憧れの「いなほ」グリーン車
憧れの特急いなほグリーン車にて筆者

旅の前日、羽越線特急いなほが前面運休という知らせに恐れおののいた。おまけに中部→秋田のANA便も午前中の便が欠航となったらしい。それもこれも冬型の気圧配置となって、日本海側で強風が吹き荒れ吹雪となったためである。「明日もいなほが動かなかったらどうしよう」と思い、さまざまな場面をシミュレーションした。まずは秋田行きの飛行機が飛ばなかった場合。これは逆回りのコースにするしかなくて、名古屋から長野へ特急しなので移動、長野に宿泊して翌日は上越妙高まで北陸新幹線、特急しらゆきで新潟に出て、秋田まで特急いなほ、秋田から中部または羽田に飛ぶということになる。最も厄介なのは秋田に飛べた挙句に特急いなほが運転抑止となった場合で、この旅の目的である「いなほグリーン車」に乗れなくなった上に秋田新幹線で大宮、そして北陸新幹線で長野と大幅な遠回りを強いられる。おそらく抑止の救済とはならないと思うので大損である。そんなことがあって不安が募ったのか、旅の当日は午前2時前に目覚めてしまった。

浜北駅を5時50分に発車する赤電の車内で、往路のANA便と羽越線の状況を携帯でチェック。どうやら昨日ほど天気が荒れるわけでもなく、今日は平常運行ということでなによりである。予定通り浜松から鈍行で豊橋、豊橋から名鉄で名古屋を経由して中部国際空港へ。ミュースカイの動画はまだアップしていなかったので撮影。よろしければ右下の画像よりどうぞ。

秋田行きのANA1837便は機材変更のため指定座席が変更となった。もともと「16D」だった座席が「30K」になった。「ずいぶんと後ろになったもんだ」と思っていたら、機材はボンバルディアDHC8-Q400からボーイング737-800に変更となり、最後列を指定していた私はそのまま738でも最後列となった模様。 ところでボンバルディアうんぬんは、昔は「ダッシュ8」と呼ばれていたが、現在では「ボンQ」と呼ばれるのが一般的。プロペラ機の割にはスピードが出るので地方の短中距離路線ではよく見る飛行機である。ところがジェット機に比べると風に弱いので、今回はガラガラになるのを覚悟で席数の多い738に機材変更になったと予想している。なにせプロペラで飛んでいるダイヤのところがジェットになったので、秋田空港にはかなり早着した。まぁキツキツの乗り継ぎになるよりはこちらの方がありがたい。

続いて乗車した秋田中央交通の空港リムジンバスは、古いタイプながらトイレが付いた長距離仕様。名古屋から来たお客だけでなく羽田、伊丹からの乗客を待って発車。すべての列が埋まり、1名の客は2席独占しているような埋まり方で発車。 車内放送では最後に観光案内が流れるなど、ビジネスライクになりがちなリムジンバスにしては観光客にフォーカスしているのが好感を持てた。空港から秋田駅まで40分。950円。料金の方はちょっとお高めか・・・。




JR東日本株主優待で格安乗車

秋田から新潟までがこの旅のクライマックス。特急いなほ10号新潟行きのグリーン車に乗車する。日本国内に優等座席はいろいろあれど、この「いなほ」(E653系1000番台)くらい乗客1人あたりの専有面積が広いシートはないように思える。前後に衝立があってほとんど半個室状態。特に海側の窓側に1人で座っていると個室感が高まるのである。このプライバシーの高さを利して私は白昼堂々と呑みテツをすることに。最初は一面真っ白の平原を走り、その後は米どころ。たんぼのところどころに雪が残る庄内平野を快走。そして名勝笹川流れを過ぎる頃にはすっかり酔っぱらっていた。羽越線の上り列車は、下り列車に比べるとトンネルが多く、少し興がそがれるが、逆にトンネルを抜けた時の一瞬の風景の美しさがいい。

笹川流れの後半ではグリーン車の片隅にあるミニサロンで海を見ながら杯を傾けた。どんよりとした雲の下、日本海の荒波が波しぶきを上げる。そんな冬の日本海を堪能した。ところで今回はJR東日本の株主優待を利用し、4割引でグリーン券と乗車券を発券しているので、秋田→新潟間3時間37分の至福の旅の値段は5,940円。今度は逆方向で乗ってみたいと思わせる上質な空間であった。


秋田県内では雪原の中を快走

新潟駅のホームに降りた時には千鳥足だった。ここから旅のテイストがぐっと変わる。新潟から浜松まで主に高速バスで移動する。まずは新潟→高田間を越後交通の上越(高田・直江津)線で移動する。新潟県は県内高速バスが発達しており、今回乗車する上越線も朝晩は1時間ヘッドの路線である。 当初は信越線快速列車である新潟発直江津行きの乗車も考えたが、ボックスシートよりも高速バスのリクライニングシートの方が快適そうに見えてバスを選んだ。

バスは新潟駅前を17時40分に発車。万代シティを過ぎ古町、市役所前と市内のバス停に寄って行く。なかでも乗客が多かったのが県庁バス停。ここでほぼすべての列が埋まり、新潟中央インターへ。北陸道にある各バス停でお役人と思われる方々を少しづつ降ろしていった。いうなればこの高速バスは通勤列車のようなものだった。ならばロングシートにありつくにも必死な電車に比べ、高速バスでの通勤がなんと優雅なことか。新潟の県内高速バスがなぜ栄えているのか分かった感じである。


