最 南 端 ヒ ッ ト & ア ウ ェ イ


ANAとのコードシェアで初搭乗のソラシドエア

今年のはじめ、たまたまネットを見ていたらウィキペディアの「日本の端の一覧」のページにたどりついた。最西端は既に行ったことのある与那国島だが、最北端は択捉島、最南端は沖ノ鳥島、最東端は南鳥島と行けないところばかりである。だが「自由に到達可能な東西南北端」という項があるのがウィキペディアのやさしいところ。最北端は宗谷岬。ここは何度か訪れている。最東端は納沙布岬。ここも一度行ったことがあり、北方領土問題に揺れるモニュメントが印象的だった。で、最南端は波照間島。うっかりしていた。まだ行ったことがない。それではということで波照間島への旅の計画を立てたわけである。

なにせ台風銀座の先島諸島なので、旅の途中で台風に直撃されたら大変。なるべく台風の影響が少ない時で、かつ季節の良さそうな4月上旬に行くことにした。むろんその時は波照間島に行くのにはテクニックが必要だということを全く知らなかった。1泊2日の日程におさまるように、往路は中部空港から石垣空港への直行便に敢えて乗らずに、那覇乗継で予定を立てた。復路は石垣からセントレアへの直行便である。沖縄に行く時は基本的にANAのプレミアムクラスに搭乗しているが、計画を立てた頃にはまだ発売しておらず、とりあえず那覇から石垣への飛行機の予約を、すっごく安いが変更が全くできない旅割75という運賃で先に予約した。

旅行日の2か月前になり、発売日の9時半にパソコンで予約するも、往路の中部から那覇の便はプレミアム旅割が満席。平日に休みが取れるので、出発日を4月12日の火曜日にしようが、翌日の水曜日にしようが全然大丈夫だが、既に往路の「尻尾」の部分を変更できない運賃で予約してしまっているので仕方ない。渋々普通席で予約を入れ、当日にプレミアムクラスに空席があればアップグレードすることにした。まぁ旅割で予約できないほど満席に近いので、それは期待薄なのだが(実際に数週間前に普通運賃でもプレミアムクラスは満席となり、それは当日まで空かなかった)。

次に、石垣島から波照間島までの交通手段の手配である。2008年まで空路があったが、それ以降は船便に頼るしかない。運航しているのは安栄観光という海運会社。4月以降の運航ダイヤが決まるまで予約ができず、いつになったらダイヤが決まるのかと、数日おきにホームページを覗いていた。その時に気になったのが欠航の頻度で、ホームページを見ると決まって「本日欠航」となっていた。その時は「まぁ2月は風が強いから海が荒れて欠航するんだろうな」くらいにしか思っていなかった。現にダイヤが決まった3月中旬ころになると「本日通常運航」という表示が目立つようになった。

いちおう飛行機、船と手配して、あと気になるのは当日の天気である。沖縄の梅雨入りは早ければゴールデンウィークだが、「梅雨のはしり」という言葉もある。週間予報を見ていると、そんな言葉がぴったり当てはまる天気が並んでいて、連日傘マークが付いていた。最悪、雨さえ降らなければ日本最南端にレンタサイクルで行くつもりだが、雨となるとレンタカーを借りねばならず余分な出費が増えてしまう。ざっとまぁ、このへんが旅に出る前の出来事と懸案だった。

さて旅行当日。浜北駅を朝5時半に出る始発電車で旅はスタート。浜松から金山まで特別快速を乗り通しても、目標のミュースカイにギリギリ間に合いそうだったが、豊橋で新幹線に乗り継いで万全を期した。しかし肝心のミュースカイは8両もつなげているのに満席。ミューチケット代だけ支払って、ずーっと立ちっぱなしだったのは初めての経験だった。


