完乗した後、とりあえず日本の離島めぐりをしてみましょうということで始めた「島シリーズ」だが、本土と北方領土を除いて面積が100平方キロメートル以上ある22の島も、未訪地はあと2つとなっている。今回はそのうちのひとつ、五島列島の中通島を訪問することにした。
中通島のある新上五島町は、今年6月に世界遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産である、頭ヶ島の集落〜重要文化財頭ヶ島天主堂を含む、重要文化的景観「新上五島町崎浦の五島石集落景観」があるということで脚光を浴びた。せっかく中通島を訪れるので、そこに真っ先に行くべきだったが、行程のうち最も奥まった場所なので、「時間があれば行きましょう」的なスタンスになってしまった。 かつて上五島空港や小値賀空港への定期便が就航していたころは、上五島への空路でのアクセスが可能であったが、現在では船便に頼るほかはない。長崎港や佐世保港から高速船やフェリーが就航しており、今回は長崎港より奈良尾港へのフェリーで島に渡ることにした。すなわち長崎空港まで空路を使い、リムジンバスで長崎港に近い大波止バス停まで行き、12時30分発のフェリー万葉に乗船。浜松駅を6時30分過ぎに発車する、下り始発のこだま号で出発し、ほぼスムーズな乗り継ぎをしても、中通島への到着は15時過ぎになるので、距離もそうだが、時間的にいかに遠いかが分かる。 | ||
長崎港フェリーターミナルで出航を待つ乗客は、ほとんど島に住んでいるか、島に用事がある人達で、長崎市内でよく見る外国人観光客は一切いなかった。世界遺産の島でありながら、その後に巡った教会などでも外国人観光客には出会わなかったので、いまどき逆に新鮮な感じだった。船内に案内されると桟敷の区画がいくつもあり、このごろのフェリーで見掛ける詰め込み感がなく、固定座席は「バリアフリールーム」という部屋に申し訳程度にあるだけだった。いうなれば「昭和の船旅」。この日は早起きだったので、絨毯敷きの桟敷に寝ころび、お昼寝タイムとしゃれこんだ。
長崎港から奈良尾港へは所要2時間30分。1時間も昼寝すれば自然と目覚めてしまうため、やることがない。「それじゃあ」と船室を出て、甲板に上がりデッキで潮風を浴びた。晩秋の11月とはいえ風は冷たくなく、眠気を覚ますのにはちょうどいい感じの潮風だった。そうこうしているうちに中通島が見え始め、福見鼻と呼ばれる断崖の近くを通れば奈良尾港は目前である。 奈良尾のトヨタレンタカー営業所でヴィッツを借り出し、まずは目と鼻の距離にある米山展望台に向かう。営業所のスタッフによると、日本の西の端に位置する上五島でも、この時期は18時には真っ暗になるとのこと。借り出しの手続きなどもあり、クルマで走り出したのは15時30分ころなので、有効時間帯は2時間ちょっとっしかない勘定である。国道を北上し、カーナビの指示どおりに左折を2回して、細い山道に入った。ところが、その山道に入った途端にカーナビが動かなくなった。道路の上に被った木々の枝が、衛星からの電波を遮ってしまうのか、現在地を示すポインターは海の上を指したりしている。地図上ではすぐ近くにあったはずの展望台が、坂道をどれだけ登っても一向に出てこないので、すっかり混乱してしまった。展望台への丁字路が出てきたのは、山道を登り始めて10分ほど。しかし、感覚的にはその倍の時間に感じた。 米山展望台は、十字架の形をした中通島の下の方、つまり地形が狭くなっている場所にあり、島の東側の奈良尾港、島の西側の若松島を見渡せる。山の頂上にある展望台の建物まで、息を切らせながら登ったが、苦労してでも登った価値がある場所だった。 次の目的地は、高井旅海水浴場。中通島のビーチなら蛤浜の方が有名だが、少しでも光線状態がいい状態で写真を撮りたいので、米山も高井旅もドライブの最初の方で回ることにした。ビーチに着くと、太陽は既に山影に隠れており、ビーチの半分は日陰になっていた。日当たりのいい方の半分で、なんとかビーチっぽい画像が撮れて、ギリギリ間に合った感じだった。離島ゆえに海がきれいなので、お盆前の海水浴シーズンに来れたら最高だったろうが…。 奈良尾港の近辺をウロウロしているうちに、時計は16時をとうに回っていた。次は十字架の上の棒の左側の付け根にある大曾教会に向かう。国道384号を北上するが、地元のクルマに頭を抑えられて、なかなかスピードが上がらない。「絶対に頭ヶ島天主堂まで回ってやる」と心に決めていれば、無理やりにでも抜いていくところであるが、先にも述べたとおり「時間があれば行きましょう」というスタンスゆえ、イライラしない。そのうち青方の市街地に入り左折した。 |