えちごトキめき鉄道で2駅移動

車窓はすっかり暗くなり、20時前にようやく上越高田インターを下りた。当地は雨となっており道路の端にある根雪を溶かしていた。まだ春遠い越後路ではあるが、そのうち眩しい緑の季節が来るのだろう。定刻より15分遅れで高田駅に到着するも、もともと乗り継ぎ時間が35分あったので、これぐらいは余裕だった。

高田から長野へは列車で移動となる。まずは上越妙高まで2駅だけ、えちごトキめき鉄道の妙高はねうまラインを利用した。北陸新幹線の駅である上越妙高で約40分ほど待ち合わせて、はくたか578号に乗車。高速バスや、ましてや走ルンですタイプのロングシートに比べると、自由席とはいえ新幹線のシートの快適さといったらなくて、何度か眠りに落ちて東京に連れていかれそうになった。なんとか21時45分に長野駅で下車し。この日の行程は終了。駅前の長野東急REIホテルに投宿した。


駅前の長野東急REIホテルに宿泊

長野東急REIホテルはルームチャージで1泊4,200円で宿泊。というのも昨年の暮れ、長野県民対象の宿泊者割引「信州割」が隣接県民に拡大された際に予約し、その割引がそのまま生きているためである。その後オミクロン株が猛威を振るい、軒並み宿泊者割引が停止となったが、この予約だけは死守せねばと思いキャンセルせずに今日まで来た。またこの宿泊によって、対象施設で使える2,000円分のクーポンが貰えるので、これを鑑みると1泊2,200円で宿泊できたわけだ。ちなみにこのクーポン券は、翌朝にホテルの近くにある竹風堂長野駅前店で、お土産の栗ようかんと、下の画像の栗おこわの購入で使わせてもらった。長野土産といえば小布施の栗なので、いい買い物だったと思う。


信州割クーポンで栗おこわを購入

翌朝8時40分発のみすずハイウェイバス飯田行きに乗車した。この高速バスも県内区間だけを走る路線としては長距離で、長野駅~飯田駅間は所要3時間12分である。長野側は長野インターバス停に、飯田側は飯田インター近くの伊賀良バス停にそれぞれパーク&ライド施設があるので、クルマ社会の地元の人でも意外と利用しているのである。そしてこのバスは移り行く車窓が多彩である。まずは姨捨付近の善光寺平の眺め、そして安曇野付近の北アルプスの眺め、岡谷の高台から見える諏訪湖や、伊那谷の左に南アルプス、右に北アルプス、下に天竜川という眺めも素晴らしい。またWi-Fiが高速でつながるので動画もスムーズに見ることができ、コンセントが付いているのでバッテリーの残量を気にする必要がないなど、まぁ至れり尽くせりである。というわけで、飯田線の北半分には優等列車がないので、松本・長野方面に行くには高速バス一択のような感じである。そんあこんなで、3時間の乗車時間はあっと言う間。11時40分過ぎに飯田駅前に到着した。

飯田駅のキオスクでレモンサワーを仕入れ、12時20分発の豊橋行き鈍行に乗車する。この列車は飯田線としては上等な313系1700番台3両編成で運転し、飯田線全線を約7時間かけて走るという列車である。この旅最後の呑みテツということで、飯田~水窪間1時間30分をじっくり楽しもうという算段である。ちなみに飯田から水窪は一見遠そうに見えるが、運賃は千円を切る990円。意外と近いのである。

飯田発車当初は下校する高校生が目立ったが、天竜峡を過ぎると観光客か若い鉄オタが残るだけだった。天竜川を右手に見ながらレモンサワーをあおり、わずか350ml缶2本分ながら、真昼間から飲んだゆえ回りが早かった。水窪駅で下車した時にはフラフラで、ホームにヘナヘナと座り込んで10分くらいそのままの格好でいた。水窪の陽光は既に春で、上着を着なくても十分過ごせるほどだった。

あとはマイクロバスに乗って西鹿島に戻るだけ。その様子は右の画像から動画を見ていただく方が伝わるように思う。それにしても日本列島を3月初めに北から南へ移動すると、冬から春に季節が移り変わって風情のある旅となる。恒例のSpring Tourもいいが、何年かに1回は、この時期に北から南に向かう旅も組み込んでいこうと思った。


中部国際空港行き名鉄2000系ミュースカイ。太田川ダンジョン(要塞駅)通過は必見


強風の影響なのかプロペラのボンQではなくジェット機の738に機材変更


空港リムジンバスの車内放送で観光案内は珍しい。秋田中央交通のリムジンバス


特急いなほ10号の半個室のようなグリーン車で呑みテツ。笹川流れの車窓も楽しむ


秋田駅で発車を待ついなほ10号E653系


ホテルの部屋から見た長野駅と善光寺平


県庁バス停で県職の帰宅客を拾うのがミソ。通勤高速バス 越後交通上越線


長野への旅ではお馴染。長野~飯田間都市間高速バス「みすずハイウェイバス」


遠鉄バス撤退後の北遠本線はどうなった?浜松市自主運行バス 水窪町→西鹿島駅の旅

<終>

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