雨の那覇空港でF15編隊の離陸待ち


白い砂と珊瑚礁の海。まるで夏の石垣島

中部空港を8時35分に出る那覇行きANA301便は普通席も含めて満席。2時間ちょっと狭いシートで過ごすのは苦痛以外のなにものでもないが、非常口席ゆえ足元に余裕があり、それほどでもなかった。ただ気になっていたの石垣行きへの乗継時間。25分しか時間がないうえに、前述のとおり別々の予約なのに、中部空港で乗継を入れるのを忘れてしまった。おまけに出発時間が10分ディレイしているのでヒヤヒヤものである。年のせいか肝心な手続きを忘れるようになっているので気を付けなくては。

向かい風をものともせず、不安をよそに雨の那覇空港にほぼ定刻に到着。既に石垣行きの搭乗は始まっていたが、慌てずに乗継カウンターで手続きしてもらい、余裕で間に合った。次の便はソラシドエアが運航するANAのコードシェア便。スカイネット時代も含めて今まで搭乗の機会ががなく、これがソラシドエアの初搭乗となる。離島便の中間時間帯の利用なので機内は空いており、またまた非常口席なので足元広々。片側3列の真ん中の座席に座れば大名旅行。気分はプレミアムクラスとは言いすぎか。まぁJALのJクラスくらいの気分だった。


昼食は八重山そばの定食


波照間之碑への曲がりくねった道


離島ターミナルへはカリー観光のバスで


屋根の上のシーサー2体がお出迎え


船上から見た波照間港旅客ターミナル


静岡県のところは必ず見てしまう

ANA3745便は定刻にプッシュバックしたものの、滑走路の入口で止まったっきり動かなくなってしまった。外を見るとF15Jの編隊が離陸待ちをしていた。爆音を轟かせて次々に離陸していくF15に見とれていると、いよいよ当機の順番になったようでチャイムが繰り返し鳴った。F15ほどではないが、お客の少ないボーイング737-800は軽々と離陸し、すぐに雲の上に顔を出した。

宮古島の上空あたりで雲が切れ、石垣島は夏空が広がっていた。浜松を出た時には彼岸前の陽気で寒かったが、お昼すぎには半袖、短パンでないと恥ずかしいくらいの南の島に来てしまった。空港でお昼を食べても良かったが、先を急ごう。昨年、石垣空港にカリー観光が乗り入れ、離島ターミナルまでの区間はダブルトラックとなった。今までは東バスに乗るのが当たり前だったが、今回はカリー観光の方に乗車。途中のバス停に一切停まらないので所要時間が短く快適である。

離島ターミナルへの道すがら、建物の影は短く、ここでも夏を感じるが、沿線の小中学校の正門には「入学おめでとう」の看板がかかっていた。もっとも入学式はもっと早くに終わっているのだろうが、この夏空に不似合な景色だった。そうこうしているうちに離島ターミナルに到着。まずは腹ごしらえと思い、向かいの「ひるぎ」という店へ。オリオンビールの中ジョッキと八重山そばの定食で腹を満たした。八重山そばは初めて食べたが、塩味のラーメンのような味で、あっさりしていて旨かった。

昼食後、離島ターミナルの待合室で延々と2時間弱くらい時間をつぶし、ようやく波照間島行きの乗船時刻となった。定員100名ほどの小型の高速船で、乗り心地は香港とマカオを結ぶジェットフェリーみたいな感じ。この日のように穏やかな波の日なら、うたた寝するのにちょうどいい振動と時間である。ちょっとスピードが落ちたかなと思ったら既に波照間島が見えており、海上50数キロを瞬間移動して日本最南端の(有人)島に到着した。

波照間島は東西5キロほど、南北2.5キロほどの小さな島で、高い山はなく割と平坦な地形である。集落は島の中央に固まっていて、そこが最も標高が高く60m弱である。この手ごろな感じがレンタサイクルを借りるのにぴったりで、この日は天候にも恵まれたので選択の余地はない。島で唯一のホテルであるオーシャンズにチェックインし、部屋に荷物を置くと、その足で外に出掛けた。

