さ よ な ら 谷 草 地


岸和田シティホテルプリンセス

かねてから予定していたとおり、今回香港のハッピーバレー競馬場を最後に海外旅行から卒業することにした。海外旅行に行く前には毎回「面倒だなぁ。行きたくないなぁ。」と感じ始めてきたことに加えて、50歳を過ぎたいい大人が、片言にも満たない英語で、世界中に迷惑を掛けまくるのはいかがなものかと思い始めたのがその理由である。1年後にはパスポートの有効期限が切れるので、ここが潮時なのである。最後の目的地にハッピーバレー競馬場を選んだのは、前の会社の同僚たちと10年くらい前に一度行っているのに、さっぱり画像が残っておらず、もう一度ちゃんと行っておこうと思ったからである。また香港は初めて1人で海外旅行に行った場所でもあり、加えてプライベート、ツアー、仕事等で最も多く訪れた海外の都市である。大げさなことを言えば「目をつぶってでも行ける場所」であり、最後の海外旅行に相応しい目的地だと思う。

さて全日空のマイルを使ってビジネスクラスで香港を往復することに決めたのが昨年の8月。ハッピーバレーのレース日程はその時には全く決まっていなかったが、だいたい水曜日の夜に行けば間違いないだろうとふんで、7か月前に宿と航空券を押さえておいた。今年に入ってからようやく香港競馬の3月の日程が決まり、予定通り3月15日(水)に開催があることになりホッとした。関西空港を10時20分に出発するNH873便を予約しているので、浜松を朝一番に出るこだまでギリギリ間に合うが、呑み鉄を自認している私としては、前夜にゆっくり大阪まで飲んで行きたい。そんなこんなで岸和田で前泊することにして、こだま〜近鉄特急〜南海サザンを乗り継いだ。近鉄特急は6両編成で、1両は喫煙コーナー付きの禁煙席に改造されていたので、喫煙車の5号車に乗車。2両編成のスナックカーという私にとっては初めて乗る車両だった。いつもよりもウィスキー濃いめで飲んだので、難波に着くころにはヘロヘロになった。そんな近鉄特急も厚労省の介入によって喫煙車全廃の方向に進んでいる。喫煙コーナー設置改造もその流れなのだが、「いつまでも乗っていたい」列車から「一刻も早く降りたい」列車になってしまうようで、最後はいつも空しい気分になってしまう。

翌朝は岸和田駅より南海の空港急行で関空入り。朝ラッシュとは逆方向だが、空港に出勤する人の流れのピークだったらしく車内は激混みだった。セキュリティチェックやらパスポートチェックの後、ラウンジへ。朝食をホテルで軽く取ってきたにも関わらず、ラウンジ内に漂うカレーの匂いに負けてしまった。少し後には機内でまた食事があるのを分かっていながらこの体たらく。これでは直後にHbA1cの最高値を叩き出したシンガポール旅行の再来である。


南海電車の空港急行は激混みだった


競馬場へ向かう香港名物のトラムに乗車


機内食と酒で糖尿病悪化


香港の定宿?智選假日酒店

香港到着は14時ころ。いつものパターンでエアポートエクスプレスに乗車し、中環で地下鉄に乗り継いで銅鑼湾下車。駅から一番遠い時代廣場出口を目指して地下道を延々と歩いた。ほんの2年3か月前に来たばかりなのに覚えている景色は断片的で、見るもの見るものが新鮮だった。こうして考えると加齢によって物忘れがひどくなるのも悪くない。時代廣場の1階をホテルと逆側の通りに出てしまい、「ここはどこ?私は誰?」状態に一瞬陥った。それでも落ち着きを取り戻し、店内を逆側に歩くと見慣れた風景が広がった。今回3度目の宿泊となる智選假日酒店(ホリデイ・イン・エクスプレス・コーズウェイ・ベイ・ホンコン)は目の前にあった。いったんホテルにチェックインし、部屋で小一時間ダラダラと過ごした。その間にハッピーバレー競馬場への行き方などをネットでチェック。やっぱりトラムに乗って行くのがベストとの結論が出た。17時を回ったころに競馬場に向けて外出した。

夕刻の香港繁華街。人波をかき分けながら電停に向かった。トラムは頻繁に発着しており、来た電車に乗り込んだ。香港名物の2階建てトラムなので、やっぱり2階席に上がってしまう。すぐに左手に競馬場が見え始め、さかんにシャッターを押すもののロクな写真が撮れない。そうこうしているうちに終点の競馬場前に到着。ターミナルはトラムが数珠つなぎとなっており、さすが競馬開催日である。電停の前には、ここ香港での数々の思い出の舞台となってきた「竹園海鮮飯店」があり、懐かしさのあまり思わずシャッターを押した。さぁハッピーバレー競馬場に向かおう。