五島列島への玄関口である長崎港ターミナル |
奈良尾港までの2時間半は桟敷で寝転がった |
昼寝の後はフェリーのデッキで風にあたる |
奈良尾港到着直前、中通島の断崖が見えた |
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奈良尾港ターミナルから旅が開始 |
長崎と五島列島を結ぶ九州商船フェリー万葉 |
中通島での最初の訪問地は米山展望台 |
青方の街中から5分ほど海沿いを走ったところに大曾教会があった。漁港の端っこにある駐車場にクルマを停めて、10〜20メートルほど階段を登った丘の上に教会が建っていた。レンガ造りの重厚な建物で、竣工は1916年。今年で102歳の建物である。教会の周りは住宅地で、地域の教会という佇まいだった。
さて、大曾教会を出発する前に、今後の予定を組み立てることにした。世界遺産の頭ヶ島天主堂と並ぶ国指定重要文化財の青砂ヶ浦天主堂は、ここから15分ほどの距離。おそらく17時前には到着可能だろう。問題はその先の頭ヶ島天主堂。青砂ヶ浦から20キロ以上離れており、上五島空港からの無料シャトルバスの実質的な終便である17時30分には間に合いそうもない。おまけに天主堂の見学前に電話をしろとかうるさいことを言うので、別にどうでもよくなってきた。結局、頭ヶ島まで行くのはこの時点であきらめて、「世界遺産まで行けなかったよ…」ということになってしまった。 まぁとにかく、日没前に蛤浜までは行きたい。大曾教会から国道に出て、すぐに左折。十字架の上の棒の部分にある青砂ヶ浦天主堂に向かった。漁師町の海沿いの通りのすぐ横、坂を上がったところにその教会はあった。赤レンガ造りで、とんがり屋根の部分に漢字で「天主堂」と入っている。クルマを降りると、ちょうど帰るところだったらしい教会の案内スタッフらしい人に声を掛けられ、建物の中に入れさせてもらった。撮影禁止で残念だが、夕刻の薄暗い光に浮き上がるステンドグラスが幻想的だった。 |
米山展望台より奈良尾港方面を望む |
奈良尾の逆方向は午後の太陽が煌く多島海 |
キャンペーンで3割引のヴィッツ 竣工102年目の大曾教会 青砂ヶ浦天主堂は、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の土台となった世界遺産暫定リスト「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の構成資産だったが、潜伏キリシタンに焦点を絞る形で再検討され、結果的に構成資産から外れることとなった。まさにこの旅に相応しい天主堂で、「世界遺産になれなかったよ…」とボヤキが聞こえてきそうである。それでも、私はこの教会を見て満足し、「上五島まで来て世界遺産を見ずに帰るのもいいもんだ…」とやせ我慢でなく、心からそう思った。
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誰もいない海〜高井旅海水浴場 |
秋の日はつるべ落とし。早くも山に隠れそう |
国指定重要文化財の青砂ヶ浦天主堂 |
頭ヶ島教会を諦め最後の訪問地は蛤浜ビーチ |
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一夜を過ごした有川ビーチホテル浦 |
クジラのオブジェが鎮座する有川港ターミナル |
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有川と長崎を結ぶ高速船シープリンセス |
長崎空港でようやく五島うどん(地獄炊き) |
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<終> |