ホテルから波照間島灯台の脇を抜け、後は南へ一直線。ほとんどが下り坂なので、あっという間に日本最南端広場に到着した。東には星空観測タワー、西には「本当の」最南端久成崎が控えるこの地には、じつにさまざまなモニュメントが建っていた。まず目立つのは波照間之碑と日本全国の石が集められたプロムナードである蛇の道。ついつい地元静岡の石を探してしまうが、どれも火山礫で富士山由来のものかと思う。波照間之碑とセットになっているのが聖寿奉祝の碑で、ただ日の丸が埋め込まれているだけである。ウィキペディアによると日章旗を掲揚する代わりに建てたものらしく、波照間之碑ともども右翼の息がかかっているらしい。逆に元祖である「日本最南端之碑」は件の「日の丸」の横にひっそりと建っているので目立たないが、これこそ沖縄返還前の1970年に学生が自費で建てたモニュメントである。学生運動が盛んなころ、旅の終着点にこの碑を建てた彼の心情やいかにといったところである。その他、淺沼組が電話工事の記念に置いたという平べったい石碑もあったが、記念写真を撮るのなら竹富町が建てた「日本最南端平和の碑」が最も相応しい感じである。私もここで記念撮影をして、最南端広場を後にした。

これで波照間島の訪問目的がほぼ完了。すると急に、私の心を不安にさせた一言が思い浮かんできた。それは波照間港に迎えに来たホテルオーシャンズのスタッフさんが、私が到着するなり聞いてきた一言。「明日、船が欠航するかもしれないですけど大丈夫ですか?」実は私も、週間天気予報をチェックしていた時、帰りの日である4月13日の風が強いのが気になっていたのである。そう聞かれた時には、ここまで来ておいて折り返しの船で帰るなんて気も起らず、「その時はその時で考えます」と答えていたが、こうして目的を達成してしまうと急に帰りの心配が頭をもたげてくるのである。ボクシングで相手に打ち込んだ後、素早く相手のパンチをかわすことを「ヒットアンドアウェイ」というが、今回の旅も「ヒット」するのは簡単だが、「アウェイ」は案外難しいんじゃないかと、自転車を漕ぎながら、ずっとそんなことを考えていた。

次に波照間空港を訪問。前述のとおり空路は閉鎖のままだが、ターミナルは昨年新しく建て替えられていて、空路再開が延期になってしまったことが悔やまれる。せめて空路があれば、10m未満の風で欠航を心配することはなかっただろう。滑走路を一瞥した後、ホテルへ向けて自転車を漕ぎ出す。海岸線から集落へは、どの道をたどっても上り坂。放牧されているヤギに「メェー」と励まされながら重いペダルを漕いだ。

18時前に宿に戻り、風呂→夕食と自分らしくないパターンを経て部屋呑みを始めても、まだ日没前。日本の最西端である与那国島も近く、浜松と比べて1時間くらい日没が遅いようだ。とりあえず明日のことは明日考えることにしよう。テレビを見ながらがっつり飲んで、日本最南端での夜が更けていくのであった。


波照間之碑…背後に太平洋が広がる


島を模った淺沼組寄贈の平べったい碑


「日本最南端の碑」とは関係ない日の丸


竹富町の「日本最南端平和の碑」にて筆者


ひっそりと新装なった波照間空港ターミナル


浜松と比べ1時間遅い波照間島の夕暮れ


珍しくホテルで夕食を摂る


島とはいえごく普通の朝食だった


朝の1便だけ運航決定

翌朝は雨の音で叩き起こされた。とうに日の出の時刻は過ぎているのに窓の外は暗い。うっそうと茂る森に大粒の雨が降る景色を見ていると、ふとエンヤの「ストームズ・イン・アフリカ」が心に浮かんだ。こういうときはYOUTUBE。ささっと検索し、思い浮かべた曲を流す。うん、やっぱりイメージ通りだった。