トラムの2階は木製のシートが並ぶ


トラムが渋滞状態となっている競馬場の電停


今回は竹園海鮮飯店をスルー


やってきましたハッピーバレー競馬場


まだ明るいうちにアリバイ写真を撮影


ツーリストバッジでパドック目前の席へ


どこが「日式」?ホットドッグ

競馬場に着いてまずやらねばいけないのは「ツーリストバッジ」を購入すること。海外からの入場客に対して、パスポートの提示によって発行される一日会員証のようなもので、値段は130HKD。このバッジをみせればメンバーエリアに入場できるので、混み合う一般席よりもいくぶん楽ができる。正門で売り場を尋ねると、どうやら会員専用入口で売っているらしい。観戦スタンドの裏の歩道を2〜3分進むと入口に到着した。ここならホテルからそれほど遠くなく、帰りは歩きでもよさそうである。

バッジを購入し、まずは競馬場内を歩き回った。10年ほど前に一度来ているとはいえ、当時のことをほとんど忘れていた。「競馬にイプゥー」のトップページにある画像の場所を探したが、どうしても見つけられなかった。まぁその間に改装もしているだろうし、初めての訪問みたいなものである。

次に馬券の購入をする。日本にいる間に、香港ジョッキークラブのサイトで出走馬のデータを調べ、買い目はもう決まっている。ハッピーバレー競馬場は「谷草地」と略され、データの解読はなかなか大変だったのだが・・・。で、問題はその買い目をマークシートに塗る作業で、まぁとにかくかすかに記憶に残る塗り方で窓口に持って行った。そしたら窓口のおばちゃんから「違う」と言われ、マークシートを突き返されてしまった。お互い片言の英語ではあったが、マークシートの塗り方を教えてもらい、なんとか馬券を購入。単勝、複勝の単純な馬券でさえこれなので、四重彩(日本流にいえば4連単)みたいな複雑なやつはとても買えないなと思った次第である。

いろいろあるうちに第1レースの発走時刻が近づき、その前に腹ごしらえをしたい。コースとスタンドの間に出店が並んでおり、ビールとホットドッグを購入。グルメの街としても知られる香港の夕食なので、最後くらい豪華なディナーを食べたかったが、ナイター競馬に来た以上あきらめなければ・・・。

「日式」(日本風=和風)とメニューに書かれていたホットドッグをパクついているうちに、パドックに第1レースの出走馬が入場してきた。何回か香港・マカオの競馬を経験しているうちに、大勝ちしないまでも大負けしない馬券の買い方を学んだ。それは馬連、馬単、ワイド、3連複、3連単、4連複、4連単と日本以上にバラエティに富んだ買い方に惑わされずに、単勝、複勝をメインにこつこつ買い続けることである。ほとんどがハンデ戦の当地の競馬では、近走の着順など当てにならない。人気薄が連に絡むこともあるが、ほとんどは成績のいい騎手が上位を占めるので、たいてい人気は騎手で決まってしまう。ちなみに現在のリーディングでは1位が莫雷拉(モレイラ)、2位が潘頓(バートン)でこの2人だけが複勝率が4割を越えている。

そこまで分かっていながら第1レースの本命馬は柏寶(プレブル)騎乗のG喜菜(ドクター・レース)。柏寶の複勝率は3割だが、ハンデが軽くなっている割には近3走で大敗しているわけでもなく、狙い目とみた。騎手が騎乗するとパドックから出走馬がコースに飛び出していき、レース開始まであと数分である。19時15分発走まで徐々に場内の雰囲気が盛り上がっていき、全馬がゲートイン。出走ベルとともにゲートが開いた。ハッピーバレー競馬場は狭い競馬場で、1,200メートルのレースが中山競馬場の1,600メートルのように1コーナー奥の引込線から発走する。当然内側が有利で、結果的にこのレースの1着は1番枠を引き当てたC同進(ジャンボ・ハピネス)で単勝1番人気だった。ちなみに私が単復の馬券を買っていたG喜菜は5番人気で、3着とは1馬身差の4着だった。まったく惜しいのか惜しくないのかよく分からない。

続いて第2レース。ここは日本でもお馴染みの韋達(ホワイト)騎手が乗るJ楽家将(ブリス・カルテル)を本命とした。距離は前走より伸びるが、3戦連続2着と好調をキープしており、3番枠から逃げ粘りが叶いそうである。当地のファンも私と同じ見立てらしく単勝2番人気に推されていた。レースの方は見立てどおり、本命馬が4角先頭で最後の直線に入ったが、距離延長がたたったのか他馬に次々と抜かれていき7着でゴール。10年前は抜群の強さだった韋達騎手も近年はそれほどでもなくなったようである。

さて気を取り直して第3レース。このレースが今日の「勝負レース」である。本命は柏寶のH勁皇子(ナシャシュク)だが、このレースだけは1頭に絞れなかったため莫雷拉のA八心之煌(ロイヤル・エレガンス)も買う。単複を2頭ずつと、馬連とワイドで計6点を100HKDずつ購入した。当地でもこの馬たちは人気で、単勝2番人気−1番人気であった。レースの方は本命馬が先行して徐々にポジションを上げ4角先頭。そのまま逃げ切って1着でゴールインした。ただし2着には単勝万馬券の人気薄が突っ込み、莫雷拉のA番は3着にとどまった。それでも合わせて995HKD的中で、1、2レースの負け分を取り返し溜飲を下げた。なおこのレースは協賛レースだったため、終了後は目の前のパドックで表彰式が開かれた。当たってなければ全く興味のない表彰式だが、当たっていると一緒に祝いたい気持ちになるものだ。

ラスト前の第4レースは単勝8番人気の羅理雅(ローウィラー)騎手のB勁勇威龍(スプリング・ダンサー)が本命。当地では人気がなかったため、あまり期待をしていなかった。結果は4、5番手から脚を伸ばせず5着に終わりハズレ。残りは第5レースだけとなった。

レース自体は23時ころまで行われるが、明日10時の飛行機に乗ろうとするとゆっくりはしていられない。21時15分発走の第5レースを最後にするのは、これ以上ズルズルと負けないための自己防衛でもある。そういうわけで海外競馬の集大成は平場の1,000メートル。第2コーナー奥の引込線スタートのワンターンである。思えば海外でもいろいろなところで競馬を観てきた。お隣のソウル、プサンから同じ香港の沙田、マカオ、シンガポールとアジアはハッピーバレーを含め6か所。そしてNZのオークランド、アメリカのローレルパークでもチャレンジした。どこの競馬場でも勝った覚えはないが、それぞれがいい思い出となっている。こうして考えると「旅打ち」っていいなと感じる・・・。なんて感慨にふけっている間にレースは発走してしまう。本命は、またまた柏寶のD鑽石巨匠(ダイヤモンド・マスター)である。この馬は当地ではあまり人気がなく、単勝6番人気。電撃の5ハロン戦でスタートから各馬が全力疾走。その中で本命馬は徐々にポジションを上げ、最終コーナーを回ったところで先頭に立った。このままいけば単勝馬券だけで1,000HKDの払い戻し。思わず日本語で「そのまま〜、そのまま〜」と叫んでしまう。そこへ外側から莫雷拉騎乗の1番人気馬が襲い掛かり、ゴール前で差されてしまった。最後のレースに相応しい劇的な負け方! それでも複勝は的中し、マイナスを少し戻して競馬場を後にした。


第1レースのパドック。狙いはG喜菜


日本でもお馴染みの韋達騎手


高層ビルを背景にナイター競馬を楽しむ


レースとレースの間にはパドックに入れる


日本では考えられない光景を撮影


第3レースは柏寶騎手のH勁皇子が中心


第3レースの決勝線手前。勝った〜


とある学校の協賛レースで表彰式が行われた


第5レースの本命は柏寶騎手のD鑽石巨匠

香港競馬収支表 (17.3.15開催) 単位HKD
レース 投資 回収 収支 累計
1R 200 0 -200 -200
2R 200 0 -200 -400
3R 600 995 +395 -5
4R 200 0 -200 -205
5R 200 340 +140 -65
合計 1,400 1,335 -65 95.3%

私自身最後の海外競馬は大接戦。本命馬D鑽石巨匠は残り50メートルで莫雷拉騎手のF威風霸皇に差され2着に終わる


メインレースを前に会員出入口より退出


競馬場のはずれで見つけたモニュメント


せめて朝食は中国っぽいお粥を

翌朝は慌ただしかった。朝7時からホテルで朝食を摂り、朝8時には香港国際空港でチェックインを済ませていた。10時出発のNH812便は、定刻どおりに搭乗ゲートを出たが、滑走路の前で延々と待たされて、飛び立ったのは10時40分過ぎだった。帰りの飛行機の中で楽しみなのは映画であるが、ラインナップの中に豊島圭介監督の「ヒーロー・マニア」があったのでそれを観ることにした。豊島監督は浜松北高ボート部出身ということで、私の後輩である。OB会で顔を合わすくらいだが、彼の作品はおバカな中にも一種のブラックな感じがあって気に入っている。その豊島作品がANAの機内でも見られるなんて、彼も出世したものだなぁと感心してしまった。

飛行機の方は、猛烈な追い風のジェット気流の助けを借りて、遅れをあっという間に挽回していた。対地速度は1,100Km/hを超え、マッハを超えているような気がするが、もちろんそんなことはありえない。いずれにせよ香港を飛び立って3時間も経たないうちに成田空港に着陸した。映画を一本観て、食事をして、免税品を買ったらもう余る時間がないほどである。ずいぶんあっけない幕切れとなったが、これで海外旅行を卒業する。国内旅行でも海外で見た景色のほとんどは似たようなものが見られると思うが、アメリカの荒野やグランドキャニオンみたいな場所は、もう2度と行けないだろう。それでも、ちゃんと自分の目で見て、脳裏に記憶として残っているのだから、それらを大切に今後の旅を続けていきたいと思う。とりあえず次の旅は「Spring Tour 30周年記念の旅」である。難行苦行の旅になること必須であるが・・・。


入口だけ見ると小さなホテルに見える


人生最後の国際線。NH812便NRT行き

<終>

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