そんな優雅なことをやっている場合ではない。とりあえず、今日石垣島への便が欠航となった場合の次善策を考えなくては。今日の石垣→中部の飛行機に乗れないとすると、プレミアム旅割で予約しているので、キャンセル料が60%かかる。そして明日の便を取り直すことになる。これが普通運賃でしか予約できないので、キャンセル料と合わせて8万円程度の追加出費となる。

あ〜こんなことなら株主優待割引の運賃で予約するべきだった。転職してから平日休みになったので、事前予約運賃の方が株主優待より安くなり、優待券を売っぱらってたバチがあたった。ちなみに株主優待運賃ならタダで変更可能である。


エンヤのストームズ・イン・アフリカを連想


波照間島唯一のホテルであるオーシャンズ


待望の石垣に戻る船が波照間に到着


波が荒く航海士さんも中腰で操舵する


満席の船内。筆者のおでこがご愛嬌


石垣空港を1便前に飛び立った那覇行き

そうこうしているうちに安栄観光のホームページが更新され、波照間以外の航路は運航することになり、波照間航路は7時30分以降に決定するとの案内になった。こうなってくると策を弄すれば今日の飛行機に間に合うかもしれない。「波照間島 脱出」でネット検索すると、波照間から西表島の大原港まで漁船をチャーターするという方法がヒットする。15人で借りて1人4,000円とか。。。1人で貸し切っても6万円だから、それでも明日の飛行機を取り直すよりも安くなる!まぁ今日帰りたい人が、この島に私ひとりだけとは考えられず、欠航が決まったら宿の人に相談してみよう。

こうして波照間島の脱出方法をネット検索していると、波照間島を行き来するためにはテクニックが必要だということが分かってきた(いまさら分かっても遅いのだが・・・)。高速船は欠航率がハンパなく高いので、確実に往来するには週3日運航する貨客船に合わせて日程を組むこと。ただしこの貨客船は予約不可のため、乗船するためには朝早くから並ばないといけないということ。ということは波照間島からの帰りを火曜日か木曜日にして、飛行機も1日1便の石垣直行便でなく、那覇乗継便を変更可能な運賃で予約しておくのが正解ということになる。これから日本最南端を目指そうという方は、ぜひ波照間の情報を事前検索することをお奨めしたい。

いろいろと調べ物をしているうちに、あっという間に時は経過し、運命の午前7時30分。若干の緊張を覚えながらページ更新のボタンを押すと、波照間航路は始発の1便だけ運航決定となっていた。これで懸案解消。ヒットアンドアウェイの「アウェイ」も成功する見込みとなった。その直後に食べた、なんでもない朝食の和定食が旨かったこと。

なんだかんだあったが、石垣島からの高速船が波照間港に到着した時は感慨深かった。その時点では折り返しとなる始発便のみ運航決定だったので、私と同じような脱出志願組がこの便に殺到し、船内は満席だった。予想通り、西表島のあたりまで波が高く、ジェットコースターに乗っているような揺れを我慢しながらの航海だった。

難行苦行の1時間の末にようやく石垣港離島ターミナルに到着。飛行機の時間まで、まだ4時間弱もある。波照間島ではビーチに行けなかったので、せめて石垣島のビーチに行こうかと思いをめぐらせ、バスの時刻表を眺めていたら、おあつらえ向きに石垣島最北端の平久保灯台と平野ビーチに行く路線バスを見つけた。終点平野バス停で折り返しの時間が45分あり、空港到着が14時28分。一日フリーきっぷを使えば1,000円の出費で済む。こんな好条件なのに、さんざん行こうかどうしようか迷った挙句、結局行かない方を選んだ。波照間脱出で運を使い果たし、せっかく間に合った15時の便を突発的な出来事で乗り逃したくなかったからである。そういうわけで早々に保安検査場を抜けて、滑走路を行き来する飛行機をのんびり眺めて、時間の過ぎるのを待った。あいかわらず窓の外は夏景色が広がっていた。

<終>

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